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「1年間の集大成を感じられるのが面白い」
桂文珍が振り返る2025年と、年末恒例『夢の三競演』への思い

今年で21周年となる、奇跡のような三人会「夢の三競演」。桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶という実力派落語家3人が、毎回ワインがごとき豊穣な高座を繰り出し観客を魅了していく。中でも、年長で芸歴も最も長いのが、この12月に喜寿を迎える桂文珍。混沌とした現代をアグレッシブに闊歩しつつ、分かりやすさに腐心しながら知への挑戦を続ける師は、哲学的ともいえる溢れんばかりの落語への想い、後進への確かな愛情と先人から引き継いだ芸の伝承、そして日々の活力の源について語ってくれた。

――今年は、天満天神繁昌亭で毎年開催されている「上方落語若手噺家グランプリ」の審査委員長を務められました。

桂文珍(以下・文珍) 「私は、上方落語協会の若手育成特別顧問らしい(笑)。(笑福亭)仁智会長に、今くるよちゃんのお葬式で待ち伏せされて、『兄さん、ちょっと頼みが』と」。

――様々な変革を敢行されましたね。

文珍 「まず審査員を替える。やっぱり常日頃から落語をよく聞いていただいている方に、プロの見方をしてほしいっていうんでね。で、なぜその点数になったのかっていうことを、お客さんの前でつまびらかにしないといかん。逆に、それはかなりプレッシャーがかかりますわ。"審査員が審査される"っていう風に作ってあげたら、決勝では若い噺家8人がなかなか良かった。感心した。でも、それだけで終わらせたらいかんので、2日間に分けて決勝進出者4人ずつと僕とで『桂文珍とハナグリの会』という公演もやりました」。

――『桂文珍とハナグリの会』では、オープニングに客前で出番順も決めましたね。

文珍 「どこの出番になるか分かれへん。その時にパッパッパッと敏感に対応できる能力があるかどうかというのが試される。今後、若い人がプロとして伸びていくのが重要なことやからね。この会を膨らまして、テレビでも中継してもろて、賞金も一千万ぐらいもらえるっていう風にしてあげると、若い子が本腰入れてやるやろうと考えてるんです」。

――かなり以前にも、定期的に若手落語家をしごく会を催していらっしゃいました。

文珍 「ものすごいはっきり言うとね、弟子をとったらイカン落語家が、とったらイカン人をとってるねん。だから良くなるわけがない。辞めた方がええ人が山のようにおる。これを、どう辞めさせるかというのを本気で言わんと。今までの修業のやり方をしたら、訴えたりするとんでもない人がおるからね。訴えるっていうのは、もちろん時代がそうやから仕方ないのかも分からないけれど、そういう人を、まず入門させているということに問題がある。さらに尊敬に値する師匠でもない、というところにも問題がある。落語家は数が多けりゃええというもんじゃないんです。今の10分の1で十分っていう感じ。ちょっとラジカルに先鋭的なモノの言い方をすると、そういうことですわ」。

――若手落語家への期待感と、危機感と、双方の想いがあると...。

文珍 「セレクトされた人の中には、ものすごいええ子がおるのよ。それを花形として売らないかん。賞をとって、それで終わりではアカン。まだ入口やからね。そのために、仁智くんが僕を若手育成特別顧問にしたんでしょう。私自身は、別に何のメリットもないですから。ただ若い子と一緒におって、感覚とか発想とか僕も学ぶとこがあるっていうんで、やらせてもらってる。若い人が生き生きと、のびのびやってくれたら一番嬉しいね。そういう立場というか、そんな年齢になったということですわ。僕らも先輩方に育ててもらってますからね。(六代目笑福亭)松鶴師匠なんか、ものすごく可愛がってくれはった。この「三競演」のメンバーは、松鶴師匠に育ててもらった3人ですよ。南光さんも可愛がってもらい、僕は松鶴師匠と京都で二人会もやっていただいたりして。(桂)米朝師匠もそうやし、もちろん、うちのオヤジ(五代目桂文枝)もね。オヤジの芸に対する思いとか、そういうええところを若い人に引き継いでいってもらいたいなと」。

――そんな文珍さんが、今夢中になっておられる噺を教えてください。

文珍 「タイトルが『A.I.ル問答(ルモンド)』。"ルモンド"というのはフランス語で、"世界"というような意味ですわ。AIの世界というタイトルなんですけど、世の中、AIが活躍する時代になってしまった。なんでもデータを持ってますから、AIにたずねれば、みな答えてくれます。で、困ったのが甚兵衛さんですわ。前は、みなが甚兵衛さんのとこへ『つるは、なんでつるというんですか?』とか聞きにいったり、『仕事ないねん』言うたら『移動動物園に行ったらどうや』とか。甚兵衛さんは、面倒見がいいのと知識があるのでね。けど、AIのおかげで甚兵衛さんのところに誰も訪ねてこなくなった。そこへ、対話型のAIがホログラフィーで人間の形を作って訪ねてくるんですよ。『ちょっと、教えていただきたい。より人間に近づきたいんです』と。甚兵衛さんは『わしゃ、もうAIに超えられてしもて、毎日毎日ひまでしゃーないねや。君に教えることなんか、何もあれへん』と言うんですが...。要は、いろいろと勉強をしたがっているAIが、人間に近づくために喜怒哀楽を学ぼうとするんですが、なかなか理解できないという」。

――どこから、そんな発想が生まれたんですか?

文珍 「今までやったら、人間が失敗して、それを人間が突っ込んで笑ってた。でも、そういうのは難しくなっていくんじゃないかなと思っていまして。それをAIが一手に引き受けてくれるという。そう言いながら、人間は一体なんやろうというのが噺のテーマですわ」。

――哲学的ですね。

文珍 「落語はみんな哲学ですよ。哲学が分かってない子がやるからダメなんですよ。世の中にね、『失敗学』っていう学問をやっておられる先生がいらっしゃって。人間は必ず失敗をします。どうして失敗するかというと、無知、勘違い、判断ミス...この3つが要因。で、ミスをした時に、ATSみたいに機械が列車を勝手に止めるという風な研究をしていらっしゃるんです。ところが、落語はいかに失敗をする人間を楽しく皆さんに聞いていただくか。『俺もそんなことあったわ』と。AIは失敗しない。失敗したとしたら、それはユーザーが間違って入力するからです。そういう風に、落語っていうのは失敗学の塊。それを是としている...つまり人間はヒューマンエラーをする生き物なんですと。人命に関わらないぐらいのレベルで、フィクションの中で失敗するから面白いわけでしょ」。

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――斬新な発想には毎回驚かされますが、そんな師匠は12月のお誕生日で喜寿を迎えられます。独自の健康法はありますか? 

文珍 「喜寿は単なる通過点ですわ。健康法は...何もかも仕事とあんまり思ってないというかね。移動したりするのが仕事で、もう高座に上がったら僕の中では楽しさばっかりになるから。それ言うたら会社が金くれへんから仕事や言うてんねんけど(笑)、楽しみですわな。それと、遊び、趣味! 忙しいんやわ。飛行機もまだ乗ってるし。飛行時間は3千時間ぐらいになるからね。あとは、ゴルフがうまくなってきたのと、前から始めてるお茶。茶道ね。どれも忙しいのよ。あと、病院に薬もらいにいかないかんし(笑)」。

――ちなみに、飛行機の操縦免許は、返上とかあるんですか?

文珍 「それは非常に厳しくて、事業用の方は年に2回、僕らのようなアマチュアで飛んでる人は年に1回、航空身体検査証明という身体検査に通らないと免許はみな取り上げですわ。だから、それを維持しようと思うと副次的に健康管理をしないと仕方がないでしょ。で、健康を維持するためには、しっかり仕事をして、しっかり食事をして、規則正しい日々を送るということですわ。健康というのは、その積み重ねやね。全部リンクしてます」。

――趣味に遊びに...そういう心の余裕がいると? 

文珍 「心の余裕というよりね、違う世界のものを見ることで、『おぉー』と気づかされることがたくさんある。茶道も、ほんとにムダのない動きなんですよ。おしゃべりでも『これ、いらんなぁ』という引き算が必要でしょ。それとお茶は、相手のことを思う。相手のために、並べ方から角度から全部決まっていて、それが実によくできてる。利休ちゃんは偉い! なんでも勉強になります」。

――遊びや趣味にも全力というのは、南光さんに似ておられますね。では、ウマの合う「三競演」のメンバーについて、それぞれの魅力を語ってください。

文珍 「鶴瓶ちゃんは落語の面白さに目覚めてくれてるから、良かったなぁと。彼が演じる落語ワールドが出来上がってて、その世界へ誘うテクニックがいいなあと感心しています。親しみやすいキャラクターで、情感を語れるしね」。

――南光さんは、いつも「落語なんか一切興味ない」とおっしゃるんですが...。

文珍 「『落語はやめや』とか、『しんどい』とか言いながら...それが、ものすごいラブコールなんですよ。好きやから、やんちゃなことを言ってみたり。演じ方を見てたら、ホンマに好きやないと、あんなんでけへんわ。ものすごいこだわるのよ。料理から何から全部こだわりの人。でも、いっぱい興味はあんねんけど、ホンマは落語が一番好き! やのに『なんの興味もない』とか言う。嬉しいね。そんなことを言いながら、ずっとやるよ、あの人は。ネガティブなことを言うんだけど、考え方は非常にポジティブな方です。そういう神経がないと、笑いなんかできないですからね。南光さんは、いいですよ(笑)」。

――最後に「三競演」の見どころをアピールしてください。

文珍 「三者三様でね、お互いに『今年はそんな一年やったんやね』みたいな。1年間の集大成みたいなことを感じられるのが面白いですね。みんな達者で何よりと」。

取材・文/松尾美矢子
撮影/大西二士男




(2025年11月 7日更新)


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夢の三競演2025~三枚看板・大看板・金看板~

11月8日(土)一般発売 Pコード:537-078
▼12月26日(金)18:00
SkyシアターMBS
全席指定-7000円
[出演]桂文珍/桂南光/笑福亭鶴瓶
※未就学児童は入場不可。車いすスペースをご利用のお客様は、スペースに限りがございますので、チケットご購入後お早めに劇場へご連絡ください。営利目的の転売禁止。公演中止の場合を除き、払い戻しはいたしかねます。ご了承のうえ、お申込みください。当ホームページに記載の注意事項と本公演の最新情報をご確認の上、ご来場ください。
※販売期間中は1IDで1回のみ4枚まで購入可。
[問]SkyシアターMBS■06-6676-8466

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