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「アメリカと戦争したら必ず負ける」と予想した男たちの物語 
劇団チョコレートケーキの注目作『帰還不能点』が再び

2000年、駒澤大学OBを中心に結成した劇団チョコレートケーキ。その名のように緩やかなコメディの上演を経て、2010年からは古川健(たけし)の劇作と日澤雄介の演出による現在のスタイルに。あさま山荘事件や大正天皇の一代記などを扱い、現在は硬派で社会性のある作品を発表する劇団として定着、高い評価を得ている。今回上演する『帰還不能点』は、2022年の第29回読売演劇大賞の優秀作品賞受賞作だ。また、翌年発表した本作を含む日本の戦争に焦点を当てた6連作『生き残った子孫たちへ 戦争六篇』は、同賞の大賞・最優秀作品賞を受賞。劇作家・俳優の古川が会見で作品への思いを語った。

『帰還不能点』は2021年、東京と伊丹AI・HALLで初演し、22年、24年に再演(演劇鑑賞会を除く)、今回が4度目の上演となる。「僕たちは未来に向けて、どうすれば戦争を避けることができるかを考えるために日本の戦争を扱った作品を多く作ってきて、その1本が『帰還不能点』でした。アメリカと戦争したら負けるとわかっていながら何もできなかった人たち。一人ひとりの心の中にこそ、これからを生きる僕たちへの教訓が詰まっていると思ったので"総力戦研究所"を題材にしました」。

官庁・軍・民間から選抜された若手エリートたちが参加し、日米開戦前に実際に存在した首相直属機関"総力戦研究所"。そこで「日本は必ず戦争に負ける」と予想した彼らが、終戦から5年後、久々に再会し語り合うという物語だ。昭和16年当時を回想し対米戦開戦に至る歴史の流れを再現する劇中劇と、昭和25年の現在のシーンが行き来する。「これまでの作品はそのまま正面に据えてやっていたので、もう少し演劇的な仕掛けを入れ込み、ひとつのエンターテインメントとして演劇作品のおもしろさを追求したいなと。さらに歴史の流れをお客様にわかりやすくお見せできるのではないかと思って、劇中劇の構造を思いつきました」。

史実を調べ、物語として創作する。大切にしていることは?「ある程度評価も決まっているところから作れるのが、歴史的な物語の非常におもしろいところ。でも、事実に対する尊敬を失うと作品が軽くなる。事実の奴隷になると作品は窮屈になる。おもしろい物語を作るために嘘をつくことをためらわないように、ただしモチーフに対する尊敬は絶対に持ち続けるというバランスが自分の中で一番大事です」。2014年ごろから戦争体験者の話を聞く機会が増えた。「生で聞く話は肌触りが全然違っていて、僕らの子どもや孫の世代はこれを聞けないんだと切に思い、危機感につながって。戦争を知らない僕たちが戦争の物語を作ることに意味を見出し、お客様と分かち合うこと。忘れちゃいけない義務感をもって作品を作っています」。

なぜあの時、日本は引き返せなかったのか? 対米戦開戦に突き進んだ日本の"帰還不能点"とは? 硬質ながら生々しい人間ドラマは観客を引き込み、目が離せない。初演の感想は「『知らなかった。勉強になった』という声と、劇中劇が『すごく見応えがあっておもしろかった』という反応がありました。このふたつの声が聞けたことは今でもうれしいですし、そのふたつの声があるからこそ、4度目の上演につながっているんだと思います」。

初演から5年を経た今、戦争はより身近なものになってきていると感じる。「5年前も戦争は身近だったと思います。ただ、日本人のリアルとしてそれを身近に感じていなかったんだろうなと。今でも戦争の可能性は常に我々のすぐ先にあることを知ってほしい、そしてこの作品がそれを考えるひとつのきっかけになってほしいという思いは、5年前よりかなり強く感じるようになっています」。戦争に対する今の日本の空気に危機感を持つ古川。「ヘイトというか、何かを攻撃したい気持ちはいつか必ず戦争につながっていくような危惧が非常にあって。今、インターネット上だけに留まらず、社会上にどんどん露わになってきているところが恐ろしいなと」。

戦争に負けると知りながら葛藤していた彼らの心の中の恐怖が、今の私たちへの教訓になる。「自分の中で、これはひょっとしたら憎しみにつながり、戦争につながっていく何かでは? という疑問を持った時に、自分の心が感じたことを信じて正直に声を上げられる自分でありたい。それは恐いことだけれど、多分、最初に戦争を止める第1歩になると思うんです」。今、その思いをさらに強く抱いて今回の上演に向かう。「2026年の世界で僕たちは戦争にどう向き合っていけばいいのか、どうしたら戦争を避けられるのかを、お客様と一緒に考えたいと願う再々々演だと思っています」。

取材・文/高橋晴代




(2026年6月17日更新)


撮影:池村隆司
撮影:池村隆司
撮影:菅野佐知子
撮影:菅野佐知子

劇団チョコレートケーキ
『帰還不能点』

チケット発売 Pコード:540-276
▼6月27日(土)14:00
▼6月28日(日)14:00
兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
全席指定-5500円 U-25-2500円(指定、観劇当日25歳以下、要身分証明書)
[脚本]古川健 [演出]日澤雄介
[出演]岡本篤/浅井伸治
青木柳葉魚/東谷英人/粟野史浩/伊藤白馬/今里真/小川哲也/加藤広祐
黒沢あすか
※未就学児童は入場不可。車いす席をご希望の方は、芸術文化センターチケットオフィスにお問合せください。
[問]芸術文化センターチケットオフィス■0798-68-0255(10:00~17:00/月曜休み※祝日の場合は翌日)

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