ホーム > インタビュー&レポート > 森田剛主演で安部公房の傑作小説『砂の女』を舞台化 “女”役の藤間爽子「生き方を模索する役は自分にも染み入ってくる」
――『砂の女』は原作や1964年公開の映画のファンも非常に多い作品です。一方で一筋縄ではいかない世界観を放っていますね。
閉鎖的な砂の空間の中、剛さんとずっと二人で、会話劇のような部分もあって抜きどころがありません。ここまで出ずっぱりでお芝居をする経験はありませんし、稽古の段階で、閉鎖的な世界観から息苦しくなる瞬間も味わっています。でも稽古が進んでいくうちに、砂の世界であることを忘れるんです。"女"にとってはその閉ざされた空間が当たり前の日常ですし、その暮らしに幸せを感じています。だから「砂の世界であることを忘れる」というのは、自分でもとても良い傾向だと思っています。
――原作は読むたびにいろんな解釈ができる作品でした。また、どの時代にもフィットする内容です。あらためて舞台『砂の女』はどのようなメッセージがあると思いますか。
名作の多くは、メッセージが多層的で多様だと思います。何十年も前の作品なのに古さを感じない。舞台の『砂の女』に関しては、「幸せとはなんなのか」はメッセージのひとつだと捉えています。森田剛さんが演じる"男"は、都会で暮らしていたけどそこに幸せを見出せていなかった。そんな"男"が砂に埋もれた村にやってきて、そこで生きがいを見出す。たとえば今は情報や楽しめるものも増え、豊かにはなっていますが、果たしてそれが幸せなのかと考えることもあります。そういった今の時代性も照らし合わせて、「本当の幸せってなんだろう」「みなさんはどうですか?」と問いかけてくる作品なのではないでしょうか。
――"女"も、"男"が来るまでは満たされていたはずでしたが...。
一人で暮らしていたときは、きっとその生活に満足していたはず。でも"男"と出会ったことで、気持ちに変化が生まれる。"女"を見ていると、「人は孤独には耐えられないんだ」と感じます。だから"男"を引き止めたいし、逃がしたくない。"女"にとって足りなかったのは、人だったのかなって。もし心の底からその暮らしに満足していたら、"男"が出て行こうとしても「どうぞ」となるはず。埋められないものをずっと抱えていて、"男"が現れたことでそれが浮き彫りになったのだと思います。
――藤間さんは、孤独は耐えられますか。
絶対に耐えられないです(笑)。ひとりでいる時間は好きなんですけど、ずっとは無理ですね。人と接点を持っている方が安心できるので。でも、それは人それぞれ。ひとり=孤独というわけでもないと私は思います。ただ、人の温もりや一緒にいる楽しさを知っていると、どうしても誰かを求めてしまうものなのかもしれません。

――"男"は競争社会や人のしがらみに疲弊して、村にやってきます。その気持ちは現代を生きる人たちにも通じるのではないでしょうか。多かれ少なかれ、人は誰かと競うことになる。俳優さんの世界もそういう側面はありますか。
競争のような側面は確かにあると思います。ただ、スポーツのように数字で勝ち負けが決まるわけではないので、答えが見つかりづらいですよね。だからこそ、20代のときは焦りを強く感じていました。かわいい人やきれいな人をみると「うらやましい」と思っていましたし、作品にたくさん出ている俳優さんのことを意識してしまったり。でも今はそんな風に思うことがなくなりました。年齢を重ねたことも影響しているかもしれませんが、かわいい人を見て素直に「かわいい!」と思えるようになりました。そういう考え方ができるようになってから、疲れることもなくなりました。
――藤間さんのご経験が自身にもつながっていらっしゃるように思います。今回の『砂の女』はじめ、NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(2025年)では耳が聞こえず、話すこともできず、さらに過酷な闘病を送るきよ役など、きわめて難しい役にも臨んでいらっしゃいますし。
俳優として難しい役を求められることは、すごく嬉しいですし、幸せです。特に、生き方を模索する役は、演じていて自分にも染み入るものがあります。私自身も演じながらあらためて生き方について考えますし、ご覧になる方々にとってもそういうきっかけになってほしいです。
――本番が近づいてきて稽古も大詰めに差し掛かっていると思いますが。森田剛さんとは役について話し合うことはありますか。
稽古場の雰囲気は、主演の剛さんを筆頭に、皆さん本当に優しい方たちばかりなので風通しもよく心地よい空間です。剛さんとは稽古中以外ではあまりお芝居について語り合うことはしませんが、今回に関してはその方がいい気がしています。
――お客様がどのように反応し、どんな感想を抱くのか楽しみですね。
一言で語りきれない作品ですし、この物語がハッピーエンドなのか、バッドエンドなのかも人によって捉え方がかなり異なるのではないでしょうか。また、文学の名作が原作だからこそ「難しそう」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。でも、"男"と"女"というとてもシンプルなキャラクターたちの生活を見ていく中で、「幸せとはなんなのか」「生きるってどういうことなのか」という普遍的なメッセージを感じてもらえる作品になっています。なにより舞台上で砂の世界がどのように表現されるのか、私たちも楽しみです。いろんな想像を膨らませながら楽しんでご覧になってください。

取材・文/田辺ユウキ
撮影/木村正史
(2026年4月 7日更新)
チケット発売中 Pコード:538-678
▼4月18日(土)13:00/18:00
▼4月19日(日)13:00
▼4月20日(月)13:00
森ノ宮ピロティホール
全席指定-11500円
[原作]安部公房
[脚本・演出]山西竜矢
[出演]森田剛/藤間爽子/大石将弘/東野良平/永島敬三/福田転球
※未就学児童は入場不可。出演者変更に伴う払戻し不可。車いす席をご利用のお客様はチケットをご購入の上、事前に問合せ先にご連絡下さい。2枚以上でご購入されたお客様は、状況によっては連席でご案内できない場合がございます。予めご了承ください。公演中止を除き、払い戻しはいたしません。予めご了承下さい。
[問]「砂の女」大阪公演事務局■0570-550-699