ホーム > インタビュー&レポート > 上方落語のスターが顔をそろえる「夢の三競演」が今年も! 「エンタメが力になるのは間違いない」 落語への情熱がますます高まる笑福亭鶴瓶にインタビュー
――昨年のインタビューでは、コロナ禍でも「ほぼ動きは止めていない」とおっしゃっていました。3年目のコロナ禍は、どうお過ごしですか?
「コロナが流行し出した時期から『やろう』という気持ちはありました。結果的にちゃんとしてないじゃないですか。マスクにしても、もうはずしていいよと言いながら、どっちなんやと。そういう意味で、自分で考え自分で動かないといけない。出る側が主導権を持って『大丈夫やから、おいで』って言ってあげないと、お客さんも可哀想やし、エンタメがダメになりますよ。こんな仕事なんて、『やるな!』って言われたら弱いですよ。だから、無学の公演もずっとやってきてますからね」。
――5月には無学からの生配信番組『鶴の間』もスタートしました。
「『無学の会』はちゃんとした芸を、ゲストが漫才師やったら漫才、落語家なら落語と、ひとつの形を見せますよね。『鶴の間』はトークショーでありながら、その人の性格を見せるというか、俳優さんは朗読したりするし。ゲストによって違うんですよ。また無学に来たいと言うお客さんがいるから、遠方の方にも配信で無学の感じを見てもらおうと思って」。
――2022年も残り2カ月余りですが、一番の思い出、出来事は何ですか?
「ネタを固めていってるんですが、今までとちょっと違うのは、高座にあがったら自分自身が完璧に収めたいという気持ちが強すぎて稽古ばっかりしてるんです。今年は、ほんまによう稽古したなと。今までもしてたんですけど、稽古の仕方が変わったというか」。
――具体的にいうと...。
「ちょっとでも言葉が詰まるのが嫌なんですよ。流れるようにしたいっていう。ただ稽古しすぎて、こないだ『妾馬(めかうま)』の"お鶴"っていう名前を忘れてもうたんですよ(笑)。一瞬、えっ?と思って『お鶴やったかな?!』。お客さんには、分かれへんよ。でも、お鶴でないとオチの『鶴の一声』が効かない。『妾馬』だけじゃなく、いろんなネタを稽古するから、名前がごっちゃになってくるんですよ」。
――稽古に対する、これまで以上の強固な熱情はコロナ禍の影響ですか?
「コロナとかじゃなくて...今年の7月に伊東四朗さんの『あたし寄席』っていうのに出た時に、いろんな落語を聞いてはる方がメールでものすごく褒めてくれてると。それを聞いた時に、自分のやってることって、そんなに間違いじゃないんやなと思ってね。その人が褒めてはるというのが嬉しかったんで、もっと褒めてもらおうと(笑)、もっと稽古をやりだしたというか。この年齢になったら言葉が詰まるじゃないですか。それが許せない。下手なんですけど、そんなことで評価されるのは嫌やから、高座に上がった時に『いいな』と思われようと。前は『別にどう思われてもええわ』っていうのが、ちょっとあったんですよ。けど今はそうじゃなくて、1回1回ちゃんといい噺を聞いてもらおうという思いが、より強くなったんですね」。
――一方、プライベートではハワイの休暇も楽しまれました。
「3年ぶりですね。久しぶりにゆっくりしました。ほとんどウチのやつ(奥様)と一緒で、6日間ずーっとゴルフに行ってたんですよ。そしたら、ウチのやつが『一日、ちょっと堪忍して』と(笑)。僕は日本では行く時間が全然ないけど、向こうに行ったら毎日行けるでしょ。最初はボロボロやったけど、ゴルフ熱が再燃してね(笑)。けど、三競演で何をするかまだ決めてないから、ハワイで『悋気(りんき)の火の玉』っていうのを完全に覚えたんですよ。東京のネタで、本妻さんとお妾さんの火の玉がヤキモチ焼いて喧嘩するっていう噺なんです。あんまり誰もしないんですよ。一瞬、ええなぁと思って覚えたんですけど、やってみたら自分に合わなかった。みんながせえへん理由が分かりました(笑)」。
――関西でも、ほとんどやる方はいらっしゃいませんね。
「(桂)雀三郎兄さんが、昔やってはったんですよ。大好きな兄さんやから電話したら『やってたけどな、あれオモンナイねん』って。先に電話しといたら良かった(笑)」。
――その他に、やってみたいと思われる演目はありますか?
「今、『芝浜』をちょっと手掛けてるんですけど、初めはいい噺やと思わなかったんです。理解してなかったんですね、ちゃんと聞いてなかったから。でも、いい噺やなぁと。特に、サゲにすごく夫婦の愛情が詰まってる感じですよね。『悋気の火の玉』をやってなかったら、先にハワイで『芝浜』を覚えてきたんやけどね。悔しいわぁ」。
――それこそ、桂雀三郎師匠は大阪を舞台に移し『夢の革財布』として演じておられます。『芝浜』は、どなたの型で演じようと。
「僕は志ん朝師匠の型と、雀三郎兄さんの型と...それがいいのかなと思うんですけど、最後の"酒を飲むのをやめる"という、あの瞬間をどうするか。あれはやっぱり江戸弁がピッタリなんですよね。江戸の粋ですよね。けど、雀三郎兄さんは大阪が舞台でも違和感ないんですよ。あの兄さんの持ってる雰囲気やね。あの噺は、『どうや、粋やろ』ていうのを出したらダメなんです、絶対に。僕も雀三郎兄さんと同じく、大阪を舞台にやります。けど、大阪弁で『よそう』なんて言わへんでしょ。『よそう。また夢になる』っていう言い方...きっと大阪弁らしい、粋な言い回しがあると思ってます」。
――『芝浜』は三競演での口演も視野に?
「あれは暮れの噺やから、三競演に間に合うたらね。でも、そない簡単にやるのもどうかなと。今回は2番目の出番やから、『子はかすがい』もあるし、『琵琶を弾く観音像』もええなぁと」。
――その前に、独演会の全国ツアーが控えておられます。
「別に戒めのために落語をするわけやないけど、今は自殺率がメッチャ高いから独演会では『死神』を中心にやろうかと。僕が作った『死神』やけどね。自分のひらめき、心の奥底にある無意識が運命を決める、というテーマでね。そんな中で、『闇は闇で消すことはできない。闇は光でしか、笑顔でしか救えないんや』と。これは昔からずっと思ってたことで、その意識を持ってたから、それを落語の『死神』に入れました。だから、死んだらもっと辛くなるよと。昔は分別臭いことは言わんとこと思ってたんやけど、コロナ禍でこんな状況になってきたんで、落語の中で比喩的にしゃべったら、それを感じてもらえるかなぁと思うんです」。
――いまだ、みんなが多かれ少なかれ息苦しさを持って生活しています。コロナ禍が早く終息することを祈るばかりですが、アフターコロナのエンタメ界は、どのようになっていると思われますか?
「エンタメ界がどうのこうのというよりも、国がちゃんとした方針を決めてくれないと。お客さんも『怖い』って言いながら来られても困るでしょ。年いったり、疾患を持ってる人でも見に来られる状況をちゃんと作ってあげないとね」。
――では、こんな状況下ならではの「三競演」の見どころを教えてください。
「文珍、南光っていうのは絶対に間違いのないふたりですからね。私も微力ながらついていくというか。でも、エンタメが力になるのは間違いないですよ。劇場に来た時に、すべての日常から解放されることっていうのがすごく大事。それって、ほんまにエンタメだけですよね。落語が好きやと思ったら落語、ジャニーズが好きやと思ったらジャニーズ。好きやと思うものに来られた人が解放される。三競演は、このメンバーが絶対に解放してくれると思いますよ。僕らは年に1回、こうやって3人が合体するんですけど、僕があとのふたりに会いたいと思う気持ちがすごいんですよね。文珍兄さんに会える、南光兄さんに会える。そして、その気持ちを会場でぶつけるという」。
――文珍師匠も同じようなことをおっしゃってました。
「ほんま、この気持ちを大事にせんと。この年になって、マジで思いますよ。あんなすごい人たちとやれてるっていうのが、ようやく宝やと分かってきました。でも、なんぼ行っても追いつけない。ほんまに何の謙遜でもなく、あのふたりとやれてることが楽しいっていうか。だから、『僕らは、こんな楽しいことやってんねんで』っていうのを、会場にぶつけて。ほんまに損させへんという気持ちはありますよね。だからギリギリまで、ネタも悩むんです。今回は、2番目の出番やから『琵琶を弾く観音像』かなぁ(笑)。分からんけどね」。
取材・文:松尾美矢子
撮影:大西二士男
(2022年11月28日更新)
12月4日(日)一般発売 Pコード:515-864
▼12月26日(月) 18:00
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
全席指定-7000円
[出演]桂文珍/桂南光/笑福亭鶴瓶
※未就学児童は入場不可。本公演は政府ならびに関係諸機関により策定された新型コロナウィルス感染症対策ガイドラインにもとづき、感染拡大防止対策を講じて公演を開催いたします。マスク着用、咳エチケット、こまめな手洗い・手指消毒の徹底をお願いいたします。劇場入口にて検温を実施。37.5度以上の方は入場いただけません。入場時に「大阪府新型コロナ追跡システム」へのご登録をお願いいたします。分散しての入退場にご協力をお願いいたします。ご退席の際は密集をさけるため、係員の指示に従って順次、ご退席いただきますようお願い申し上げます。
[問]夢の三競演 公演事務局■06-6371-9193
※登場順
2004年
桂文珍『七度狐』
桂南光『はてなの茶碗』
笑福亭鶴瓶『らくだ』
2005年
笑福亭鶴瓶『愛宕山』
桂文珍『包丁間男』
桂南光『質屋蔵』
2006年
桂南光『素人浄瑠璃』
笑福亭鶴瓶『たち切れ線香』
桂文珍『二番煎じ』
2007年
桂文珍『不動坊』
桂南光『花筏』
笑福亭鶴瓶『死神』
2008年
笑福亭鶴瓶『なんで紅白でられへんねん! オールウェイズお母ちゃんの笑顔』
桂文珍『胴乱の幸助』
桂南光『高津の富』
2009年
桂南光『千両みかん』
笑福亭鶴瓶『宮戸川
~お花・半七馴れ初め~』
桂文珍『そこつ長屋』
2010年
桂文珍『あこがれの養老院』
桂南光『小言幸兵衛』
笑福亭鶴瓶『錦木検校』
2011年
笑福亭鶴瓶『癇癪』
桂文珍『池田の猪買い』
桂南光『佐野山』
2012年
桂南光『子は鎹』
笑福亭鶴瓶『鴻池の犬』
桂文珍『帯久』
2013年
桂文珍『けんげしゃ茶屋』
桂南光『火焔太鼓』
笑福亭鶴瓶『お直し』
2014年
笑福亭鶴瓶『青木先生』
桂文珍『御血脈』
桂南光『五貫裁き』
2015年
桂南光『抜け雀』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』
桂文珍『セレモニーホール「旅立ち」』
2016年
桂文珍『くっしゃみ講釈』
桂南光『壷算』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』
2017年
笑福亭鶴瓶『妾馬』
桂文珍『へっつい幽霊』
桂南光『蔵丁稚』
2018年
桂南光『胴斬り』
笑福亭鶴瓶『徂徠豆腐』
桂文珍『持参金』
2019年
桂文珍『スマホでイタコ』
桂南光『上州土産百両首』
笑福亭鶴瓶『オールウェイズお母ちゃんの笑顔』
2021年
笑福亭鶴瓶『お直し』
桂文珍『デジナン』
桂南光『はてなの茶碗』