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日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2022
NHKみんなのうたミュージカル『リトル・ゾンビガール』
東京公演開幕レポート

NHKみんなのうたミュージカル『リトル・ゾンビガール』が8月20日(土)、東京・日生劇場で開幕した。1961年に放送開始、これまでに1500曲以上の名曲を送り出してきたNHK「みんなのうた」の名曲を使用したオリジナルミュージカル。脚本家・徳野有美が紡ぐキュートで心温まる物語に、おなじみの名曲たちが自然と溶け合い、子どもから大人まで楽しめる傑作ミュージカルが誕生した。

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物語はとある街と、隣接する森が舞台。森の奥深くには、200年前の人間との戦争で滅ぼされたと思われていたゾンビたちがひっそりと、だが楽しく平和に暮らしている。しかしある日、突然人間たちがやってきて、森の木々を倒していった。どうやらこの場所に「ショッピングモール」を作るらしい……。事情をさぐるため、新米ゾンビの小さな女の子・ノノが人間の街へスパイに行くことに。一方で人間の男の子・ショウは、父親の仕事の関係で新しい学校に転校してきたばかり、新しい友だちに馴染めず悩んでいる。ショウと仲良くなったノノは、恐ろしい敵だと教えられてきた人間にも優しい人たちがいることを知るのだが……。
 
分断されたふたつの社会を超えて生まれたノノとショウの友情を軸に、多分に現代的テーマが内包された奥深い物語だ。かつての戦争で負った苦しみを忘れられず、お互い歩み寄ることをやめ「近寄らない」という選択をした大人たちの姿は、このコロナ禍やウクライナの戦争で分断が進む現代社会の写し鏡のよう。とはいえ、子ども目線の「なぜ? なんで?」でぐいぐい進んでいく物語は、純粋にワクワク、ハラハラ。イケているゾンビたちはカッコいいし、人間の子どもたちの元気いっぱいの悪ガキっぷりは微笑ましい。客席からは子どもたちの楽し気な笑い声が絶えなかったが、休憩時間や終演後に、目をうるませている大人たちの姿も。子どもたちには楽しめ、大人には突き刺さる物語である。

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キャストはノノ役を高橋ひかる(※高ははしごだか、以下すべて)と熊谷彩春、ショウ役を石井杏奈と伊藤理々杏(乃木坂46)がダブルキャストで務めている。ドラマにバラエティ、YouTubeにと若い世代に圧倒的人気を誇る高橋が演じるノノは、透明感ある外見に反し、元気が有り余った猪突猛進型。今回が舞台初挑戦とのことだが、抜群の間合いでちょっとした笑いを生む芝居センスが光る。センターが似合う華もあり、今後もぜひ舞台への出演を期待したくなった。『レ・ミゼラブル』など数々の大型作品に出演しているミュージカル界のニュー・ヒロイン熊谷は、おてんばで可愛らしいノノだ。いたずらっ子のような笑顔、可憐な歌声が劇場を包む。それぞれノノの素直さ、明るさがそのまま作品の明るさに直結するかのような、見ていて楽しいチャーミングなノノを作り上げている。ショウ役の石井と伊藤もまた、少年らしさをナチュラルに表現。石井のショウは寂し気な雰囲気の中に利発さがあり、しかし踊ると一気に笑顔が弾けるのがいい。伊藤のショウは心優しい優等生といった雰囲気。優しいがゆえに我慢をしてしまっているような姿に胸を打たれる。彼らを見守る大人たち――美しきゾンビの長老・リリィ役の大和悠河、ショウの父親クルス役のエハラマサヒロ、ハル先生役の石田佳名子、ゾンビの親分役のコング桑田も軽快で楽しそう。さらに、脇を固めるのは数々のミュージカルで活躍中の俳優たち。フレッシュなノノ&ショウが伸びやかに舞台上で躍動するのを、実力派たちがしっかり支えている。

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それにしても、「みんなのうた」の音楽の力の凄さよ。知っている曲も、知らなかった曲も、すぐに口ずさめてしまう耳馴染みのよさ、インパクトの強さ、メロディの美しさ。登場するナンバーは『手のひらを太陽に』『コンピューターおばあちゃん』『アップル パップル プリンセス』『赤鬼と青鬼のタンゴ』といった昭和期の名曲から、『ベスト・フレンド ~Best Friend~』『WAになっておどろう ~イレ アイエ~』『おしりかじり虫』などの平成時代の人気曲まで多彩で、どの世代の人も懐かしく思う曲があるに違いない。このバラエティに富んだ曲たちが、ひとつの作品として違和感なくまとまっている構成もカタログ・ミュージカルとして見事だし、“曲ありき”であるにも関わらず、ドラマの中に歌詞が自然と馴染み、キャラクターたちの心情と溶け合っている。改めて「みんなのうた」の楽曲は、私たちが日常で抱く様々な感情に寄り添っているのだなあと思った。本作品の主題歌である、いきものがかりの水野良樹による『夜明けをくちずさめたら』も心にしみる素敵なバラードナンバーで、優しい気持ちが広がっていく。
 
多彩でありながら調和した楽曲群は、「みんながそれぞれ違っていていいんだ」という作品メッセージにも繋がっている。ほかにも、前を向いて一歩踏み出すことの大切さ、他者を偏見で決めつけず、知ることの大切さ……描かれていることはとてもシンプルながら、私たちにとってとても大切なこと。その当たり前の大切さを改めて気付かせてくれる、たからもののようなミュージカル。子どもはもちろん、ちょっと日々の生活に疲れている人、元気になりたい人、子ども時代の純粋さを取り戻したい人にも観て欲しい一作だ。

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初日前日には、高橋・熊谷・石井・伊藤・大和による囲み取材会も。「老若男女問わず、楽しんでいただける素敵なミュージカル。難しいことは考えず、会場に来てくださったら、必ずや私たちが皆さんを楽しませます!」(高橋)、「ついに念願の幕が上がりました。全国へこの作品をお届けできることが本当に嬉しい。この舞台を観て、ミュージカルって楽しいなと思ってくれる子どもたちが全国にたくさんいたら嬉しいですし、私自身、ハッとさせられる部分がとても多いので、大人の方にも楽しんでほしい。ぜひ親子揃って観に来ていただけたら」(熊谷)、「タイトルに“ゾンビ”という言葉が入っていますが、怖い話ではありません(笑)。劇場を出た時に晴れやかな気持ちになれるような、パワーのある作品。子どもだけでなく大人にも響く作品になっているので多くの方々に観に来ていただけたら」(石井)、「背中をポンと押してくれるような温かい作品になっています。皆さんに元気と勇気をたくさん与えられるように精いっぱいがんばりたいです」(伊藤)、「音楽の力って本当に凄い。一瞬にして心を動かす力がある。お子様には舞台を観る、ミュージカルを観るという経験を楽しみ、好きになってもらえたら嬉しい。大人の方には、この作品は今の世界に必要なことを直球で提示しているので、みんなで話し合う場を設けるきっかけになってもらえたら」(大和)とそれぞれアピールした。公演はこの後、9月4日(日)の千葉県南総文化ホール(館山市)での上演を皮切りに、10月10日(月・祝)まで全国各地で上演される。

取材・文:平野祥恵
写真提供:日生劇場(NHKみんなのうたミュージカル「リトル・ゾンビガール」公開舞台稽古)



(2022年8月25日更新)


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日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2022 NHKみんなのうたミュージカル『リトル・ゾンビガール』

【東京公演】
▼8月20日(土)~28日(日) 日生劇場
【千葉公演】
▼9月4日(日) 千葉県南総文化ホール

Pick Up!!

【兵庫公演】

チケット発売中 Pコード:512-589
▼9月10日(土) 13:00
兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
大人-5000円(指定、高校生以上)
子ども-3000円(指定、3歳~中学生)
[脚本]徳野有美
[作曲・音楽監督]八幡茂
[演出]鈴木ひがし
[出演]高橋ひかる/石井杏奈/エハラマサヒロ/石田佳名子/コング桑田/大和悠河/他
※3歳未満は入場不可。
※販売期間中はインターネットでのみ受付。店頭での直接販売はなし。お1人様4枚まで。
[問]芸術文化センターチケットオフィス■0798-68-0255

【大分公演】
▼9月17日(土) iichiko グランシアタ
【岩手公演】
▼9月23日(金・祝)
岩手県民会館 大ホール
▼9月25日(日)
久慈市文化会館アンバーホール

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード:512-155
▼10月8日(土) 14:00
枚方市総合文化芸術センター
関西医大 大ホール
A席-5000円
A席 子ども(中学生以下)-2000円
B席-3000円
B席 子ども(中学生以下)-2000円
[出演]高橋ひかる/伊藤理々杏/エハラマサヒロ/石田佳名子/コング桑田/大和悠河/他
※3歳未満入場不可。子ども料金は3歳以上中学生以下が対象。全席を販売いたします。感染拡大状況によっては、変更の可能性がございます。止むを得ない事情により、公演内容が一部変更になる場合がございます。ご了承ください。車いす席は総合文化芸術センターチケットデスク・本館窓口のみでのお取り扱いです。
※販売期間中は1人4枚まで。
[問]枚方市総合文化芸術センター本館■072-845-4910

チケット発売中 Pコード:511-561
▼10月10日(月・祝) 14:00
南海浪切ホール 大ホール
S席-5000円 S席 高校生以下-2000円
A席-4000円 A席 高校生以下-2000円
B席-3000円 B席 高校生以下-2000円
[出演]高橋ひかる/石井杏奈/エハラマサヒロ/石田佳名子/コング桑田/大和悠河/他
※本公演に熊谷彩春、伊藤理々杏は出演いたしません。
※3歳未満は膝上鑑賞無料。(大人1人に付きお子様1人)
[問]浪切チケットカウンター
■072-439-4915

※公演によって出演者は異なります。詳細は公演ホームページをご確認ください。

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