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「最悪な1日を迎えた人でも笑えるはず」
男性だけのコメディバレエ、トロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団
世界を笑わせることができる理由は
「時代や価値観の変化に動じない強固な表現力」

「白鳥の湖」を踊れば息切れする、「瀕死の白鳥」では白鳥の羽がどんどんもげていく――。バレエの名作の数々を独自の解釈でコメディ化して表現する男性だけのコメディバレエ団、トロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団の日本公演が5月25日(土)よりスタート。大阪公演は6月1日(土)にフェスティバルホール、兵庫公演は6月2日(日)に神戸国際会館こくさいホールで開催される。1974年の設立以来、世界中を笑わせてきた同バレエ団。そのおもしろさの根底にあるものは、いったいなんなのか。まもなく在籍30年を迎えるベテランダンサー、ロバート・カーターに話を聞いた。

――トロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団は設立から50年を迎えましたが、カーターさんは1995年11月入団ですから、同バレエ団の歴史の半分以上を経験していらっしゃるんでんすね!

「そう、30年! 今、指摘されて自分でもあらためてびっくりしています。これは自信を持って言えることですが、カンパニー史上、現役の団員として一番長く活動しています。興味深いのは、カンパニーに在籍するなかで、私個人の人間的成長とダンサーとしての成長が並行してプラスに働いてきた点です」

――どういうところが成長しましたか。

「入団時は人間的な部分で『まだまだ、これから』でした。外の世界でもっといろんな勉強をすることが求められました。しかしカンパニーの一員として世界中を公演でまわり、いろんな文化と触れることができたおかげで、人間性とダンサーとしての面の両方を同時並行で高めることができました。今は『これだけ満足感が得られる人生は、そうそうない』と思っています」

――ダンサーが一つのカンパニーにこれだけ長く所属することも、珍しいですよね。人生としていろんな選択肢があったはずですが、なぜトロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団に身を捧げようと思えたのでしょうか。

「トロカデロには、アーティストとしての自由があるんです。それはほかのカンパニーではなかなか得られないものでもあります。芸術監督のトーリー・ドブリンさんとも非常に良い関係性が続いています。私の活動当初は決して、虹やバラのように美しい状況ではありませんでした。しかしトーリーさんはいつも、私のやりたいことを尊重してくださいました。芸術監督としてなにかを強いてくることは一切なく、私たちの表現力を信じてくださるんです。そういったトーリーさんの意思が作品にあらわれ、トロカデロの世界的人気につながっているのではないでしょうか」

――トロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団は、たとえ同じ演目や構成であっても常に新鮮な楽しみを与えてくれますよね。その要因はどういうところにあると思いますか。

「とても素晴らしい質問ですね! コメディって、ユニバーサルなものですよね。笑うことを嫌う人は少ないですし。ただそれを表現する側としては、"お客様に笑ってもらう"という成功を得るために自分がなにをやるべきか、把握する必要あるんです」

――なるほど。

「トロカデロのメンバーは、ダンサーであり、コメディアンでもあります。お客様のなかには、最悪な1日を迎えたにもかかわらず、公演に足を運ぶことになった方もいらっしゃるかもしれません。でも、2時間の公演を観ていただけたら多幸感が満ち溢れると思うんです。さらにその後、4、5回鑑賞すれば、ほかにもいろんなダンサーがいることが知れて、同じ演目でも表現が違うことに気づける。各ダンサーもリスペクトし合いながらお互いを高めてきたので、作品が間違いなく良くなっている。それらの点が長年、新鮮さを失わない理由になっています」

――おもしろいと思うこと、美しいと感じることは、時代、文化、価値観の変化によって異なってくる部分もありますよね。演じていて「あれ、ここはウケなくなったな」とか、逆に「このパートは今まで以上に受け入れられるようになった」ということはありますか。

「トロカデロの表現力の強固さは、時代、文化、価値観の変化に匹敵するものではないと考えています。確かに"ここは以前はリアクションがあったのに、今は薄くなったな"というのはあります。しかしトロカデロは"個"に向けて発信しているのではなく、いつの時代でも、誰にでも楽しんでいただけるようなものを提供しています。つまり、そういう変化には動じない表現力が備わっているんです」

――代表的な演目「瀕死の白鳥」は「死」という普遍的かつシリアスな題材でありながら、それをコメディへ仕上げていて、さらに長年、誰もがそれを観て笑っています。「死」を笑ってとらえてもらえるところに、トロカデロのポテンシャルの高さが感じられます。

「それは非常に興味深い話です。というのも『笑い』というレンズを通していろんなものを見ると、人は、誰一人として特別ではないからです。それは『オリジナリティがない』という意味ではなく、『誰一人として世界から取り残されるものではない』ということです」

――その点で人は決して特別ではない、と。

「みんな、最後は死を迎えるわけですからね。ずっと生き残れる人はいませんから。その点で誰一人として、決して特別な存在ではない。『瀕死の白鳥』のフォーマットにあるものは、どんなに美しいダンサーが演じてもシリアスに感じられるテーマです。ですがトロカデロではそれを楽しいものにアレンジできます。なにより私は、死は『自由になれるもの』ととらえています。残された人たちは悲しいですが、亡くなった人は肉体を失っても精神性が自由になるので、そこまで悲観的に捉えない方が良いと思っています。そういう気持ちがトロカデロ全体にはあるので、『瀕死の白鳥』も明るいタッチで描け、また楽しんでいただけるのではないでしょうか」

――先ほどコメディはユニバーサルなものである、というお話がありましたよね。「笑う」というリアクションは確かに万国共通ですが、笑わせ方、笑えるポイントはやはり国や地域によって微妙に違ってくる気がします。日本では今、お笑い芸人の海外進出が盛んになってきて、あらためて「世界を笑わせるためには」について議論されている部分があります。

「あくまでトロカデロの話ですが、動きでどう見せられるかが重要だとは思います。私たちはダンスが第一にあり、コメディは一つのツールに過ぎません。ですから私たちは台詞を発することはしません。そのなかで『どうすれば伝わるか』を重視しています。私たちのパフォーマンスには言葉は必要ありませんから。しかし重要なのは、サイレントだけど『メッセージの音量』は大きくしていなければならないということ。そして、お客様のリアクションをちゃんと想定してシナリオを作れるかどうかなんです。さらに、お客様がダンサーのパフォーマンスを観て『自分と同じ境遇だ』と重ねてもらえるかどうか。それらがあって、笑ったり、美しいと思えたりするのではないでしょうか」

――日本公演に参加するダンサーの中には、入団して約半年という若いメンバーもいらっしゃいますね。

「若手のダンサーたちはバレエ団に新鮮な風を吹かせてくれています。私のようなベテランとニューフェイスたちがどう融合しているか、観てのお楽しみです。あと若手のみなさんには、この日本の公演を楽しんでほしいです。自分としては、若手のみなさんが成長できるような道筋を立ててやっていきたい。ヘアメイク、振付などもアドバイスし、またそれぞれの意見にも耳を傾けていきたい。若手のみなさんにとって日本公演が良い経験の場になってほしいです」

――あらためて日本公演の意気込みを聞かせてください。

「私は日本のお客様の雰囲気、人、すべてが大好きです。ずっと観に来てくださっている方も多いです。公演中は控えめにご覧になる方が多いですが、でも楽しんでくださっているのがすごく伝わってきます。今回の公演でも、私たちが踊ることで、感謝のエネルギーを返してくださる瞬間を楽しみにしています」

Text by 田辺ユウキ




(2024年5月22日更新)


Check

Profile

本名:Robert Carter(ロバート・カーター)
通称:Bobby(ボビー)
出身地:アメリカ
トロカデロ入団年月:1995年11月
バレエ学校:Joffrey Ballet School
バレエ歴:Dance Theatre of Harlem Ensemble, Bay Ballet Theatre

トロカデロ加入から29年目を迎えたベテランダンサー。
長い手足を活かしたダイナミックなパフォーマンスと、コミカルな表情や動きが得意なダンサーです。

実は日本が大好きなダンサーで、日本公演の際には浴衣で会場入りすることも。
好きなアルコールは日本酒。
特に熱燗が大好きです。

トロカデロのダンサーは公演の際、本名では無くダンサーネームで呼ばれます。

ダンサーネームはカンパニーがオマージュしているロシア古典バレエなどにのっとり、それっぽい名前が付けられています。
Robert Carterの場合は…

バレリーナ名:Olga Supphozova(オルガ・サポーツォヴァ)
男性ダンサー名:Yuri Smirnov(ユーリー・スミルノフ)

このように女性役と男性役で、名前も変わります。


トロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団

【埼玉公演】
▼5月25日(土) 大宮ソニックシティ 大ホール
【神奈川公演】
▼5月26日(日) 神奈川県民ホール 大ホール

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード:524-098
「白鳥の湖/瀕死の白鳥他 小作品/ライモンダ」
▼6月1日(土) 14:30
「白鳥の湖/瀕死の白鳥他 小作品/パキータ」
▼6月1日(土) 19:00
フェスティバルホール
S席-9900円 A席-7700円 B席-5500円
※未就学児童は入場不可。
※都合によりプログラムが変更になる場合があります。
※開演に遅れられた場合、演出等の都合により、すぐにお席へご案内できないことがあります。
[問]サウンドクリエーター■06-6357-4400

Pick Up!!

【兵庫公演】

チケット発売中 Pコード:524-303
▼6月2日(日) 16:00
神戸国際会館こくさいホール
S席-9900円 A席-7700円 B席-5500円
※未就学児童は入場不可。
※販売期間中は1人4枚まで。
[問]神戸国際会館こくさいホール
■078-231-8162

【東京公演】
▼6月8日(土)・9日(日)
LINE CUBE SHIBUYA

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