ホーム > インタビュー&レポート > 『新・幕末純情伝』11代目沖田総司は菅井友香! 「沖田の強さの中にある、人を思う優しさを伝えたい」
――東京公演はどうでしたか。
怪我なく、止まることなく、皆さんに応援していただいて、出演者全員が揃って終えられたことにほっとしています。毎日ベストを尽くしている中で、本番が始まってからの変化もそれぞれあったと思いますし、自分自身も感じましたし、いろんな変化が楽しくて。精神的にも、体力的にもギリギリの日々でしたが、そこにすごくやりがいを感じました。何より、来てくださった方々が、深く、温かく応援してくださったことがすごく嬉しかったです。
――菅井さんご自身には、どんな変化がありましたか。
毎日勉強というか。大変で、追い詰められることもありましたが、そういう時に「沖田総司もこれぐらい大変な中で人を斬ったのかな」とか思ったり、感情が苦しくなることがあっても、それが役に投影されたり...。キャストの皆さんのお芝居を受けて、今まで気づかなかったことで感情が動かされたりとか、毎日いろんな発見もありました。この作品は、殺陣のシーンもありますし、後半になるにつれて大切な人に追い詰められてしまったりとか、いろんなシーンが続いていくので、その中での感じ方が毎日違ったり、想像でしかないけれど、また、史実とはちょっと違う部分もありますが、「『幕末純情伝』での(女性である)沖田総司はどれだけ辛かったかな」と思うと、毎日心がギュッとなりました。
――殺陣の稽古はいかがでしたか?
最初は刀の持ち方もちゃんとわからなかったので、1から勉強させていただきました。実際に稽古が始まって、演者の方と呼吸を合わせて斬っていくうちに楽しくなって、今は殺陣もすごく楽しいです。殺陣では「筋がいい」と褒めていただくことがあって、それもすごく嬉しくて、いっぱい練習しました(笑)。
――運動は得意な方ですか?
小さい頃からバレエを習っていたのと、小学校の頃から乗馬もしていて、体幹はずっと鍛えていたので...。殺陣の順番も振付を覚える感覚で覚えていたので、「覚えが早い」と言っていただいたのですが、居残り練習をしていたら、キャストの方もそれに付き合ってくださったりとか、朝もお稽古の前に殺陣の先生が見てくださって。より良くするために映像を見ながら教えてくださったり、皆さんにすごくサポートしていただきました。
――菅井さん以外の俳優さんは全員男性です。フィジカルの違いで大変だったことはありますか?
声量とかはすごく感じました。男性というのもありますし、舞台でずっとやられている方々は、声量から発声から本当に違うなと思ったので、ちゃんと言葉が伝わるように頑張ろうと意識していました。あと、『飛龍伝』でもご一緒して、すごく頼りにさせていただいている(北区つかこうへい劇団の)吉田智則さんが、「初めてつかさんの作品に出られる方もいるから発声をやった方がいい」とおっしゃって、智則さんのボイトレタイムも途中から追加してくださって、呼吸を深くして発声する練習とか、それもすごくためになりました。
――吉田さんはつかさんの演出を実際に受けてこられた方ですよね。
そうなんです。『幕末純情伝』も何役も経験されていて、大ベテランの俳優さんです。私はお稽古場に一番早く行こうと意識していたのですが、いつも智則さんがもう稽古場にいて。私が悩んでいた時もすぐ気付いてアドバイスしてくださって。その言葉をすごく大事にしているのですが、いろんな経験をされてきた中で、智則さんは「うまくやろうとか、難しいことを考えずに、真剣にやることが結局は大事なんじゃないかな」と言ってくださって。その時、確かに私はいろいろ考えすぎて、うまくやろうとしていたなと気づきました。また、つかさんが遺された言葉で智則さんが大事にされている言葉もいろいろ教えてくださって、それもすごく励みになりました。
――つかさんの言葉というのは?
「誰が誰をどう思ったか、どれだけ憎んだか、その両方だったか。大事なのはこれだけ」と。「芝居なんて、これさえあればいいんだ」とつかさんがおっしゃったそうです。私はつかさんとお会いできなかったけれど、つかさんの作品をこうして『復活祭』でやらせていただくにあたって、つかさんと一緒に作ってこられた方に、つかさんの言葉を直接教えていただけて、いろいろ考えさせられます。武田義晴(岡田重蔵/岩倉具視役)さんも大ベテランで、ずっとつかさんの作品に出られていて。今回、初めてご一緒させていただいたのですが、いつも「楽しんでる?」と優しく見守ってくださって。智則さんと武田さんのおふたりは、「若い子たちが楽しくやってくれればそれでいいよ」みたいな感じで、見守ってくださって。心強い大ベテランの方々がいてくださって、ありがたかったですね。
――このお稽古も大変だったのではと思いますが、「成長した」と思うことがあったら教えてください。
私は元々欅坂46の1期生で、欅坂46、櫻坂46のキャプテンになったのですが、今、卒業して思うのは、グループでのそういった経験がよかったなって。総司を演じるにあたって、グループの活動で感じたことを重ねて「ひょっとしたら沖田も、こういう気持ちがあったのかな」と思ったりして、何でも経験することは大事だなと思いました。座長もいきなりやるとなると難しかったかもしれませんが----今もまだまだですけど、キャプテンを経験していたから、それが心の支えになっているように思います。
――菅井さんが沖田総司を演じるにあたって、一番大事にされていることは何ですか?
このお話は、沖田総司が女だったという設定に加えて、捨て子で、両親を知らなくて、拾われて、しかも肺病を持っているので周りにうつさないようにと気を遣って、申し訳なさを感じて生きてきたという生い立ちがあって。男として1人で生きていかなきゃいけないので、言葉もすごく荒々しくて、「~だろうが!」とか、強い口調が多いのですが、その中でも本当の居場所や家族を求めていたのかなと考えると、(沖田の)言葉の裏にある本当の気持ちを大事にしたいと思って演じています。
――菅井さんが演じられる沖田総司は、どういう人物像でしょうか。
総司は、心に寂しさみたいなものもあるけど、だからこそ周りの人を信じることを諦めない真っすぐさもあって、それを表現したいです。観てくださった方も「すごく強くて優しい沖田総司が大好きになった」と言ってくださって。確かに巧みな剣術の持ち主ではあるけれども、きっと斬るのは愛する人のためであり、もちろん人を斬ることへの葛藤もあると思うし、強さの中に人を思う優しさもあって。そこも伝えられたらいいなと思います。
――劇中、一番グッとくる場面はありますか?
全部の登場人物が魅力的で、好きなシーンが多いのですが、後半にある智則さん演じる勝海舟と坂本龍馬を演じる松大航也さんが言い合いをするシーンでは、いつも裏で聞いていてグッときます。自分が舞台にいるときは、坂本龍馬が手紙を読んでくれるシーンとか、高橋龍輝さん演じる土方歳三が総司のために「ひな祭りをやってくれませんか」と勝海舟にお願いするシーンでは「そこまで言ってくれるんだ」と土方の思いを感じて、グッと来ますね。
――2作目のつか作品ですが、どういうところに面白さを感じられますか?
人間らしさというのか、人間臭いというのか、すべてをさらけ出して、まっすぐ向き合って、表現されていて。演じさせていただく中で、「こことここが繋がっていたんだ」と後から気づいて、ハッとさせられることもありますし、表現の仕方に驚くことが多いのが魅力のひとつなのかなと思います。
――つか作品に出会って、ものの考え方とか、何か変化はありましたか?
『飛龍伝2020』のときにも思ったのですが、愛というものを大切にされていたんだなと私は受け取っていて。だからこそ大切な人にはっきりと気持ちを伝えた方がいい、その伝え方にもいろんな種類があることを教えていただいたように思います。今、言葉を伝える手段はいろいろありますが、自分の声と言葉でちゃんと伝えたい、それが一番、伝わるのではと思うようになりました。今回の『新・幕末純情伝』も、もちろん人を思う気持ちを持って、生まれてきたからには自分の言いたいことを主張していい、「いっぱい伝えていいんだよ」と言ってくれているような気がして。そこにすごくパワーをもらっているように思います。
――今回のキャストを代表して、坂本龍馬を演じる松大航也さんと土方歳三を演じる高橋龍輝さん、おふたりの魅力を教えてください。
高橋さんは、若手といってもベテランさんで、気迫があって、稽古でも、馬力があるというか、パワフルに導いてくださいました。だからこそ、土方さんとのシーンでは心が自然と動いていくことが多くて、引っ張ってくださいました。稽古場でも、今回初めて出演される桂小五郎役の関隼汰くんのことをすごくかわいがって、面倒を見ていらっしゃったり、周りの若手の方々にも目を配られていて、その点でも学ばせていただきました。表現でも、倒れてしまうんじゃないかと思うぐらいパワフルに演じられるところが本当にすごいなと思って。一度、演技のお話を聞いてみたら、「相手のためにセリフをしゃべるようにしている」とおっしゃって。それを聞いて、「ああ、自分もその領域に...」と、セリフを受けるだけじゃなくて、自分で話を動かしていけるようになりたいなと思いました。
――松大さんはいかがですか?
松大さんは、まっすぐに球を投げてくださる方で、ダイレクトに心に響くことが多くて。本番が始まってからも、毎日変わっていかれて。試行錯誤しながらだったかもしれませんが、毎日違う龍馬だったので、私も新鮮に、楽しくやらせていただきました。
――土方とは剣を交えるシーンもありますね。沖田にとって大事な人と対峙しないといけない場面ですが、どういうふうに心が動きますか?
お互い好きだったのに剣を合わせなきゃいけなくなってしまうことへのやるせなさというか、時代に対する悔しさみたいなものをすごく感じて、いろんな思いがこみ上げてきました。
――龍馬との印象的な場面はありますか?
龍馬とは、一緒に戦う最中に助けてくれるシーンがあって、そこは総司が龍馬に惹かれるきっかけになる場面でもあります。殺陣も難しく、今でも緊張するのですが、「生きるか死ぬか」という緊張感の中にあってユーモアもある、楽しいシーンです。
――稽古場はどんな雰囲気でしたか?
クリスマスとかお正月にみんなと仲良くなれるようにイベントを用意してくださって、それがすごく楽しい時間でした。クリスマスには岡村さん主催のサプライズがあって、キャストの方全員が私にクリスマスプレゼントを用意してくださいました。それもすごくびっくりして、嬉しくて、その時いただいた靴下とか、のど飴とか、ハンドクリームとか、今、全部、使ってます(笑)。一人一人準備してくださって、すべてを紹介したいぐらい嬉しかったです。
――菅井さんは、今もとても穏やかにお話をされていますが、舞台ではものすごくパワフルですよね。本番ではどう切り替えていらっしゃるんですか?
昔から家族に「ミノムシ」って言われるくらい、普段は結構、省エネしてしまうのですが、舞台に立たせていただくにあたっては、舞台に上がる前にパワーが湧いてくるというか、気合を入れると「やるしかない!」という気持ちになって。舞台は生半可な気持ちで立っていい場所ではないと思うので常に本気で、毎回、気合を入れて、立てることに感謝して、責任を持って上がりたいなと思っています。
――まもなく大千秋楽を迎えますが、この舞台が終わったらやろうと思っていることとか、楽しみにしていることはありますか?
劇中、高知の桂浜が出てくるので、実際に見に行ってみたいなとか、『飛龍伝』の神林美智子が生まれた高松にもまだ行けていないので、そこもめぐってみたいなと思ったり...。これから『競馬BEAT』(関西テレビ)も始まるので、終わったら競馬の勉強もしたいなとか...・。そのふたつですかね。馬も、その日、その瞬間だけ見るというよりも、馬の性質とか、日々のコンディションがあった上で「その日、どうかな」とわかると思うので、じっくりと一頭一頭を観察して、特徴とか性格とかしっかりと理解して、騎手の方にもお話を聞いたりしながら知っていけたら、もっともっとわかるようになるのかなと思います。
――グループを去年の11月に卒業されて、3ヶ月ぐらい過ぎますが、心境の変化とかありますか?
卒業して約1ヶ月後にこの舞台の稽古が始まって、ずっとこの作品のことを考えていたので、バタバタとしていたら3ヶ月が経っていたのですが、自然と気持ちは今だけを考えていけるようになったという感じです。卒業して自分がどう生きていくかとか、目標に向かって今、何をしようかとか、いろいろ考えることができて、また違った充実感があります。
――では最後に、『新・幕末純情伝』の神戸公演に向けて意気込みをお願いします。
今回、久しぶりの『新・幕末純情伝』の上演です。次はいつ観られるかわからない作品でもありますし、神戸は4回しか(上演の)チャンスがないので、迷っている方もぜひ来ていていただけたら。殺陣の迫力とともに笑えるところ、泣けるところもあって、観終わった後に愛とか自由について考えさせられる、パワーのある作品なので、足を運んでいただけたら嬉しいです。カンパニー一同、元気いっぱいでお届けします。公演によってはトークショーとか抽選会も準備しておりますので、楽しみにしていてください!
取材・文/岩本
(2023年2月17日更新)