ホーム > インタビュー&レポート > 小空間に無限の宇宙を広げて描く命と再生の物語 EPOCH MAN『我ら宇宙の塵』観劇レポート
京都出身の小沢道成が2013年に立ち上げ、脚本・演出・美術を手掛ける演劇プロジェクトEPOCH MAN(エポックマン)の話題作『我ら宇宙の塵』。2023年に東京で初演し、第31回読売演劇大賞で、優秀作品賞、優秀演出家賞、最優秀女優賞の3部門を受賞した作品だ。小劇場作品ながら高評価を得、ロンドンのパークシアターで現地キャストにより1か月間の上演。そして今回、初の4都市ツアーをオリジナルキャストで再演し、大阪に初登場。パペットと映像テクノロジーを融合、扇町ミュージアムキューブの小空間に宇宙を出現させて描く。"人は死んだらどこへ行くのか"をテーマに繰り広げる、命と宇宙、喪失とグリーフケアの物語。初演とロンドン公演を経て成長した舞台を観劇した。
暗い舞台。薄暗い照明の中に、椅子の座面に突っ伏している子供。動かない。小学生中学年ぐらいの男の子・星太郎(しょうたろう)。パペットだ。この星太郎を、小沢がまるで人間のように巧みに操る。舞台の背面には、三方をぐるりと覆う湾曲したスクリーンが立ち、ここにさまざまなLEDディスプレイが投影される。そのため、俳優たちの登退場は舞台上の床面中央あたりにセットされた穴から。

物語は、星空が好きだった星太郎の父が死んで5年。母(池谷のぶえ)は星太郎に「お父さんはお星さまになったの」と伝えたが、それ以来彼はしゃべらなくなり、ただ空ばかり見ていた。そしてある日、いなくなる。街の人たちに聞きながら、必死で星太郎を探す母。行方を追う中で出会った看護師(異儀田夏葉)、火葬場の職員(渡邊りょう)に、星太郎は「人は死んだらどうなるの? どこへ行くの?」と問いかけていた。2人も母と共に星太郎探しに伴走する。

夫を亡くした母、母親を亡くした看護師、愛犬を亡くした火葬場の職員、それぞれが失った大切な者への思いと向き合う旅の時間。星太郎は、いつも父親と一緒に行っていたプラネタリウムにいた。星太郎を囲み、思いを吐き出す3人。淡々と星を投影する、温かなプラネタリウムのおばあさん(ぎたろー)。大人たちの会話を聞きながら、星太郎は自分なりの答えを見つけ出して...。

この物語の中で、LEDディスプレイの演出が見事な効果をもたらす。黒いスクリーンに子供が手書きしたような線画や風景が白色で映し出される。それは光沢のある黒の床面にも反射して浮かぶ。LEDディスプレイは、今舞台でよく見るプロジェクションマッピングよりも明度が高く、よりきれいなフルカラーが使えるのだが、それを小沢は「物語として"喪失"もテーマのひとつなので」と敢えて白黒にした。スクリーンを走るトラックがこちらに向かってくる父親の事故シーン、その迫力。美しく、包み込まれるような満天の星空。そして、最後を締めるワンシーンだけのフルカラー映像。小空間だからこその密度が生き、想像力を存分に刺激してくれる。これを生で体験できた観客は幸せだ。

もうひとつ、パペットも大きく印象に残る。小沢は自分の足の上に星太郎の足を乗せて歩く動作を見せるなど、パペットの使い手として出演している。が、星太郎が自分の答えを見つけたあと、初めて小沢は彼を抱き上げる。多分昔、父親がそうしていたように。そして、いつも君のそばにいるよ、というように。小沢が星太郎の父親となった瞬間だ。その時、それまでずっとうつむき加減で寂しい表情だった星太郎が笑顔になった、ように見えた。表情の変わらないパペットなのに。このワンシーンだけで、愛する者との別れを経験したことのあるすべての人へのグリーフケアとなるだろう。今回の再演で新たに付け加えられたシーンだと思われるが、観る人の心の奥底にストレートに刺さる、見事な演出。また、観客の感情の流れを同化させるような池谷のぶえの演技の確かさも見逃せない。

最後に、今回の東京と大阪公演では、舞台上での手話通訳、バリアフリー字幕、英語字幕タブレットの貸し出しなどの鑑賞サポートが提供されていたことを付け加えておきたい。
取材・文:高橋晴代
舞台写真 撮影:一色健人
(2025年12月 9日更新)
【大阪公演】ぴあ関西40周年記念公演
日程:11月6日(木)~11月10日(月)
会場:扇町ミュージアムキューブ CUBE01
脚本・演出・美術:小沢道成
出演:池谷のぶえ 渡邊りょう 異儀田夏葉 ぎたろー 小沢道成/谷 恭輔(スウィングキャスト)
脚本・演出・美術:小沢道成
日程:2026年4月5日(日)~5月4日(月・祝)
会場:ザ・スズナリ