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それぞれの「面白み」を追求した長尺ネタをたっぷりと

桂春蝶、桂吉弥、春風亭一之輔と東西の人気噺家が一堂に会し、渾身の一席を披露する『春蝶・吉弥と一之輔 三人噺 2023』(以下、『三人噺』)が4月28日、大阪市中央公会堂 大集会室で行われた。

夜の部は、昼の部でトリを務めた一之輔からスタート。改めて会場を見渡して「こんなにいっぱい人が集まってくれて、すごいことです。ありがたいですね」としみじみ。そして「今年から生活が変わった」と、今年からレギュラー出演の大喜利番組『笑点』にまつわるエピソードで沸かせた。本題では「人間にはいろんな感情がある。やきもちとか...」と前置きし、『不動坊火焔』を口演。やもめ暮らしの男の元に夫を急に亡くしたお滝さんが嫁ぐと知った男たちの悪だくみを描いた滑稽噺で、ばかばかしい場面を軽快に描き、笑いを誘う。登場人物が太鼓を叩く場面では、「俺が叩く太鼓の音、公会堂に響けー!」と、一之輔の魂の絶叫にどっという地響きのような笑いが沸き起こった。

続いては、桂春蝶が伝説の歌舞伎役者を描いた芝居噺『中村仲蔵』を。マクラでは「物を食べている人の前でしゃべることほどつらいことはない」と、ホテルでの落語会のエピソードを披露。また、ちょっと脱線と言って「東京になくて大阪にあるもの」など冗談を交えながら、じわじわと落語の世界へと導いていく。主人公と仲蔵とたまたま居合わせた浪人とのそば屋でのやり取りや、仲蔵が歌舞伎の舞台に立った場面など丁寧に描く春蝶、まるで緻密な線で構成された漫画を見ているような感覚だ。仲蔵と自身の職業である噺家の心情を重ね合わせながら、また、緊張と緩和を巧みに織り交ぜながら、大きなスケール感で描いていった。

夜の部のトリを務めたのは吉弥。ボリューム感のある一之輔、春蝶の後とあって「もう今日は解散してもええ」と言って和ませる。演目は今でいう宝くじの抽選会の顛末を描いた『高津の富』で、大阪に実在する高津神社が話の舞台に。本題に入る前には「寄る年波に勝てない悲哀あるある」と言って、「落語を一生懸命やり過ぎて笑いを取るのを忘れる」と冗談を。意味深な拍手が沸き起こり、思わず苦笑い。そして本題へ。淀屋橋からミナミ、高津神社と大阪の地名が多く出てくる親しみやすい世界観に観客は一気に引き込まれていく。時には小唄も披露、吉弥の朗々とした声が中央公会堂に響き渡った。高額の宝くじに当選すると、人は信じがたい行動をとってしまうと言うのは今も昔も変わらず。人間味あふれる噺で笑を誘った。

『三人噺』の模様は、あさ5時からの『らくごのお時間』(MBS)で放送予定、3か月連続で、1時間スペシャルでお届けする。

取材・文/岩本




MBS『らくごのお時間「三人噺」1時間SP』オンエア予定
▼5月28日(日)午前5:00~6:00 春風亭一之輔『不動坊火焔』
▼6月25日(日)午前5:00~6:00 桂吉弥『親子酒』
▼7月23日(日)午前5:00~6:00 桂春蝶『中村仲蔵』
公演直後の3人へのインタビューもあり。

https://www.mbs.jp/rakugotime/

(2023年5月25日更新)


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