ホーム > インタビュー&レポート > 「落語家という立場にいるからこそ、 見て、聞いたことをもっと伝えていきたい」
----第一回の『三人噺』から間もなく1年が経ちますね。振り返ってみて、どんな1年でしたか。
林家うさぎ先輩に『隣の桜』というネタをお稽古してもらったり...。この噺は学生のときに勝手に覚えていて。で、入門してうちの師匠(桂吉朝)に「お前、落研のとき何(のネタ)やってた?」って聞かれたので「『隣の桜』です」って答えて。褒めてもらえるんかなと思ったら「素人のときに覚えたネタは全部忘れなさい」と。「えー!」言うて。それでやってなかったんです。でも、春の繁昌亭の昼席で、うさぎ先輩がやってはって、うわーっと思って。ほんで、うさぎ兄さんは染丸師匠から教わって、うちの師匠も染丸師匠からだったので、まったく一緒だったんです。あとは、初めて六代 桂文枝師匠に新作の『ないしょ話』をつけてもらって、お稽古してもらいました。このふたつのネタの稽古がきっかけで、自分のやっている落語も「こういうところはもっと面白くできるな」と考えたり、正直な自分の言葉でやってみようと思って。そしてお客さんの前でやって、「ああ、こんな反応になんのか」みたいな感じでしたね、2022年は。
----今、お隣で春蝶さんの1年をお伺いしましたが、同期の活躍には刺激を受けますか?
受けますね~。俺、ちょっとさぼってるなっていうか、歩みがゆっくりやなみたいな。彼のSNSの宣伝とか、皆さんが書いている(落語会などの)感想とかを見るにつけ、すごいなと思って。僕、12月の末にプライベートで沖縄に行ったんです。観たいものを観ようと思って、ひめゆりの塔に行ったり。ほんまに恥ずかしい話、1回も行ったことがなかったんですよね。そこで彼女たちが残した直筆の手紙を見たり、さきの戦争で県民の4人に1人が亡くなったことを知って。これはSNSとかラジオでもちょっとしゃべったんですけど、その時に思ったのは、もっと見るべきものを見て、聞いて、表現するっていうことをしようと...。落語家という表現できる立場にいる人間として、もっと見て聞いたことを言わないといけないんじゃないかなっていうのはちょっと思いましたね、年末に。
----沖縄ではほかに、どんなことがありましたか?
ひめゆり学徒隊の人たちは、「戦争で生き残った私達が何かを語るなんて...」みたいなことを言っていて。みんな細々と手を合わしていればいいじゃないかみたいな。戦後40年が経って、やっと皆さんで集まりましょうかということになって。ひめゆりの記念資料館ができたのは平成元年やからね。それまでみんな語らない、みたいな。6月23日の慰霊の日も、沖縄の人は意識するけど、離れて住んでいる者からしたら全然わからない。日本のために犠牲になった土地のことを、日本人が知らないみたいなね。6月23日という日も、沖縄戦を率いていたお偉いさんが自殺したから、国がこの日にしましょうと言っただけで、ひめゆり学徒隊の方からしたら、「いや、私ら、6月23日以降も、8月15日さえ知らずに隠れていた子たちもいるのに」って。そういうことを知って、僕らはほんま、しゃべっていかないといけない。
----そうなんですね。芸歴や年齢からも、次の世代に伝承するという役割も委ねられるようになったのかなと思いました。
たとえば、若い子たちにとっては、再現された壕とか、凄惨な映像とかを見るよりも、古典落語で沖縄とはまったく関係ないような噺を聞いて、笑いながら、でも「人と人が信じあうっていいな」とか、「家族っていいね」とか思って、「やっぱり平和っていいな」とか「幸せやな」と感じる方がいいのかもしれない。だから春蝶くんがひめゆり学徒隊をテーマにした落語を作って、演じるのは、リアルな映像を見るよりいいかもしれないですね。
----では『三人噺』について。今年は会場が大阪市中央公会堂になりまして、ちょっと雰囲気が変わりますよね。こちらで落語をされたことはありますか?
あります。「咲くやこの花賞」の贈呈式とか、結構、しゃべっていると思います。落語会も何回かやったな...。米朝師匠によくお話を聞いていましたけど、戦後、大きい落語会をするときは中央公会堂だったみたいで。当時、あれだけの大きさのホールが中央公会堂しかなくて。米朝師匠が「中央公会堂で落語できるのは嬉しかったなあ」とか、おっしゃっていましたね。お客さんの中にも、「中央公会堂は、外から見たことはあるけど、中に入るのは初めてや」という方もいらっしゃるでしょうし、会場が変わるとお客さんの雰囲気も変わると思います。
----今年もトリネタを昼夜、それぞれ一席ずつ披露されます。
こういう大きな会場でこの3人が揃うのはこの会しかないので、自分たちがいかにプレッシャーを受けて、どうできるのかというのが楽しみですね。先日、なんばグランド花月の『大阪落語祭』に出演したのですが、月亭方正さんが出て、僕が出て、桂米團治さんが出て。そのあと、中トリで桂福團治師匠が出て、『しじみ売り』をやって。もう何回も聞いたことがあるんですけど、その日も舞台袖でずっと聞いていて。改めて思ったんですけど、福團治師匠は普通のことしか言わないんですよ。セリフとか演じ方も。もちろん演じてはるけど、淡々としていて。意図的に間を詰めるとか、そんなことなく、ただただ『しじみ売り』の登場人物のセリフを普通にしゃべっている。それだけなのに、お客さんも泣いている。素晴らしかったです。改めて「すごいな、落語って」と思いました。
----そうなんですね。
淡々と普通の言葉をしゃべっているだけでも、お客さんには人情とか、気持ち、季節感とかがものすごく伝わっている。それが「芸」なんでしょうね。「ただただ語る福團治」という。あのお顔、姿から出る声、あれがもう芸なんだなと思ってね、すごいなと思ったんですよ。でも一方で、すっごい怖くなったんですよ。落語ってそういう「人(にん)」が出るんやなと改めて思って。ただ、福團治師匠も若いときからああじゃなくて、いろいろクリエイティブを繰り返して、ウケへんかったこともありはるやろうし。作っては壊し、作っては壊し、恥かいて、でも奮い立たせて高座に座って...みたいな。そういうことで今があると思うんですよね。
----吉弥さんも今、その道の途中にいますよね。
僕らもまだまだ。こういうポジションを与えられたからと言って、ゴールじゃなくて、「今日、何ができるか」「この日までに何ができるか」みたいなことをやっていかないといけないなと思います。春蝶くんが言うように、テクニックに走るとか、東京の人がやっているからとか、大阪でも先輩がやっている面白いやり方とか、みんな技術は学ぼうとする。「落語の中にこんなフレーズがあったら、おもろい」みたいなことは取り入れてやるんだけども、そうじゃなくて。「同じことを言っているのに、なんかこの人の落語には惹かれるな」と思われることだと。そこに気づいてやっている人間は、落語家として伸びていくし、お客さんがいいなと思う芸になっていくと思います。
取材・文/岩本
撮影/福家信哉
(2023年4月 6日更新)
Pコード:518-104
▼4月28日(金)13:45〈追加公演〉
大阪市中央公会堂 大集会室
全席指定-5500円
【演目】
桂春蝶「二階ぞめき」
桂吉弥「親子酒」
春風亭一之輔「子別れ」
▼4月28日(金)18:00〈完売〉
【演目】
桂春蝶「中村仲蔵」
桂吉弥「高津の富」
春風亭一之輔「不動坊火焔」
※未就学児童は入場不可。政府または地方自治代の判断によるイベント収容率に基づき、販売座席を決定致します。前後左右を空けた配席ではなく、他のお客様が座られる可能性がございますので予めご了承ください。当日はマスク着用、咳エチケット、検温、手指消毒にご協力ください。公演中止など主催者がやむを得ないと判断する場合以外、チケットの払い戻しはいたしません。
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