ホーム > インタビュー&レポート > 「観終わると、平和がどれだけ素晴らしいことかと強く感じます」 井上ひさし作、栗山民也演出の『花よりタンゴ』に出演 高橋克実が作品の見どころを語る
――初演から40年、最後の再演から22年ぶりの上演です。
今の日本の状況と似ているところが多いかもしれません。戦後80年くらい経って、色々なことが進歩してきたはずなのに、ベースはあまり変わっていないような気がします。僕の父親は戦争を体験しているんですが、井上さんも含め、戦時中を想像しながら舞台に立つことはとても大事なことだと思っています。
――高橋さんが扮するのは、闇成金の金太郎です。
井上さんが大好きなチェーホフの『桜の園』がベースだと思う、と演出の栗山さんもおっしゃっていましたが、僕も同感です。金太郎は、『桜の園』の使用人から、その後、成金になったロパーヒンのように思えるんです。
――戦争のせいで、激動の人生を送ることになりますね。
井上さんの戯曲は、その時代にあった実際の出来事を井上さん流の創作で紡いでいます。例えば、今回登場する「ぬくもり屋」は実在して、ただ焚き火をして暖を取らせて周りからお金を取るわけです(笑)。あらゆるものを商売にしていかなきゃ生きていけない、生きること、食べることにとにかく必死。金太郎も含めて当時の日本人の多くが普通の人なのに、食べるために犯罪まがいのことをしないと生きていけなかった。そうせざるを得ない世の中だったんですね。僕らがどれだけそういう思いを持ってリアルにできるかというのを常に考えるようにと、栗山さんには言われました。
――金太郎と重なるところはありますか。
話の肝にもなっている「忘れる」ということですね。結局忘れないとやっていけないこともありますし、絶対忘れちゃダメなこともある。でも嫌なことをずっと忘れないでいると、しんどいし生きにくい。自然にしんどかったことをどこかで浄化していかないと先には進まないんですよね。
――今回は井上さんの盟友で、社会的な作品を手がける栗山さんが演出されます。
もう演劇学科の生徒になった気分です。僕が言うのも失礼ですが、井上さんの作品に対して栗山さんは研究家と言っていいほどお詳しい。栗山さんは、この1行にそんな深い意味があるんですか? というようなことまで考えていらして、本当に驚きます。僕は演出家さんからのダメ出しをいつも台本に書きこんでいるのですが、今までそこに収まっていたんですが、今回は台本以外に2冊のノートを付け足さないと間に合わないほどなんです(笑)。
――どこが難しいですか。
栗山さんは「井上さんの脚本は楽譜だから」とおっしゃっていますが、句読点の一つひとつにも意味がある。なぜここで切っているのかを理解したら、流れるようなリズミカルなセリフになるんです。一番言われたのは、「舞台に入ってくる時は、その前のものを背負ってこないとダメだ、ただ舞台に立つな」と。例えば、金太郎が浮かれて喋るシーンがあるんですが、「金太郎は新橋から銀座のダンスホールに来るまでにずっと喋っているんだから、そのテンションのまま登場してほしい」と。
――常に金太郎として存在しないといけない。
僕は栗山さんと昔から度々ご一緒していますが、実は今まで褒めていただいた記憶がないんです。ニヤニヤされる時はあるんですけど(笑)。これまでは初日開幕後にダメ出しをいただくことも多かったんですが、今回は何も言われてない。でも、ニコニコなさっていたから、褒めてくださっているんだろう、と勝手に思っています(笑)。
――高橋さんは生前の井上さんともお仕事をされています。
はい。とても少年みたいな方でした。例えば、ご自分のお芝居のチケットを買うために当日、お客さまと一緒に並んでいらしたんですよ。売り切れましたと言われたら、すごく残念そうな顔をされて(笑)。また、打ち上げは滋養になる肉と決まっていて、皆が肉を食べているのをニコニコしながらご覧になっていて、そして、全て支払って帰られるという。
――高橋さんにとってどんな存在ですか。
井上さんと栗山さんに出会えたのは、僕の俳優人生の中で奇跡だと思っています。井上さんの作品には、「奇跡」という言葉がよく出てきます。井上さんの地元の山形の劇場ロビーにも、その言葉が書かれた文章が大きく壁に貼られていて、「縁起がいいかな~」って、よくそこで本番前のストレッチをしていました(笑)。
――高橋さんをはじめ、朝海ひかるさん、南沢奈央さん、大原櫻子さん、平体まひろさん四姉妹のタンゴの歌と踊りにも注目です。高橋さんも歌うシーンがありますね。
僕は一曲だけなんですけど、苦手なくせに気持ちよくなって歌って踊っていると、朝海さんがキュッと手を握って止めてくれる(笑)。でも、公演を重ねるに連れて握られなくなりましたが(笑)。
――ラストまで目が離せません。
栗山さんが「世界がタンゴを踊る男女のように愛し合えたら何も問題ないんだよ」と。「花よりタンゴ」は「花より団子」のシャレだと思っていたんですけど、そんなに深い意味があるのかと驚きました。そして、観終わったら、平和がどれだけ素晴らしいことかと強く感じるんです。年齢関係なく幅広い層のお客さまに伝わっていると思います。今、観るべき芝居だと思いますので、ぜひ劇場に足を運んでほしいですね。
取材・文 米満ゆう子
(2026年6月18日更新)
チケット発売中 Pコード:539-263
▼6月26日(金)15:00
▼6月27日(土)12:00/17:00
▼6月28日(日)12:00
新歌舞伎座
S席-11000円 A席-6000円 U-18チケット(当日引換券)-3000円(観劇時18歳以下、A席対象)
[作]井上ひさし [演出]栗山民也
[出演]高橋克実/朝海ひかる/南沢奈央/大原櫻子/平体まひろ/尾上寛之/枝元萌/朴勝哲/大田真喜乃
※未就学児童は入場不可。席種によっては取り扱いのない場合あり。3階1列目は転落防止柵により見えづらいところが出る可能性があります。やむを得ぬ事情により出演者、曲目などを変更する場合がございます。予めご了承ください。ご購入時・ご来場前には、必ず新歌舞伎座ホ-ムペ-ジをご確認下さい。車椅子の方はチケット購入前にお早目にお問合せ下さい。
[問]新歌舞伎座■06(7730)2222(10時~16時)
公式サイト
https://www.shinkabukiza.co.jp/perf_info/20260626.html