ホーム > インタビュー&レポート > ドラァグクイーンを夢見る高校生を描いたミュージカル 『ジェイミー』再演
イギリスの高校のクラスルーム。始業ベルがなり、11年生がワイワイガヤガヤと教室に入ってくる。皆、先生の言うことを聞かずに好き勝手し放題。しかし、「WATWING」の髙橋颯演じる主人公のジェイミー(三浦宏規とのダブルキャスト)は、皆の陰にかくれ、主役と分からないぐらい目立たず、一人、うつむいて椅子に座っている。進路指導の授業の真っ最中、先生に何をしているの?と聞かれ、ジェイミーはひらひらと手を動かし、「妖精と踊ってた。ゲイっぽいよね?」と答える。
ミュージカル『ジェイミー』2025 三浦宏規
そんな中、ジェイミーが心のうちで「自分が主役」だと歌う、オープニングナンバー『誰も知らない』が始まった。髙橋の張りのある安定した歌声がはじけ、クラスメイトと軽やかなダンスを見せる。クラスメイトもジェイミーも、自分が何者かはまだ分かっていない。
ジェイミーが家に帰ると母親のマーガレット(安蘭けい)から憧れの真っ赤なハイヒールをプレゼントされる。学校では辛く当たられ、四面楚歌の時もあるジェイミーだが、観ていてホッとさせられるのは母親が彼を理解し、心からサポートしてくれることだ。安蘭が時には弱さも見せる人間らしい温かい母親を好演していた。
ミュージカル『ジェイミー』2025 髙橋颯(WATWING)
続く、『頭の中の壁』で、ジェイミーはこの赤いヒールをはいて立ち上がり、「自分を超えられるのは自分だけ」とたくましく歌う。2021年の初演に続き今回ジェイミーを続投した髙橋の歌声が勢いを増し、劇場へと駆け上がっていく。髙橋は初演の壁を越え、今回でよりパワーアップしたのではないだろうか。
ジェイミーの親友で同級生のイスラム教徒のプリティに扮する今作初出演の遥海も注目だ。シルクのようにやわらかく包み込むような歌声で「自分の生き方をまっとうするのに許可なんかいらない」とジェイミーを励まし、観客をも勇気付けてくれる。日本のミュージカル界で目覚ましい活躍を見せているのが深く頷ける表現力だった。
ミュージカル『ジェイミー』2025 左より渡辺大輔、岸祐二、泉見洋平、三浦宏規、石川禅
プリティからプロムに赤いハイヒールを履いて行くことを提案されたジェイミーは、似合うドレスを購入するため、ドラァグクイーン専門のドレスショップを訪れる。店主は石川禅扮する伝説のドラァグクイーンのロコ・シャネルことヒューゴ。『レ・ミゼラブル』『エリザベート』など王道ミュージカルの出演が多く、ベテランの渋い俳優のイメージだった石川。初演のときにはあまりに変貌した強烈なドラァグクイーンぶりに度肝を抜かれたが、今回はより貫禄が増し、ロコ・シャネルが板についた感じだ。
ミュージカル『ジェイミー』2025 左より安蘭けい、髙橋颯(WATWING)、保坂知寿
ジェイミーの父親とドラァグクイーン・サンドラの2役を演じる今作初登場の岸祐二も石川と同じ、渋いミュージカル俳優のイメージをサンドラで見事に裏切ってくれた。ちなみに、石川と岸は『レ・ミゼラブル』の舞台上で共に闘った役柄同士。今は、ドレスを着て美しさと派手さを競っているなんて、キャスティングの妙につきる。ピンクのフワフワの衣装とマドンナの有名曲から名付けた「ライカ・バージン」というドラァグクイーン名で、キュートさを放っていた泉見洋平、今回、初参加でスーパーモデルのような抜群のスタイルを見せつけてくれた渡辺大輔を含め、ドラァグスたちは、皆、きわどいジョークを放ったり、バレエのステップを踏んだりと、観客の笑いを大いに誘っていた。
ミュージカル『ジェイミー』2025 左より三浦宏規、唯月ふうか
『伝説のロコ・シャネル』のナンバーでは波乱万丈のヒューゴの人生をユーモアたっぷりに力強く石川が歌いあげる。「自分が誰なのか、誰になりたいかだけ考えなさい」とジェイミーに言うセリフは、ジェンダーやアイデンティティだけではない、常に変容する社会での私たちへの、またヒューゴ自身への問いにも感じた。
ヒューゴの勧めでドラァグクイーン"ミミ・ミー"としてステージデビューしたジェイミーは皆の人気者になった。しかし、同級生ディーンからの「キモイ」「ブサイク」という言葉や、冷徹でロクデナシの父親との対面が刃となってジェイミーの心を切り裂く。SNSの誹謗中傷も思い起こさせ、観客は戦慄と共に言葉の恐ろしさを劇場で体験することになる。
ミュージカル『ジェイミー』2025 左より遥海、髙橋颯(WATWING)
2幕の後半でプリティが自分らしく生きることをジェイミーに歌うバラード『ビューティフル』は涙を誘い、客席からはすすり泣きが聞こえる。そして、彼女をはじめ母親やヒューゴ、クラスメイトの言葉の力がジェイミーや学校のルールをも変えていく...。
LGBTQの象徴であるレインボーカラーの照明が劇場を照らす。ジェイミーやドラァグスたちキャストが勢揃いし、歌って踊る、きらめくようなフィナーレは心を打たれた。同じくドラァグクイーンを描いた『キンキーブーツ』を思い出した方も多いだろう。二作品とも他者との違いを受け入れ、自分らしく生きることを描いた物語だ。多様性やLGBTQが次第に世界や日本で受け入れられ始めたと思った矢先、アメリカでは政権が代わり、時代が逆戻りしているやるせない状況だ。教室で一人、皆の仲間に入れず、うつむいて座っている多くのジェイミーが今でもいることを忘れたくない。この作品が日本で再演を重ね、世界中でも上演され続けることを願いたい。
取材・文/米満ゆう子
(2025年8月29日更新)
▼8月1日(金)~3日(日)
新歌舞伎座
[出演]
三浦宏規・高橋颯(WATWING)(※Wキャスト)
安蘭けい
唯月ふうか・遥海(※Wキャスト)
神里優希・吉高志音(※Wキャスト)
小向なる
里中将道
澤田真里愛
東間一貴
星野勇太
MAOTO
元榮菜摘
リコ(HUNNY BEE)
泉見洋平
渡辺大輔
かなで(3時のヒロイン)
栗山絵美
岸 祐二
保坂知寿
石川 禅
学生スウィング:山村菜海、増山海里