ホーム > インタビュー&レポート > 「らくごのお時間 落語会噺家八景 2026」レポート
左から、河西美帆アナウンサー、福島暢啓アナウンサー
東西の巧者が春の高座で競演、個性豊かな話芸で魅了!【昼の部】
3月20日(金・祝)、MBSの落語番組『らくごのお時間』から飛び出した落語会「らくごのお時間 落語会噺家八景 2026」がSkyシアターMBSで開かれた。2024年の番組10周年記念公演に続く2回目の開催で、昼の部には桂文珍、春風亭昇太、三遊亭兼好、笑福亭鉄瓶が出演。開演前にはMBSの福島暢啓アナウンサーと河西美帆アナウンサーが登場し、演者紹介などで客席を温めた。
舞台背景には、満開の枝垂れ桜とのどかな野山が描かれ、春爛漫の景色が広がる。そんな晴れやかな高座の開口一番を務めたのは、入門6年目の笑福亭喬路。演じた『看板の一』は、親分のいかさま博打を見た若者が見よう見まねで胴を取る滑稽噺。おやっさんの凄みを巻き舌も交えて現し、悪だくみをする若者の表情は生き生きと描き、観客をつかんだ。
笑福亭鉄瓶
「噺家八景」ここからが番組が選んだ四人。一人目の笑福亭鉄瓶は、笑福亭鶴瓶の12番目の弟子。なにわ芸術祭新人賞、文化庁芸術祭新人賞を受賞し、2025年には繁昌亭大賞にも輝いた実力派だ。マクラでは、スマホ時代の検索事情から東京と大阪の演芸ファンの違い、さらに昼間から出来上がっている酔っ払いの生態まで、軽妙にたたみかける。ネタは『替り目』。酔って帰宅した亭主が女房におでんを買いに行かせ、留守になった途端に本音をこぼす物語。車屋とのやり取りでは素面と泥酔の落差をくっきり描き、酒の匂いまで漂ってきそうな酔客ぶりで沸かせる。冷静な妻との対比もユーモアたっぷり、大きな笑いを起こした。
春風亭昇太
中トリは春風亭昇太。長寿演芸番組『笑点』の司会でもおなじみだ。マクラでは、東京の寄席や落語家という職業への誤解、東海大学の学生生活もあとわずかという自身の近況など自在に広げ、人懐こい笑顔で客席を昇太色に染めていく。披露した『ストレスの海』は、夫婦の何気ないやり取りが思わぬ方向へ転がる、パニックとブラックユーモアが交錯する昇太の代表的な新作落語。身近なストレスの話から海の場面へなだれ込み、言葉のリズムと急転直下の展開で笑いを連発。明るさの奥に毒を潜ませる昇太らしさを存分に見せた。
三遊亭兼好
中入り後、舞台背景は山桜を思わせる渋みのある満開の桜へ。高座に上がったのは三遊亭兼好。サラリーマン生活を経て28歳で三遊亭好楽に入門し、各賞を重ねて真打となった兼好は、江戸前のさっぱりした語り口が持ち味だ。さらりと毒を忍ばせるマクラも心地よく、小噺を畳み込むように聞かせる。ネタは『だくだく』。貧乏長屋に越してきた男が、家財道具の絵を壁に描かせ、忍び込んだ泥棒までが"盗んだつもり"で立ち回る滑稽噺だ。長屋の様子を立ち上がらせる語りと、泥棒の手つきまで見えてくるような所作で魅了する兼好。だんまりに近い場面と、後半の一気呵成の畳みかけとの対照も鮮やかで、鍛え抜かれた話芸をたっぷりと味わわせた。
桂文珍
昼の部のトリは桂文珍。舞台に姿を見せた一瞬で客席の空気が変わる。『らくごのお時間』への出演を喜びつつ、前の出番を受けた小噺でさっそく笑いを誘った。演じた『口入れ屋』は、商家に美しい女中が入ったことから、番頭や丁稚たちの心がざわつき、夜更けに大騒動へ発展していく上方落語の代表ネタ。古い言葉の説明も織り込みながら、船場の商家に生きる人々を活写する文珍。番頭たちが次々と同じ道筋をたどっていくおかしみを丁寧に積み上げ、ハメモノも交えつつ笑いを深めていく。昼の部の締めくくりにふさわしい、風格に満ちた高座を披露した。
東西の実力派が一堂に会し、それぞれの話芸で勝負!【夜の部】
3月20日(金・祝)にSkyシアターMBSで開催された落語会「らくごのお時間落語会 噺家八景 2026」。夜の部は桂文枝、柳家喬太郎、桂吉弥、露の紫が出演。開演前には昼の部と同じくMBSの福島暢啓アナウンサーと河西美帆アナウンサーが演者紹介などで会場の期待を高めた。
春らしい景色が広がるなか、幕開きを担ったのは入門9年目の桂健枝郎だ。披露した『普請ほめ』は、新築の家をうまく褒めて祝儀をもらおうとする男の滑稽噺。褒め言葉を丸暗記した若者と、それを教える男とのおうむ返しのようなやり取りで客席を沸かせ、夜席の幕開けを軽やかに彩った。
露の紫
「噺家八景」ここからが番組が選んだ四人。一人目は露の紫。露の都門下の女性落語家で、元アナウンサーという経歴も持つ。桜色の着物姿が舞台背景によく映え、場内がぱっと華やぐ。マクラでは、女性落語家の人数に触れつつ、「私調べで確実におもろいのが65歳以上のおばちゃん」と切り出し、おばちゃん観察エピソードをたっぷり披露、会場の共感を誘った。ネタは、くまざわあかね作の新作落語『あいかぎの変』。家の合鍵をめぐって、妻と夫、義母、妻の実母まで巻き込み、話が思わぬ方向へこじれていく。人物の描き分けも鮮やかで、最後まで引き込まれる一席だった。
柳家喬太郎
中トリは柳家喬太郎。東京落語を代表する人気実力派で、客席からは「待ってました」の声も飛ぶ。釈台を使いながら、「東京の話で一席」と言って『おせつ徳三郎』を披露。大店の娘・おせつと奉公人・徳三郎をめぐる長編だ。前半は、店の旦那や番頭、子どもの定吉らが織りなすやり取りが実に楽しい。とりわけ定吉の無邪気さと小賢しさが絶妙で、軽快な笑いを生んだ。後半は、暇を出された徳三郎が物語の中心となり、空気は急転直下。おせつへの思いを抱えたまま追い詰められていく徳三郎の悲恋に、会場は水を打ったような静けさに包まれた。不穏な気配が濃くなるなか、徳三郎の切なる思いと、切羽詰まった青くささを喬太郎が臨場感たっぷりに熱演。そんな徳三郎を、刀屋の主人が落ち着いて諭す場面では、その温度差がいっそう胸に迫り、年長者の知恵に救われるような味わいもにじむ。さらに、おせつと徳三郎の再会はひときわドラマチック。「まいごやーい」と二人を捜す声が、悲恋の色をいっそう深めていった。
桂吉弥
中入り後は桂吉弥だ。赤い着物姿で現れ、「こんなん着たらざぶとん運びを狙ってるんかと思われる」と笑わせる。山形県真室川町で観光大使「まむろがわ大使」を務める縁にも触れながら、お茶の稽古の話題などを交えて客席をほぐし、ネタ『茶の湯』へ。隠居と定吉が茶の湯を始めるものの、抹茶と青きなこを間違えたり、泡立つ椋の皮を買ってきたりと、知ったかぶりが次々と騒動を招く滑稽噺だ。隠居と定吉のやり取りはどこか祖父と孫のようでもあり、ほほえましい。いざ茶を飲む段になると、登場人物たちがそろってまずそうに顔をゆがめ、そのたびに爆笑が起こる。吉弥の熱演が光る、楽しい一席となった。
桂文枝
夜の部のトリは桂文枝。羽織袴で登場し、SkyシアターMBSの立派な空間に感慨をにじませながら、毎日放送との長い縁を振り返る。披露したのは、自作の創作落語『赤とんぼ』。童謡・唱歌好きの部長に振り回される会社員たちを描いた一席だ。文枝は、歌を交えながらテンポよく物語を進め、サラリーマンの悲哀を笑いへと変えていく。童謡の歌詞やその背景にまで話を広げるくだりは、おかしさだけでなく、知的好奇心をくすぐる面白さもあった。朗々と歌い上げる声も健在で、大トリらしい華やかさとサービス精神たっぷりの高座で夜の部を締めくくった。
取材・文:岩本
撮影:オイケカオリ
この落語会の模様は、MBS「らくごのお時間」で順次放送予定。詳しい内容は番組公式ホームページで確認できる。放送後の無料見逃し配信もあり。
【予定されている放送日】
4月19日(日) 桂文枝「赤とんぼ」
5月10日(日) 桂文珍「口入屋」
6月14日(日) 柳家喬太郎「おせつ徳三郎」
※以降は未定
(2026年4月16日更新)
公演日時:3月20日(金・祝)
<昼席>14:00開演
<夜席>18:30開演
出演:
<昼席>桂文珍/春風亭昇太/三遊亭兼好/笑福亭鉄瓶
<夜席>桂文枝/柳家喬太郎/桂吉弥/露の紫
会場:SkyシアターMBS