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落語にパリにコーヒーに…。
“スケベェに生きる”桂南光が語る2025年のあれこれ

今年で21周年となる、奇跡のような三人会「夢の三競演」。桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶という実力派落語家3人が、毎回ワインがごとき豊穣な高座を繰り出し観客を魅了していく。今回は、その中から“こだわりの人”桂南光にインタビュー。パリをこよなく愛し、サックスや絵画、コーヒーの焙煎など、様々な趣味にもこだわり、人生を謳歌する。しかし、一番のこだわりは落語…かと思いきや、ご本人は「落語に興味ない」と言い切るのだった。逆説的とも思える、その言葉の真意とは?

――「73歳天命説」というのをおっしゃっていましたが、無事クリアされましたね。

桂南光(以下・南光) 「すごい楽になりました。やっぱり、心のどっかに何かあったんでしょうね。ただ、クリアした時に嫁さんに言ったら『1年前にクリアしてますよ。普通ああいうのは"数え"やから』って。それを何で言うてくれへんねん。この1年間、3回ぐらい具合悪くなった時に『ああ、これで死ぬんか』と。ごっつ無駄なことしたなと思ってね」。

――これからは、もう無敵ですね。

南光 「120歳ぐらいまでいこかなと。そのうちしゃべれなくなったら、落語家もできなくなる。そうなったら、パリで死にたいんですよ。だから、これから毎年パリに行って、その期間に死ねばいいかなと思てるんですけど」。

――おととしに続き、今年も10日間、パリを満喫されました。

南光 「今年はアパルトマンを借りて、知り合いの夫婦と2組で好きなように暮らしてね。一人でうろうろしたり...。それがすごい楽しくて。日本でもあちこち行くけど、仕事でしょ。だから散歩とかあんまりしないんですよ。パリは散歩が楽しい。パリという街に自分がいることが、何か嬉しいみたいな。で、『南光、パリに死す』...これが最終目的です」。

――えっ!? 「四条畷に死す」ではダメなんですか?

南光 「だって、パリで死んだら新聞の片隅にでも『南光が願っていたパリで死んだ』って載るでしょ。それは自分では読まれへんねんけど、あなたが書いてくれたらええやん」。

――ほかに、今年を振り返られて、強烈な思い出はおありですか?

南光 「六代桂文枝師匠の82歳のお誕生日にあった『華麗なる独演会』に、ゲストで呼んでいただいてね。びっくりしたんですけど、(桂)米團治も一緒に呼んでいただいて。今年は"米朝生誕百年"記念の一門会に何度か頼んで出ていただいたんで、そのお返しか分かりませんけどね。今まで、文枝師匠の独演会には行ったことがなかったので、一番思ったのは、米朝一門との会と、お客さんが全然違うなという。創作落語をずっーとやってこられて、桂文枝という人の創作落語のお客さんが、ちゃんとそこにはいてはるねんな、というのをすごい感じましたね」。

――今、話にも出ましたが、今年は(桂)米朝師匠の生誕百年記念の一門会で全国を回られています。

南光 「米朝師匠は、いかに無駄なく、大勢の人に伝わるように、落語というものを構成し直してはって。会の最初のVTRで『つる』が流れようが『稲荷俥』が流れようが、何回も聞いてるのに『ほぉ~』って思うのがすごいありましたね。やっぱり上手な人やったんやなと感じます。ただ最近ね、改めてみんなと話をしてて『米朝師匠に弱点はないのか?』と。言うたら、不得手とされてるネタってないわけですよね。ところが、聞くと『時うどん』をされてないんです。直弟子の一人が『師匠は、実はうどんを食べるのがあまり上手くできなかったようですよ』。うどんをすする音を出すのが、ちょっと不得手やったらしい。ほぉ~米朝師匠にも、そんな弱点があったんかと思って。我々が知らない若い時にされて、うまくできなくてやめはったのかも分かりませんけど。それを聞いて、なんかちょっと嬉しかったですね。神様のように思てるのに、そういうことがあったんかと」。

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――では、今、南光さんが力を入れておられる噺を教えてください。

南光 「去年は『文七元結(ぶんしちもっとい)』をやったんですけど。あれは(桂)ざこば兄さんがされてて、『わしはもうやれへんから』て言われたんで、兄さんみたいな人をモデルにやりました。そのあと、『厩火事(うまやかじ)』というネタがあって。これもざこば兄さんがやってはったやつを元に、落語作家の小佐田定雄はんと相談してね。年上の女の人の未練というか、惚れた弱みというか...そんなんを私は出せないんですけど、ざこば兄さんを見本にやり始めました。ただ、女の人が惚れてる辰っあんという、一緒に暮らしてる男の人を試すんですけど、ざこばさんはその度ごとに『好き!』とか『愛してる!』とか言うんですよ。けど私はそんなこと絶対よう言わんから。それだけは悩んで、ちょっと別のやり方でやってます」。

――ほかに、手掛けてみたいネタ、虫干ししたいネタなどはありますか? 

南光 「ないです! もう、あんまり落語に興味ないし。これ以上よくなるわけでもなく、覚えるだけでも大変やしね。他の人は、すごい噺家を目指して、人間国宝とかも目指してやけど、私はそんなん目指してないし。もともと落語家になろうと思ってなかったからね。それで、こんだけやらせてもらってて、もう充分です。そのうち、この『三競演』だけで他の落語会は一切しなくなるかも知れませんよ」

――ということは、南光さんにとって「三競演」の存在とは?

南光 「普通の落語会とは思っていませんから。友達、先輩と一緒にやってる年に1、2回のお祭りみたいな感じですね。ここで、どうしてもこのネタをやって! とかいう気もないです。三競演って三人で競って演じるっていうことやけど、僕は全然競う気もないし、あとのふたりがウケはったらええし。文珍さんは落語をやってて楽しいって言いはるけど、私はそんなことないんで。落語より、もっと楽しいものがいろいろあるんでね」。

――実は、今日もサキソフォンをお持ちですが...。

南光 「サックスを持ち歩いてるのが好きなんです(笑)。ただ死ぬまでに1曲は吹きたいと思って。『サックスのレッスンしてます』なんて、それだけのためにやってるんです。篆刻(てんこく)も始めて。まだひとつもできてないんですけど、メチャおもしろくて2時間ぐらいすぐ経ちますよ。あと、コーヒーも自分で焙煎するのが楽しい。落語より、ずっと楽しいですよ」。

――できれば、趣味三昧の暮らしをお望みですか?

南光 「やりたいことをやるという。だから落語もね、週1回か2回、舞台があればいい。毎日、違うことをしたいわけですよ。だから、この三競演も年に2回...大阪と東京で。あと北海道でやって、年に3回ぐらいやからいい。こんなん毎月やったら嫌やわ」。

――お3方は不思議なご縁でばれている、永遠の友達のような...。

南光 「何を話しするわけやなし、合わないとこもありますしね。人がコーヒー淹れてんのに、その良さを分からない興味のない人とか(笑)。何やろなぁ。よく分かりませんけど、この3人でおって嫌な気分になるとか、そういうことが一切なかったから、たぶんこれからもないんでしょう。一緒にいてて心地良いっていうことですかね。空気みたいなもんで、気ぃつかえへんし。相変わらずふたりともスケベェやなっていうのは思いますけど。あっそうか、3人ともスケベェなんや。いろんな意味でスケベェなんですよ。単なるエッチがどうこうじゃなくて、人生をかけたような哲学的なスケベェですね」。

――確かに皆さん、生きること自体にスケベェというか貪欲でいらっしゃいます。そんなスケベェな南光さんにとって、健康維持のための決め事とかおありになるんですか?

南光 「これを食べたら体にいいとか言われても、それが嫌いなら食べません。自分が食べたいと思うもの、飲みたいと思うものを食して。その分、はよ死んだってかまいませんし」。

――要するに、一番はハートの安寧という。

南光 「こないだね、兵庫県立美術館で展覧会があって、安藤忠雄先生が作った建物の中のカフェでお茶を飲んでたんです。その時に見えたのが、高速道路をトラックが走ってて、コンテナの倉庫があるという、絵に描いたって写真に撮ったってしゃーないような景色やのに、すっごい心が穏やかになってね。たぶん体調も良かって、嫁さんとももめずにおって...いろんなことが重なったのかもしれませんが、全然退屈しなくて、ぼーっと見てたら嫁さんに『いつまでここにいるんですか?』って現実に引き戻されて。腹立つなぁと思いながら、絵を見に行きましたけどね。その時に、生きてるってこういうことなんか、とっても素敵な世界にいるんだなと思って。そのあと、はは~ん、俺はもうすぐ死ぬなと感じてしまったんです。年内に死んだら、人間は死ぬ前には分かるんだということを書いといてください」。

――インタビュー冒頭では「120歳まで生きる」とおっしゃってたのでは(笑)!?
では、最後に『夢の三競演』の見どころを教えてください。

南光 「こんだけ長いことやってて、人が来てくれはるねんから、おもしろいんでしょ。よう分からへんねん。大しておもしろいこと言うてないし、やってないと思うねんけど。同じこと毎回やって、口上言うて。我々は楽しいけど、お客さんはこれが楽しいんか? みたいな。でも来た人は、みんな『楽しかった』って言わはる。みんな、騙されてるんでしょうね。おもしろいんちゃうかと思って来て、おもしろいと思って帰らんと損やからって(笑)。騙されに来てください」。

取材・文/松尾美矢子
撮影/大西二士男




(2025年11月11日更新)


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夢の三競演2025
~三枚看板・大看板・金看板~

【東京公演】

▼12月18日(木)
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【大阪公演】

Pコード:537-078
▼12月26日(金)18:00
SkyシアターMBS
全席指定-7000円 
[出演]桂文珍/桂南光/笑福亭鶴瓶
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