ホーム > インタビュー&レポート > 松居大悟が衝撃を受け、演劇の“毒”の部分に触れた『ポルノ』を演出
日本の演劇界を引っ張る長塚圭史の初期作品で、2002年初演の戯曲『ポルノ』が、劇団ゴジゲン主宰で映画監督としても活躍する松居大悟の演出で上演される。高校生の時に同作を見て「殴り飛ばされたような衝撃を受けた」という松居に、本作にかける思いを聞いた。
『ポルノ』は、長塚率いる阿佐ヶ谷スパイダースの旗揚げ公演『アジャピートオジョパ』に新たなエピソードを加えた作品。坂の多い町で行われる議員選挙に立候補した国旗は、弱者の味方になりたいと、「高齢者や歩行に障害のある人のために、町のすべての坂をエスカレーターにする」という公約を掲げる。しかし支持率が伸びず、彼と妻の美和子は恐ろしい行動に出るのだった。
「僕は普通に漫画が大好きで家にこもりがちな高校生で、母親が演劇やミニシアターが好きだったので、三谷幸喜さんなどいろんな舞台に連れていってくれました」と当時を振り返る。阿佐ヶ谷スパイダースの名も知らないまま、母親に誘われて『ポルノ』の福岡公演を見に行った。「これまで見た作品とはまったく違う、言葉にできない面白さと、その目の離せなさ。しかもなにか言っちゃいけないようなことを高らかに言っているし、それをまともに食らいました。僕も登場人物たちと同様に人の道を外れようとしてしまった感じ。まるで良くない教科書を読んでしまったような。ずっとこう胸に突き刺さっていて、あれは何だったんだろうと。やっぱり演劇だからこそ、ああいう表現ができたんだろうなと。演劇の一番"毒"の部分に触れたんですよね」。
劇場では天井から主役の国旗が配るビラが客席の松居の足元まで落ちてきた。「そのビラを持ち帰ったんですよ。目の前の俳優さんたちはテレビで見たこともないような人たちだったから、本当に起きている出来事に見えたんですよね。その体験を何か形として持ち帰って、劇場で起こった時間は嘘じゃなかったと確かめたかったんです」。
まだ20代の長塚が書いた、シュールでクスッと笑えて、狂気的でかつロマンチックな作品だ。長塚は「松居さんは狂暴な頃の私のロマンチシズムに惹かれるのでしょうか。あの頃の私は随分ロマンチックでした」とコメントしている。松居は、「そうかもしれないですけど、僕はもう単純にストーリーラインやプロットの切り口、登場人物の駆け引きとかが愛おしくて。周りの人がそれは違うと思っても、当人同士が切実でそれぞれの正義を貫こうとしているのが好きだし、なんかそれが演劇だなって思うんですよね」と力を込める。
さらに、「僕も時折周りの人から『なんで演劇をやっているの?』と思われることもある。入っちゃったからにはやるしかないんだみたいな、そこに自分の正義というか、貫こうとしているものがあって、道理や辻褄じゃないところでやっている。もちろん好きなんですけど」とも付け加えた。
国旗役は、松居と同じ事務所で同い年の玉置玲央。「玲央も高校生で初めて見た商業演劇で衝撃を受けたのが『ポルノ』なんです。事務所の同期で演劇や映像をやっていて、以前に自分が演出した圭史さんの『イヌの日』にも出てもらった。その時から『ポルノ』をいつか一緒にやろうって言っていましたし、座長は彼しかいないと思っていました」と絶大な信頼を寄せる。
美和子役は前田敦子が扮する。「前田さんとは映画で3回ぐらいご一緒して、守りに入らない芝居をする方なんです。尖っていたい感じもする。美和子は一番ぶっ飛んでいるような役なので、オファーをしたら、すぐに『やります』とお返事が来て。嬉しかったし楽しみですね」と期待する。
そのほか、松居が太鼓判を押す実力派キャストが集結。「全員違う種類の芝居をしてきた人たちなので、本読みでは、そこが集まるいびつさと滑稽さが滲み出た感じ。やっぱりこの台本は面白いなと思いますね」。
どんな演出プランを練っているのだろう?「今の人は、現実にしろ、ネットにしろ、衝撃的で過激なものは昔の僕らよりも少し慣れているかもしれない。でも、そこだけを水槽の外から見せるのではなく、道を踏み外した人を応援してしまうような、ちゃんと作品世界の中にお客さんを連れて行くことが必要不可欠で一番大事だと思っています」と意気込んだ。
長塚からは何かアドバイスを受けているのだろうか。「何を聞いても、いつもはぐらかされるんですよ(笑)。何も答えてはくださらないし、今後も何も言われないでしょう(笑)。産みの親だから圭史さんが何かを言ったら、みんな、そこを目指しちゃいますからね」と理解する。あえて何もいわず、松居自身に解釈してもらうことが、長塚なりの教示なのだろう。
映画監督としても『アズミ・ハルコは行方不明』をはじめ、脚本も手掛けた『ちょっと思い出しただけ』など、独特の感性と笑いやペーソスがにじむ作品を手掛け、才能が光る。次に撮る作品も決まっているという脂が乗った40代だ。「今は焦らなくなったというか、早く売れなきゃとかそういうのもないし、単純に今面白いなって思う人と作品を作ったり、面白いなと思う本を書いたり読んだり。自分のペースで作るのがいいなと思っています」。
念願だった『ポルノ』の満を持しての上演。「高校生の頃の自分への恩返しというか、今の少年少女にも届いたらいいなと。若い世代に演劇や映画は面白いよと思ってもらえるようにしていくのも40代の自分の役割なのかなとも思います。この作品は、それこそポルノ作品を見た時みたいに、何か変なスイッチが入っちゃう、演劇や芸術に取り憑かれる強さがあると思うので、ぜひ、いろんな人に見てほしいです」と思いを込めた。
取材・文/米満ゆう子
(2026年4月 6日更新)
【東京公演】
▼4月12日(日)まで上演中
下北沢・本多劇場
【福岡公演】
▼4月15日(水)・16日(木)
西鉄ホール
チケット発売中 Pコード:540-606
▼4月25日(土)17:00
▼4月26日(日)13:00
サンケイホールブリーゼ
全席指定-9000円
[作]長塚圭史 [演出]松居大悟
[出演]玉置玲央/前田敦子/鳥越裕貴/藤谷理子/小野寺ずる/岩本晟夢/うぇるとん東
※未就学児童は入場不可。営利目的の転売禁止。出演者変更に伴う払戻し不可。車いす席をご利用のお客様はチケットをご購入の上、事前に問合せ先にご連絡下さい。2枚以上でご購入されたお客様は、状況によっては連席でご案内できない場合がございます。予めご了承ください。公演中止を除き、払い戻しはいたしません。予めご了承ください。
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