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ダークでシリアス、そしてコメディの奇妙な物語
花總まり×谷原章介の“美しい夫婦”で世界初舞台化

舞台上に現れるカラフルな衣装をまとったキャストたち。ここはある日の銀行。そこへ唐突に登場したのは真っ赤な帽子に黒いマスク姿の銀行強盗(平埜生成)。たまたま居合わせた13人を「今持っている物の中で最も思い入れのある物を差し出せ」と脅していく。

ステイシー(花總まり)が差し出したのは古い電卓。夫(谷原章介)との出会いにも関わるこの電卓で、彼女は人生の様々を計算してきた。

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実は、谷原が演じる夫だけ、銀行強盗の現場におらず被害に遭っていない。冒頭で展開されていくのは「妻から聞いた話の脳内再生」と谷原。そのせいか、夫たる「僕」(谷原)の手にはビデオカメラが携えられ、その映像が背面に映し出されるという演出になっている。客席から見る光景に、それとは違った視点での映像が重なり、13人が強盗に取り上げられる品々も手元のアップで克明だ。

強盗が奪っていったのは、思い入れのある品に込められた"魂の51%"。取り戻すには各人が自力で学び取った方法でなければならないという。事件から3日後、ステイシーのもとに刑事(栗原英雄)から一本の電話が入った。「説明のつかないようななにか」が身に起きていないか確認されると同時に、あの日の被害者の会が開催されると聞かされる。

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被害者の会を訪れたステイシーは、ほかの被害者たちの身に起きた奇妙な現象を知ることに。"体がキャンディーになった"者や、"自分の神様をコインランドリーに放り込んでしまった"者。どの話も奇妙奇天烈だが、彼らにとっては紛うことなき現実。
それぞれの物語が素早い場面転換と相まったダンス、音楽、映像のコラボレーションで表現され、客席全体がスピーディーな遊具に乗せられたような高揚感に包まれていく。

中でもドーン(入山法子)の体験は凄まじい。"足首に彫ったライオンのタトゥーが体から抜け出し24時間襲ってくる" という。被害者の会に参加した全員でなんとか食い止め、ドーンを逃がすが――。

一方、ステイシーも自分の身に起きている奇妙な現象に気づきはじめる。"体が縮んで"いっているのだ。必死で夫に訴えるも、どう対処すべきか戸惑う「僕」。ついにステイシーは自分の身が縮んでいく法則を突き止め、8日後に消滅してしまうことを理解。結婚7年、一人息子もいるこの夫婦は、心を寄り添い合わせることができるのか。

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アミューズメントパークのような摩訶不思議な物語は止まることを知らない。ある日気づいたら"水中に浮遊していた"男の話では、谷原のお気に入りシーンがあるとのこと。「舞台の奥で中山祐一朗さんが寝ころびながら、×××~!と叫ぶシーンがもう大好きで」と谷原。
また、第2幕には、"夫が雪だるまになった"女性のシーンで、花總が澄んだ歌唱を披露。激しい場面転換や、物語の一部となるダンス、セリフの応酬の中に、一筋差し込む花總の歌声はまるで魔法で、美しく切ない思いを起させる。花總の歌唱はここだけ、絶対に聞き逃せない。

ついに61㎜まで縮んだステイシーが夫と買い物に出かけるシーンは、花總の一番のお気に入りとのこと。「最初にG2さんからこのシーンの演出コンセプトを聞いたときは、ホントに!?と驚きましたが、いやいや、おもしろいかも!とすぐに思って。ほかではなかなかお目にかかれない光景を、皆さまの目にも焼き付けてください」。花總の言葉の通り、一瞬、目の錯覚か!?と驚かせてくれる演出になった。

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縮む妻をG2がどのように演出し、花總がどう演じ、谷原がどう反応するかは、本作において一番気になる点だろう。渾身の演出マジックをとくと味わってほしい。

めくるめく13の奇妙な物語と同時に、ステイシーと「僕」の夫婦の関係性が、ラストに向けてどう変化していくかが本作の真髄。
谷原は、「夫婦がどうなっていくかを、ぜひ舞台でご確認いただきたい。片方だけでは成立しないですよね、夫婦って。ステイシーが歩み寄り、『僕」も歩み寄る。物語が進む中で、こっちが寄り添いだしたな、あ、今度は向こうも歩み寄ったかなと、そういう一つ一つを拾っていただくと、ラストシーンがとても味わい深くなると思います」と語る。

人間と人生のダークでシリアスなストーリーでありながら、目に映る美しさと物珍しさ、スピード感にドキドキ・ハラハラさせられ、なおかつユーモアにあふれたコメディ作品ともいえる本作。世界初の舞台化の完成を見届けてほしい。

Text by 丸古玲子




【初日前コメント】

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花總まり(ステイシー)

舞台稽古をみっちり終えて、ゲネプロ、初日に向けて緊張感でみなぎっております。
G2さんの演出は2作目ですが、前回も本当に不可思議な物語でした。私のG2さんのイメージは、不可思議な作品ではナンバーワンの演出家さん。本作も舞台化不可能といわれるものですから、G2さんがどう舞台に描かれていくのか、正直キャストも不安がありました。でも、見事に構築され、しかもユーモアを交えながら創ってくださったので、ご覧になる皆さまにもわかりやすくお届けできると思います。
縮む役というのは手ごわかったです。いままで演じた中にも難しい役はありましたが、今回はちょっと種類の違う難しさ。たぶん、最後まで悩み続けます。まずは自分をだまさないとならない部分が大きくて、自分をだませないとお客様もだませないと思って、日々がんばっていきます。
スタッフ・キャスト総動員で創り上げ、一生懸命に動いていきます。この作品の力、カンパニーの力を、ぜひ劇場で感じてください。

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谷原章介(僕)

キャストの中で僕だけ役名がなく、「僕」です。唯一、銀行強盗に遭った当事者ではない存在で、かつ、この舞台そのものが妻のステイシーから聞いた話の「僕」の脳内再生というもの。やりがいがあると同時に、どう演じたらいいだろうと迷いながら稽古をしてきました。ストレートプレイとしては長い5週間の稽古期間でしたが、あっという間。花總さんとの会話は劇中にそれほど多くないのですが、いい形の夫婦ができたのではないかと思います。
G2さんの舞台づくりにはたくさんの余白があり、観客が、そこ(舞台上)に提示されたものから、いかに多くをイメージできるか、という点が肝だと僕は思うんです。お芝居だけでなく、音楽、映像、ダンスも加わり、舞台上を見ていただければわかりますが、バミリ(印)が非常に多い!ものすごく場面転換します。こんなにたくさんバミリがある舞台はなかなかないと思います。転換に関わる方々も、キャストと同じように衣装を着て参加する、つまり、様々な分野の方が協力してこの舞台を創り上げているんです。できるなら僕も客席に行って観たい!と思うほどです。
原作を読んだ段階では、最後のシーンがどうなるか楽しみでした。稽古が進んで改めてラストシーンに感じたのは、自分が想像したのとまったく違う画になった、ということです。
本作はすべてを通して不思議な世界ですが、あくまでメタファー(暗喩)。13人のケースには、救われる人も救われない人も出てきますが、それって現実の世界での僕たちの生活にも通じるもの。たまたま運がよかったとか、気持ちを変えてうまくいったとか、そんな好循環が起きることもあると思いますが、まさに同じことが舞台上で起きます。ダークでシリアスなストーリーではあるけれど、G2さんは「実はコメディなんだよ」とおっしゃいました。人生自体、どこかコメディなところがありますよね。いろんなことがありますが、笑い飛ばせるきっかけにしていただければと思います。

(2024年4月 8日更新)


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舞台『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』

4月7日(日)一般発売 Pコード:524-023
▼4月20日(土)・21日(日) (土)17:00 (日)12:00/17:00
COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
全席指定-11800円
[原案・原作]アンドリュー・カウフマン
[劇作・脚本][演出]G2
[出演]花總まり/谷原章介/平埜生成/入山法子/栗原英雄/中山祐一朗/吉本菜穂子/幸田尚子/楢木和也/西山友貴/吉崎裕哉/山口将太朗/黒田勇/須崎汐理/山崎眞結
※未就学児童は入場不可。出演者変更に伴う払戻し不可。車いす席をご利用のお客様はチケットをご購入の上、事前にお問い合わせ先にご連絡ください。2枚以上でご購入されたお客様は、状況によっては連席でご案内できない場合がございます。予めご了承ください。公演中止の場合を除き、チケットの払い戻しはいたしません。
※販売期間中は1人1公演4枚まで。
[問]キョードーインフォメーション
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