インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 喜怒哀楽をたっぷりと詰め込んだ『三三の落語玉手箱』開催!

喜怒哀楽をたっぷりと詰め込んだ『三三の落語玉手箱』開催!

端正な語り口に多彩な表現と演出力…落語界の次代を担う実力派・柳家三三が、『~笑いあり、涙あり 三三の落語玉手箱~』と題した独演会を、大阪・ナレッジシアターで開催する。タイトルに込めた思いや演目についてなど、本会への意気込みを聞いてみた。

今回は全国7都市を巡るツアー。タイトルに込めた思いは、どういうものなのだろう。「日頃から心がけてはいるんですけど、独演会をやる時に同じテイストの噺ばっかりになると、ね。いろどりに富むようにとは考えてるんですが、やりやすい噺、やりにくい噺っていうか、得意なジャンルの噺みたいなのがありますから、偏っちゃわないように。ただそこより、落語を聞く一番大きな楽しみの要素っていうのは、笑いだと思いつつも、それだけではなく、喜怒哀楽それぞれのいろんな感情が落語の中にはたくさん入ってるんで、それをバラエティー豊かに見ていただきたいなっていう。『玉手箱』っていう言葉で、いろんなものが入ってるんだなというイメージを持ってもらおうと。今日は何が飛び出すかな?どんな感じかな?という風にね」と、三三はタイトルに込めた思いを語る。

大阪は昼夜2回公演を敢行。「昼夜それぞれにメインディッシュとなる演目を予告していて、それに合わせて、より落差のある演目をあと2席ないし3席やります。笑いありって言いながら、昼も夜も案外笑いのない噺を選んでしまったんですけど(笑)、そこは他のネタで帳尻を合わせるというか、バランスをとるという」。

昼の部の"メインディッシュ"は、廓界隈が舞台となる『お直し』だ。「女性にとってもですし、一緒に暮らす亭主にしても自分がしたこととは言いながら、吉原の中でも最底辺の界隈のことを描いたお話。全体を通して、あんまり陽気な噺ではないのは確かなんですけど、不幸な人がずっと、何も浮かばれない、救いがない...っていうと、そうでもない。そんな中でもついつい笑っちゃうようなことはあったんじゃないの?って。やりとりの中で、そのようなところはちゃんと膨らませて、自分の中でも思いっきり面白い絵面になるように頭の中で想像してます。深刻さとお気楽さとの中で、深刻さばっかりが先に立っちゃわないように、手綱さばきを、匙加減をうまくしていくことじゃないですかね」。この噺を初めて手掛けたのは、昨年の秋という。「五代目の古今亭志ん生師匠が、この噺で芸術祭賞を獲ったのかな。そんなんで、古今亭とか金原亭の系統の方にとって、ある種、ちょっと特別で大事にしているお噺なんですが、それは充分に承知した上で、僕らよそのうちの者は敬意を持って精一杯、聞く人に『ああ面白いね、この噺』って思ってもらえるように、その日のベストを尽くしましょうっていう。まぁ、ダメならそれまでで(笑)」。

夜の部は、歌舞伎でも知られるようになった『髪結新三』を口演。大阪では滅多に聞くことのできない噺だが...「やんない、やんない。東京でも、この噺を聞くことって、そんなにないと思います。ちょっと長いですし、笑いの量ではなくて、悪党が出てきてそれこそ命のやりとりみたいなことになるわけですから、気楽にアハハと笑って過ごしたいという方が大勢を占める寄席で、いきなりこういう重い噺はね。どこでも気軽にできる噺ではないので」。独演会だからこそ聞くことができる噺であり、まさに今回は好機。「『三三の落語を聞きに行こう』っていうつもりの方が多いんで、お客様の方が集中力が高かったり、興味を持って聞いてもらえるだろうと。こっちの甘えもありますけど、別に面白くない噺をやるわけではないので。興味深いという意味では、とても面白い噺だと思っています」と自信をのぞかせる。

『髪結新三』では、次から次へと悪党が登場。三三はこの一癖も二癖もある登場人物たちを新たな演出で息づかせる。「この悪党たちを嚙み合わせてみると、本当に面白いんですよね。別に無理に笑いを作るわけじゃないんだけど、この人たちが、この状況で、この会話をしてると面白いよねっていう部分が、じつは案外多いんですよ。それを今までのやり方だとスルーしちゃうんですけど、笑いが生まれる要素があるところに、ちゃんと手を加えて、火を通すのか、飾り包丁を入れるのか、塩をかけるのか分かんないけど、調理をしてやると、ちゃんと笑えるやりとりになるんですよ。中でも、最初に車引きの素朴な人がやくざの親分に相談に行くところと、大家さんが新三のところへ掛け合いに行ってやりとりをするところ。そのふたつを、今言ってた、ちょこっと手を加えてあげると充分に面白くなると思います」。

三三が『髪結新三』を初めて手掛けたのは、実に20数年前のことという。「それから数えるほどしかやってないので。10年ぐらいの単位で、やらない期間が開いたりするんですけど。人間、オモシロイもんで、覚えた頃から5年、10年単位で放っておいて、またやってみると、同じ噺でも、しゃべり始めると見えてくる景色が結構、違うんですよね」。『髪結新三』を20数年かけて育ててきた? 「そうですね。よく言えば熟成させて、悪く言えばほったらかしで」と当人は苦笑い。

冒頭のコメントとは裏腹に「落語は、どれが楽しくて、どれが楽しくないっていうのはないんで、高座に上がっていれば、だいたいのことはご機嫌です」と落語愛をにじませる三三。本会についても「いつも以上に、こっちがパカッといろんな箱を開けて、悲しい、楽しい、嬉しいとか、怒っちゃう、腹立っちゃう、とかっていうのを出しますんで。そんなのをいっぱい掴んで、ご自分の引き出しにでもしまって、帰りに『ああ面白かった。拾った、拾った』って言って家路についていただければ。できれば、面白かったって全部覚えたつもりで、うちに帰った頃に全部忘れてってもらうと、こっそり次に同じ噺ができるんですけどね(笑)」。

落語は消えモノということか。「その感覚は、とてもありますね。時々、放送のお話とかいただくことがありましても、大勢の方に聞いていただきたいという矛盾をはらみつつ、自分が落語をやったその場にいなかった方に聞かれるのは恥ずかしいですね。現場にいた人には、しょうがないんですけど」。三三は言葉を続ける。「その日のお客さんの反応で、『あっ、今きっと、こういう風に楽しんで、興味を持ってくださってる』って。そうすると、おのずと、そのお客さんの雰囲気に引っ張られて、自分の口から次に出てくる言葉が決まる。ホントに落語の言葉を作ってるのは、お客さんの一つひとつのリアクションだといっても過言ではない。だから、その現場にいる人に、一番楽しんでもらいたいっていうか」。観客と共に作り上げる三三落語の世界。どうぞ生の高座で豪華な"玉手箱"を楽しんで!

取材・文/松尾美矢子
写真/橘蓮二




(2025年5月13日更新)


Check

柳家三三独演会 ~笑いあり、涙あり 三三の落語玉手箱~

チケット発売中 Pコード:531-706
▼6月14日(土) 12:00 『お直し』他
▼6月14日(土) 16:00 『髪結新三』他
グランフロント大阪 北館4F ナレッジシアター
全席指定-4000円
注釈付き指定席-4000円(端よりのお席となるため、見えづらい場合がございます)
[出演]柳家三三
※未就学児童は入場不可。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888

チケット情報はこちら