インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 「全国学生演劇祭」実行委員、沢大洋が 劇団イン・ノート主宰、芝原れいちにインタビュー

「全国学生演劇祭」実行委員、沢大洋が
劇団イン・ノート主宰、芝原れいちにインタビュー

長く日本各地の演劇シーンを支え、人材を輩出し続けてきた学生演劇にスポットを当て、若手の発掘・育成、地域文化の発展と日本各地のネットワーク化を目的とした学生演劇の祭典「学生演劇祭」。「全国学生演劇祭」では、北海道、東北、東京、名古屋、京都、大阪、中四国、福岡の8地域の「学生演劇祭」で推薦を受けた学生劇団が同じ舞台に立ち、演劇の最前線を描いていく。
「全国学生演劇祭」の立ち上げを行い、現在も演劇祭のプロデュースなど行っている沢大洋が今までの軌跡を辿るため、日本各地を巡り、過去の学生演劇祭参加者や運営に関わった方々へインタビューを実施。初回は、福岡で開催した第7回「全国学生演劇祭」で大賞を受賞した劇団イン・ノート(東京)の芝原れいちに、演劇を始めたきっかけから将来の野望までを聞いた。

efoj250306-1.jpg
第7回全国学生演劇祭より

:まずは演劇を始めたきっかけを教えてください。

れいち:父が小劇団の座長をやっていて、脚本を書いていました。僕が2歳か3歳ぐらいの時に劇団はたたんだのですが、そんな父を見て育ったので脚本を書くことは日常的で。親を真似して小学校1年生の時に脚本を書いてみて、友達を集めてクラス会で上演したらすごく面白がってもらえました。そういうこともあって芝居に対しての抵抗感などもなく。中学はサッカー部でしたが、世田谷パブリックシアターでワークショップの参加者を募集していたので参加して、それをきかっけに演劇を始めました。高校からは演劇一本です。

:演劇部ですか?

れいち:はい。大会には出なかったのですが、専用のホールで年4回ぐらい、部内で公演していました。当時は主に役者で、キャラメルボックスや柿喰う客の脚本を短くしたものをやっていました。

:大学も演劇系の学科ですね。

れいち:はい。明治大学の文学部に演劇学の専攻があって。芸大みたいに実技をやるところではないのですが、サークルが盛んで、自由に劇団を立ち上げられる雰囲気だったので、演劇研究部に入って、相方と劇団イン・ノートを立ち上げました。大学の演劇祭では高校生のころに感じられなかったものをようやく経験できたことが幸せでしたね。

:学生演劇祭に関わったのはいつからですか。

れいち:先輩たちが出ていたので存在は知っていました。参加したのは4回生の時で、初めから全国大会に出ようという気持ちはなく、「そんなこともあるらしい」ぐらいで、現実になるとは思っていなかったです。

:「全国学生演劇祭」に参加してどうでしたか。

れいち:「全国学生演劇祭」は地元の何かを背負った人たちばかりが集まるので、空気感が違うなと思いました。それが面白くて、1週間ずっと感動していました。最初は「結果が残ればいい」と思っていましたが、大会期間を過ごしていくうちに大賞はもう誰でもいいなと。みんなに取ってほしいと思いました。

:審査についてはどう思いましたか?

れいち:「全国学生演劇祭」に行くと決まった時に、審査員の椎木さん(万能グローブ ガラパゴスダイナモス)からありがたいお言葉をいただきました。もう大恩人です。賞はどこが取ってもおかしくないと思うのですが、その中で劇団イン・ノートが面白いと推してくれる方が審査員の中にいることも自信にもなりました。

:「全国学生演劇祭」ではこうなったらよかったと思うことはありますか。

れいち:団体同士で顔を突き合わせて交流する機会とか、参加団体の中で手を挙げた人たちだけでエキシビションで作品作りとか、そういうことができるかなと思っていました。一日という短い期間でも、一緒に何か作ることで得るものは本番より多かったりするのではないかなと思いました。オープニングアクトをみんなで作るのもいいですね。盛り上がるのではないでしょうか。

:交流に特化することはどう思いますか。

れいち:「全国学生演劇祭」の持ち味は、いろんなところから全く違う演劇観を持っている人たちが集まることだと思います。僕も演劇に順位つけるのは好きではありませんが、先程「高校演劇でできなかった体験ができた」と言ったのはそこで。大学ではそれがあってもいいのかなと思います。審査員の方はみんな「今回、選ばれるけど関係ない」とおっしゃいます。それは僕も肝に銘じていますし、その前提であれば観客賞や審査員賞などもあった方が上演に対する集中力が上がるので、いい時間が増えるのではないかなと今、話していて思いました。

:演劇祭の現状は「大賞を取っても栄誉だけ」という状況です。どういうステップアップが用意されていたら嬉しいですか?

れいち:僕は「大賞をいただいても栄誉だけ」と思ったことはなくて。僕が演出家として、また俳優としてオーディションを受ける時に実績として書けます。それによって繋がった仕事があって、さらに繋がっていくこともあります。強いて言えば、受賞から1年後の全国大会のオープニングアクトをやるとか、そういうことがあればすごく嬉しいです。

:どのコンクールや演劇祭に注目していますか? この賞が欲しいとか。

れいち:個人的には岸田國士戯曲賞にノミネートされたい、10年後に読売大賞に選ばれたい、文化庁の海外演劇留学制度に通りたいとか、たくさん思っています。豊岡演劇祭に参加してみたいし松本にも行ってみたい。アヴィニョンなど海外の演劇祭にパフォーマンスを持って行きたいという気持ちもあります。

:それはどういうモチベーションからですか?

れいち:そう思わせてくれたのは、東京や全国での「学生演劇祭」の経験が大きいです。いろんな人たちが集まるところにもっともっと世界を広げていきたい。いろんな演劇の文化に触れていきたいという思いが強いです。

:「関西演劇祭」はどういうきっかけで出場しましたか?

れいち:一緒に芝居をしていたヤツが大阪の大学院に行ったので、こっちにあんまり帰れない。でも「いつかイン・ノートの芝居を大阪でやってくれ」と言われていて。「お前が小屋を取ってくれたらいいよ」とか言っていたのですが、そんな中で関西演劇祭の募集を見て、「これに出たら僕らも思ったより早く約束を叶えられる」と思って応募したのがきっかけです。

:なるほど。では、なぜ演劇を続けられていますか?

れいち:楽しいからです。それしかないですね。僕が楽しい瞬間は、本番はもちろん、創作していく中で自分が見たことのない場所にたどり着く瞬間です。それは「大勢の人と顔を突き合わせて作る」という演劇の特性だと思うのですが、お客さんともそれを共有できるから僕は芝居が好きです。一緒に創作することが一番仲良くなれるし、一番お互いのことを知れます。狭い範囲かもしれないですが、僕はそこから生まれる何かをどれだけ大切にできるかという方が性に合っています。

:これからの演劇とか演劇界はどうなっていくと思いますか。

れいち:希望的観測を含めてですが、僕は小劇場ブーム時代のアングラとか、その後の第二次小劇場ブーム、劇場とか空間の熱狂みたいな熱い芝居がとっても大好きで。そこから静かな演劇とか会話劇が流行して、リアリズムや人間の感情が洗練されてアーティスティックにまとめられたものが主流になっている気がします。今からは、それをまたひっくり返す熱量が生まれてくるかもしれない。手元にコンテンツやメディアが集中しているからこそ、その反動が生への熱狂に変わっていくのでは。生の演劇だからこそできる表現がどんどん尖っていく時代になるのではないかなと思います。

:将来の野望はありますか?

れいち:僕の野望はどれだけ演劇の魅力が広く伝わるかということと同時に、僕がどれだけ広い世界に行けるか。相方とは「50年後も今と同じ楽しさで創作が続けられていたらいいな」と話しています。どれだけこの楽しさを維持したまま広げていけるか。多くの人と芝居がしたいし、いろんなところに行きたい。芝居で都道府県制覇とか、世界進出とか。でも、「今、やりたい人と一緒に芝居ができない状況にならないために」という思いが一番大きいです。

:東京以外の土地に行くことは考えていますか?

れいち:ありがたいことに年に1回ぐらいで地方に行っているので、移動範囲を広げてきたいと思います。新潟は劇団員の中川の地元なので、今後も行きたいですし、沖縄で野外劇もやってみたいです。名護の海辺にギリシャの劇場みたいな石造りの屋外舞台があって、年に1回のエイサー祭りの時しか使われていないのですが、ちょっと歩けば海があって、アーチがあって、周りに木が生えていて。大学の劇場で野田秀樹さんの『赤鬼』を上演したのですが、あの場所で『赤鬼』ができたらいいだろうなとか考えています。

3月7日(金)から10日(月)には、「第10回全国学生演劇祭」が大阪・扇町ミュージアムキューブ CUBE01で開催される。会場ではインタビューから抜き出した言葉の展示を行うと同時に、その記事にアクセスできるQRコードも貼りだすので、ぜひ各地域を代表する劇団のインタビューを読んでほしい。




(2025年3月 6日更新)


Check

プロフィール

芝原れいち

劇団イン・ノート主宰。俳優・演出家・脚本家として活動。2018年、明治大学在学中に劇団を立ち上げ、現在は下北沢を中心に活動中。舞台セットや小道具を一切使わず、俳優の身体表現と想像力でシーンを展開していく演出スタイルで、劇団ではコメディ作品を中心に創作している。第7回全国学生演劇祭 大賞、関西演劇祭2023 演出賞、池袋演劇祭 舞台芸術学院奨励賞 など受賞。


「第10回全国学生演劇祭」

チケット発売中 Pコード:531-492

<Aブロック>
▼3月7日(金)・8日(土) 18:30
扇町ミュージアムキューブ CUBE01
一般-3000円
学生または22歳以下-2000円(要身分証)
応援チケット-10000円
出場団体:劇団しろちゃん(北海道学生演劇祭推薦)/社会の居ヌ(京都学生演劇祭推薦)/劇団あしあと(中四国学生演劇祭推薦)
※未就学児、膝上入場可。1枚のチケットで、1ブロック(3団体)の上演がご覧いただけます。【遠方割】関西2府5県以外からご来場の方は証明できる身分証等のご提示で500円キャッシュバック(高校生または17歳以下は対象となりません)。

<Bブロック>
▼3月8日(土)10:30・9日(日)17:00
扇町ミュージアムキューブ CUBE01
一般-3000円
学生または22歳以下-2000円(要身分証)
応援チケット-10000円
出場団体:劇団ちゃこーる(名古屋学生演劇祭推薦)/ベイビー、ラン(大阪学生演劇祭推薦)/どろぶね(とうほく学生演劇祭推薦)
※未就学児、膝上入場可。1枚のチケットで、1ブロック(3団体)の上演がご覧いただけます。【遠方割】関西2府5県以外からご来場の方は証明できる身分証等のご提示で500円キャッシュバック(高校生または17歳以下は対象となりません)。

<Cブロック>
▼3月8日(土)14:30・9日(日)12:30
扇町ミュージアムキューブ CUBE01
一般-3000円
学生または22歳以下-2000円(要身分証)
応援チケット-10000円
出場団体:産業医科大学演劇部(福岡学生演劇祭推薦)/劇団激男(大阪学生演劇祭推薦)/東京学生演劇祭 推薦団体
※未就学児、膝上入場可。1枚のチケットで、1ブロック(3団体)の上演がご覧いただけます。【遠方割】関西2府5県以外からご来場の方は証明できる身分証等のご提示で500円キャッシュバック(高校生または17歳以下は対象となりません)。

[問]日本学生演劇プラットフォーム
■080-3136-6575


「全国学生演劇祭」
オフィシャルサイト