ホーム > インタビュー&レポート > HANA’S MELANCHOLYの劇作・翻訳を務める一川華に聞く 「全国学生演劇祭」
――2017年の東京学生演劇祭にて、一川さんが執筆された『今夜、あなたが眠れるように』が審査員特別賞を受賞されました。そもそも学生演劇祭に出品することになった経緯について、教えてください。
小学校からの幼なじみで当時、東京藝術大学に通っていた演出家の大舘実佐子と「一緒に演劇をつくりたいね」という話になって、「Freiheit Project (フライハイトプロジェクト)」というプロジェクトを2014年にふたりで立ち上げたんです。
年に1本くらいのペースで作品をつくっていた中で「東京学生演劇祭」の情報を見つけて、やはりプロの方に批評していただくっていう場であったり、横のつながり――他大学の団体の方たちと出会えるところにすごく魅力を感じてエントリーしてみようかとなりました。
――いまでもご一緒に作品をつくられている演出家の大舘さんとは幼なじみなんですか?
そうなんです。大舘とは小学校1年生から高校3年生まで一緒でした。私は、6歳まではタンザニアで育って、その後、日本の学校に入って、中学生のときはパキスタンにいたんですが、また日本に戻って、大舘のいる学校に編入したので、ずっと一緒なんです。
――お二人で演劇をやることになった経緯は?
不思議なんですけれど、たまたまお互い演劇というものに興味があって、高校生のときも、文化祭や何か披露できる場があれば、ふたりで作品をつくったりしていたんです。大学生になって、一緒に映画を見に行った帰り道に「ふたりで舞台をつくってみないか」という話になりました。
何度か公演などを重ねて、フライハイトプロジェクトとしては3作目である『今夜、あなたが眠れるように』を学生演劇祭に出品しました。当時は大学4年生で、プロとしてやっていくのか? 就職するのか? など、今後について考える時期で、一度、力試しとしてやってみようと演劇祭に出品することを決めたんです。
大学卒業後、私は半年間、イギリスの劇場でインターンシップをして、やはりプロとして、今後も演劇をやっていきたいと考えて、大舘とフライハイトで学んだことを活かしつつ、新しいステップに行きたいということで新たに「HANA'S MELANCHOLY」というユニットをスタートさせました。
――2017年に「東京学生演劇祭」に出品して、演劇祭で上演し、プロの方に評価されて...という経験というのは、いかがでしたか?
すごく大きい経験でした。やっぱり学生演劇をつくっていた時代は、良くも悪くも自分の表現に集中していて、「自分がやりたいことをやれればいい」みたいな感覚だったんです。すごく自由だったなと思うんですけれど、学生演劇祭で上演してみて、自分たちの強みも弱みも指摘していただいたなっていう感覚があって、代え難い経験をさせていただいたと思います。
――審査員特別賞を受賞はされましたが、審査員の講評などで印象に残っていることはありますか?
当時、篠原久美子さんや「アマヤドリ」の広田淳一さんが審査員を務めてくださっていて、正確な言葉じゃないんですが、広田さんが私たちの作品について「実験しながらも、ひとつ成立している作品をつくっている」というような内容をTwitterでつぶやいてくださったんです。
そこで、実験するということはすごく大事だし、今後も続けていきたいと思いつつ、やっぱり演劇というのは、お客様がいてこその芸術ではあるので「お見せするもの」として、楽しんでいただくとか、何かを持って帰っていただくという意味で、成立させるということがすごく重要なんだなっていうのを実感して、それはいまでも覚えている言葉ですね。
――他大学の同世代の学生の作品も出品されていて、そこでコンペティションという形で一緒に上演されるという経験はいかがでしたか? 当時、他の参加者との交流などはありましたか?
すごく楽しかったです。他の団体さんの作品も全部拝見しましたし、素敵な俳優さんもたくさんいらっしゃって、例えば慶應大学の「創像工房 in front of.」の方たちや、日本大学の「喜劇のヒロイン」の方たちと知り合って、私たちの作品に出ていただくという話をしたりもしました。残念ながら、コロナ禍で中止になって実現できなかったんですが...。
全団体の方とじっくり話すということは、時間の関係でできなかったんですけれども、他の団体の作品を拝見して「こんなにもバリエーションに富んでいるんだ!」と感じたことはよく覚えています。私たちは「家族の死」をテーマにしていたんですが、コメディもあれば不条理もあって、本当にいろんな作品が拝見できて、すごく有意義な時間だったなって思いますね。
――学生演劇祭に関わった経験が、その後の創作に刺激になったり、変化をもたらした部分はありますか?
「制限のあるクリエ―ションができた」ことがよかったです。普通に自分たちでつくっているときは、予算や劇場の制限はありつつも、基本的には好きなようにつくれる。でも、学生演劇祭はルールがしっかりとあるんですね。作品の尺はもちろん、場面転換も制限時間でやらなくちゃいけなくて、刺激的でした。もちろん、自由な創作も楽しいんですけど、個人的には制限を外から課されることで、クリエイティブなものが生まれるんじゃないかなっていう感覚があります。
45分でここまでのことを言わなきゃいけない――じゃあ、脚本はどうする? と考えたり。当時、メンバーが少ない中で、大舘がプランして、舞台美術の三尾希さんがつくってくださった美術が、10分やそこらで場面転換するのが難しい美術で(笑)みんなで知恵をふりしぼって、「あなたはネジ持って」「柱もって」とか、どうにか役割を分担して、組み立てたりもしました。
普段の創作であれば、そこまで考えないんだけれども、制限があることによって、みんな限界まで話し合って、何が可能なのか? どこまでつくれるのか? と議論を重ねて、その時間は、いま思い出しても、なかなか稀有な体験でした。
いまでも自分の中で「ひとつ制限をかける」みたいな部分――自由につくるのではなく、役者の人数であったり、場面の数であったり、制限を持ってつくろうっていう感覚はありますね。
――いまふり返ってみて、その後のステップアップみたいな部分や、演劇祭期間中の取り組みといった部分で「こういうことがあったら、もっと良かった」と感じること、提案などはありますか?
ステップアップとは少し違うかもしれないんですけれども、審査員の方から批評をいただけたのは、すごく大切な経験だったと思う一方で、加えて、他の団体から批評をもらうということがもしできていたら、さらに面白かったかなと思いますね。
例えば自分が全国学生演劇祭に行ったときは、同じブロックの方たちと楽屋などで「あの作品、ここが良かったですよね」とか話をしたりしました。でも、ブロックが分かれちゃうと、なかなか交流ができなかったりもして、私自身、全部の作品を見て、いろんなことを思って、伝えたいと思っても、自分のクリエーションにばかり目が向いてしまって、なかなかそれができなかったりしたので。
相互で批評し合うみたいな場があったら、もっと楽しかったのかなと。あとは、別の年に参加された方たちとも交流してみたかったなという気持ちもありますね。
「出会う」ということが演劇ではすごく大事で、自分とは違うフィールド、違うテーマに関心のある方と、たったひとりでも出会うだけで、本当に自分のクリエ―ションが広がるんですよね。出会い、話をする場というのは、当時も用意はされていましたが、もっとあったら楽しかっただろうなという感覚はあります。
例えば、シンポジウムみたいな形で、お客様の前で相互に批評し合ってみたり、お客様を巻き込んでみたり、そこにはもしかしたらリスクもあるかもしれませんが、やってみたらお客様から見ても、面白かったりもするのかなと思います。コンペティションっていろいろな可能性を秘めていると思いますね。
――今後、学生演劇祭がどのように続いていってほしいか? どのような存在であってほしいかなど、思いを聞かせてください。
まずは、続いていってほしいと思います。こうやって他大学の学生の方と出会える機会って本当にないですし、もし全国大会に行ったら、全国の方とも知り合える。そんな機会は本当にないので、無責任な言い方ですけど、続いていってほしいなと思います。
それから、ちょっと話がそれてしまうんですが、最近、生きていて「ちょっと苦しいな...」と思うのが、いまの時代、自分と意見が同じであったり、自分のフィールドと同じところにいる人としか、なかなかコミュニケーションを取らない世の中になってきているのではないかなと感じていて、例えばSNSなどではアルゴリズムによって自分と似た意見の人の声ばかりが流れてくるようになっていて、自分が気づかないうちに視野が狭くなっていっている感覚があります。
そこで、自分とは「違う」人間と対話をすることが、いま、自分の中でやっていかなきゃいけないことであり、大切にしなきゃいけないことだと思っています。演劇って、作品をつくって見せる以上に、そんな対話の場をつくれる芸術で。人が劇場という場所に物理的に集まるから対話ができるということもあるし、物語というか、ひとつの表現をポンっと置いてみて、そこを出発点にみんなで話すということもできる。いまのこの時代にすごく大切な芸術なんじゃないかなと思います。もちろん、ずっと大切ではあるんですども、いま、より一層、そう思います。
とはいえ、若い人たちに「演劇業界に来なよ」と軽々しくは言えないです。まだまだ改善していかなきゃいけないことがすごく多い業界だと思いますが、それでも、人と対話をすることのきっかけとして、演劇というのはすごくいいものだなって思っているから、演劇を作るということに少しでも興味があるのであれば、ぜひこういう学生演劇祭みたいなところ――たくさんの人と出会い、話せる場所に自分の作品を出してみて、そこからどんな会話が生まれるのか、体験してみてもらいたいです。
また、「褒められる」だけの場じゃないのもいいですよね。ポジティブなことを言われるのは、嬉しいですが、それだけだと視野も広がらないですし、成長していかないと思います。相手を尊重しながらも批評していくことがアーティスト間でも、もっとできていくといいなと思っています。
――シビアなプロの世界の人間に批評してもらえるというのは、ものすごくありがたいことだと思います。
本当にそう思います。批評されて、初めて気づく自分の弱みであったり、逆に自分ではそこまで...と思っていたけど、実は強みだったんだとか気づかされる部分もありますし、第三者にちゃんと見てもらうというのは、本当に大事な経験だなと思いますね。
――これから学生演劇祭への出品を考えている若い人たちに向けて、アドバイスやメッセージがあればお願いします。
学生演劇祭で発表した『今夜、あなたが眠れるように』は、私の祖母が肺がんと診断されて「家族が本当に死ぬかもしれない」と思ったときに作った作品なんです。上演が終わったときに観客席を見たら、ひとりの方が、ものすごく苦しそうに泣かれていたんです。その光景が本当に忘れられません。
私にとってはとてもパーソナルな作品でしたが、自分のことをここまで掘り下げていくことができれば、他の人の深いところにも触れられるのかもしれないと実感したとても大切な経験でした。
学生演劇祭のような場に作品を出すとき、もしかしたら第三者の目を気にしすぎてしまうかもしれませんが、それよりも、自分が表現したいことを深く突き詰めていけば、それが結果的に、誰かに届く表現になるかもしれません。自分たちの表現や、心の中にあるものを信じて、深く掘り下げてみてほしいです。
――最後に一川さん自身、今後、どのように活動されていくのか? 創作に対する思いなどをお聞かせいただければと思います。
今、「言葉にしたら、それが真実であり、全てだ」という風潮があるように感じます。でも実際、言葉というのは、言葉にした時点で、言葉にできていないものもあるという感覚、言葉にした時点で"落としているもの"があるという感覚を、きちんと持ち続けていかないと、会話も対話もできない。そこがいま、苦しいところであり、考え続けていきたいところでもあります。
劇作では、今後も自分が心を寄せている性暴力やジェンダーの課題に切り込むような作品を作り続けていきたいですし、翻訳に関しても同じ気持ちです。言葉の奥行きまできちんと拾って翻訳していきたいです。
取材・文/くろずなおき
(2026年3月 7日更新)
チケット発売中 Pコード:539-090
〈Aブロック〉
▼3月7日(土)13:00
▼3月8日(日)18:30
[出演]萌Co.(名古屋学生演劇祭推薦)、劇団あまおと(中四国学生演劇祭推薦)、ペイント・タレント(大阪学生演劇祭推薦)
〈Bブロック〉
▼3月7日(土)17:30
▼3月8日(日)14:30
[出演]劇団愉快犯(京都学生演劇祭推薦)、劇団ちゃねる(エキシビション)、東京学生演劇祭推薦団体
〈Cブロック〉
▼3月8日(日)10:30
▼3月9日(月)18:30
[出演]劇団とかげのしっぽ(名古屋学生演劇祭推薦)、カブク(北海道学生演劇祭推薦)、トロイの箱馬(福岡学生演劇祭推薦)
メニコン シアターAoi
一般-2500円 U25-1500円(要身分証) U18-1000円(要身分証)
※未就学児童は入場不可。1枚のチケットで、1ブロック(3団体)の上演がご覧いただけます。
[問] 全国学生演劇祭実行委員会/日本学生演劇プラットフォーム■090-4256-8131
公式サイト
https://jstf.jp/