ホーム > インタビュー&レポート > 松尾スズキ、つかこうへいの名作に朗読劇で挑む! 「今回は松尾を消すぐらいの勢いで、言葉だけで勝負したい」
――今回『蒲田行進曲』を朗読劇として上演しようと思われた意図は?
松尾:僕が初めて九州で小劇場演劇といわれるものを観たのが18歳、つかさんの『熱海殺人事件』でした。学生演劇でしたが僕にとってはセリフがすごく過激で、今まで大きな劇場で観たお芝居と全然違って新鮮で刺激的だったんです。それを観て芝居を始めてみようと思ったぐらい。そのあと、どんな感じでやっているのかと、つかさんのエッセイや戯曲を読み漁りました。で、1回だけ九州に風間杜夫さんや柄本明さんなどそうそうたるメンバーによる『蒲田行進曲』がくることがありましたが、学生でお金がなく、どうしても観に行けなかったんです。そのあと上京したら、すぐにつかこうへい事務所が解散して。最後のチャンスを逃してしまったという思いがずっとありました。その後、自分で本を書いて演劇を始めましたが、つかさんの世界観に影響を受けすぎていたので、まったく別のアプローチでやらないとダメだなと思って、敢えて遠ざけていました。それが今回、京都芸術大学で朗読劇をやらないかと。ちょうど今年、僕はつかさんがお亡くなりになられた62歳になるんですよ。だから、自分の中でつかこうへいへのけじめをつけたい、自分の中で思ってきたつかこうへいってどういうものだろう、一度試してみたいなと。試すなら完全な公演だと規模が大きくなりすぎるし、『つかこうへい正伝』(長谷川康夫・著)を読んだ時に、すごく言葉を大事にしてる人で「役者はヘタに動くな」みたいなことを演出家としておっしゃっていたので、言葉にこだわった方がいいなら朗読劇にしたらいいんじゃないかと思ったんです。
――つかこうへいと『蒲田行進曲』の印象、そして公演に向けての意気込みを。
上川:大学時代につかさんの『熱海殺人事件 ザ・ロンゲスト・スプリング』と『ロマンス』をやらしていただきました。その時に演じながら、キャラクターたちがすごく輝く瞬間があって、つかさんが名もなき人にスポットライトを浴びせている、それが自分も人生で光る瞬間があるように思えて、すごく勇気をもらえたんです。『蒲田行進曲』では大部屋俳優の中で、ヤスはずっと下積みで頑張ってやってきて銀ちゃんや小夏さんと出会った。本来なら他人事としてすましてしまうようなことも、ヤスは自分事に置き換えて一生懸命、必死になって生きている。ヤスのエネルギーがドンと大きくなって、すごく人間らしくイキイキと生きている姿にスポットライトがバッと当たって、輝いているヤスがカッコイイなと思って。今回演じる時にはそんなふうになりたい、一瞬でも人生で光る姿をお見せできたら嬉しいです。
笠松:松尾さんにとってすごく刺激的で衝撃を受けたのがつかさんのお芝居、私にとっては松尾さんがそういう存在でした。大学に入学して東京に出てきて、初めて下北沢で観たお芝居が松尾さんの『マシーン日記』。今まで宝塚や劇団四季、オペラを観て育ってきた自分には、大変衝撃的でものすごく魅力的でした。その松尾さんがつかさんの作品をやる。芝居好きとしてはそれを聞いただけで「おおお」と前のめりになるような言葉ですが、自分がそれに携わるとなった今、楽しみもありますが身の引き締まる思いです。『蒲田行進曲』は小説も読み映画も観ていますが、台本で読んだことはありませんでした。今回改めて台本を読み、エネルギッシュなテンポ感や、ヒリヒリするような言葉の応酬による迫力と魅力をものすごく感じています。それを松尾さんが朗読という演劇スタイルを使って、どのように表現されるのか、楽しみであり頑張らないと、と思っています。自分としては、小夏は銀ちゃんとヤスという破天荒で特殊な関係のふたりの間にいるだけでも大変なのに、さらに妊娠もしていて身体がどんどん変化していく。小夏の頭と心と肉体の全部が、いろいろな方面に変化していく思いや切なさに自分がちゃんと寄り添えるよう、座組のみなさんの胸をお借りして頑張りたいと思っています。
――初めてつか作品をやる一番の動機と数あるつか作品の中で『蒲田行進曲』にしたのは?
松尾:学生時代に唯一観られるチャンスがあったのに、見損なってしまったという心残りですね。一般のお客さんには『熱海殺人事件』よりも映画化されて大ヒットしている作品ですし、ベースになるお話が伝わっているのではないかなと。朗読劇はビジュアルがないですから、そこを重ねて観ていただきたいなというのはあります。あと、お話自体も好きですしね。
――3人の関係性で松尾さんが特に強く見せたいと思っているところは?
松尾:ヤスという人が、銀ちゃんの前ではすごくヤスなんだけど、小夏の前でだんだん銀ちゃんみたいになっていく。その変化が非常におもしろいと思うんですよ。残酷な話だなってつくづく思いますけど。そういう3人の心模様、というとすごく雑な言い方になりますが、それを声の力で繊細にみせていけたらいいなぁと思っています。
――朗読劇でつかこうへいに作品にアプローチする思いは?
松尾:自分の心の中でずっと思い描いて来たつかこうへいの世界を、今の時代に浮かび上がらせたいんですよ。そこに肉体性みたいなものが入ってくると、どうしても僕の色が強く出すぎるので、言葉だけで勝負したいというのはあります。本当なら表情すら禁じたいぐらいですが、それはもう自然に出てくるから仕方がないですけど。つかさんの演出は「とにかく動くな。オレの言葉を大事にしろ」。僕はどちらかというと動かしてしまう演出家で、自分も動く俳優だから、今回は松尾を消すぐらいの勢いでやりたい。僕の思い描くつかさんの、こうだったんだろうなという舞台を作るには、やっぱり体は使わない方がいいように思います。
――つか作品で印象的な音楽の演出は?
松尾:調べてみると、つかさんの舞台の袖で音楽家の方がギターを弾いていたという記述があったので、そこはちょっとマネして、生のギターを入れてみようかなと考えています。曲目は、ほぼオリジナルにしようかなと。演奏するのは京都芸術大学の学生で、そういうコラボもおもしろいかなと思っているんですよね。
――楽しみにされている方へメッセージをお願いします。
松尾:つかこうへいさんという方がいた時代というものが、もうまったくなかったような世界になってるじゃないですか。唐十郎さんや寺山修司さんたちの芝居は、時代の節目節目に浮上してくると思うんですけど。別役さんも常に芝居が打たれて、時代を更新していってるような気がするんですけど、つかさんは今「あ、そういう人もいたな」みたいな感じに若い人は思ってると思うんですよね。僕はつかさんとは離れようと敢えてした人間だけど、僕が衝撃を受けた、その攻撃性や暴力性が自分の作品を作ることにおいて根底にあるという気がするんですよね。それがおもしろいと思ってやっていますが、もう一度自分の中で検証したいという気持ちがあるので、その検証している松尾の姿を見てほしいし、なるべく戯曲から受け取ったものを忠実に浮かび上がらせたいという思いがあります。
上川:つかこうへいさんの舞台に出られたことがある俳優さんから聞いたお話ですが、稽古場では代役というか、常に自分の役を狙っている人たちがいるという緊張感の中でずっと稽古をしていたと。そういう中で生まれてきた芝居、役を作品を良く見せようと思って、もがいてもがいて、最後に板の上に立っていった。自分も緊張感を持って公演に向き合って、ヤスという役を表現したいと思うので、そういう部分を楽しみにしていただけたらと思います。
笠松:松尾さんとはお芝居で何本もご一緒させていただいていて。もともとミュージカルの人間ですが、松尾さんの舞台に出る時はいつも、松尾さんがこれまで私があまりやらなかった部分を見つけて引き出してくださって、こんなことが自分も出来るんだとすごく幸せなんです。だから、これまでミュージカルしか観たことがない方もぜひとっかかりで観に来ていただいて。つかさんと松尾さんのコラボなので、多分私が松尾さんの芝居を観て衝撃を受けたような感覚、「あ、こんな世界があるんだ」という体験をしに来ていただけたら嬉しいです。そして松尾さんやつかさんのことが大好きな皆さんにもご満足いただけるように、とにかく必死でがんばりますのでぜひ劇場にお越しいただけたらと思います。
取材・文/高橋晴代
(2024年10月17日更新)
チケット発売中 Pコード:527-283
▼10月19日(土)14:00
▼10月20日(日)14:00
京都芸術劇場 春秋座(京都芸術大学内)
一般-5500円(指定)
[作]つかこうへい [演出]松尾スズキ
[出演]上川周作/笠松はる/少路勇介/東野良平/末松萌香/松浦輝海/山川豹真
※学生&ユースはぴあでの取り扱いなし。未就学児は入場不可。車椅子をご利用のお客様・足の不自由なお客様は、お電話にてお申込み・お問合せ下さい。 お車、バイクでのご来場はご遠慮ください。2階席への移動は階段のみです。最新の情報は、劇場ホームページ(https://k-pac.org/)をご確認ください。
[問]京都芸術劇場チケットセンター■075-791-8240(平日10時~17時))