ミュージカル『ボディガード』が大阪で開幕!
柚希礼音、新妻聖子、May J.が三人三様の歌姫に
2020年の春に開幕したものの、コロナ禍のため、大阪で5回のみの上演となったミュージカル『ボディガード』が、梅田芸術劇場に再び帰ってきた。主演の歌姫レイチェル役をトリプルキャストで柚希礼音、新妻聖子、May J.が務める。初演からレイチェルを続投する柚希、新妻はパフォーマンス・役柄ともに更に成熟した、初登場のMay J. はフレッシュで華やかな、三人三様の歌姫になった。1月21日(金)に開幕した公演の模様をレポートする。

新妻聖子
本作は、1992年にケビン・コスナーとホイットニー・ヒューストンが主演し世界中に大ブームを巻き起こした同名映画をベースにミュージカル化。20世紀のスーパースターであるホイットニーを彷彿とさせる歌姫レイチェルと、そのボディガードのフランクとの関係を描くサスペンス仕立てのラブストーリーで、ホイットニーの大ヒット曲の数々が劇中にちりばめられているのが目玉だ。今までウエストエンドをはじめ、世界中で上演されてきた。
柚希は、オープニングナンバーの『夜の女王 QUEEN OF THE NIGHT』で群舞を従え華々しく登場。彼女の長い手足と筋肉質のボディが抜群のダンスで映え、観客の目を釘付けにした。歌声も柚希の持ち味である低音はもちろん、高音までパワフルによく伸びる。また、少しハスキーな歌声がダンスと相まってすごくセクシーだ。2幕の『アイム・エヴリ・ウーマン I’M EVERY WOMAN』では、レイチェルをはじめ、全員がキラキラと輝く青い衣装を着け、群舞がモデルのようなポージングをしながら踊る。柚希はダンサーにどこまでも高くリフトされながら、セクシーな歌声と迫力のダンスでレイチェルの女王様ぶりを見せつけた。スターであるがゆえに、勝気で“ツンデレ”のレイチェルだが、フランクを自らデートに誘うシーンでは、大いに照れてかわいい。また、表現やたたずまいからレイチェルの芯の強さや孤独さが時折、にじみ出る。

柚希礼音
一方、新妻は、ポップスやR&B、ゴスペルなど何でも歌いこなす七色の歌声により磨きがかかったと言えよう。小柄な新妻だが、彼女が歌い踊り出すと誰よりも大きく見え、場を支配する。特にバラード『グレイテスト・ラヴ GREATEST LOVE OF ALL』では、会場の天井まで歌声がとどろきわたるようで、「何を奪っても 奪えない 尊厳だけは」と、スターとしての孤独を抱えながらも歌に命をかけるレイチェルの心情がストンと伝わってきた。再演では「歌やダンスだけではなく物語をしっかりと伝えたい」と話していた新妻の心意気が分かる。また、フランクをデートに誘うシーンは、コミカルに演じ、観客の笑いを取った。わがままだけどユーモアもある、チャーミングなレイチェルだ。フランクと恋に落ちる『アイ・ハヴ・ナッシング I HAVE NOTHING』『この愛にかけて ALL THE MAN THAT I NEED』では、泉のようにこんこんとあふれる歌声と底力が、無限に湧き出てくるようだ。

新妻聖子
再演までの2年間、ホイットニーのドキュメンタリーを見るなどして役と向き合ってきたという柚希。レイチェルをやり遂げるまでは死ねないと思っていたと語る新妻。初演ではホイットニーの声のイメージが強すぎる名曲の数々を歌うことや、大役へのプレッシャーが大きかったと思うが、時間をかけて作品に取り組んだのが功を奏したのだろう。初演と比べ、歌、ダンス、演技の全てがより熟した。
さらに、『ボディガード』が初主演のミュージカルとなったMay J.は、そうとは思えないほど、堂々とした女王様のレイチェルを見せてくれた。彼女の華奢な体つきからは想像するのが難しいような、力強く、更に情感豊かな歌声を次から次へと観客に贈り出す。さすがシンガーだけあり、ミュージカルの経験が2度目でもステージに映えて、スターとして魅了するレイチェル役にふさわしい。

May J.
また、表現やしぐさに若さがあり、今どきの女の子のレイチェルという感じで新鮮だった。フランクへのデートの誘い方も素直になれない勝気なお嬢さんといった具合でほほ笑ましい。『ラン・トゥ・ユー RUN TO YOU』では、繊細な織物のように歌声や歌詞を紡ぎ出した。また、ベッドで歌う『この愛にかけて ALL THE MAN THAT I NEED』は、かよわくて憂いを帯びる。「May J.として歌うのとレイチェルとして歌うのは全然違う。その変化を感じてもらえれば」と話していた彼女。2幕では少女と大人が同居したようなレイチェルに変化していくのが印象的だった。そんな3人の特長をうまく引き出したのは、アメリカのミュージカルドラマ『SMASH』の振付でエミー賞を受賞し、数多くのブロードウェイ作品を手がけている演出・振付のジョシュア・ベルガッセだ。
初演でもフランクを演じた大谷亮平は、無骨だけど温かく、母親思いで子ども好きな彼を魅力的に演じた。大谷をおいて、ほかのボディガード役は考えられないほどのはまり役だ。吉本新喜劇の内場勝則もレイチェルのマネージャーのビルを好演。初演でも飛び出したおなじみのギャグをはじめ、作品のムードを壊さない良い加減の吉本流のお笑いが作品の緊張感をほぐしてくれるのもいい。

大谷亮平

内場勝則、大谷亮平
“エンダーーー♪”でおなじみの最大のクライマックス『オールウェイズ・ラヴ・ユー I WILL ALWAYS LOVE YOU』では、海のように光るまぶしいブルーライトが舞台と客席を照らし、柚希、新妻、May J.の三人三様の歌声が情感たっぷりに響く。「レイチェルはどんなに命の危険があっても歌とお客さまには背を向けない。長い間舞台に立ってきたので、私もその思いを重ねた」と柚希は話していた。レイチェルやステージで生きてきた3人のキャストのそれぞれの人生に思いを馳せてしまう。カラオケバーでフランクが歌ってくれたこの曲を聴いたレイチェルは「誰かが、誰かを置いて去っていく、よくある感じの歌」という。この曲を世界中で大ヒットさせ、48歳で急逝したホイットニーもそうだ。でも確実に残るものはある。トリプルキャスト全員を見逃したくないと思わせる、何度でも楽しみたい作品だ。
大阪公演は1月31日(月)まで梅田芸術劇場メインホールにて、その後、2月8日(火)から19日(土)まで東京国際フォーラム ホールCにて上演。チケット発売中。
取材・文:米満ゆう子
撮影:岸隆子
(2022年1月26日更新)
Check