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大阪芸術大学舞台芸術学科の学外公演『夏町』
内藤裕敬の書き下ろし作品を総勢150人超の学生で制作
みなぎる野心「いつもできないことをやってやろう」

大阪芸術大学舞台芸術学科の2025年度学外公演『夏町』が7月12日(土)、13日(日)にCOOL JAPAN PARK OSAKA TTホール (大阪府)で開催される。 これまで多くの舞台人らを輩出してきた大阪芸術大学舞台芸術学科。そんな同科にとって毎年恒例の学外公演は、普段の学内公演とは異なる緊張感に包まれるほか、幅広い演劇ファンが鑑賞することもあり、学生たちが飛躍的に成長できる機会になっている。この『夏町』は、豪雨災害に見舞われた町を舞台に、海開きに尽力する人々の奮闘を描いている。 『夏町』で特筆するべきは、舞台芸術学科3年生全員が、出演者、スタッフとして参加していること。総勢150人を超える学生たちが携わるのは、同科の学外公演としては異例。そこで今回は同公演について、作・演出の内藤裕敬、芸術監督の山本健翔、歌唱指導の村井幹子、振付の堀内充(いずれも同科教員)に話を訊いた。

『夏町』は、南河内万歳一座座長でもある内藤裕敬の書き下ろし作品。約100人の演者が登場する舞台の作・演出を担当することについて内藤は「演技演出コースの学生たちが33人、ミュージカルコースの学生たちが24人、舞踊コースの学生たちが10人、ポピュラーダンスコースの学生たちが28人。その全員が一堂に会するシーンもある。本来なら莫大な予算がかかるので、プロの舞台でも100人の演者に出ていただける機会はなかなかありません。そういう意味では、あくまで授業枠とは言え『こんなにぜいたくなことをやらせてもらっていいんだ』と気持ちが高ぶり、台本を書いているうちにおもしろくなってきました。100人もいるからこそできる芝居をやりたい、いつもできないことをやってやろうって」とさすがに興奮を隠せなかったと言う。

芸術監督の山本健翔も「一つの学年の全コース、全学生で一つの作品に取り組むことは近年、ありませんでした。内藤先生が書かれた作品からは『みんなを一つの作品のなかで生かすんだ』という野心が感じられます。もちろん、出番が多い学生もいれば、そうではない学生もいます。しかし内藤先生の演出が、みんなを引き上げてくれるはず。また今回の注目は、(堀内)充先生がご指導されている舞踊コースの学生の存在。舞踊コースはこれまで自分たちのコースでバレエ公演、音楽劇公演などを開催していましたが、演技演出コースなどと一緒に舞台に立つことはほとんどありませんでした。内藤先生の『舞台芸術学科全員で作品をやってみないか』という思いに、『よし!』と話に乗った充先生ら教員同士の熱い関係性が、舞台上の学生たちにも伝わるのではないでしょうか」と期待を寄せる。

振付の堀内充は「舞踊コースでは、学生たちはバレエを中心に学んでいます。バレエの世界は美学であり、いかに美しく整ったものを見せられるかが重要。しかし今回の公演は違います。人間の苦悩、葛藤など我々が本来は取り上げないものが作品の主題となっています。ただバレエを踊って青春を謳歌するのではなく、その場面の意味をしっかりとらえ、次の演劇パートへ繋げていかなければならない。演技演出コースやミュージカルコースの役者たちと同じように、作品のキャラクターになりきり、心の奥底まで表現すること。私たちの舞踊はこの作品でどのように通用するのか、なにを持ち帰るのか、それを自分たちの学びにどう生かしていくのか。非常に重要な舞台だと思っています」と力を込める。

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もちろん、音楽シーンもふんだんに盛り込まれている。各楽曲の作詞は内藤、作曲は舞台芸術学科教員で作曲家の中村康治が担当している。それらの歌唱の指導を行う村井幹子は「お二人から生まれてきた音楽と言葉をどのようにお客様へ届けるのか、学生たちと試行錯誤しながらレッスンしています。歌詞の言葉の裏にあるものを読み取り、心情を伝えなければいけません。内藤先生が手がけられた作詞には、ジーンとくる言葉が散りばめられています。それを外に出すのか、もしくは心の内側にとどめて歌うのか。それらを出入りさせるのが音楽表現です。学生の役者たちは、台詞としてならしっかり言えるものが、メロディがつくと音程に振り回されてしまうことが多い。それはなぜなのか。自分なりに考え、発見しながら本番で力を発揮してほしいです」と学生たちの歌について口にする。

『夏町』は、20代をまもなく終えて30代を迎えようとする町民たちの姿が描かれている。内藤は「学生たちに、自分と同じ20歳前後の役を演じさせても、彼らや彼女らの"現在"が発表されるだけになる。それではおもしろみに欠けてしまう。僕は20代の頃、がんばっても、がんばっても、手応えがなかった。『こんなはずじゃなかった』ということがたくさんあった。その『こんなはずじゃなかった』を、今の学生たちに舞台上で味わってもらいたい。みんな、成功することを夢見ている一方、不安もある。だからこの物語に対してもリアリティはきっと感じているはず。リアリティがあれば、その人たちのオリジナルなイメージが立ち上がる。そしてそれは台詞に反映される。物語のフィナーレを迎える頃にはきっと、そんな学生たちの姿が眩しく見えるのではないでしょうか」と作品に込めたメッセージを明かす。

村井も「生きるエネルギーが感じられる作品。その世界観をすごく大切にされている。たとえば音楽面でも、重みがあるけど、時には軽妙だったり、『こんなときにこういう音楽が鳴るの?』と驚かされたり。とにかくパワフルなんです。その世界観は、中村先生と内藤先生の音楽作りを通して起きた化学反応なんだと思います。『この場面だったら、バラードなどゆっくりした音楽でもいいんじゃないか』と思うところに、後半に向けてより勢いを加速させるような抒情曲が配置されていたりします。そういった音楽のさまざまなテンポの変化によって、物語もさらにいろんな見え方がするのではないでしょうか」と音楽的な効果を語る。

内藤が特に「台詞ではできないことを踊りがやっていて、胸を打つ。踊りが喋るんです」と大きな見どころに挙げたのが、劇中に登場する野戦病院の場面。とある出来事により、たくさんの人が傷つき、それを看護師たちが介抱する。その看護師を舞踊コースの学生たちが演じている。堀内は「台本を読んだとき、第二次世界大戦でナチスにやられてしまった兵士が運び込まれている光景を思い出しました。そのシーンの舞踊コースの役割は、大きな責任があります。なにより、全編通して舞台美術コース、舞台音響コースの学生スタッフのみんなも必死になって舞台を作ってくれている。照明、音響も出演者の動きに合わせて舞台演出してくれる。舞踊コースの学生には、そうやってみんなが作り上げる舞台のなかにしっかり入り込みなさいと伝えています」と指導しているのだと話す。

約100人の演者が登場するという点においても、舞台作品としてなかなか見ることができない。この学外公演のスケールは、大阪芸術大学舞台芸術学科の歴史に間違いなく残るもの。山本はあらためて「僕は常々『舞台芸術は、夢だ』と言っています。みんなが同じ夢を見られるか、どうか。舞台芸術学科は、夢の現場にいる人間が、夢作りを担いたい学生たちに現実を突きつけていく。そこで自分のスキルの足りなさなど、いろんな現実と直面する。それらを乗り越えながら、舞台芸術という一つの夢を作り上げていく。内藤先生が手がけたこの『夏町』は、それぞれにとってどんな夢になるのか。悪夢になるかもしれない。ロマンチックなものなのかもしれない。舞台人になるという夢を、正夢にしてくれるかもしれない。それらを舞台上で実現させるという意味で、大変意義深く、おもしろい作品となり、また舞台芸術学科の新しいスタートにもなるのではないでしょうか」と同公演が持つ意味を話してくれた。

取材・文/田辺ユウキ




(2025年7月 8日更新)


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写真左より、堀内充、内藤裕敬、山本健翔、村井幹子

大阪芸術大学 舞台芸術学科
2025年度 学外公演『夏町』

チケット発売中 Pコード:534-612
▼7月12日(土)13:00/17:00
▼7月13日(日)13:00
COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
前売-1000円(指定)
[脚本・演出]内藤裕敬 [出演]大阪芸術大学 舞台芸術学科 3回生
※終演後、教員による個別学科紹介を実施予定。
※未就学児童は入場不可。高校生以下とその保護者は何名様でも無料(詳細はhttps://lit.link/bugeigakugai2025にてご確認ください)。車いすをご利用のお客様は事前にお問合せ先までご連絡ください。
[問]大阪芸術大学舞台芸術学科■0721-93-3781

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