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脳に管理されるだけの身体を否定してきた態変が、
なぜ今「脳」を扱うのか。
態変主宰・金滿里インタビュー

1983年の旗揚げから、今年で43年目を迎えた態変。団員全員が重度障碍者で構成され、セリフは一切用いず、ありのままの肉体をそのまま見せるスタイルで、身体性を追究する。「身体障碍者の障碍自体を表現力に転じ、未踏の美を創り出すことができる」そうした主宰者・金滿里の着想から、社会の既成概念や美意識、価値観を根底から揺さぶってきた。「身体絶対主義」を掲げる金滿里は、脳による制御から外れる態変の身体を通して、脳と身体の主従関係を否定してきた。 しかし今回のテーマに据えたのは「脳」――。新たなフェーズへと突入した態変が、次に目指す表現とは。

――滿里さんが芸術に興味を持つようになったきっかけを教えてください。

母親が韓国の古典芸術家だったので、幼い頃から芸能が身近にある環境ではありました。ただ、三歳でポリオに罹患してからは長いあいだ施設で生活することになり、そうした世界からは切り離されていました。その頃は、芸術は自分には関係のないものだと思っていたんです。
7歳から17歳まで施設で暮らし、その後、施設を出たあと障碍者解放運動に出会いました。当時は「バリアフリー」という概念もなく、障碍者が車椅子で街に出るだけで問題視される時代でした。だから街に出ること自体が、ひとつの運動だったんです。運動を続けるなかで、理論や主張だけでは自分の感性を表現しきれないという感覚が強くなっていきました。運動を離れたあと、「本当にやりたいことに出会うまでは動かない」と決めていたのですが、それが舞台表現だったというのは、自分でも意外でした。

――障害者解放運動を通して、価値観はどのように変わりましたか。

施設にはさまざまな障碍を持った人がいて、重度も人それぞれです。けれど子どもの目から見れば、そこにいる全員が「いて当たり前」の存在でした。生きていて、空気を吸っている。それだけのことです。一方で、社会や教育の現場には「障碍は克服すべきもの」「障碍があるのはだめだ」という価値観が強くあります。運動を通して、そうした前提そのものが間違っているのではないかと考えるようになりました。五体満足で二足直立歩行できる身体を正しいとする優生思想自体を疑わなければ、解放には至らない。「差別はいけない」という表層的な主張だけで制度を変えても不十分で、価値観そのものを転倒させる必要がある。その考え方が、私にはしっくりきたんです。

――そこから、アーティストとしての道へ向かう決定的な転機は何だったのでしょうか。

障碍者の存在を本当の意味で肯定するには、理論で説明するだけでは足りないと思うようになりました。障碍そのものを直視しながら、芸術として昇華し、表現として提示する。そのほうが、届くのではないかと感じたんです。障碍者が持っている独自の世界観を、言葉ではなく抽象的な表現として立ち上げる。バラバラな要素を、絵画のようにつなぎ合わせていく感覚です。そこには、母親の影響もあったのかもしれません。

――態変の作品では、一貫して「身体」が中心に据えられています。

態変は、身体絶対主義です。身体は頭脳で抑えつけ、コントロールするものではないという考え方を、43年間続けてきました。長く続けてきたからこそ、次に向き合うべき課題も見えてきます。私自身が追究してきた身体性にとって、まだ手を付けていなかった領域がありました。それが「脳」でした。

――脳が身体を制御するという考え方を否定してきた態変が、脳をテーマに据えた理由はなぜですか。

これまで否定してきたのは、身体から切り離された支配者としての脳です。しかし脳もまた、身体の一部であるという矛盾には向き合わなければならない。43年間、脳を否定することで身体性を探ってきたからこそ、本当の意味で脳を黙らせることはできない、ということが分かってきました。その事実を、私自身が受け入れられるようになったのだと思います。『BRAIN』は、態変の表現が次のフェーズに入ったという実感の中で生まれました。

――舞台で表現することについて、どんな難しさを感じていますか。

私は自我が強いほうだと思いますし、だからこそ表現をしているのだと思います。ただ舞台表現においては、その自我は邪魔になる。障碍者運動では、一度「私が、私が」と主張しなければならない段階があります。抑圧されてきたものが目覚める過程では、強い自我が必要です。その先へ進もうとすると、自我やアイデンティティが足かせになる瞬間が訪れる。在日コリアンとしての自分も含め、二重のアイデンティティを抱える中で、追究し続けながら、同時に手放していく。その矛盾に向き合う時期が、今来ていると感じています。

――AIを扱った作品でもありますが、現代社会のAI化についてはどう見ていますか。

「障碍者が使いやすいAI」という発想は多くありますが、「障碍者の視点からAIそのものを問う」という試みは、ほとんどありません。AIは効率や再現性を前提としますが、言語障碍の強い言葉はその枠に収まりません。資本主義的な価値基準で測れば、障碍者は不効率な存在とされてしまう。だからこそ、AIには模倣できない人間的なものを突き詰めていくと、「障碍者的なもの」に行き着くのではないかと思っています。

――AIの高度化によって思考の外部化が進み、「コスパ」「タイパ」といった効率性が重視される社会については、どう感じていますか。

私には、言語に対するある種の「諦め」があります。言語では到底表しきれない世界が、確かにあると思っているんです。どんなに少数派になっても、価値がないとされても、そこには必ずすごい価値がある。その発想が、今の身体表現につながっています。

――『BRAIN』では、時里充さんがシステムアーキテクトとして参加されています。

時里さんとコラボレーションし、AI技術を取り入れました。舞台を真っ二つに縦に割り、上部をAI都市、下部を態変の身体が占める二部構造です。二部構造にすることで、両者の違いがより際立つ仕組みになっています。下層は床にへばりついている身体です。古典バレエ的には、背が高く、四肢が長いほうが舞台で映えるとされますよね。その対極として、床面を這いまわる身体が、上部のAI映像とどう対比されるのか。その点にも興味がありました。結果的に、非常にうまく噛み合った。地面のほうが目立たないということはなく、むしろ起き上がってくる。へばりつけば付くほど、態変の身体は強く、目立つんです。

――2026年2月に控える『BRAIN2』では、どのような発展がありますか。

『BRAIN』の製作期間が長かったぶん、ここはもう少し掘り下げたい、という部分が見えてきました。その時点で、『BRAIN2』をやることは決めていました。単なる再演では満足できないだろう、ということも分かっていた。ベースは『BRAIN』を踏襲しつつ、前作でできなかったことを織り込んでいく。ある意味、とても贅沢な発想です。

――『BRAIN2』も二部構造になるのですね。

そうです。上部構造はAIの管理都市。管理していて、馬鹿にしたり見下す構造になっています。知能の最たるものの限界です。下部には、そんなことお構いなく地を這い、旅を続ける命の躍動がある。ただし、このふたつは分断されたままではありません。どこかで噛み合わないか、という点を『BRAIN2』では描きたい。

――前作では描けなかった、上部と下部の統合でしょうか。

統合まではいきません。ネタバラシになるので詳しくは言えませんが、共存でもなく、あくまで対立です。ひとつヒントを挙げるなら、「循環」ですね。循環のエネルギーをもってすれば、人類もAIもないのではないか。そんな問いを含んでいます。

――『BRAIN/BRAIN2』を通して、人類にどんなエールを込めましたか。

正直、人類やめたくなるくらい、どうしようもない世界じゃないですか。ガザの侵攻は終わらないし、戦争はあちこちで起きている。障碍者の立場からすると、「ガス室」という言葉が身近になってくる感覚もある。生き残るためには、「何かの役に立ちます」と言えないといけないような閉塞感がある。人類のこの先はもうないやん、と思ってしまうこともあります。宇宙開発で逃げる、という話も出てきますが、それも一部の人だけの話ですよね。そうしたストーリーが、あまりにも出来上がりすぎている。でも、人類史というものは、宇宙の観点からすればほんの一瞬です。 それでもこの一瞬、この場所にへばりついていることの意味を問い直す。そのこと自体に、「がんばろうや」というエールを込めました。

――新たなフェーズに突入した態変が、今後どのような表現を目指していくのか、あらためてお聞かせください。

『BRAIN/BRAIN2』を通して、柔らかい心の部分を、もっと素直に表現してもいいと思えるようになりました。人間の柔らかい心と、非常に無機質な身体。自我が関係なくなるほどのものを、じつは一人ひとりが細胞として持っていると思っています。人間の身体には無数の細胞がありますが、その「一人」もまた、ひとつの細胞なんですよね。それらが集まり、ひとつの個体として機能する。そこから、より深い身体表現に近づいていかなければならない。そのことに気づくこと自体が、とても大事だと思っています。態変のパフォーマンスを観に来てくれる人たちは、「何かを訴えてくれる」「強烈なものをぶつけてくれる」といった期待を持って来てくれる。でも、そういう人間臭さじゃなくていい。柔らかい心でいい。その柔らかさを内包したまま、いかに無機質な身体に徹することができるか。自我を超えた連帯やつながりを、これからも提示していきたいと考えています。

取材・文/金 愛香




(2026年1月16日更新)


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態変 第81回公演『BRAIN2』

チケット発売中 Pコード:538-584
▼2月20日(金)19:00
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▼2月22日(日)11:00/17:00
▼2月23日(月・祝)13:00
扇町ミュージアムキューブ CUBE01
一般-4000円(自由)
障碍者/介助者-3500円(自由、当日要証明書提示、介助者の方も要チケット)
25歳以下-2500円(自由、当日要証明書提示)
12歳以下-1000円(自由、当日要証明書提示)
[作・演出・芸術監督]金滿里
[システム・アーキテクト]時里充
[出演]金滿里/小泉ゆうすけ/下村雅哉/渡辺綾乃/井尻和美/向井望/池田勇人/山崎ゆき
※終演後、アフタートークを行います(22日11時公演を除く)。
※態変賛助会員証提示で受付にて500円払い戻し。
※【障碍者/介助者】障害者手帳をお持ちの方が対象。介助者の方も別途チケットが必要です(障碍者様1名につき、介助者様1枚購入可)。車いす席のお取り扱いはございません(態変へ要連絡)。
[問]態変■06-6320-0344

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態変 第81回公演『BRAIN2』に2名様をご招待!

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