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演出・深作健太、主演・夏川椎菜が対談
人間の自由とは何か、悩むジャンヌを描きたい

ドイツを代表する戯曲家・詩人のフリードリヒ・シラーの戯曲『オルレアンの少女-ジャンヌ・ダルク-』が上演される。英仏百年戦争で神の啓示を聞き、戦場へ身を投じた少女の物語だ。演出するのは、ドイツ戯曲に深く傾倒し、『深作組ドイツ三部作』として同国の作品を手がけてきた深作健太。今回は、その深作組の『新ドイツ三部作』の第1弾。ジャンヌ・ダルク役には、深作が“ミューズ(芸術の女神)”と称え、今作が初舞台で初主演となる声優・アーティストの夏川椎菜が抜擢された。ふたりが目指す舞台とは?

――深作さんは夏川さんのことを、最も信頼する役者さんのひとりで“ミューズ”とコメントされていますね。
 
深作「いろんな声優さんと朗読劇シリーズを始めて、もう5年以上になるんですが、出演していただいた方の中で、夏川さんの演技と存在感は一番インパクトがありました。感受性が鋭く、こちらのリクエストを何倍にもふくらませ、自分の考えを入れて返してくれる。公演中の細かい修正やリクエストも、本番で一番いい形で生かしてくれるんです。もう、これは離さないぞと(笑)。以前から夏川さんが初舞台をやるときはぜひ御一緒したいと言い続けて、やっと夢が叶いました」
 
夏川「うれしいです。深作さんは、お客さんに届けたいメッセージをあますことなく私にも伝えてくださるので、自分で考えて表現することができるんです」
 
――ジャンヌはそんな夏川さんにぴったりだと?
 
深作「夏川さんとご一緒したくてこの『オルレアンの少女』を選びました(笑)。夏川さんがもし、よそで初舞台をやったり、ジャンヌを演じたりしたら、僕はもうショックでたまんないです(一同笑)。やきもちを焼くんだったら自分がまず先にと」
 
夏川「ありがとうございます。初舞台でジャンヌという役をいただき、自分にできるかどうか不安でしたが、深作さんなら距離がある役でも自分の中で深まり、客観的になれる。朗読劇でその感覚を何度も味わっているから、大丈夫だろうという確信に今は変わりました」
 
――今作のジャンヌについてはどう考えますか。
 
夏川「気高くて強い女性というイメージがありましたが、すごくブレがある人なんだなと。神の啓示を受けて、17歳の若さで戦場に飛び込み突っ走るところと、普通の少女として揺れるところがあるんですよね」
 
深作「俳優さんはいい意味で、ブレ続けなくてはだめだと思うんです。劇の中でドンドン苦しんで悩んで成長していく。夏川さんのコンサートにうかがったら、普段のイメージとは全然ちがって、ものすごくロックだったんですよ。芯の強い彼女の、弱さも激しさも何もかもさらけ出す素敵な一面を見て、そういうジャンヌだったら時代を超えて今に届けられると。国や神のために戦う少女ではなく、人間の自由とは何か、なぜ今ここに生きているのかということを悩むジャンヌを、現代にも通じる普遍的な女性として描きたいんです。僕は、俳優さんご自身と離れすぎている役を作るのはあまり好きではなくて、夏川さんがご自身の弱さと向き合い飛び込んでくだされば、彼女だけのジャンヌが作れると思ったんです」
 
夏川「心強いです。私もジャンヌの弱い部分こそ大切で、そこをピックアップして演じたほうが、物語が届くかなと解釈しました。彼女が根本に持っている闇の部分を深掘りして、共通点を見つけていきたいですね」
 
――台本には、ウクライナやアフガニスタンなど現代の戦争を語るシーンがあります。
 
深作「役に感情移入するのではなく、お客さんが参加して考えるという、ブレヒト(ドイツの劇作家)が提唱した異化効果を大切にして作りたい。日本の今の演劇界は、英米の影響を強く受けて感情移入させるものが主流ですが、逆にかつてナチス政権の恐怖を経験したドイツ演劇は、引いて批評的に考える。今回は今の世界情勢を受けて、戦争とは何か、戦争をいかに僕たち自身の問題として、引き寄せて作れるかが挑戦だと思っています」
 
夏川「私が観てきた芝居も感情移入させる作品が多かったですが、ウクライナをはじめ世界が激変する今、自分だったらどうするかと考察して観るほうが得るものが大きいですよね。堅苦しくなりすぎず、よりライトに伝えたいと思います」
 
――ジャンヌを戦場へと駆り立てた神の啓示とは何かと考えてしまいますね。
 
深作「シラーが生涯を通じて描きたかったものは〈自由〉です。生き方を、自分自身で選択することが大切だと。ジャンヌに神の声は聞こえていたかもしれないし、妄想だったかもしれない。一方で彼女の生き方は、結婚して子供を作るのが普通だという、時代が強要するジェンダーロールともぶち当たってきます。男性原理の社会の中でうまく女性が利用されているんですね。戦場で人が悲惨に死んでいく光景を見れば、〈正義〉なんて簡単にブレもするし変わりもする。人や国が間違える時は、何かを簡単に決めちゃう時なんです。正義も悪も、光も闇も、敵や味方もなく全部、混然とあいまいに存在するのが世界なんだというテーマで、今回は作りたいと思っています」
 
――神の啓示も白でも黒でもない。
 
深作「ジャンヌを戦場に行かせてしまったのは時代の〈声〉です。彼女のせいではない。僕は、神の啓示は間違いだと思っているんです(笑)。それはいろんな形で劇の中で表現していきたい。人は誰も若い頃は間違えるんですよ、いろいろと。僕もそうでした(笑)」
 
夏川「劇の中では分かりやすくするために、神の啓示や預言など、超常的な力をジャンヌは持っているという風に表現されているんです。私は神の啓示は、それまで受けてきた教育からくる思い込みや、同調圧力から起因しているのかなと思いました。彼女がたどり着く答えは、自分で道を切り開くということだと思います」
 
――ジャンヌは敵のライオネルに恋をします。
 
深作「シラーは恋愛を書くのは下手くそですね(一同笑)。稽古場で苦しむと思います)」
 
夏川「一目ぼれにしても、あんな一目ぼれは…」
 
深作「ないよねぇ(笑)。シラーは強くシェイクスピアの影響を受けていたから、ロミジュリやハムレットの影が見えるんです。哲学的なテーマを書いたら、シラーの方が現代的なんですが。だからこそ、恋愛シーンは役者さんの身体性を大事にしたいと思っています」
 
夏川「恋に無理があると思ってしまうのは、私が現代に生きる女性だからかなと。ジャンヌが生きた時代は戦時下で死が近い。生きなきゃ、子孫を残さなきゃという人間の本能的なところが強く出た結果なのかなと思いますね。動物は出会ってすぐ生殖行為を行い繁殖する。動物的な欲求からくる恋かなと思うと、ロマンティックではないんですが(笑)」
 
――シラーを含め深作さんがドイツ演劇に惹かれる理由は?
 
深作「親父(映画監督の深作欣二)は敗戦を15歳で迎え、戦後に変わっていく国や大人たちへの不信が自分の表現の核となっていたんです。僕は親父の最後の映画『バトル・ロワイアル』からそこを引き継いだ部分もあり、親子二代にわたっての権力への恨みといいますか(笑)。それに対し、子どもや弱い人の側には、ロックやコミックみたいな等身大の言葉と思想を与えてくれるツールが必要で、演劇と劇場はまさに10代の悩める僕を救ってくれた大切なアートなんです。いまドイツ演劇を皆さんと一緒に考えて作ることは、戦後日本の間違いを振り返り、未来へ進む道しるべになる。だからこそ、同じ戦争に負けた日本とドイツをリンクさせたいんです」
 
――演出家によって、役を生きてほしいなど、役者に求めることは違うと思います。深作さんの場合はいかがですか?
 
深作「親父が映画監督で、おふくろも女優だったので、僕は現場の裏側を見て育ってきて、役者さんが演じている時よりも、その存在そのものが好きですね。その人のいいところを届けたいという気持ちが大きくて、あまり役に没入されても僕は感動しない。嘘だと思っちゃうんです。それよりも多少へたくそでもいいから、その人のままで存在してほしい。役者さんがライブでそこに立っていること自体が演劇の魅力なので、今回もなるべく火を通さずに生のまんま、夏川椎菜さんを舞台上に活きのいい〈お刺身〉でのっけたいと思っています」
 
夏川「私の周りの若い世代は、戦争や政治の話を嫌う傾向にある人が多いんです。でも身近な問題になり、考えなきゃいけないと思ってきている。それを作品でお伝えできればと思います。お刺身としては(笑)、ジャンヌになるのではなく、彼女を深く理解した人間として私はこう思いますよ、というのが伝わるお芝居にしたいと改めて思いました」

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取材・文:米満ゆう子
撮影:源 賀津己



(2022年9月12日更新)


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『オルレアンの少女
 -ジャンヌ・ダルク-』

【東京公演】
▼10月6日(木)~9日(日)
シアタートラム

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード:513-985

▼10月15日(土)13:00/17:30
▼10月16日(日)13:00
COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
全席指定-9000円 
[作]フリードリヒ・フォン・シラー
[翻訳]大川珠季
[演出]深作健太
[出演]夏川椎菜/溝口琢矢/松田賢二/峰一作/宮地大介/愛原実花
※未就学児童は入場不可。公式HP内の「新型コロナウイルス感染症予防対策の取り組みとご来場のお客様へのお願い」を必ずご一読頂き、ご了承の上お申し込み下さい。チケットの販売数は政府および自治体の方針に従ったキャパシティといたします。座席配置に関しては政府および関係機関の指示により変更する可能性がございます。チケットご購入後の、キャンセル・変更・払戻不可。車椅子での来場はチケット購入後問合せ先まで要連絡。車椅子スペースには限りがございますため、ご購入のお座席でご観劇いただく場合もございます。劇場内ではマスクのご着用をお願い致します。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888

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