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「自分の唯一の味方は自分」
吉柳咲良が語る、摂食障害をテーマにした舞台

摂食障害を抱える娘と、その家族の関係を繊細に描いた舞台『リンス・リピート-そして、再び繰り返す-』が日本で初演される。2019年にオフ・ブロードウェイで発表され、高評価をさらった作品で、今回は母親役を寺島しのぶ、娘役を吉柳咲良が演じる。「センシティブなテーマだと思うかもしれませんが、意外に身近な問題」と語る吉柳に迫った。

深刻な摂食障害の大学生・レイチェル(吉柳)は、施設での治療を経て、4ヵ月ぶりに家族の元へ帰ってくる。母・ジョーン(寺島しのぶ)や父・ピーター(松尾貴史)ら家族は彼女の帰宅を心から喜ぶが、次第にレイチェルは母親からの愛情や過度な期待を苦痛に感じ始める――。

「レイチェルに感情移入しながら台本を読んでいて、『分かるなぁ』の連続でした。ああ、こうなるんだよねという共感が大きかったです。『家族は特別』という言い方は、私はあまり好きではなくて、家族はもちろん大切ですが、分かりあえることばかりじゃない。距離感が近すぎるがゆえに見えないこともあるし、知らない人や友達のほうが何でも言えるというのはものすごく共感できます」。

さらにこうも語る。「レイチェルは自分の本心や心の底にある思いは家族にとって悪になるから、それを黒くペンで消すみたいに捨てようとするんですね。でもそれをわざわざ芝居で表現する必要はない。それを出さないからレイチェルは摂食障害になった。気遣いと本音を隠すバランスを試しながら演じたいと思っています」。

アメリカに移民し、弁護士として成功した母親ジョーンは、自分に似て頭のいいレイチェルに過剰な期待を寄せている。「それでもレイチェルはお母さんのことが大好きだし、家族が大好き。でも、過度な期待は相手のためじゃないような気がして。ジョーンは頑張ってこられた自分が好きなのでは? と思えたりするので、何を愛と、何を思いやりというのだろうと。でも、愛にもいろんな形があるから、愛だったんだろうなと思います。本当に相手のためを思って言えているのか、そこに自分の欲やエゴは入っていないのか。家族だけではなく、誰と接する上でもその線引きは必要だと思うので、とても考えさせられます」。

母親役は、群を抜いた演技力の持ち主の寺島だ。「大先輩なので、初めてお会いした時に緊張感があったんです。でも『あ、私、この緊張感は持っていていいやつだ』と。レイチェルもお母さんに対して緊張感を持っている。寺島さんはすごくフランクな方で、大先輩だからこそ、こちらがいろんなことを試しても大丈夫だという安心感をいただいています」と話す。

摂食障害を取り上げる舞台はなかなかない。多様性が重視され、プラスサイズモデルも活躍する昨今だが、それでも痩せているほうがいいという価値観はまだまだ根強いと吉柳は言う。「SNSで何でも見られ、身近なインフルエンサーやYouTuberがいる世の中で、みんな、誰かと比べたり、劣等感を感じたりして、そういうものにとらわれているんだと思います。だからそんなに遠くない話だと私は思っていて。摂食障害がこの作品の肝ではありますが、大事なのはその状況に至るまでのレイチェルの悩みや苦しみ、家族の中で何が行われていて、最終的になぜ、そうなったのかとか考えることのほうが大事なのかなと思います」。

吉柳は、2017年に13歳でブロードウェイ ミュージカル『ピーター・パン』で初舞台を踏み、主役を2022年まで務めた。舞台で跳ね回っていた元気なピーター・パンのイメージが強かったのだが、弱冠二十歳ながら、思慮深く、作品を深く読み解いている姿に驚かされた。「台本を読み解くのが大好きで、考えるのが好きなんです。中学生の頃は悩んでもつらい、苦しいで終わっていたんですが、その先に進まなければ何も解決しない。自分がこうだと思った答えは疑ってかからなくていいの? と。いろんな人と出会えばいろんな価値観がある。全部が正解で、全部が間違いかもしれないというところにたどり着いて。じゃあ、私がしなければならないのは最終的に正解を見つけることではなく、より多くの価値観を知ることなのかなと思って、考え続けようと。そうすると考えることがクセづいて、役についてもそうなりました」。

最近はテレビドラマ『御上先生』の生徒役や、実写映画『白雪姫』の主役の吹き替えなど出演作が相次ぎ多忙な日々だ。「感覚的に、その子の(役の)人生を先に進めるために私たちはいるというか。自分ももちろん、結果的にはいろんなことを学んで、先に進むためのきっかけを何かもらうかもしれないし、逆に言えばその子が先に進めたのに、私は進めなかったと役に対して劣等感を抱くこともあったんです。本の中にいる子が立体的にちゃんと生きるべきだと思うと、私はエゴを抜いて、醜い部分とかも役としてどこまで表現できるか。役なのか、自分なのか分かんなくなってきたぞ、みたいな感覚が最近は多くて、大変です(笑)。大変だけど、人間は多面的で、人によって見せる面が変わる。その感覚で、見せる顔が違うだけです」と明るく笑う。

作品ではレイチェルのセラピストが、「あなたを救えるのはあなた自身でしかないの」と言う。吉柳も常々「自分を愛せるのは自分だけ」と思っているそうだ。「この舞台が決まった時、向き合いなさい、逃げないでと言われた気がしたんです。レイチェルを受け止めて、私自身も何かから目をそらさない状況に立たされる感覚。誰かに頼ることで一時の救いになれたとしても、苦しみから解放されるには、結局自分がどうにかするしかない。他人からの優しさや助言で変われることもあるけど、それはきっかけにすぎない。根本から変えていくには自分しかいない、自分の唯一の味方は自分なんです」とまっすぐな瞳で言う。そんなレイチェル、吉柳の強い思いを、劇場で受け止めてほしい。

取材・文/米満ゆう子




(2025年5月 2日更新)


Check

舞台『リンス・リピート
-そして、再び繰り返す-』

【東京公演】

▼5月6日(火・祝)まで上演中
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード:532-458
▼5月10日(土)13:00/18:00
▼5月11日(日)13:00
京都劇場
全席指定-9800円 
U-25シート(引換券)-6500円(25歳以下対象/当日座席引換券/要身分証)
[脚本]ドミニカ・フェロー [演出]稲葉賀恵
[出演]寺島しのぶ/吉柳咲良/富本惣昭/名越志保/松尾貴史
※5/10(土)18:00公演終演後、アフタートークあり(登壇者:寺島しのぶ・吉柳咲良・松尾貴史)。 ※登壇者は急遽変更になる場合もございます。※対象公演回のチケットをお持ちの皆様ご参加いただけます。
※未就学児童は入場不可。U-25チケットは公演当日、会場にて座席指定券と引換えいたします。年齢の分かる身分証をご持参ください。
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