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『三人噺』が落語界の底上げにと願う桂春蝶
「後輩には、あの世代ができるなら俺もと奮闘してほしい」

桂春蝶、桂吉弥、春風亭一之輔と東西の人気噺家が一堂に会し、渾身の一席を披露する『三人噺』。第二回が4月28日(金)、大阪市中央公会堂 大集会室にて開催される。演目は、昼の部が春蝶『二階ぞめき』、吉弥『親子酒』、一之輔『子別れ』。夜の部が、春蝶『中村仲蔵』、吉弥『高津の富』、一之輔『不動坊火焔』に決定した。開催を前に、それぞれにインタビューを実施。春蝶は、自身が手掛ける創作落語シリーズ「桂春蝶の落語で伝えたい思い」をきっかけに得た新たな表現や、『三人噺』の存在意義などを語った。

----まずは第一回の「三人噺」が行われた2022年を振り返ってもらいたいのですが、どんな1年でしたか。

僕は「桂春蝶の落語で伝えたい思い」という創作落語のシリーズをずっとやってきているんですけど、2022年は初めて2本、おろしたんです。ひとつは中島らもさん原作の『お父さんのバックドロップ』を落語化したもの。もうひとつは、アイヌ民族の迫害と昭和20年8月18日に起きた北海道・千島列島の「占守島(しゅむしゅとう)の戦い」を合わせた『はまなすの誓い』という落語です。それだけに作る1年だったような気がします。あと、秋には『男の花道』という落語をしました。今、歌舞伎でもよく演じられているんですけど、俳優の中村歌右衛門の話です。それを自分なりにアレンジして作っていくことが面白い。古典もね、「ここってどうなんだろう」と違和感を感じるところとか、現代に合わなくなってきているところとかあるじゃないですか。そういう感覚をすごく大切にしているのですが、違和感を取り除くためにはどうしたらいいんだろうと考えていて、それを演じていく面白味を再認識した1年だったような気がしますね。

----充実した1年ですね。

まあ、生活もありますからね(笑)。

----吉弥さんからは年末に沖縄に行き、ひめゆりの塔に行かれたというお話もありましたが...。

それで思い出したんですけど、折しも2022年の11月に沖縄の復帰50周年記念の会が尼崎のアルカイックホールでありましてね。琉球舞踊と琉球の古典のお芝居をやった後に、「春蝶さん、何分でもいいですから、沖縄への思いを語ってください」と。「落語はいらないです。思いを語ってください」と。落語じゃなくて。え? 舞踊を観て、琉球史劇『首里城明け渡し』というお芝居を観た後に? 沖縄の人間じゃない僕がどう語るの? と。それで、元ひめゆり学徒隊の皆さん、南風原(はえばる)の陸軍病院壕で従事されていた従軍看護婦の方々とかにずっと話を聞いてきたので、それを土台に語らせていただいたんですけど、自分なりにやってきたことで助けられたなとは思いましたね。

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----「沖縄の人間じゃない僕がどう語るの?」という葛藤もありながら。

ひめゆり平和祈念資料館のキュレーターの皆さんが、「春蝶さんのやっていることには、表向きは協力できません」と。なぜなら、ひめゆり平和祈念資料館は何のために建てられたかというと、昭和20年代に「この子たちは国のために喜んで身を捧げた」みたいなことを新聞紙上に書かれて。事実と反することが嫌で、事実を伝えたいということで建てられたのだと。僕の落語は創作なので、ひとつでも作り話があったら協力できないですよと。だけど観に来てくださいました。それこそ6月23日の慰霊の日の翌日、6月24日に沖縄の国立劇場で『二ライカナイで逢いましょう ひめゆり学徒隊秘抄録』をやったんですけど、そのときに皆さんが観に来てくださって。元ひめゆり学徒隊の方も観に来てくださって、「私達が今やっていることには限界があることを感じているんです」と本音を語ってくれはったんですよね。何が限界があるかというと、事実をずっと語ると、今の学生さんなんかにはストレスがかかり過ぎると...。

----あまりの凄惨さにトラウマにもなりかねない...。

だから、「春蝶さんのようにどうやって柔らかく、物語のように伝えられるのかというのは、私達の一番の課題なんです」とおっしゃってくださったんですよ。その時、落語家をやっていて、そういう仕事もあるのかと再認識したっていうか。語りや話芸で、生々しいものを伝えるというよりも、人間のぬくもりとかね、そういったものを伝えられたらなと...。

----沖縄の方々のご感想など聞いたことはありますか?

アンケートに印象的なことが書いてあって。同じことが3枚書かれていました。「内地の人が作るものの中で、初めてオジーをオバーから聞かされたぬくもりを感じました」と。それはもう涙が出ましたね。すごく嬉しかったです。僕自身も、同じぬくもりを映画の『この世界の片隅に』で感じて。人間がどうやって頑張って希望を持って生きていたのか。倹約する中でも笑顔が出たりとかね。そういうことを落語も目指せられるのかなと思ってます。制作費もそんなにかけずに、実現できるのかなって。だんだん、そういう役割としてもあるのかなと思ってきましたね。

----先輩方もいろんなことをされてきていますが、若い世代からも「こういう見せ方ができるんだよ」と、新しい道を提示できそうですね。

広義的に言ったら、落語も人間を語るということなので。笑いはそのうちのひとつだと思うんです。人間というもの、たとえば立川談志師匠が「業の肯定」と言ったのならばね、業の面白みとか、おかしみ、愚かさ、悲しみ、そんなんを全部語っていくことだから、いろんな表現があっていいのかなと思いますね。

----春蝶さんは今、拠点を東京に移されていますが、東京での落語はどうですか?

僕、東京に行かしてもらっていて、ちょっとわかることがあるのは、東京の人は上方の笑いとか、明るさみたいなものを求めていて、大阪のお客さんは江戸の話における情みたいなものを求めているなと。だから落語は今、うまい形で東西のいいものをブレンドしあって、本当に精神的にひとつになる時代が来たのかなと。いいところを交換し合う。だから上方にも今後は人情噺とかいっぱい増えてくると思うし、向こうはもうすでに始まってるけど、お笑いという要素がたくさん増えてくる。

----それこそ『三人噺』ですよね。

そう。ほんでまた、上方から江戸に輸出して、上方で誰もしなくなった噺もあるわけです。例えば今年の『三人噺』の昼の部でやらせていただく『二階ぞめき』もそうじゃないですかね。上方落語だけど、今、江戸でしか演じられてない。そういう噺を我々が逆輸入して、上方に持ってくることも大事なんだろうなと思いますね。前回の『三人噺』では、一之輔くんというフロントで走ってくれている人がうまいこと江戸の雰囲気も紹介してくれたので、上方とか、東京を問わず、今、最前線で戦っている、いわゆるお侍さんたちの武芸を見てください」というような会なのかなと思います。

----今年は会場が大阪市中央公会堂です。

なんかいいですね、レトロな建物で落語を聞くっていうのは。オムライス食べた後とかね。公会堂といえばオムライスのイメージがあります(笑)。

----中之島界隈に行くことはありますか?

あります。お花が多いでしょ、あのあたり。それこそ中之島美術館とか、ABCホールあたりまで、落語のお稽古でふら~っと川沿いを歩いて、また戻ってきたりとか。わざわざ淀屋橋でおりて、そこまで歩いたりしてます。

----『三人噺』にはトリネタを披露する、というテーマがあります。

前回の例にならうと、「ひとり40分ぐらいになってもいいので、もう独演会みたいな感覚でドーンとやってください」と。それって一人ひとりが責任を持って出るということですよね。寄席の責任を取る年齢が、僕らはどんどん遅くなっているのかなと思うんです。上の人に任せっきりというか、依存していて、責任を取るということに慣れてない。ですから、僕らの世代がこの会できっちり責任を取る姿を後輩にも見てもらって、「自分も責任持って舞台に上がらなあかんな」って、みんなが思ってくれたら落語界の底上げにもなると思います。『三人噺』はそれが一番の目的と言ってもいいぐらいかも。「あの世代ができているんやから、俺も」と奮闘してほしいなと思います。

取材・文/岩本
撮影/福家信哉




(2023年4月 6日更新)


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春蝶・吉弥と一之輔 三人噺 2023

Pick Up!

追加公演チケット発売中!

Pコード:518-104 
▼4月28日(金)13:45〈追加公演〉
大阪市中央公会堂 大集会室
全席指定-5500円
【演目】
桂春蝶「二階ぞめき」
桂吉弥「親子酒」
春風亭一之輔「子別れ」

▼4月28日(金)18:00〈完売〉
【演目】
桂春蝶「中村仲蔵」
桂吉弥「高津の富」
春風亭一之輔「不動坊火焔」
※未就学児童は入場不可。政府または地方自治代の判断によるイベント収容率に基づき、販売座席を決定致します。前後左右を空けた配席ではなく、他のお客様が座られる可能性がございますので予めご了承ください。当日はマスク着用、咳エチケット、検温、手指消毒にご協力ください。公演中止など主催者がやむを得ないと判断する場合以外、チケットの払い戻しはいたしません。
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