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桃花印の落語を全国へ!
蝶花楼桃花がこの夏、全国13都市を巡るツアーを開催

2022年3月,七代目蝶花楼馬楽の没後途絶えていた歴史ある亭号を受け継ぎ、真打に昇進した蝶花楼桃花。明治座『ふるあめりかに袖はぬらさじ』の舞台出演や、沖縄国際映画祭出品作品『耳かきランデブー』の主演を務めるなど、落語家だけではなく女優としてもマルチに活動中だ。 この夏は、“上手い、可愛い、華がある”と三拍子そろった“寄席のプリンセス”蝶花楼桃花が『桃花の夏祭り』と銘打って、全国13都市を巡るツアーを開催。全国へ桃花の落語を届ける旅に出る。そのうち、関西公演は7月4日(金)神戸新開地・喜楽館、8月2日(土)大阪・朝日生命ホールを予定している。

――この夏は全国ツアーで13都市を巡回されますが、ツアー自体は夏の恒例になっているのでしょうか?

そうなんです。規模は小さかったんですけど、二ツ目時代から「ぴっかり☆夏祭り!」というタイトルで、「だんだん大きくなっていったら」という夢を込めてやってきましたが、13都市というのは私の中では最大です。

――こういうツアーとか、地方で主催公演をされる時のネタ選びは、どうされているのでしょうか?

基本的には、高座で自己紹介をさせていただいている時のお客様の反応とか、客席の男女比とか、天気にもよりますし、そういう感じで総合的にかんがみて選んでいます。もちろん何席か候補を持って行きますけれども、「こっちじゃないな、こっちじゃないな」と思いながら、最終判断は高座の上でしています。

――結構直前まで迷われますか?

はい。話し始めた瞬間に「こっちじゃなかった!」と思うこともありますが、もう変えるのは無理なんですよね。以前、「違うな」と思った時に、舞台袖に戻ったことはありますが(笑)。「違うネタにします」とか言って。お客さんに「どっちがいい?」とか聞いたり、拍手が多い方をやるとか、そういうこともあります。「新作と古典どっちがいい?」と聞いて、新作の方がわーって沸いて、「じゃあ、新作やりますね」なんて言って、お客さんと交流しながら決める時もあります。それは本当に一期一会ですね。

――『桃花の夏祭り』でも、ネタは当日のお楽しみで。

そうですね。映画『耳かきランデブー』を見てもらって、それを落語化したものを聴いてもらうとか、去年やったような『地獄八景亡者戯』を引っ提げてとか、そういうコンセプトありきのツアーもありましたが、今回は、たくさんの人に会いたい、みんなに落語を聴いてもらいたいので、ネタはその場で決めさせていただきます。

――ちなみに大阪のお客様の反応はいかがですか?

大阪のお客様はすごく目が肥えていて、笑いに厳しいみたいなことを先輩から言われて、それこそ二ツ目時代はブルブル震えながら来たのですが、意外とそういう感じではなくて、すごく受け入れてくださった感じがありました。なので、私は「大阪はすごく怖い」という感覚はまったくないですね。昔は特に「江戸の落語家は、大阪に行って誰もウケない」と言われていたそうです。それこそ名人と言われる師匠方も全然ウケなかった、なんていうお話を聞いていたので、行く前はそんな感じなんだと思っていたのですが、時代が変わったというのももちろんあると思うのですが、そういうことはあんまり感じないですね。それは演者にとってもすごくありがたいことです。

――桃花さんは、口演される際に声の出し方とか、意識していることはありますか?

すごく意識しているというわけではないですが、音程は考えます。女性の高い声というのは長時間聴くにはしんどい部分があるんですね。もちろん、桂二葉ちゃんのように、すごく声が高くても聴かせる技術があって、彼女の良さがありますけれども、私の中では聴きやすい音程を探しています。あとは、語尾を上げてしまうクセが女性にはありがちだと師匠(春風亭小朝)にすごく言われて、そこも徹底的に直しました。自分では語尾が上がっていることに気づかなくても、音声を録ってみると本当にそうなんですよね。いまだに無意識のうちにやっていることもあるので、矯正もめちゃくちゃ難しくて。なので、そういうところは気をつけるようにしています。

――漫才やコントは、今では学校がありますが、落語は学校で習うというわけにはいかないですよね。

結局は師匠の教えでしかない。統一のカリキュラムがあるわけじゃないので、ご一門によっては教えも違うし、やることも違う。すごい世界ですよね、そう考えるとね。

――孤独でもありという感じがします。

それは本当に思います。高座に出ると一人なんですよ。いくら舞台袖で仲間が聴いてくれていても、「頑張れ!」って応援してくれても、分かんなくなって修正したり、元に戻すのは自分しかいない。なので、高座はある種、怖いところです。座布団に座ってしゃべるだけですから。

――その恐怖感は今でもありますか?

あります。あります。めちゃくちゃあります。これ(落語)を成立させるって、みんなどういうことなの!? と、いまだに思いながらやっています。経験を重ねることで、慣れてきたとか、自由度が上がったという感覚はありますが、恐怖心がなくなることはないのでと思います。でも、なくなった瞬間にもっと自由になるかもしれないし、どうなるかわからないですけど、私は小心者で不器用な女なので、そういう心がまだまだある中でやっています。

――たとえば80代の師匠方は、どういう心境なのか気になりますね。

本当ですよ。全然違うランクにいらっしゃるので、考えても到底及びませんが、日常の延長線上に高座があるかもしれない。その感覚は今の私にはまったくないですから、高座上がるぞとなったら、「よし!」と気合をいれて上がりますから、その心境になるのは、私がこれから歩んでいって、その年齢になって、こんな感じなんだと体感するかもしれません。

――未知の世界があるから、それを見てみたいという気持ちもありますか?

ありますね。自分がどんなおばあちゃん落語家になっているのか。思いもよらない人間になっているかもしれないし、理想のとおりになっているかもしれない。自分もどうなるかわからないから楽しみですね。落語は歩んできた人生が出るので、何かすごい経験をして、すごい人になるかもしれないし、楽しみです。

――去年の話題になるのですが、2024年7月に31日間連続独演会『桃花 三十一夜~ももか さんじゅういちや~』をされました。それから約1年経って、あの公演が桃花さんに何をもたらしたのか、聞かせていただけますか?

去年の夏、三十一席をいっぺんに覚えるという恐ろしい経験というか、今後しないであろう、そして今までしたことがない経験をしたわけです。そうすると、ほんの少しですが、自分のキャパシティが見えたんですね。それは一人でやる芸人としては大収穫でした。あと、1年経って、ネタおろしした三十一席の中には、「これはもうやらないな」というものが出てきたり、逆に「これをもっと磨いてみよう」と思うものが出てきて、大きく二つに別れてくるんですね。三十一席全部をずっと稼働させることはないので。なので、このツアーでは、「桃花 三十一夜」で披露したネタも入って来ると思うので、私の落語を見たことがある方とか、「桃花 三十一夜」のことを気にしてくださっている方には、そういうところも見てもらえたらと思います。

――31日間連続独演会は、修行のようですね。

3日でこの三席を覚えなきゃとか、一席30分とかあるわけですよ。「ちょっと待って! 私、覚えられるのか!?」みたいな、初日も「私、31日間連続でやるの?」みたいな、自分で言っておきながらクラクラして、毎日「もうやばいかも...」と繰り返していましたね、頭の中には常に落語を三席、四席を置いたままで。しかも、ネタおろしをしていないから、忘れていくんですよ。「あのネタ、覚えたのに、全然頭に残っていない」と思いちょっとさらうと、今度は別のネタを忘れて...みたいな。もう恐怖ですよ。準備期間も含めて、そんな半年間を過ごしましたね。

――31日間連続独演会に限らず、何かを大きなことを決断して、世に発表する時の心持ちとか、「もうダメかも」となってからは、どう乗り越えられたのか、その心境を教えてください。

私は正直、「言ってしまえー!」の人間なんです。言っちゃったらやるしかないという状況にしないと、できない人間なので。でも、それはもう怖かったですよ。体調を崩してダメになっちゃうかもしれないし、毎日絶句しているかもしれない。そういう恐怖はめちゃくちゃあったんですけど、「それも含めて私の高座」と言い聞かせて。スベってもそれを見せる。失敗してもそれを見せるという気持ちに切り替えてやっていました。すべてを完璧にやろうなんて、31日間連続独演会に関しては無理だったので、自分の恐怖に対してどう言い分けしていくかみたいな(笑)。「大丈夫。それも見せ物にしていこう」みたいな気持ちでしたね。

――すべてを見せ物にするというのも勇気が要りますね。

31日間連続独演会では、後輩を31人呼んだのですが、後輩たちはもちろんネタおろしではないので、自分の得意ネタをバーン!とぶつけてくるんですよ。そんなバンバンウケている後輩の後に、私がグズグズの落語をやるという、めちゃくちゃ恥ずかしいし、泣きそうになりました。けど、プライドなんかはないけど、それはそれで先輩としてのカッコつけみたいなものをボコボコにしてもらったし、そもそもカッコつけてる場合じゃなかったので、そういうことを経験したのも良かったなと思っています。でも、31日間連続独演会は10年後だったら絶対できないと思う。これからさらに後輩も増えて、地位も上がるわけじゃないですか。そんな立場でこんな恥ずかしいことはできないと思っちゃうかもしれないから、あの時だからできたと思います。このツアーでも、お客様が集まってくれるかしらとか、ツアーの範囲を広げて大丈夫?と思うことはあるのですが、少しずつ、ちょっとずつ、「大丈夫!」を積み重ねながらやっていきたいなと思っています。

――今の桃花さんは落語とどう向き合っていらっしゃいますか?

まだ道半ば過ぎて、やってないことの方が多すぎるのですが、とにかくネタを覚えて、自分に合う、合わないとか、楽しい、楽しくないという基準を見つけていって、「こういうのがやりたかったんです」というネタがたくさんある状態にしたいと思っています。あと、いい意味で「女性落語家の蝶花楼桃花」という人がやる落語をやりたい。女性としてそぐわないなと思ったり、桃花としてそぐわないなと思ったことは調整しますけれども、落語を自分に引き寄せて、「これも桃花印!」「これも桃花印!」ってやっちゃうタイプなので、そうしながら自分にしっくりくるものを探したいと思っています。

――落語によっては引き寄せたときにすぐ来るものと、そうでないものとありますか?

「あなた、全然来てくれませんね!?」というものはめちゃくちゃありますよ。でも、逆に「意外といいじゃん、あなた、ここにいてくれるの?」みたいな噺もたまに出てきたりもして。そういう実感も増やしていきたいですね。

取材・文/岩本




(2025年7月 3日更新)


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蝶花楼桃花 夏の独演会
『桃花の夏祭り』

【神戸公演】

チケット発売中 Pコード:597-410
▼7月4日(金)19:00
喜楽館
指定席-3300円
[出演]蝶花楼桃花
※未就学児童は入場不可。
[問]桃花らくご製作委員会 info@momoka.club

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【大阪公演】

チケット発売中 Pコード:534-037
▼8月2日(土)12:30
朝日生命ホール
全席指定-3900円 
[出演]蝶花楼桃花
※未就学児童は入場不可。
[問] キョードーインフォメーション■0570-200-888

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