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キュウはなぜ“ちょっと複雑で考えさせるネタ”を作るのか
「変なことをやるのが楽しい、もっとワクワクしたい」

キュウの漫才は、光景ではなく図解が浮かぶ――。登場キャラクターの名前の濁点や半濁点を移動させてやり取りしていくネタ『ルパン』や、会話の受け答えの頭文字が「ゴリラ」になるネタ『ヨーグルトの話』など、じっくりと聞き込んだ上で考えながら楽しむものが多い。「世界観」というワードがしっくりくるような、異質な漫才だ。見たことがない変化球をズバズバと投げ込むそのスタイルで『M-1グランプリ 2022』の決勝へ進出し、同コンビはさらに脚光を浴びることに。そんなキュウが9月7日・20日に東京、9月14日に大阪、9月15日に名古屋で8回目の単独公演『初期の告辞』を開催する。毎回、伏線などを散りばめた構造的な内容の単独公演を実現させているキュウは、今回どんな内容を見せてくれるのか。ピロ、清水誠に話を訊いた。

清水「単独公演では笑いとは違うものを乗っける」


――キュウの単独公演はいつもいろんな仕掛けが張り巡らされていて、構造的なおもしろさがあることで知られています。『初期の告辞』もそういったものになりそうでしょうか。

ぴろ「そうですね、不思議な体験をしてもらえると思います。お笑いライブでこういうことをしている人はあまりいないというか。ただネタをやるだけの単独は味気ないですし。映画監督のクリストファー・ノーランも自分と近いことを言っていて感激したんですけど、ライブは『体感するもの』だと思うんです。一瞬、ゾクっとするなにかがあったり、空気感で伝わるものがあったり。キュウを見るというより、キュウを体験するという。ノーランもインタビューを読んだら、映画は体験するものとしてとらえているみたいなんです」

――確かにそうおっしゃっていますね。

ぴろ「ノーランは見たことがないような映像を次々と作っていますし、僕も『インセプション』(2010年)とかいろいろ好きで。まさに体現できているじゃないですか。だからそのインタビューを読んで『分かる、分かる』となったんです」

清水「僕は、そういうぴろが思い描く画を理解した上で、ちゃんと表現するのが役割です。お客さんにどういうふうに伝えるか、毎回考えています。ただ今回は、構成自体は比較的、シンプルです。一番シンプルだったのは前回の『最下位』だけど。『初期の告辞』で重要なのは細かい感情の揺れみたいなもの。『ここって、もっと怒ってる感じなの?』とか、『どれくらいの気持ちでこいつはこういうことを喋ってるの?』とか、演技プランをぴろと話し合っています」

ぴろ「僕らのネタって、変なことに怒ったり、ツッコミもまともなことを言ってなかったり、ふたりとも普通じゃない話ばかりしている。『これはどういう感情なのか』って、ネタごとに必ず話をするようにしています。情緒不安定なネタとかもあるし」

清水「今、ぴろの話を聞いて気づいたことがあるんですけど、普段のライブだったら感情の起伏とか喋り方について『こういうのが相応しいかな』とかそこまで話さなくても読み取れるんです。でも単独には"単独用の会話"があるというか。謎が解けたときに僕がとる感情や態度みたいなところが普段のライブとは違うんです。だからこそ、単独のときはぴろにそのあたりを詳しく聞くようにしています。つまり、単独をやるにあたって一つなにかを乗っけている部分があるんですよね。それは笑いとはまた違うものというか。もちろん最終的にはちゃんと"お笑いライブ"として笑える内容にしているんですけど」



ぴろ「みんな結構、手前で止めているなという感じ」


――ぴろさんはWEBメディアのコラムのなかで「タイトルや構成のすべてに意味を持たせる」「その作業は面倒臭いけど、ここまで面倒なことは誰もやらないだろうな、というところまで考えてやってみよう」と書いていらっしゃいました。そもそもキュウのネタや単独公演の仕組みって、鑑賞者に考えさせる要素が強いですよね。

ぴろ「本当なら、単独もネタだけを考えてやる方が楽。漫才と漫才の間は映像コントとかで繋いで。それでもお客さんには満足してもらえるはず。でも僕自身がちょっと変わったものが見たいんです。これまでお笑いの単独だけじゃなく、演劇とかもいろいろ見てみたんですけど、思ったよりみんなシンプルというか。たとえば、オシャレなコントをするコント師の単独でも、おもしろいけどそこまで仕掛けたことはやっていなかったり。結構、手前で止めているなという感じ。『みんなここまではやってないんだ。じゃあ俺らは漫才でやってみよう』って」

――キュウは、そういう複雑さや面倒臭さのおもしろみを感じていらっしゃるんじゃないかなって。それこそ現代のファスト文化の真逆というか。

ぴろ「分かりやすいものも大好きなんですけど、それってなにも考えずにできちゃう気がするんです。でも、それこそ単独公演は考える場所だと思っていて。だったら『面倒臭いけどやった方がおもしろいよな。じゃあ、やっていこう』って。それに芸人って基本的にはそこまで面倒なことをやりたいわけじゃないでしょうし」

清水「『自分らの漫才ができることってなんなのか』ということですよね。コントだったら、やるネタと公演の筋が繋がっているみたいなのってあるけど、漫才でそういうことをやるのはあまり聞かないですし。コントであれば筋に合わせて役を変えたりできるけど、漫才だからあくまで喋るのは僕ら二人だけ。そこでどうやって筋として成立させていくかって」

ぴろ「そうそう、コントだったら何人も出せるから、筋に合わせやすい。僕らは、登場人物は最初から最後まで二人だけなので」



ぴろ「コンビニ店員をやる、みたいなフリは僕らの漫才ではやりたくない」


――そういえば、そもそもキュウは普段のネタでもいわゆる漫才コントをやらないですよね。ネタのなかにキャラクターが出てこないですし。

ぴろ「僕らがそれをやってどうするんだろうと考えちゃうんです。少なくともそれをやって一番おもしろいコンビではない。そもそも漫才ってネタ、つまり嘘なんです。漫才コントは、本人として舞台に素で出ていって、そしてネタの途中で『コンビニ店員がやりたいんだよね』と役に入る。だけど、そこでの普通の会話も前もって用意してきたネタ(嘘)だし、その上でさらにコントという演技に入っていくとか、そういうフリは僕らの漫才ではいらないと思っています。それだったら最初からネタに入った状態で舞台に上がった方が良い。だからご指摘してくださった『キャラクターが出てこない』は厳密には違っていて、清水さんは最初からなにかになっているんです。『今からこの役をやる』とか言わずに、そういう人として出てくるんです」

清水「いわゆる分かりやすいキャラクターはやっていないんです。実は、出てきたときから変な人を演じているんですよね」

ぴろ「あとそもそも、『コンビニ店員をやりたいんだよね』みたいなフリをやりたくない。だってそれって、『今から変なことをやります』と宣言しているみたいなもの。そうではなく、『変だな』ということをフリを作らずに気づかせる方が気持ち良い。つまり、自分たちの日常自体をフリにしたい。で、日頃の会話としてずっとそうである体(てい)で舞台に立っていたいんです」

――なるほど。

ぴろ「実際『自分は漫才コントが好きなじゃない』と言っていた時期がありました。もちろんそれをやっていておもしろい人はたくさんいますし、決して否定しているわけではありません。でもどこかで『あ、漫才コントだ』と気になっちゃうんです。あと、漫才コントって自分のなかでは歌ネタに似ている気がしていて。受け入れてもらいやすい部分もあるし、あとその内容や状況に適さないことをやってボケるところとか」

清水「確かに漫才のなかでコントをやるのは替え歌的な気はするよね。コンビニネタであれば、コンビニという日常の替え歌みたいな。やっぱり、自分らは今やっているスタイルが一番向いている」

ぴろ「それに漫才コントにはアンタッチャブルさんとかがいるじゃないですか。あの方々にはやっぱり敵わないですよ(笑)。そこで個性を出す自信もないですし。そっちへ行っても全員には勝てないし、しかもその上で俺は俺でやりたいことがあるから」

清水「僕自身も、いろいろ考えることが好きだし。ぴろがネタを持ってきたときに、たとえば『ルパン』とかだったら『この言葉のなにを移動させようか』とか、一緒にいろいろ考えるのがおもしろい。そういう意味でも今のやり方が一番良い」

ぴろ「変なことをやったらどうなるか、というのはネタ作りの一番にありますね。こっちもやっていて楽しみになってくる。『お客さんがどんな反応になるんだろう』って。ちょっと変で気持ち悪いネタ。特に日本語として気持ちの悪いネタが好き。なんていうか、自分のなかでもっとワクワクしたいんです」



清水「あらためて『M-1』をがんばろうね...っていう」


――『初期の告辞』ではそんなキュウの世界がたっぷり味わえると思いますが、タイトルの「告辞」の意味にちなんで、あらためてお互いに伝えたいことはありますか。

ぴろ「あ、まさにその問いかけが今回の単独の始まりと重なるんですよ」

清水「あらためて伝えたいこと、なんだろう。まあ、あらためて『M-1』をがんばろうね...っていう(笑)。こんなにいろいろ喋ってきて、最後にどストレートなことを言っちゃうけどさ。でもやっぱり『M-1』をがんばらないといけない。やっぱり常に頭のどこかに『M-1』があるから」

ぴろ「僕が清水さんに伝えたいことは『2年後には申し分ないくらい有名になろう』ですね」

清水「まだ、2年もかかるんだ」

ぴろ「だけど2022年の『M-1』で決勝へ行ってようやくいろんな物事が大きく動いたし。一応、そこでレールには乗ることができた。それまでは自力で船を漕いで、でも割と行く宛もなく漂っていたから」

清水「そうだね。僕らは本当に徐々に、徐々に、ちょっとずつ知名度を上げていったので。『M-1』の決勝へ行くまでにめちゃくちゃ時間もかかりましたし。そう考えると、ここからまだ2年も時間がかかるというのはあながち間違っていない気がする」

ぴろ「この2年で積み上げるものによって、漕ぎ方がまた変わってくる気がします。これまでやってきたことは今後も続けて、でもそれだけではなく、新しくやってくることも、考えたり、判断したりして、正しく実行したい。そうすれば2年後には良い結果が出ると思います」

Text by 田辺ユウキ




(2023年8月31日更新)


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Profile

ぴろ
生年月日:1986年5月4日
出身地:愛知県
特技: イラスト、ポテトチップスをいい音を立てて食べる

清水 誠
生年月日:1984年2月23日
出身地:愛知県
特技:空手、瞬時に涙を流せる


第8回キュウ単独公演『初期の告辞』

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード:519-423
▼9月14日(木) 19:00
朝日生命ホール
全席指定-3500円
[作・出演・演出]キュウ
※未就学児童は入場不可。
※販売期間中はインターネット販売のみ。1人4枚まで。
[問]タイタン■03-3339-6639

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【愛知公演】
Sold out!!
▼9月15日(金) 19:00
名古屋市昭和文化小劇場
全席指定-3500円
[作・出演・演出]キュウ
※小学生以上有料。未就学児童は入場不可。
[問]タイタン■03-3339-6639
[問]クロスロードミュージック
■052-732-1822

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