ホーム > インタビュー&レポート > 江戸落語と上方落語の競演会「東西ラクフェス」を 雀太、小痴楽、昇羊が語る
タイミングがうまく噛み合った幸運
大阪の会場は心斎橋パルコのホールだったこともあり、初めて落語に触れたという観客も多数。企画は狙いどおりとなった。雀太に手応えを尋ねると「1日3回、計9公演。補助金もなし、スポンサーもなし、イベンターもなし。個人でやったようなもんなんでいろんな人に助けられ、お客さんにもその熱意が伝わったのか『みんなで盛り上げていこうぜ』という感じになったんです。千秋楽を迎える頃にはSNS上でもすごく"ワッショイ感"が出てましたね。東西の良い交流にもなりましたし、初めて落語を観る方、若い方もたくさん来てくださって、やって非常に良かったなという気持ちです」と語る。
東京公演が早々に決まった背景にはタイミングと昇羊の機転があった。「大阪だけじゃもったいない、東京でもやりたい」と思った昇羊はすぐに行動。「東西ラクフェス2024」は文化庁による2023年度の地域活性化事業(アートキャラバン2)に採択され、主催には上方落語協会が就くことにもなった。これで雀太の負担も軽減され、全員が高座に集中できる。小痴楽が「数週間でも遅れていたら参加できなかった。昇羊さんが早くに動いてくれて本当に助かりました」と言うほど絶妙のタイミングだったようだが、昇羊当人は「僕は『僕やります!』と言って動かないと、いちばん先にメンバーから外れる可能性があったんで怖かったんです(笑)。だから率先して動きました」と笑わせる。また「小痴楽兄さんが東京の若手を何人かピックアップして雀太兄さんに提案した中に、僕も入っていて。たまたま直前に国立演芸場の花形演芸会で雀太兄さんにご挨拶をしたばかりで、面識ができたから選んでいただけたと思います。運が良かったですし、本当にうれしかったです」と語り、偶然の縁を喜んだ。なお、昇羊は取材翌日にNHK新人落語大賞の本選に出場。番組史上初の生放送で『紙入れ』を披露し、惜しくも大賞は逃すものの二番手につけた。桂文珍ほか審査員にも高評価を受け、ますます脂が乗ると期待されている。
出演は他に立川吉笑、桂二葉、月亭太遊。東京公演も3部制ではあるが、第一部は「東西フレッシュ」と銘打って、より若い噺家が前説などを務める枠を設けた。こちらには昔昔亭昇、桂九ノ一、林家きよ彦、春風亭かけ橋が代わるがわる出演。ラクフェス本編の演者も共演する。そして第二部、第三部では東西から3人が1席ずつ口演。各回120分程度で、気軽に楽しめるタイムテーブルとなっている。小痴楽いわく「東京の落語会の多さを考えると、大阪でやったまんまの3部制で果たしてお客さんが来てくれるだろうかという懸念があった」そうだが、「吉笑さんが番組をはじめ、いろいろ考えてくれたんですよ」と言い、さらなる若手を押し出すことで3部の色分けを図ったという。なお、お得な1日通し券も急きょ発売されたので、3部すべて見比べるのがオススメ。
課題は共有していても、個々に、自由に
東西ラクフェスには、観客の新規開拓といった落語界全体の課題と向き合っている側面がある。彼らは次に何を見据えているのだろうか。「僕の思う理想の状態はあるけれど、芸人は個人商売なので、あまり言わないほうがいいのかなと。お客さんを増やすことは共通意識にあるとして、その方法となるとYouTubeをやる人もいれば、自分の芸を磨くことが第一という人もいる。考えはバラバラだから、こうなったら良いという意見はないんです」と小痴楽。雀太も「僕も概ね同じです。コロナ禍が始まって大変やった時、協会が一丸となって乗り越えていこうみたいな空気があったんですけど、『いや、芸人は一丸とならんほうがええんちゃうか』と。自由を認め合うほうがいいと考えたんです。みんながこうやってるからこうしなきゃいけないみたいな雰囲気がありましたけど、こういう時こそ『そんな呑気なやり方ありなんや』と社会に見せるのも芸人の仕事かなと思って」と語る。
ただ、小痴楽は「芸人がお客さんに寄り過ぎじゃないかとは思います。お客さんを怖がっているというのか。お客さんがいなかったら商売にならないんで笑ってくれるものを求めるのは当たり前ですけど、そこを気にし過ぎて自分のやりたいことが何だったのかを......。忘れてはいないのかもしれないけど、できなくなっちゃってますよね」と率直な想いも吐露した。それでも「演芸が唯一、今、浮世離れしてますよね。テレビとかにはない浮世離れ感」と言い、雀太も「僕らの落語を見てもらって『こんな感じでもいいんだ』と、心のキャパを少しでも広げてもらえたら」と応える。そんな先輩たちの話を聞いていた昇羊が「確かに兄さん二人を見たら、そのキャパ、だいぶん広がると思います。お二人、振れ幅があるので」と言うと一同爆笑。3人にはそれぞれの揺るぎない意志や芸人の自負、そして強い信頼関係を感じた。
3人寄っただけでも現場が明るくなるのだから、雀太が「そういう空気を味わいに来てほしい」と言うのも納得。小痴楽も「東西フレッシュも合わせれば計10人の芸人がいて、本当に十人十色、全員キャラクターが違う。そういうところを楽しんでいただけたらいいですね」とPRする。昇羊が「演者が自ら動いている、その熱量の高さがすごくいいなと強烈に感じていて。主催者より演者が積極的に動く。それは伝わったらいいですね」と言うように、噺家たちの手作り感満載のイベントは落語の知識に関わらず誰でも親しみやすいはず。観客もSNSなどを活かし、当事者気分で参加してほしいところだ。ちなみに、取材は名古屋で行われたので次回候補地として検討をお願いすると、前向きな回答。第3回を東西の真ん中・名古屋に招致するためにも東京公演を大成功させてもらうしかない!
取材・文/小島祐未子
(2023年12月26日更新)
チケット発売中 Pコード:522-756
〈第一部 東西フレッシュ〉
▼1月6日(土) 11:00
赤坂RED/THEATER
指定席-2000円
1日通し券-6500円(1/6(土)11:00、14:00、18:00公演の通し券。座席共通。)
[出演]桂雀太/春風亭かけ橋/春風亭昇羊/桂九ノ一
〈第二部 東西ラクフェス<昼の部>〉
▼1月6日(土) 14:00
赤坂RED/THEATER
指定席-2500円
[出演]桂雀太/桂二葉/春風亭昇羊
〈第三部 東西ラクフェス<夜の部>〉
▼1月6日(土) 18:00
赤坂RED/THEATER
指定席-2500円
[出演]柳亭小痴楽/立川吉笑/月亭太遊
〈第一部 東西フレッシュ〉
▼1月7日(日) 11:00
赤坂RED/THEATER
指定席-2000円
1日通し券-6500円(1/7(日)11:00、14:00、18:00公演の通し券。座席共通。)
[出演]月亭太遊/桂二葉/桂九ノ一/林家きよ彦
〈第二部 東西ラクフェス<昼の部>〉
▼1月7日(日) 14:00
赤坂RED/THEATER
指定席-2500円
[出演]月亭太遊/桂二葉/春風亭昇羊
〈第三部 東西ラクフェス<夜の部>〉
▼1月7日(日) 18:00
赤坂RED/THEATER
指定席-2500円
[出演]桂雀太/柳亭小痴楽/立川吉笑
〈第一部 東西フレッシュ〉
▼1月8日(月・祝) 11:00
赤坂RED/THEATER
指定席-2000円 1日通し券-6500円(1/8(月)11:00、14:00、18:00公演の通し券。座席共通。)
[出演]柳亭小痴楽/立川吉笑/昔昔亭昇/桂九ノ一
〈第二部 東西ラクフェス<昼の部>〉
▼1月8日(月・祝) 14:00
赤坂RED/THEATER
指定席-2500円
[出演]立川吉笑/桂二葉/春風亭昇羊
〈第三部 東西ラクフェス<夜の部>〉
▼1月8日(月・祝) 18:00
赤坂RED/THEATER
指定席-2500円
[出演]桂雀太/柳亭小痴楽/月亭太遊
※未就学児童は入場不可。1/6(土)1日通し券をご希望の方は1/6(土)11:00開演、1/7(日)1日通し券をご希望の方は1/7(日)11:00開演、1/8(月)1日通し券をご希望の方は1/8(月)11:00開演からご購入下さい。車いすでお越しの方は、お問い合わせ先まで事前にご連絡ください。
[問]上方落語協会■06-6354-7727