ホーム > インタビュー&レポート > 「お金を払って笑うということはすごく尊いこと。 その一歩を踏み出してほしい」
----2回目の『三人噺』ですが、前回は、気持ちの上では「全員、自分のファンになってもらおう」とか、そんな気概などはありましたか?
そこまで考えると噺がいやらしくなると思うんで、そんなこともなく。まあ、いつも通りですね。
----いつも通りじゃない時もありますか?
いつも不安定なんで...(笑)。
----逆に緊張するとか、プレッシャーを感じるとか、そういうことっておありですか?
緊張しますよ。高座に上がるまでは緊張してます。ちょっとね。座布団に座っちゃうとそうでもないですけど。もうしょうがないですもんね、そっからは。自分1人ですからね。責任は全部、自分だし、手柄も自分っつうか。なんか、気楽でもあり、シビアでもある。両面がありますね。
----そうなんですね。そして第2回の会場は大阪市中央公会堂です。
前は通ったことがあるんですよね。中に入ったことはないんでね、どんな会場なのか楽しみですね。
----全国のいろんな会場で落語会をされていますが、会場の雰囲気もネタ選びに影響はありますか?
結構ありますよ。舞台をチェックしてる時に客席に降りたりなんかすると、どんな噺が合うのかなとか考えながらマイクチェックとかしたり。厳かな雰囲気のところっつうのは、お客さんもちょっとピリッとする時もあると思うんですよね。まあでもね、堅苦しくならずに聞いてもらいたいなと思いますけどね。
----今、この取材時点では昼の部のネタが決まりました。「子別れ」をされますね。
頭から決めてこうってことになって、最初、春蝶兄さんが『二階ぞめき』という東京で言う廓噺、道楽ものの若旦那の噺。で、2番目に吉弥兄さんが『親子酒』で酔っ払いの噺をして。最初は酔っ払いの噺をやろうかなと思ってたんですけど、じゃあ「子別れ」しよって。
----そういう感じで決められて。
普通に寄席と一緒ですよ。前の人がこれやったからこれやろうかっていう。その場で決めたんで。
----『三人噺』のコンセプトはトリネタを独演会くらいのボリュームでやりましょうというものですが、寄席とも独演会とも違う落語会です。『三人噺』ならではの特徴は、前回出られた時にどういうふうに感じられましたか?
最初にトークをやったのかな。それでお客さんを探りながら...。なんですかね、東西で、キャリア的には僕は一番下で、ふたりとも結構先輩なんですけど、僕なんかはもう、甘えさせてもらっているような感じですね。アウェイだしね。まあ、一番偉そうだけど、若手なんで。自分でも自覚してますけどね、不遜な感じがあって。そんなことないんですけどね。まあ、好き勝手やらしてもらって、おいしいところをかっさらってく、ぐらいの気持ちで僕はやってます! あと、袖でおふたりの噺を聞くのが楽しみで、それは本当に思います。
----袖と客席では聞こえ方も違いますか。
全然違いますね。でも、もう20何年、客席で聞いてないんで忘れちゃいましたけどね。噺家って、同業者の落語を前で聞くのって基本、NGなんですよ。お芝居とか、お笑いの人なんかはね、切符買って見ることもあるけど、落語家の場合、大阪はどうなのかわかりませんけど、東京の噺家はダメですね。だから聞きたい時は楽屋に行って、差し入れとかちょっと気を遣いつつ、「袖から勉強さしてください」みたいな。それが多いですね。前で聞くのは失礼に当たるんだそうです。
----そうなんですね。全然知りませんでした。
だから、落語家になった瞬間から前で落語を聞けないんですよ。袖でずっと見てて、聞いてて。やっぱり演じてる人の立場で見ちゃいますよね。笑うとか、そういうことよりは、俺だったらどうしようかなとか。前だったらもっと楽しいだろうなと思って聞くこともありますけど、でもやっぱり前に同業者がいたら嫌ですよ。後輩がいても嫌だし、先輩がいたらもっと嫌だし。大阪もないと思いますよ。
----話は変わりますが、『笑点』のレギュラー決定、おめでとうございます。
...おめでたくないですよ。8割ぐらいの人は「おめでとう」って言いますね。あとの2割は「なんかがっかり」みたいな。
----そんな反応もあるんですね。
ありますよ。『笑点』って、特に東京の落語好きな人間からすると、なんつうか...僕なんかも学生の頃は落語原理主義者でしたから、『笑点』があるからいけないと思ってました。『笑点』なんてなくなればいいと思ってましたから。いや、本当に。『笑点』のせいで落語というものの地位が貶められている。『笑点』のせいでね、すぐ「なぞかけやれ」とか言われて。「着物来て、扇子持って、パチパチしては、ようようとか言ってる」っていうイメージを持たれるのは『笑点』のせいだと思ってました。あれは落語じゃねえみたいな。そういうことを思う人はいるわけですよ。落語が好きな人には。落語家の中にもいますから。だから、まあ、なんつうんすか、一般の人は落語家はみんな『笑点』に出たいと思ってると思いがちですよね。だから「おめでとう」っておっしゃると思うんですよ。まあ、運というか、タイミングとかもあるんでしょうけど。だから、オファーされた時は迷いましたよ。
----どのぐらい迷われましたか?
相当迷いましたね。何週間とか。人生が変わるぐらいの影響力がありますからね、本当に。この時代で世帯視聴率っつうのかな、それが15.8%とかだったかな、個人が9%ぐらいだったと思いますけど...。
----知名度が一気に上がりますね。
今はまだあれだけど、電車とか乗ってね、「あー!」とか言われるのも嫌じゃないですか。僕、愛想もいい方じゃないし、「サインしてください」とか言われても、めんどくせえなとか思う方なんで、全然向いてないんですよ、基本的に。人気者じゃないですか、『笑点』に出てる人って。僕は感じ悪いし、めんどくせえなとは思う。生きにくくなるなと思いつつ、どうしようかって考えた時に、まあ、現にこの会も、それかわかんないですけど、すぐ売れちゃったっつって。チケットが。それだけじゃないと思いますが、自分の会も、地方はいつも(チケットの売れ行きが)8割5分行きゃいいだろうっていうところが、あの日を境に全部埋まるようになってきたっていうのを聞くと、すごい影響力があるんだなと思いますし...。
----今まで落語会に行かなかったような方もちょっと聞いてみようかって。
興味はあったけど、『笑点』出てんだったら行ってみようみたいなね。そういう人が多いのかなと思うんですよね。
----それこそ一つの看板ですね。
そういうメリットはすごくあるし...。今まで来てくれた人はもちろんわかってると思うんですけど、『笑点』というのは、あれはバラエティーショーですから。その後ろにはやっぱり落語があるし、出てる人たちはみんな落語をやってるし、ライブで生きてるので、それをちゃんと聞いてもらって、今度また行こうとか、『笑点』を飛び越えて落語を好きになってもらったりするきっかけというか、そういうものになればいいのかなと思いながら。ひいては東京の寄席に来てもらって、いろんな落語家がいるんだな、落語って面白いねって思ってもらえる一助になればいいかなと...。ちょっとかっこいいこと言いましたけど。あともう1つは、ちょっと面白いかなってのもありますね、出ちゃうと。みんな驚くと思ったんで、同業者が。ええ!?つって。そしたら案の定、みんな驚いてたんで、ああ、面白いと思って。
----案の定(笑)。
一般の人は、候補にあげてくれても、同業者は「こいつは話が来ても断るだろう」と。ひねくれ者だしね。
----だから断らなかった。
それもちょっとあります(笑)。僕んとこにオファーは来ないと思ってたんですよ。ほんとに。
----起用の理由は何かお聞きになりましたか?
ほんとか嘘かわかんないけど、みんなの総意なんでみたいな。作り手のね。
----一之輔さんのキャラクターとしてのお役目もありますかね。
だから僕は言ったんですよ。僕はこういうキャラクターっていうか、これが地ですから、「そんなにニコニコもしてないし、変なことも言うし、そんなんでいいんですか?」っつったら、「それは別に構いませんので」みたいな...。
----ニコニコしてる姿も見たくなりますが(笑)
まあ、ある程度はニコニコしますけどね(笑)。僕もバカじゃないからね、微笑みぐらいはしますよ。
----妙に人が変わったような姿。テレビ向きの...。
愛想を振りまいているような。
----手を振ったり。
手ぇぐらい振りますよ。あー...つって。そこまでひねくれてない(笑)。めんどくさそうな顔しながら手ぇ振ってます。
----失礼しました(笑)。収録はどうですか。
面白いですよ。出演者はずっとゲラゲラ笑いながらやってます。すごいなと思って。そんなに編集っていう編集はしないんですよね。あのテンポでやっています。テンポも速いし、新たな発見がここひと月ぐらいありますね。
----学生の頃の一之輔さんは、どんな反応をしますかね。
「ろくなもんじゃねえな」って言うと思います。「『笑点』なんか出てるのか、お前は」って、学生の頃の自分はね、言うと思いますよ。「あ~、やだやだ」って。
----人生わかんないですね。あんなに嫌だと思ったものに出ることになるという。
そうだなぁ...。落語を聞いたことがない人、『笑点』しか知らない人には、どうしたって「『笑点』の一之輔」って思われがちだと思うので、「『笑点』にも出ている落語家の一之輔」と思ってもらえるようにするのは自分次第なんで、そうなれば一番ベストかなと思いますけど...。いや、「『笑点』にも出ているらしい、落語家の一之輔」でいいや(笑)。
----では最後に、『笑点』で一之輔さんをご覧になって、落語を聞いてみたいなと思った方に、『三人噺』への誘い文句をお願いします。
『笑点』でやってることより何倍も面白いことを生で見られると思います。それは僕だけじゃなくて、出ているみんなそうですけど。お金を払って笑うっていうのはすごく尊いことなんで、その一歩踏み出してほしいですね。もちろんね、病気で療養してる人なんかは、なかなか来られないと思いますけど、もし興味を持ってもらえたら、この会にも来るのもそうだし、落語はネットとかでも見られますから、「落語」で検索して、配信でも何でも、触れてもらえると嬉しいなと思います。『笑点』の先を見に来てもらえるといいなと思いますし、東京に来た時には、寄席にも来てもらえるといいなと思います。
取材・文/岩本
撮影/福家信哉
(2023年4月 6日更新)
Pコード:518-104
▼4月28日(金)13:45〈追加公演〉
大阪市中央公会堂 大集会室
全席指定-5500円
【演目】
桂春蝶「二階ぞめき」
桂吉弥「親子酒」
春風亭一之輔「子別れ」
▼4月28日(金)18:00〈完売〉
【演目】
桂春蝶「中村仲蔵」
桂吉弥「高津の富」
春風亭一之輔「不動坊火焔」
※未就学児童は入場不可。政府または地方自治代の判断によるイベント収容率に基づき、販売座席を決定致します。前後左右を空けた配席ではなく、他のお客様が座られる可能性がございますので予めご了承ください。当日はマスク着用、咳エチケット、検温、手指消毒にご協力ください。公演中止など主催者がやむを得ないと判断する場合以外、チケットの払い戻しはいたしません。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888