ホーム > インタビュー&レポート > 「幅広い楽曲を楽しんで」 オリジナル・ミュージカル『ISSA in Paris』 主演の海宝直人にインタビュー
――脚本をお読みになった印象を教えてください。
"絶賛クリエイト中"ですので、この段階でどうお話しするのがよいのか難しい状態なのですが、まさに今、新しく作っている最中です。果たしてこれは"タイムスリップ"なのか、すべてが海人の中にあるものとして見えているのか、そのあたりはまだはっきりしていません。藤田俊太郎さんや高橋知伽江さんと話しながら、どういう方向に進んでいくのか、これから決まっていくだろうという感じです。完全な新作で、原作もなくゼロから作るからこその大変さや面白さを、少しずつ感じ始めています。
――新作ミュージカルの醍醐味はどういったものでしょうか?
「こうしなきゃいけない」、「ああしなきゃいけない」といった制約が少ない。原作がある舞台だと、キャラクター像を崩せないなどの制約がありますが、オリジナルだと「この役はどういった人物かな」という話から始めることができます。アウトラインを大きく変えることでさえも柔軟に、みんなで作っていけます。これは原作のある作品では絶対できないことだと思います。
――海宝さんはゼロから作るほうがお好きですか?
どちらにもそれぞれの難しさと面白さがあります。オリジナルは自由度が高いという面白さがある一方、選択肢があまりにも多いなかでどう作っていくかという点では難しい。新作のほうが圧倒的に苦労が多いと感じています。それだけに、ある種の覚悟が要ります。
――藤田さんの演出はいかがですか?
藤田さんとは、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』(2016年、2018年)でご一緒して、それ以外の作品ではご一緒する機会はなかったのですが、(舞台を)観に来てくださったり、僕も藤田さんの作品を拝見していました。今回は本当に久しぶりにご一緒します。ものの見方や捉え方に藤田さんならではの視点があって、それが面白く、興味深い。いつも感性がすごいなと思います。
――音楽はモーリー・イェストンさんの書き下ろしですが、どんな楽曲が登場するのでしょうか?
日本を舞台にしていることもあって、今までのモーリー・イェストンさんとは少し違う色味が出ている曲もあり、幅の広さが魅力になるのではないかと思います。従来のモーリーさんのイメージを彷彿とさせる美しい西洋的なメロディーもあれば、すごく日本的なものもある。時代感も過去と現在があって、過去を生きる一茶のパートと、現代を生きるミュージシャン・海人という僕のパートがあり、R&Bのような現代のミュージシャンが作るような音楽もあるので、その幅広さを楽しんでもらえると思います。
――モーリー・イェストンさんが一茶の「露の世は露の世ながらさりながら」という俳句に感銘を受けて創作が始まったそうですが、その思いは楽曲にどう重なっていきそうですか。
"外国から見た日本"の魅力はもちろんありますが、今回は日本人が演じ、日本の皆さんにお届けする。ネイティブの日本人に"日本のもの"を届けるのは、外国の方から見た日本像からスタートしているだけに難しさもあると思います。ネイティブは自分たちの文化や感覚に鋭いので、「これは外国人がイメージする日本だな」とわかってしまうこともある。そのバランスをどう取るかが難しさであり、作っていく面白さでもあると感じています。
――岡宮来夢さんの印象を教えてください。
歌も、お芝居も、仕事への向き合い方が本当にまっすぐで誠実で、こんな人がいるのかなと毎回、会うたびに思います。最初にお会いしたのはミュージカル『王家の紋章』(2021年)で、そのときから「ボイストレーニングに行きたいのですが、先生を紹介してもらえませんか?」と相談を受けて、紹介しました。そこからどんどん実力をつけていらっしゃる。誠実で、勉強家で、とても素敵な表現者だと思います。時を経てまた共演できるのはうれしいですね。
――「突然の母親の死から立ち直れず、呆然自失になっていた海人が、小林一茶と名乗るまでの「空白の10年」に一体何があったのかを突き止めるため、そして自分自身が前に進むためにパリへ旅立つことを決める」という物語ですが、海宝さんは時が止まったようなご経験はありますか?
大きな出来事でなくても、自分の足が止まってしまったように感じることは、稽古中でも、本番中でも、必ず一度はあります。そもそも人前に立つことが得意なタイプではないので、いまだにそうです。でも、舞台などを観たときに、その作品が自分の中で生きる力になっていると感じる瞬間があります。自分の活動で同じ感覚を持ってくださる人がいるなら頑張りたいですし、原点に立ち返って「もう一度頑張ってみよう」と思えます。あとは、やっぱり人との出会いですね。近い年代で夢を持って頑張っている皆さんや、演劇を愛している先輩方の話を聞くことが力になります。誰に出会うかで人生は大きく変わると思います。
――9月3日に30周年記念のミニアルバム『ever more』をリリースされました。30年を振り返っていかがですか? とお聞きしようと思っていたのですが、いまでも人前に立つことが得意ではないとのこと。緊張感は今もありますか。
あります。役を背負って立つことは、乗り越えなければいけないことのひとつですね。あと、講演など、素の自分で話す場は特に苦手ですが、コンサートや舞台では、そう見えないようにするのはうまくなってきたと思います(笑)。
――舞台に臨むとき、オフからオンに切り替わるタイミングは、どのあたりですか?
本当に直前です。ギリギリまでふわふわしています。舞台袖に入ると集中していきます。
――芸歴30年ということで、人生の約4分の3を舞台に捧げてこられたとも言えます。歌との向き合い方に変化はありましたか?
歌を歌う、表現すること自体は、自分の中で変化はありません。作品の中で「この音楽をこう表現したい」という自分の中のイメージがあって、そこを目指して、トレーニングを重ねています。
――「今日は理想の歌が歌えた」という日はありますか。
理想的だと思えたことは一度もないですね。レコーディングでも同じです。完璧だと思うことはないです。こだわりが強い分、納得いかなければ何度でも録り直せるという点でどっちかというと、レコーディングのほうが大変かもしれません。
――最後に、『ISSA in Paris』を楽しみにされている皆さまに、改めてメッセージをお願いします。
僕自身もどんな作品になるかまだわかりませんが、それがオリジナルの面白さだと思います。役者として出されたものをなぞるのではなく、今まで培ってきた中からいろいろな提案をして、藤田さんとしっかり話し合いながらよいものを仕上げていきたいと思います。原作のないオリジナルを、お客様にちゃんと楽しんでいただけるものに仕上げることはとても高いハードルです。初日ギリギリまで調整は続くと思いますが、本当に素晴らしい音楽があるので、そこも楽しみにしていただけたらと思います。
取材・文/岩本
スタイリスト/津野真吾(impiger)
衣装協力/GABO Napoli、UNION STATION by MEN'S BIGI
(2025年11月13日更新)
▼2026年1月10日(土)~30日(金)
日生劇場
チケット発売中 Pコード:536-308
▼2026年2月7日(土)~15日(日)13:00
※2/14(土)12:00/17:00
※2/9(月)休演
梅田芸術劇場メインホール
[土日祝千穐楽]S席-16000円 A席-11000円 B席-6000円
[平日] S席-15000円 A席-10000円 B席-5500円
[原案・作詞・作曲]モーリー・イェストン
[脚本・訳詞]高橋知伽江
[演出]藤田俊太郎
[出演]海宝直人/岡宮来夢/潤花/豊原江理佳/中河内雅貴・染谷洸太(Wキャスト)/彩吹真央・藤咲みどり(Wキャスト)/内田未来/阿部裕/他
※2/8(日)公演終演後、アフタートークショーあり(海宝直人×岡宮来夢)。
※2/14(土)17:00公演はバレンタインスペシャル公演。来場者全員にチョコレートをプレゼント。
※未就学児童は入場不可。本公演チケットを「チケット不正転売禁止法」の対象となる「特定興行入場券」として販売致します。興行主の同意のない有償譲渡は禁止されています。