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DJ樋口大喜の 落語家一日入門 第1回 対談編

FM802のDJで、落語に造詣が深く、高座で実際に落語も披露したことがある樋口大喜が天満天神繁昌亭を訪れ、桂塩鯛一門の桂米紫に1日入門! 落語家としての心得などを学ぶ前に、まずは落語家とDJの共通点や互いの行く末などを語り合った。

樋口大喜(以下、樋口) 今日はありがとうございます。

桂米紫(以下、米紫) いやいや、こちらこそです。ありがとうございます。

樋口
 米紫さんは最初、都んぼというお名前だったそうですね。29年前ですか、それが。


米紫
 そうですね。入門してすぐについた名前ですからね。


樋口
 へ~! 私
、今、31歳なんですよ。ほとんど一緒の芸歴。

higuchi_1.jpg米紫 ただただ辞めずに続けているだけ。気ぃついたらこんなになってしまっただけです。

樋口
 それがすごいなと改めて思いました。入門して、高座に上がるまでにどれくらいかかるんですか?


米紫
 それはね、師匠とか一門によってもちゃうねんけど、うちは「とりあえず舞台に上がってしゃべることが一番の稽古や」と。だから、1つ目のネタが上がってすぐにね、初舞台を踏みました。だから入門して3ヶ月とか。


樋口
 3ヶ月⁉


米紫 
3ヶ月でした。最初の「東の旅発端」っていうネタが上がってすぐに。うちの師匠が京都でやってた『染屋町寄席』いうて、50人入ったらいっぱいみたいなちっちゃい会場でしたけど、そこでいきなり初舞台。

2_higuchi_2_630.jpg樋口 その日の事は覚えてますか?

米紫
 覚えてますよ。1回目やったから同級生とか友達もね、ぎょうさん来てくれました。


樋口
 初高座はどうでしたか?


米紫
 多分、緊張はしてたやろうけど、覚えたことをしゃべるだけですから、そんなに大きく間違えずにはできたことは覚えてますね。ただ、最初のネタってね、そういうふうになってあるんです。難しいネタは、セリフをこういう言い方して、ここを間を空けてとかっていうことがあるんだけど、最初に教えてもらう前座ネタは、そういうものじゃなく、本当にただ覚えて、一生懸命しゃべればそれでOKですよというようなね、そこからのスタートなんです。だから、覚えて、大きな声でしゃべるということだけを考えたら、そんなに難しくはない。


樋口
 なるほど~。落語家に必要な要素ってたくさんあると思うんですけど、その話を聞くと記憶力ですか。


米紫
 これもね、たとえば居酒屋で会うおっちゃんとかに「落語家です」とか言ったら、「落語家さんは、ようあんな覚えはるね」とか言われんねんけど、覚えんのって案外ね、覚えられるんですよ。何べんも稽古して、一生懸命やればね、覚えられるんです。記憶力よりも、なんやろうな、アレンジ力というか。これは表向きに言ってかっこいいことじゃないですけど、なんぼ覚えてても間違えたり、出てけぇへんかったりすることってあるじゃないですか。そこでどうごまかすかという方が実はプロとしては求められたりします。それはDJの方ともあるんじゃないですか?


樋口
 めちゃめちゃそうですね。

3_higuchi_3_630.jpg米紫 リスナーさんが気づかないようなごまかし方ができればいいわけで。

樋口
 そうですね。リカバーみたいなところで、逆にそこで実力が出るみたいな。


米紫
 そうそう、それは落語家も一緒やと思いますわ。だから、稽古通りにしゃべってても、何かが起こって落語を中断して、アドリブを言わないといけない時とか、そういう時の瞬発力とか、噺に戻す力とかの方が実は大変なんちゃうかなと思います。

樋口 確かに。ラジオDJの先輩のマーキーの人生訓みたいなものに「人生現場処理」っていうのがあるんですけど...。

米紫 
絶対そうやと思うわ。


樋口
 まさにそういうことですよね。その場でその場で対応していくっていう。

米紫 そうそうそう。だから、米朝一門もそうなんですけど、舞台に出てしゃべることが稽古やっていうのは、そういうことなんでしょうね。家でなんぼ稽古をしても、本番で全然、違うことが起こったり、その時、その時の会場でお客さんの反応も別々です。それはやっぱり現場第一なんでしょうね。

樋口
 すごい生ものですね。


米紫
 めちゃくちゃ生ものですね。

1_higuchi_1_630.jpg樋口 見てる側も、それが楽しいというか。

米紫
 やってる側もそうですね。ほんまに謙遜じゃなく、もうバッチリ、こっちの調子もいいし、お客さんとのフィーリングも合って、今日は思った通りに行ったなっていう高座って、1年に1回、あればええような気がするんですよ。

樋口 へ~! ゾーンに入るみたいなことって、感覚としてあるんですか?

米紫 あります、あります。稽古してる時に絶対出てけえへんかったセリフが本番で出たり。それはお客さんにも乗せてもらって、登場人物になりきる時があるんですよね。たとえば喜六と清八だったら、ほんまに喜六の気持ちでしゃべるんです。本番ではお客さんに乗せられるからね、そういうことが起こる時があるんですよ。

樋口
 へー!


米紫
 舞台上でしゃべりながら、ほんま他人事みたいに「喜六はおもろいこと、言いよんな」って、俯瞰して言う時もあります。私
では考えつかなかいことを舞台上の喜六が言ってるんですよ。それも年間通じて1回あるかないかです。けど、そういう瞬間はめちゃくちゃアドレナリンが出ますね。DJやっていても、ないですか? 

樋口 どうでしょう...。ヒロ寺平さんという私のDJの先生みたいな方がずっと言っていたのは、「長年やっていると、マイクの横に丸い顔が見えてくるんや」と。「俺はその人に話しかけてる」って。

米紫
 それはリスナー?

樋口 自分の中で思い描いてる「こういう人」みたいな、リスナーが出てくると。私はまだその感覚に至ったことはないですね。

米紫 当たり前のことやけど、私らって基本的にお客さんを前にするけど...。

樋口 そうなんですよ。ラジオって目の前にリスナーがいないから。

米紫 
そうやんね。でも逆にね、ラジオを聞いてすごく勉強になるのが、究極の一人しゃべりじゃないですか。私らはお客さんがいるから意識できるけど、完全にお客さんのいないところで語りかけて、それでも感情込めてっていうのはね、私らはすごいなって思います。

2_higuchi_4_630.jpg樋口 落語と似てるなと思うのは、自分で言って自分でツッコむことしかできないんですよ。

米紫
 そうそうそう(笑)。

樋口 だから、ある程度、俯瞰しとかないとラジオも成立しないというか。

米紫 そうやんね。これは究極のネタくりというか、落語のリズムをつかむために一人の家に帰って、「ただいま」「おかえり。今日何してたん?」「今日は朝から樋口大樹さんに取材してもうて、繁昌亭でな、朝からぴあの取材があって」「うわ、すごいな。マジで? ぴあに載るの?」とか言うのね...。

樋口 やってるんですか!?

米紫
 毎日はやらないですよ(笑)。たまに、頭の中でそんなことをしていると、これって落語やなと。ナチュラルなしゃべりになってますやん。こういうナチュラルさを実は古典落語の中にも必要なんじゃないかなって。「こんにちは」「おまはんかいな、こっち入り」っていう、いかにも昔の人の会話というものではなく、頭の中で会話するように落語ができへんかなっていうのは思いますね。


樋口 
うわ~。それ、めっちゃ言われますよ、ラジオで。もっと普通にしゃべったらええやんって言われる。


米紫
 普通に? なるほど。


樋口
 曲紹介の時に力み過ぎてたりするんだろうなと思うんですよ。曲がバーンと変わった時に、力がグッと入っちゃうと、「いや、もっと普通にしゃべったらええのにな」って言われることが多い。

3_higuchi_5_630.jpg米紫 それはね、よう分かる。落語家もそうやもん。マクラはめっちゃ自分の言葉で、「この間こんなことがありましてね、こんなおかしいと思いません?」とか言って、今から落語を聞いてもらいます言うて、「こんにちは」「おうおう、誰や思うたらおまはんかいな」って全然、口調が違う。落語するとそういうふうにしゃべらないかんっていう脳になっているんでしょうね。

樋口
 そうそうそう。だからそれが今、一つの課題やなって思います。


米紫
 あー。なるほどね。


樋口
 流れるように。ヒロさんが言っていたのは「トーク・ライク・シンギング」。


米紫
 あー、「歌うように」。それは多分ね、年齢的なものもあると思いますわ。落語家もそうですけど、いい意味で図太くなってくるのもある種、魅力になるっていうのかな。うちの師匠の塩鯛は桂ざこば一門の一番弟子やし、「勢いようやれー!」みたいな感じやったけど、最近はめちゃくちゃナチュラルにしゃべってはるんですよ。若い頃に「バーンと行けー!」って言うてたのは何やったん?って思くらい(笑)、すごいナチュラルになって。やっぱり年齢を重ねることによって丸みがついてくるから。若い頃から丸かった人は大して伸びしろがないと思うんですよ。


樋口
 へ~!

4_higuchi_6_630.jpg米紫 私はざこば一門やから余計にそう思うのかもしれんけど。うちの師匠が「若い頃はガーン!と行け」って言ってたんは、多分、そういうことなんやろうと。自然と人間って丸くなってくるし、多分、それはDJさんも一緒やと思います。

樋口
 ほんま、そう思いますね。いい感じで力が抜けてきたら、そこからまた新しいスタートなのかなと思ったりも。


米紫
 自然と丸なってきますよ。師匠は39歳やったかな、私が入門したときは。それが今、68歳ですから。それは一つの境地やし、その高みに行きたいなと思いますよね。今、私はにぎやかな芸風やけど、自分自身が60歳、70歳になったときにどうなっているのか、それは楽しみでもありますね。

文/岩本
撮影/福家信哉




(2023年8月17日更新)


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