お芝居と音楽が一緒になった一夜限りの公演
大宮エリー作・演出「LIVE×LIVE SING IN THE STORY」
『消えない絵』ライブレポート
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの人生を取り上げた作品は数多いが、その恵まれない生涯ゆえに、どうしても悲劇的に描かれがちだ。しかし大宮エリー×真心ブラザーズ×片桐仁・板尾創路の組み合わせだから、暗いだけの世界にはならないはず……とは思ってはいたが、これほど「ゆううつな気持ちが広がっても、どか~んと景気よくやってみよう」を地で行くような舞台になるとは、予想だにしなかった。
紆余曲折の末に画家を目指すようになったものの、今まで一枚も絵が売れたことのないゴッホ。売れっ子のゴーギャンと同居するなど、あの手この手を尽くしてみるが、どうしても世間に自分の絵を認めてもらえない。しかし、ゴーギャンが購入者の家に忍び込んで取り戻した「消そうとしても消えない絵」の存在をきっかけに、ゴッホの心は徐々に変わっていく。
耳を切ったって奇妙に明るい片桐のゴッホに、ゴーギャンのみならずゴッホの父や鳥までも演じる板尾。ボケ・ツッコミのような2人のやり取りが、ともすればダークになりそうな物語に光を照らし、さらに真心2人だけの、シンプルだけど力強い生演奏が、その輝きをランランと強めていく。『素晴らしい世界』『ともだち』『明日はどっちだ!』などの曲が、描き下ろしたようにピタッとストーリーにハマるかと思えば、『サマーヌード』に合わせて、片桐と板尾がぎこちなく踊るシーンでは、この絶妙なハズし具合に、客席から「何見せられてるんだ」と言わんばかりの笑いが。上演中に手拍子が起こることは、音楽系の芝居ではさほど珍しくないが、腕を振ったり拳を上げたりが自然発生するのは、他の舞台ではあまり見られない光景だ。
「売れるために、いかに自分を変えればいいのか?」と、文字通り舞台を右往左往しながら悩み苦しんだゴッホだが、やがて「誰かに認めてもらう必要などない。自分で自分にOKを出していこう」と、我が道を行くことを決意。そしてゴーギャンと肩を並べて、のびのびとカンバスに向かうそのバックに、真心の『消えない絵』が爽快に流れていく。表現者に限らず、SNSの「いいね!」の数など、何かと承認欲求に振り回されがちなすべての人たちへの、大きなメッセージと励みになるようなラストだった。これを観た人たちの大半は、きっと背中を押されたような気持ちで家路についたんだろうな……と思えるほど、応援ソングならぬ「応援ステージ」と呼びたくなる舞台が誕生した。
取材・文:吉永美和子
撮影:田浦ボン
(2021年12月13日更新)
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