ホーム > インタビュー&レポート > 佐藤二朗が12年ぶりに新作戯曲『そのいのち』を書き下ろし
中村佳穂の同名曲にインスパイアされて
ときには、ゆるっと気の抜けたキャラクターで観る者の笑いを誘い、ときには、戦慄を覚えるようなシリアスな表情でゾクゾクさせる佐藤二朗。俳優として比類なき存在感で魅せる一方で、1996年より活動する自身の演劇ユニット「ちからわざ」では、脚本家の一面も持つ。その「ちからわざ」が、2014年の『はるヲうるひと』再演以来、約10年ぶりに活動。ミュージシャン・中村佳穂の楽曲『そのいのち』にインスパイアされ、佐藤が12年ぶりに新作戯曲を書き下ろす。公演に向けて、佐藤に想いを聞いた。
「ちからわざ」は「自分の好きなものを書き殴れる場所」と話す佐藤。旗揚げ当初は自身の存在を知ってもらうべくオムニバスコントを中心に上演、その後、ひとつの物語を紡ぐスタイルへと変わっていった。この10年間は活動を控えていたが、関西テレビプロデューサーからのアプローチをきっかけに、今作が始動。脚本については、「妻が"いい曲がある"と言うので聴いたら、素晴らしくて。特に意味を持たない言葉、どのようにも受け取れる言葉が並んでいて、歌詞から物語を紡ぐというわけではないのですが、とにかく、この歌が流れる物語を書きたいなと思ったんですね。それと、以前から"優生思想"に関して書きたいなという思いがあって、中村佳穂さんの『そのいのち』にある"いけいけいきとし GO GO"という歌詞が、生あるものすべてへの応援歌のように受け取られて、それと優生思想について書きたい思いがリンクして物語が膨らんでいきました」と語る。
登場人物は、介護ヘルパーとその雇い主で障害のある妻とその夫。穏やかだった3人の関係が、ある出来事をきっかけに狂い始めていき...。介護ヘルパーを演じるのは、舞台初共演となる宮沢りえだ。「数年前に彼女が主演した『紙の月』という映画を観たとき、なんて抑圧されるのが似合う女優なんだろうと。でもその中には熱いものもあって、すごく印象に残ったんですね。今回は抑圧されているわけではないのですが、山田里美というキャラクターにぴったりで、ぜひやっていただきたいと思ったんです」。
脚本を書く源は、「負を力に変えることが生きること」
障害のある妻役は、実際にハンディキャップを持ちながら女優として活躍する佳山明、上甲にかがWキャストで務める。「当初は健常者の女優さんに演じてもらうことを想定していたのですが、ハンディキャップのある方に出ていただくことにしたのは、垣内俊哉さんという方との出会いが大きいです。垣内さん自身も車椅子で、"障害を価値に変える"という意味のバリアバリューをコンセプトにした株式会社ミライロの社長さん。僕はかねてから、"負を力に変えることが生きること"と祈るような気持ちで信じていて、そのコンセプトにすごく共感して、自分が書きたいことってこういうことだよなと思ったんです。それと同時に、Eテレの番組「バリバラ」で「障害者は俳優になれないのか」という特集が組まれていて、彼女たちの熱意を感じましたし、僕自身が書く源になっている「負を力にすることが生きることだ」というのを実際にこの目で、稽古場や本番で見たかったという理由もある。それが作品の力につながるのではと思っています」。
「負を力に変えること」について、さらに次のように語る。「負は大なり小なり誰しもが抱えているもので。例えば、盲腸になって会社や周りに迷惑をかけたけど、それをきっかけに煙草をやめられたとする。そうなると怪我の功名ですよね。小さなことでもいいので、そういうことの繰り返しが、生きるってことなのかなと。生きると言うと少し大仰ですけど、誰しも負を持っている以上は、うまく付き合うことも大事ですけど、できればそれが力に変わればいいですよね。それってやっぱり人間にしかできないことだとも思いますし。あと、何かを書くってなると、それなりに真剣にならないと書けないので、自分が心血注いで書けるのは"負を力に変えること"なのかなと思います」。
何かを受け取らずにはいられないような作品になりそうだが、自身としては「そういうのがモチベーションではない」と話す。「あくまでこういう芝居がしたい、と。あるいは、僕の好きな俳優さんがこういう状況に追い込まれたとき、どんな表現をするのか、どんな顔になるのかを見たいということの方が強いです。これを見てメッセージを受け取ってほしいというのは特に考えていないですが、結果的にそうなれば、すごくいいなとは思います」。
取材・文/黒石悦子
(2024年10月28日更新)
【脚本】佐藤二朗 【演出】堤泰之
【出演】宮沢りえ/佐藤二朗/本間剛/今藤洋子/他
【東京公演】
チケット発売中 Pコード:527-436
〈プレビュー公演〉
▼11月9日(土)13:00/18:00
S席[1階・2階]-10000円
A席[3階]-9000円
▼11月10日(日)~17日(日) ※12日(火)休演。
(月)(水)(土)13:00/18:00 (木)18:00 (金)(日)13:00
S席[1階・2階]-12000円
A席[3階]-9900円
世田谷パブリックシアター
※未就学児童は入場不可。小学生の単独入場不可。本公演のチケットは主催者の同意のない有償譲渡が禁止されています。11/9(土)は「プレビュー公演」です。上演途中でも演出上の変更を加える場合があります。予めご了承ください。本公演は上演中、諸般の事情により出演者を変更して上演を続行する場合があります。予めご了承下さい。出演者変更に伴う払戻しは致しません。東京公演の相馬花役は全公演、上甲にかが出演します。車いす席をご希望されるお客様は、劇場チケットセンター(03-5432-1515)までご希望日の前日19:00までにご連絡下さいますようお願い致します。(定員あり・要予約)
[問]「そのいのち」公演事務局■090-7902-9916
チケット発売中 Pコード:526-503
▼11月22日(金)~24日(日)
(金)14:00 (土)12:00/17:00 (日)12:00
兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
全席指定-11000円
注釈付指定席-11000円(演出の都合上、一部シーンによっては見えづらい可能性がございます)
※未就学児童は入場不可。営利目的の転売禁止。本公演は上演中、諸般の事情により出演者を変更して上演を続行する場合があります。予めご了承下さい。出演者変更に伴う払戻し不可。車いす席をご希望されるお客様は、芸術文化センターチケットオフィス(0798-68-0255)までご連絡くださいますようお願いいたします。2枚以上でご購入されたお客様は、状況によっては連席でご案内できない場合がございます。予めご了承ください。公演中止の場合を除き、お客様の体調不良および新型コロナウイルス感染によるチケットの払い戻しはいたしません。チケットご購入の際には、ご自身の体調や環境をふまえご判断くださいますようお願いいたします。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888
【宮城公演】
チケット発売中 Pコード:528-181
▼11月28日(木)13:30/18:30
東京エレクトロンホール宮城
S席-11000円 A席-9900円
※未就学児童は入場不可。小学生の単独入場不可。
[問]仙台放送事業部■022-268-2174