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「ぴあ演劇学校」2限目は梅棒・伊藤今人×劇団壱劇屋・大熊隆太郎が登壇、
「身体表現」をレクチャー!

9月15日(月・祝)、吹田市文化会館(メイシアター)レセプションホールで行われた「ぴあ演劇学校」秋期特別講座。2限目は「身体表現学」だ。講師は、ダンス・エンターテインメント集団・梅棒の伊藤今人と、パントマイムを核に独自の舞台を手がける壱劇屋の大熊隆太郎。映像実演とトークで"身体で物語を届ける"手つきを具体的に解き明かした。

まずは伊藤が、J-POPをつないで一本の物語を紡ぐ梅棒のステージ映像を解説付きで披露。旅で島を訪れた女性に、島の男たちが一斉に心奪われる――という筋立てを、台詞なしの演技とダンスで明快に提示した。「序盤は"誰が、どこで、何をする世界か"をストレートに伝えます。最初の2曲が肝」と語るように、ノンバーバルでも情報が自然に入る設計を最重視しているのが印象的だ。また、観客の耳になじんだ楽曲の中に、「あれ? この曲は何?」という一曲を忍ばせ、物語の温度やムードを巧みに変える選曲術も明かされた。

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続く大熊は、"閉じ込められた部屋からの脱出"を描く映像を紹介。壁やロープ、ロボットなど、クラシックなパントマイムの基礎を出発点に、鏡や道具も取り込みながら物語へ接続していく発想を語った。「感情の振れ幅をどう立ち上げるか」というダンスへの羨望も交えつつ、基礎を拡張する試行錯誤が率直に語られた。

梅棒の創作は、物語の骨格づくり→選曲→各曲担当の分担→全体整合という段取りで、メンバー全員が意見と責任を持つ合議制だという。ノンバーバルゆえ「1人でも伝わらない解釈が出たら削る」という徹底ぶりも共有された。一方、東京と大阪の二拠点で活動する壱劇屋は、公演やメンバー構成により体制を柔軟に変えながら"団体を続けること"を最重要視していると語った。

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質問コーナーでは、「観客が絶対に幸せな気持ちで家路につけるステージを作りたいと思い、自主舞台公演をプロデュースすることに決めた」という方から、「選曲やダンス、芝居の複雑で立体的な構造をどのように組み立てて作成しているのか?」という質問が伊藤に寄せられた。まずはそのコンセプトについて、「"観客が絶対に幸せな気持ちで......"というのを1番大事なものとして置いておくと、作るのがしんどくなるかもしれないので、それが付随してくるくらいの感覚で作ってもいいかもしれないですね。自分のプロデュース公演でお客さんがどういう状態で帰るのが正しいのかという答えは、自然と出てくると思う」と言及。そして、梅棒の作品の作り方については、「お話と、キャラクターと、ストーリーを大事に考えます。そこを確固たるものにしてから選曲をして、ダンス化していくという順番でやっています。僕らとしては演劇をやりたい、演劇として評価されたいという感覚があるので、そこを大切にしています。そこから選曲、ダンスという順序です」と解説した。

そして、「劇団運営で一番重視していることは?」という質問では、「これは難しい話ですが、一番は続けることです」と大熊。「年齢がどんどん上がってきて、ライフステージの変化などで劇団を離れていく時期が3~4年に1回やってきます。うちの劇団は、去年、今年ぐらいがその時期で、どうしようかと。東京と大阪で別々で運営しているので、東京は東京で、大阪は大阪でどうやって継続していこうかと考えながらやっているのですが、そのために、例えばメイシアターで公演もさせてもらいましたが、劇場さんとタッグを組むとか、企画をやらせてもらうなどして、最悪、僕さえいれば、みんなが帰ってくる場所を残してあげられるので、そのためにも踏ん張って、続けることに一番重きを置いてやっています」と、一言一句、かみしめるように話した。

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伊藤も「本当にそうだと思う」と賛同する。そして、「僕も去年、自分が所属した劇団が解散しましたが、まあ、大変なんですよね。続けるということが何より大事だと思うし、何より難しいことだと僕もすごく良し悪しも分かっていて。そのために責任を分散するというか、作品を作る過程でもメンバーそれぞれがちゃんと団体とか作品に貢献できているという実感を持たせるということが大事だと思っていて。それによって自分が貢献できているという実感を持ちながら団体に所属できたら、居場所としても居心地がいいし、創作活動においても責任を持って行動するようになってくれるんですね。過ごしやすくて、意見が出しやすくて、自分が責任を持って創作しやすい団体の雰囲気と稽古場の雰囲気を醸成するってことに一番重きを置いています」と明かした。

さらには、現在の劇団運営についても、「今は、梅棒のような振付をしてほしいというオーダーが来た時に僕じゃなくてもできるんですよね。僕以外のメンバーができる状態になっているのがとても健全だし、そういう運営をしてきたからこそ、経済的にもそれぞれが回るようになったなと思って。ある意味、正しいやり方ができていたのかなと思います」と赤裸々に語った。

また、オーディション観については、「"梅棒に出たい"よりも、自分の核を持って活動している人に惹かれる」と伊藤。大熊は「作品次第で重視ポイントを変えつつ、"上手さ"だけでなく"やり切る勢い"も評価したい」と、現場目線の言葉が飛び交った。

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また、梅棒と壱劇屋のコラボ提案が上がると、「イマーシブ!」と即答する伊藤。大熊は「じゃあもう、コントしましょう!」と提案。「負けないよ!」と火花を散らす伊藤に、「そっちの土俵にひとつも行けない」と大熊。さらに「梅棒のようなことをやりたいと思ったことはない?」と加美に水を向けられた大熊は、「いやぁ...やりたいとは思ったことは...ないです」と言い放ち、笑いを誘う。そして、「おもろいと思うのですが、やりたくてもできないし、自分にはないキラキラやなと思って...」と、その真意を説いた。

終盤は「身体表現」というテーマに立ち返り、トレーニング談義を展開。大熊が"関節の分離"を日課に挙げ、肘、手首、肩甲骨など部位ごとのアイソレーションを推奨。「止めた身体の一部分だけを動かす」という地道な積み重ねが、舞台上での"あり得ない動き"や説得力の源になるという。伊藤も「身体表現の可能性は無限。ダンスは言語を越えて通じる」と、基礎と継続の重要さで呼応した。

最後は、互いの公演にも触れつつ、「いつか一緒に」と約束する二人。異なる文法を持つ伊藤と大熊が「身体表現」という軸で交わった90分は、終始、本音と笑いが入り混じる和やかな時間となった。

取材・文:岩本
撮影:滝野利喜雄




「ぴあ演劇学校」プロデューサー・ぴあ社員A
2限目【身体表現学】は、1限目とはまた異なる空気をまとうお二人、伊藤さんと大熊さんをお迎えしました。
冒頭から場を盛り上げる伊藤さんと、穏やかに鋭い突っ込みを入れる大熊さんとの軽妙な掛け合いに、客席は笑いに包まれました。
お二人のトークからは、演劇と身体表現にかける熱いエネルギーを強く感じました。
一方で、劇団を"続ける"ことの難しさや工夫に触れ、常に前線で輝いて見えるお二人にも多くの葛藤や努力があることを知り、作品をより深く味わえるようになった気がします。
この「ぴあ演劇学校」で伝えたかったのは、まさにこのリアルさです。貴重なお話を本当にありがとうございました。心より感謝申し上げます。

ぴあ社員C
どちらも身体という武器を活かしつつ、表現も作風も全く違うおふたりのトーク。とても興味深く聞かせていただきました。自分たちが一緒に作品を作るとしたら、それぞれが得意な陰の部分と陽の部分を組み合わせて「まがたま」みたいになるかも!と盛り上がったのが印象的です。そのまがたま、ぴあ主催で実現できないか検討します。

(2025年11月21日更新)


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ぴあ関西40周年×吹田メイシアター40周年記念イベント
「ぴあ演劇学校」
2025年秋期特別講座

2025年9月15日(月・祝)
吹田市文化会館(メイシアター)レセプションホール(大阪府)

【1限目:歴史学】11:00開演
[出演]内藤裕敬 / 土田英生
[司会]加美幸伸

【2限目:身体表現学】13:30開演
[出演]伊藤今人 / 大熊隆太郎
[司会]加美幸伸


今後の出演予定

伊藤今人
<出演>
梅棒 20th Breakdown『FINAL JACKET』
【東京公演】
日程:11月8日(土)~24日(月・祝)
会場:サンシャイン劇場
【愛知公演】
日程:11月29日(土)・30日(日)
会場:ウインクあいち
【大阪公演】
日程:12月5日(金)~7日(日)
会場:COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
https://www.umebou.com/

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