ホーム > インタビュー&レポート > モチロンプロデュース「阿修羅のごとく」向田邦子の最高傑作を 舞台化。10月8日(土)17:00兵庫公演のライブ配信実施が決定! 東京公演の観劇レポートと舞台写真が到着!! 四姉妹には、小泉今日子、小林聡美、安藤玉恵、夏帆
観劇レポート
滑稽で切なくて、心は大忙し!
豪華俳優の「格闘」に目が釘付け。
向田邦子の代表作を倉持裕が脚色、木野花が演出。出演は小泉今日子、小林聡美、安藤玉恵、夏帆、岩井秀人、山崎一。この布陣なら、たとえ別の演目だったとしても絶対に観たいと思うだろう。
けれど、ごめんなさい! 向田脚本の大ファンで、ドラマ『阿修羅のごとく』を何度も観てきた身としては、観るのが怖い気持ちもほんの少しだけあったことを白状します。
結論からいうと、それは杞憂に終わった。原作をよく知っていても面白いし、向田作品未体験者も楽しめる、絶妙なところをついた作品になっていた。舞台は1979年。家族のなかで父親の存在がまだ大きかった「ザ・昭和」な時代。70歳になる父に愛人がいるらしいことがわかり、4人の姉妹は、母に知られずにどう対処するべきかと胸を痛める。
長女・綱子(小泉今日子)は50歳目前の未亡人、次女・巻子(小林聡美)は二人の子供を持つ専業主婦、三女・滝子(安藤玉恵)は図書館司書をしている30歳独身。四女・咲子(夏帆)は喫茶店でアルバイトをしながら、住む場所すら家族に秘密にしている。
母を気遣う気持ちは同じだが、姉妹の置かれる立場は異なり少々複雑。家庭のある男性と恋仲にある者、パートナーの浮気を疑う者、恋に理想を抱く者もいれば、達観している者もある。そうして、彼女たちの恋愛模様が次第に浮き彫りになっていく。
さすがは向田邦子、人間の描きかたが多層的。阿修羅像のごとく、対峙する相手によってそれぞれの違う顔が見えてくる。
本舞台では人物、つまり俳優とセリフを見せることに徹しており、セットや照明、音楽もミニマム。
土俵に見立てたセンターステージは、ときにリングとなり、太鼓やゴング、三味線やフラメンコギターがかき鳴らされ、姉 vs 妹、妻 vs 夫、妻 vs 愛人、恋の駆け引きから、腐れ縁の痴話喧嘩、疑いや裏切り等々、あらゆる格闘が繰り広げられるのだ。
この「闘い」に焦点を当てた演出が素晴らしい。カーンという合図のもと、取っ組み合いのきょうだい喧嘩が始まって以降、滑稽さと切なさが忙しなく入り乱れるスピーディな展開に、目が釘付けになった。出てくる人物がとにかく全員魅力的。
小泉今日子の綱子は、酸いも甘いも噛み分けた大人の色気を醸し出しながら、脱ぎ散らかした衣服を足で隠すようなおおらかな一面も見せ、小林聡美は、揉め事をまるくおさめようと、自分の言いたいことを飲み込む巻子のもどかしさを、全身で表現。普段はクールなのに、急に爆発するあたりもリアル。
安藤玉恵の滝子は、潔癖症で父の不義理を許せない一方で、自身に芽生えた恋心に動揺する様がなんとも愛らしかったし、夏帆は、姉たちにコンプレックスを抱く咲子の、気丈にふるまいながらも不安を抱える内面を繊細に表していた。
男性陣はそれぞれ重要な2役を演じ、大奮闘。
話下手な興信所の勝又と、荒々しい新人ボクサーの陣内を岩井秀人。本作のために作ったのだろう、その筋肉に驚いたし、ラブシーンもたっぷり。
山崎一は冷静沈着な巻子の夫の鷹男と、綱子の恋人のすっとぼけた貞治を演じ、振れ幅の大きさにさすがと思わされた。
同じ人物が演じているから二重に面白さを感じる場面もあって、これこそ舞台の醍醐味。
ちなみに、女性陣も全員2役演じており、小林と安藤のもうひとつの役はおかしみしかないので注目である。
配信では複数のカメラが設置され、客席から後ろ向きにしか見えない人物の表情もおさえられている。本作は四姉妹のかしましい関係が楽しく、巧妙な会話劇であり、リアクションや言外にあふれる表情も重要なポイント。
たとえば、頭のほうで、滝子は男っ気がないことを咲子から揶揄されるが、咲子の奥に座り、2人の喧嘩の様子を見守る綱子の表情が秀逸だった。
間違い電話を受けたあとの巻子、バトルのあとの豊子(小林聡美)の横綱歩き、滝子のたどたどしいラブシーン、咲子のひとりラーメン......細かいお芝居も見どころ満載。見るたびに発見があるので、配信ではアーカイブで繰り返し鑑賞することをおすすめしたい。阿修羅とは、インドの民間信仰上の神様で怒りや争いのシンボル。登場人物たちは誰かと闘っているが、一番やっかいな相手は、母として妻として恋人として「こうありたい」「こうあるべき」と、無意識のうちに立場にしばられた、理想の自分なのかもしれない。
向田邦子の名作を、想像力を最大限に使った(父親さえ登場しない!)舞台ならではの表現で、見事に本質を貫いた。たった6人で演じるのはそれこそ闘いだったろう。最高のキャストのナイス・ファイトを同時代に観られたことは幸せ以外の何ものでもない。
文:黒瀬朋子
撮影:阿部章仁
(2022年10月 3日更新)
チケット発売中 Pコード:787-852
▼10月8日(土) 17:00
※10月11日(火)23:59までアーカイブ配信あり。
PIA LIVE STREAM
配信チケット-4000円
[脚色]倉持裕
[演出]木野花
[出演]小泉今日子/小林聡美/安藤玉恵/夏帆/岩井秀人/山崎一
※この公演はオンライン動画配信でのみご覧いただけます。配信時間は予定のため変更の可能性あり。 【PIA LIVE STREAM視聴についての問合せ】電話:017-718-3572/メール:event@linkst.jp(平日10:00-18:00)
※問合せ対応は該当公演(土日祝含む)の終演後1時間程度で終了とさせていただきます。
※チケットは、インターネット(PC・スマートフォン)のみで販売。販売期間中はお1人様1申し込みにつき1枚まで。
[問]キョードーインフォメーション
■0570-200-888
Sold out!!
▼10月8日(土)~10日(月・祝)
(土)12:00/17:00 (日)(月)12:00
兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
舞台上特設席-9000円(劇場の通常の舞台上に設置する特設席)
指定席-8500円
ヤング券-3800円(22歳以下対象/要身分証明書)
[作]向田邦子
[脚色]倉持裕
[演出]木野花
[出演]小泉今日子/小林聡美/安藤玉恵/夏帆/岩井秀人/山崎一
※未就学児童は入場不可。開演時間を過ぎますとご自身のお席に着席出来ない場合がございますので、予めご了承下さい。車椅子席をご希望されるお客様は、芸術文化センターチケットオフィスまでご連絡ください。ヤング券は観劇当日22歳以下の方が対象の当日座席引換券です。当日、開場時間以降~開演10分前までに劇場窓口にて座席券と引換えください。引換の際には生年月日の分かる身分証明書を必ずご提示ください。2人以上でご来場の場合はお席が離れる可能性がございます。
[問]キョードーインフォメーション
■0570-200-888