ホーム > インタビュー&レポート > お酒を片手に味わう、“ビター&スイート”なショー 『イシダカクテルパーティー』
9月15日(月・祝)、吹田市文化会館(メイシアター)レセプションホールで、ぴあ関西40周年×吹田メイシアター40周年記念イベント「『イシダカクテルパーティー』~あなたの夜をちょっとビターなオトナの恋で彩りませんか ビタースイートラブリーディングナイト~」が行われた。
出演は石田剛太(ヨーロッパ企画)、武田暁、木下出、池浦毅(男肉 du Soleil)。福岡のラジオ局LOVE FMで約12年間続いている番組『こちらヨーロッパ企画福岡支部』の人気コーナーである、石田自作の"オトナの恋愛ラジオドラマ"『イシダカクテル』を初めて舞台化する企画で、ムーディーな"リーディングドラマ"的趣向で立ち上げ、メイシアターを大人の社交場に変えた一夜だ。

メイシアターのレセプションホールで、こうしたラウンジ仕様の主催イベントは初めてのこと。フロアには円卓が並び、約130名の観客はお酒を飲みながらステージを楽しむ。当日は劇場2階のカフェ『バローレ』のスタッフがドリンクを提供。開演前から、会場にはおしゃれなBGMが流れ(※DJ:番組ディレクターの宮D)、ドレスアップした来場者も多く、非日常の気分が高まっていく。
そもそも『イシダカクテル』とは、'80年代の人気コミック『ハートカクテル』(作・わたせせいぞう)の世界観で、オトナの恋愛模様を妄想もふんだんに描く短編のラジオドラマ。番組内では既に300本を超える佳作、名作(迷作?)、感動作が生まれている。この夜は、その作品群から石田自身が選りすぐった9本の自信作が、ヨーロッパ企画の盟友・小林哲也の演出によりステージングされた。

ステージはスツール2脚とバーカウンター1台のみ。バーテンの木下と客の池浦が構え、石田と武田がリーディングする"オトナの恋の駆け引き"を見守る配置だ。
石田が登場し、開口一番に「完全に仕上がってください!」と観客にお酒を勧める。その理由は、物語が進むほどにじわじわと分かってくる。エピソードは"1話・2話"ではなく、"1杯目・2杯目"とカウント。1杯目『初めてのバー』では、バーに行ってみたいという女にせがまれ、男がオーセンティックバーへエスコート。「サイドカー」「ハンター」などのカクテル蘊蓄をオシャレに語る男に対し、女は涼しく受け止め、その世界を楽しむ。観客が引きそうで引かない、ぎりぎりのラインを攻めてくる男女の言葉の駆け引き。やがて2杯目、3杯目と進むにつれて、第三者の"共感性羞恥心"が暴れ出す瞬間が増え、身もだえと笑いを誘っていく。

6杯目『薔薇よりも美しい君へ』は舞台を夜の海の家に移す。初対面の男女が、潮騒を背景に身がよじれるような会話を繰り広げ、プライベートビーチを散歩する場面では、思わずめいっぱい開いた両手で目を覆いたくなる気恥ずかしさと高揚が交錯する。ここでのカクテルは、「フローズン・ダイキリ」。そして"...あれから10年"。石田がおもむろに、布施明の大ヒット曲『君は薔薇より美しい』(`79年)を熱唱しだした途端、会場から大歓声(と「歌うんかい!」のツッコミ多数)が上がった。

ラストの"カクテル"のタイトルは『いつの日よりも』。新車で海へ向かう、高校時代に知り合った同級生夫婦の夜は、やがて朝へと移ろう。朝日に照らされた彼女を「あの時と変わらずビーナスだ」と語る石田。甘さとほろ苦さと恥ずかしさの境界線を攻めてくる。そして、クライマックスでは石田がオリジナル・ラブの名曲『接吻』(`93年)を熱唱。武田も加わり、ステージを降りてフロアを練り歩きながら円卓を回る二人は、ディナーショーでの歌手のごとく観客に挨拶や握手を交わす。最後は木下、池浦もステージに居並び、『接吻』を唱和。会場は一体感で包まれた。

各"杯"の合間に石田がカウンターの池浦のもとへ歩み寄り、感想を交わす趣向も効いていた。池浦の辛口批評は観客の気持ちの代弁となり、共感の笑いがあちこちで起こった。
最後に石田が「皆さん、恋をしましょう~!」と呼びかける。石田と池浦によれば、この日のストーリーは"アルコール度数低め"とのこと。ラジオ版『イシダカクテル』はもっと"度数"が高いらしい。あれで低め!? と驚きつつも、男女が織りなす会話の世界がクセになり、「ラジオも聴いてみたい!」"という気持ちがむくむくと湧き上がってくる。恐るべし、イシダカクテル。酔わせる力が半端ない。
お酒を飲みながらリーディングドラマを楽しむラフな観劇スタイルも好評で、合間にはグラスも会話もよく進んでいた印象。そんな観客のオンとオフの切り替えも鮮やかに、大人の夜を堪能する公演となった。
取材・文:岩本
撮影:滝野利喜雄
(2025年11月 5日更新)
9月15日(月・祝) 18:00開場/18:30開演
吹田市文化会館(メイシアター) レセプションホール(大阪府)
脚本:石田剛太(ヨーロッパ企画)
演出:小林哲也(ヨーロッパ企画)
出演:石田剛太 武田暁 木下出 池浦毅(男肉 du Soleil)
主催:ぴあ
共催:(公財)吹田市文化振興事業団
企画協力:ヨーロッパ企画
協力:LOVE FM
協賛:日の出屋製菓産業(株)
#1『初めてのバー』
#2『ベッドに入って』
#3『あの頃の彼』
#4『僕のオールドファッションド』
#5『バーにメニューがない理由』
#6『薔薇よりも美しい君へ』
#7『ニコラシカの作り方』
#8『夜のミッキーマウス』
#9『いつの日よりも』
木下 出
<音楽・演奏・出演>
兵庫県立ピッコロ劇団
『タラレバ幽霊とタカラの山』
12/20(土)・21(日) 兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール
https://www1.gcenter-hyogo.jp/contents_parts/ConcertDetail.aspx?kid=5052512406&sid=0000000001