ホーム > インタビュー&レポート > 劇作家・倉持裕×演出家・杉原邦生の初タッグで描く 「貌」にまつわる不思議な物語
倉持 とてもおしゃれで、かっこいい演出をなさる演出家という印象があります。舞台上に余白がいっぱいあるのがかっこいいな、好みだなという印象です。
杉原 倉持さんの作品は学生時代から何本も拝見していて、とても巧みな会話をお書きになる作家さんだと思っていて。今回、お仕事をご一緒させていただいて上がってくるものを読んだとき、本当に無駄がないというか。演出家の癖で、カットできるところがあるかなとか、なるべくコンパクトにしたいなとかすぐ思っちゃうんですけど、このセリフはカットできるかなと思っても、いや、これは必要なセリフだと思い直すことが多くて、会話に無駄がない。すごく計算された素敵な本を書かれる作家さんだと改めて思っています。そこが一番の印象です。
――おふたりのタッグは神奈川芸術劇場さんの発案だったんですか?
倉持 そうです。芸術監督の長塚圭史さんの発案でした。「貌(かたち)」というKAATのメインシーズンタイトルと、若い世代の話というテーマがあって、そこからみんなでディスカッションしていったという感じです。
――劇作家さんと演出家さんがディスカッションして脚本を作ることは、よくあることなんですか?
倉持 どうですか?
杉原 僕はこれまで、書き下ろし新作の場合はそういう形でしかやったことがないですね。最初のアイデア出しから作家さんの意向を聞いて、もちろんプロデューサーや、今回の場合は長塚芸術監督の意向も聞いて、ディスカッションしながら作っていくのですが、それがすごく好きです。楽しい。やっぱ作家ってすごいですよね。僕は本を書かないから、作家との作業って刺激がいっぱいもらえるし、すごく楽しいです。
倉持 僕も楽しかったです。今回はその作り方で本当によかったなと思って。ラフなものを書いて、穴だらけだなと思いながら、じゃあこの穴をどう埋めようかみたいな話をみんなでしていました。
――作家さんは基本、孤独な作業ですか?
倉持 孤独ですね。演劇の場合は書き上げてもそんなにダメ出しがなく、じゃあこれでやりますっていう感じで。第一稿が決定稿みたいなところもありますね。さっきも言ったけど、ちょっとラフなもの、これが完璧だなんてまるで思っていないものをまず投げて、みんなから打ち返しがあって、また直してという段階を踏んで決定稿に進めていく作業がすごく楽しいです。
杉原 本は今年の6月ぐらいには上がっていました。台本を作る作業の時は、みんながフラットに意見を言い合えて、倉持さんもすごく柔軟な方なので、僕らの意見を受け止めて次の段階でクリアしてくださって、その過程自体もすごく楽しかったですね。
――倉持さんは「貌」と「青春」という組み合わせにどんな着想を得て、『SHELL』の執筆を進められたのでしょうか。
倉持 長塚くんから「十代の若者で何かやりたい」と。あの時代にしかできないドラマ、あの時間を切り取りたいみたいなお話があって、そこはちゃんと押さえようと思いました。それから、いろんな顔を持つ人間、顔を変えることができる人間が女の子の中に一人いたらどうなるのかというところから発想して。ただ、顔を便利に使っちゃうと、ちょっと違う話になる。ヒロインものになってしまったり、事件を解決していくみたいな話になっちゃうから、それもつまんないなと思って、顔を変えられるということが不自由な話にならないかなって。
――顔を変えられるというのは便利なことのように思いますが、それを不自由な方に持っていかれた。
倉持 そうですね。A、B、Cと顔を3つ変えられるとしたら、Aがやっていることに対してBとCは絶対干渉しちゃいけない。Aが悪いことをしてもBが通報するとか、そういったことは絶対しないというのがルールであり、独立性を保つことを本能として持っている人間というような設定にしていきました。そこからいろいろプロフィールを考えていくうちにストーリーができてきました。
――そんな物語に杉原さんはどのような演出プランをお持ちでしょうか?
杉原 まずは、舞台美術を美術家と一緒にかなり熟考しました。この物語を観客が観続けるための空間ってどんなものなんだろう、って。僕は空間が決まらないと演出プランが思い浮かばないんです。逆に、空間さえ決まれば一気に頭の中で芝居が動き出すんですよね。もちろん本を読み返したり、音楽や衣裳などいろんなセクションの人と話をしていく中で、イメージ固まっていっていたり、新しい発想も出てきたりもします。
――多くのキャストはオーディションで選ばれたそうですね。
杉原 若い学生役の子を中心にオーディションで選ばせていただいたんですけど、すごくたくさんの方が応募してくださって、とても魅力的な人たちが出演してくれることになりました。今回の作品は、複数の人格を共有しながら生きるマイノリティが共生する世界が描かれていているので、人間のアイデンティティを表す重要な一要素である"顔"や"姿かたち"がとても重要なキーワードになると思っています。そこで、マイノリティに対するマジョリティだったり、アイデンティティに対する匿名性などを表現するために、空間にはたくさんの学生が必要だなと思って。フィジカルな表現も多用していきたいと思っていますし、大きな空間で上演することになるので、若いエネルギーで舞台を走り回ってもらおうと思っています。
――タイトルには、どういう意図があるのでしょうか。
倉持 この物語のイメージとして直感的に浮かんだ単語なんですが......シェルって殻でしょう。いろんな殻をかぶって、殻を変えながら生きていくというのもあるし、1個の殻に何匹もの貝が入っているというような解釈もできます。容姿、表面、つまり側(がわ)を表すものとしてシェルがいいなという。
杉原 側で判断することで安心できることってたくさんあるじゃないですか。中身のこと、本当のことはわからないけど、「側」で判断されていることは本当にたくさんあるし、こちらも「側」で判断してしまうことがたくさんあるし、それによって保たれていることもたくさんある。だけど、たとえばみんながみんな「側」じゃない本音を言い出すとか、違う人格が入っているとか知らない方が平和なことって生きてる中で結構あるよなとこの本を読んで思って。そういう問題とすごくいい関係性を持ったタイトルだなと思っています。
――では、最後に「青春」というテーマにちなんでおふたりの青春時代を教えてください。
杉原 僕は本当に学校行事だけをやっているお祭り男でした(笑)。文化祭とか、体育祭が好きすぎて、どうやったらこの学校行事をもっと長いこと続けられるだろうと思って。そうか、舞台の大学に行ったらずっと文化祭ができる!と思い立って京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)に入学したら、学科長が前衛劇の重鎮・太田省吾という人で、自分が抱いていたイメージとまったく違ったっていう(笑)。僕は演劇を始めたのが大学からだったので、青春時代は部活もせず、学校行事と遊びだけやってました。
――舞台は今でも青春の延長みたいなところもありますか。もちろん仕事ではありますが。
杉原 いまでも舞台ってお祭りですよ。学生時代は学校行事のことしか考えていなくて、そのことが幸せで。そういう感覚は今もあるかもしれないです。ただ、今は先の公演のことも同時に考えないといけないので、そんなことは言ってられないですけど(笑)。でもなるべくひとつの作品に集中する時間を失いたくないなとは思います。
倉持 僕は割と自分に嘘をついていた10代で、ミーハーでしたよ。みんながやるものをやるというか、そうしていないと安心しないみたいなところがありました。
――今の落ち着いた感じの佇まいからすると、意外な印象があります。
倉持 もう無理してないからですね(笑)。そう何十年も無理はできない。当時も本当はこういうこと(演劇)をしたかったんだけど、その頃って恥ずかしいじゃないですか、演劇がしたいとか、表現がしたいとかって言うのは。みんなに合わせて「楽しいよね」って言いながら、限界を迎えて、大学に入ってようやく芝居を始めて。だからちょっとストレスを抱えた10代でした。ただ、みんながやっていることって、それだけ大勢に支持されてるだけあって楽しいんですよね。だから、それを追いかけて過ごした10代を否定はしません。
取材・文/岩本
(2023年12月 6日更新)
――とある高校の放課後の教室。そこには生徒の未羽(みう)、希穂(きほ)、咲斗(さくと)と数名の友達たち。彼らは、突然学校に来なくなった松田先生について、そしてこの学校の問題について度々話し合っている。ある日、未羽は通りがかったビルからマネキンが落ちてくる現場に遭遇する。そのマネキンを抱きかかえていたのは中年男の高木だが、未羽には高木でもあり希穂の顔にも見えるという不思議な体験をする。同じ人間がいくつもの<顔>を持っている。それは、一部の者だけが知っている世界だったのだが、未羽にはそれを見抜く力があった。希穂たち以外にも、いくつもの<顔>をもっている人々が分かる未羽。様々な登場人物たちがうごめく中で、顔を見抜けて「絶対他者」を繋げてしまう未羽、顔を持つ人々、そして全く分からない人々との間に、摩擦が生じていく…。
主人公の高校生キャストには石井杏奈と秋田汐梨。また、今年、芸能生活30周年を迎える岡田義徳がZ世代を代表する若き才能とともに舞台を創り上げる。
チケット発売中 Pコード:521-438
▼12月9日(土)15:00
▼12月10日(日)13:00
京都芸術劇場 春秋座(京都芸術大学内)
全席指定 一般-6500円
[作]倉持裕 [演出]杉原邦生
[出演]石井杏奈/秋田汐梨/石川雷蔵/水島麻理奈/成海花音/北川雅/上杉柚葉/キクチカンキ/香月彩里/近藤頌利/笠島智/原扶貴子/岡田義徳/藍実成/秋山遊楽/植村理乃/小熊綸/木村和磨/古賀雄大/出口稚子/中沢凜之介/中嶋千歩/浜崎香帆
※未就学児童は入場不可。お車・バイクでの来場はお断りいたします。
[問]京都芸術劇場チケットセンター■075-791-8240