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エミィ賞グランプリ2019受賞の川久保晴インタビュー!

2012年に53歳の若さで逝去した女優・牧野エミ。2017年、かつて「売名行為」(1985年~1991年)、「劇団MOTHER」(1991年~2002年)で活動を共にした升毅が中心となり、「ポップでクール、スタイリッシュで面白いコメディエンヌを選出し、応援していこう」と、彼女をリスペクトした「エミィ賞」が立ち上げられた。そして2019年11月、第3回となる「エミィ賞グランプリ2019」が開催。第1回より参戦してきた川久保晴(さえ)が、高校受験の面接を受けに来た48歳のおばちゃんの物語を、巧みな構成力と演技力で展開して審査員をうならせ、見事グランプリを獲得。川久保と実行委員長の升、審査員として初参加したFM COCOLOのDJ加美幸伸に、話を聞いた。

――川久保さん、グランプリおめでとうございました! 改めて「エミィ賞グランプリ2019」のご感想をお願いします。
 
川久保「今回3回目の挑戦で、1回目は演劇に寄せて、2回目は笑いに寄せてネタを作ったんですね。で、今回挑戦するにあたって改めて、自分はなんでお笑い好きやのに、芸人ではなく役者を目指したのかっていうところに立ち返ったんです。そして自分が役者として、コメディエンヌとしてやりたいことは何か、自分が今出せるひとつの答えを出したつもりだったので、こういう形で認めていただけたことがうれしいです。大学を卒業したばかりのタイミングでもあるので、自分のやりたいことに向かって突き進んでいこうと、背中を押していただけたような気持ちです」
 
――升さんと加美さんは審査員席からどのように観られました?
 
加美「審査のときに、しきりに升さんが、今の若い世代の力量とかテクニックに驚いてらして、『すごいよ!すごいよ!』って。その印象を詳しくお聞きしたいです」
 
「単純に、自分が同じくらいの年齢のときにどれくらいできたかなっていうのを思い返したら、全然できてなかったなって思うんです。時代が違うっていってしまえばそれまでなんだろうけど、それだけでも本当に尊敬に値するくらいの力を持っていると思う。もちろん今の年齢だったら負けないぞっていう自信はあるけど、立ち返ったときに到底勝てないなと。足元にも及ばないなっていうのが実感としてあって、その段階でみんなすごいんですよ。僕は審査しなきゃいけない立場だから、斜めから見たり、難癖つけながらやってますけど(笑)、ちょっとでもダメなところを探そうと思って探しても、なかなか見つからなくて。本当に率直な気持ちで今の子たちはすごいなって思いますね」
 
加美「僕も、本当に審査するのが難しかったです」
 
「最終選考に残った6人が同じもので競って甲乙つけるわけではないですからね。それぞれ自分が考えて作ってきたものだから、当然一番自信があるものをやっているだろうし、他の人にはできないことをやっているから、その段階で甲乙つけるのが難しいですよね」
 
加美「川久保さんのパフォーマンスが終わってコメントを求められたときに、『お客さんをちゃんと意識してる』っていうコメントをしたんですね。あらゆる世代の人がちゃんとキャッチできるようなネタを持ってきてたのと、最初は女子高生に見せて、若い世代から一気に年配までいくっていうストーリーを見せてくださったじゃないですか。だからちょっとビックリしちゃって。エンタテイナーだなってすごく思ったんですよ」

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「その空間の空気をちゃんと自分で捕まえていましたよね。間の取り方とか。お客さんと駆け引きをしているっていう感じがあった。それ、自分でも実感としてあるでしょ?」
 
川久保「そうですね。去年はそれがなくて、後でDVDで見たときに、自分が大好きな間も全部つぶして、あまりにも閉じた空間でやってしまっていたことに気が付いたんです。だから今回はできるだけお客さんに向かって喋って、お客さんと駆け引きができるもの、間をしっかりとれる作り方をしようというのは意識して作りました」
 
「それはすごく感じました」
 
加美「僕、落語も好きなので、表情とかも気になるんです。そこに誰がいるかっていうのを想像できることがすごくポイントで、彼女の表現はすごく見えてきました」
 
川久保「私は自分の武器がはっきりしているほうだなと思っていて、自分でネタを書くときに、どうしてもおばさんとか自分から離れたキャラクターを使ったネタで戦ってしまうんですね。それで前回、『等身大の自分が見えない』とか『自分らしさから逃げないで』とも言われたんですよ。それがすごく刺さって、今回は最初におばさんを排除して考えたんですけど、やっぱり同じものをおばさんでやったほうがおもろいって思ってしまって(笑)。でもそのなかで等身大を出そうと。去年は、言葉で説明できるような、どう裏切ろうとかそういう部分で戦ってたんですけど、そうじゃなくて、私が役者を目指したのって、なんか分からないエネルギーを受けたときだったんですよ。なんか分からないけど言葉にできない熱みたいなものをもらったときに、“うわ!こんなんあるんや!”って衝撃を受けて。その説明できない今の私の気持ちを、おばさんを演じながらぶつけようと思ってできた作品です」
 
「去年はおばさんを“演じてた”感じがあったけど、今回はおばさんだったもんね。目指したのはきっとそこだろうなと思ったし、それを感じました。だって、おばさんなんだもん(笑)。終わってから改めて、そうだ、23(歳)なんだって思ったくらいでした」
 
川久保「ひとりの人物に凝縮してみたいと思ったんです。演じ終わった後に、去年は『うまいね』って言われたんです。それってうれしいんですけど、やっぱり食らわないというか、それだけで終わっちゃう。そうじゃなくて、観た人が衝撃を受けるものが作りたいなと」
 
加美「その衝撃が、不思議とエネルギーになるんですよね」
 
川久保「そうですね。たった10分でも、ひとつの物語を観終わったようなものができるんじゃないかと思ってやってみました。本当に悩み抜いてできた作品です」
 
――おばさんを演じるにあたって意識したことは?
 
川久保「元々は、大好きな芸人さんの中川家さんとか友近さんとかを参考にするところから入ったので、去年は笑いに寄ったおばさんの作り方をしていたんですけど、本当のおばさんってどうなのかって思ったときに、母が50歳を超えてるので、母にアドバイスをもらったりしました。ガニ股の角度とか、老眼のかけ方とか(笑)。あとは、街中にいるおばさんを見て追求していきましたね。演技ではデフォルメしがちですけど、実際にはしないんやなっていう発見もありました。そうやって役者としておばさんに向き合って作ってみました」
 
加美「リアリティを追求していったんやね」
 
川久保「今までやってきたおばさんは形だけで、自分の気持ちがそんなに乗ってなかったんですね。芯からおばさんになってみたいと思ってやりました」
 
加美「僕はもう50代半ばで、見ているうちにネタが僕らに寄ってきたんですよね。最初は高校の面接で女子高生の姿をしていて、ちょっと僕らからしたら遠いじゃないですか。記憶の向こうにあるもので。でも、見てたら段々僕らに寄ってくる感じがした。その時間の経過が面白くて。たぶん見方としたら、若い世代の子たちから見ると、おばさんの姿が未来に見えているわけですよね。だからあの時間の流れとしてすごく面白いなと思いました」
 
川久保「前回、人に見てもらうことをしてなくて、自分のなかで完結していたんです。例えば、早口であることすら気付かなくて、DVDで見たら聞き取れなかった。前から見たらどう見えるのか、ひとつの動きでも今回は事前に何人かに見てもらって、ここが伝わらないからどうしよう、っていうのを考えていきました。説明的にはなりたくないけど、そこを怠ったらただの自己満足でしかないから演出で工夫する。去年は演出という部分が壊滅していたので、今回は前から見たらどう伝わるのかを意識して、最後まですごく悩みながら作りました。だから予選とも全然違うものになりました」
 
――これから目指したい女優像はありますか?
 
川久保「正直なところ、牧野エミさんのことは元々知らなかったので、女優さんでイメージする方があまりいなくて。小さい頃に見て役者を目指すきっかけになったのは、阿部サダヲさんなんです。テレビで見たときに、“あ、この世界で私は面白いことをしたい!”って思って。ドラマを背負った笑いってすごいし、笑いでドラマにテンポが生まれるというか。面白いことだけで終わらないところにいきたいって思ったのが阿部さんで、それからは『阿部サダヲさんの女版になりたい!』って言ってたんですけど、いずれは、“誰々みたいに”ではなくて、「川久保晴」で名前の通じるコメディエンヌになりたいと思っています」
 
――ちなみに、今はどういう活動を軸にされているんですか?
 
川久保「学生時代は早稲田大学の演劇研究会に入っていて、そこで3年生の頃に同期が旗揚げした劇団に所属したんです。でも、一人芝居をやり始めて、私はこういう活動が好きなんだなと改めて実感して。そこで一度、肩書きとかを全部取っ払って、自分の好きなこと、自分のやりたいことに向き合ってみたいと思ったので、劇団も辞めて、学校も卒業して、そこからはひとりで書いてコントをしたり、一人芝居に応募したり。その中でもエミィ賞は、本当に自分がこれからやっていきたいものっていうのを改めて考えさせられました。今はどこにも所属せずに、自分がやりたいことをやっている時期ですね」
 
「自分から何の肩書きもなくすって、怖いでしょ」
 
川久保「学生時代はそれが怖くて踏み出せませんでした」
 
「その年齢で何かほしいだろうけど、逆に全部排除して、そこに身を置いてみようって思えることがすごいし、実際そうしているし。たぶん普通の人は不安でしょうがないと思うけど、それが逆にうまくまわっている。いい時間を自分で作ってるなって思いますね」
 
川久保「私って、目先の充実感でやりたいこととかを見失いがちなところがあって、元々、京大(京都大学)を目指していて、浪人したんです。なんで京大に行きたいかっていうと、カッコいいからやったんですよ。『役者になりたいなら専門学校とかあったでしょ』って言われるまで気付かないくらい、目指している自分、努力している自分に満足して。『頑張ってるね』って言われることが目的になってしまっているのがいけないなって思ったので、浪人、大学生活を経て今はすごい俯瞰できるようになってきたなって思います。今もフリーで活動して、自分の中では充実していて、舞台の予定もあって、じゃあこれを永遠に続けたいのか、それともその先に何か目標があって、そこに向けていきたいのかみたいなことはものすごく考えています。何年後までに事務所に入りたいから、いつまでに何かをしたいっていう自分の人生設計というか。私の人生これからやっていうところが本当に楽しくて仕方がないんですけど、楽しいだけで終わらないように、今後に向けて、危機感は常に持ってやっていきたいなと思っています」
 
「しっかりしてるねぇ~!」
 
川久保「挫折も経験してきましたし、いろいろ考えさせられる時期が多かったので(笑)。そういう意味では今はいい人生を歩ませてもらっているので、ここから飛び跳ねていきたい気持ちです」
 
――升さん、エミィ賞を続ける思いを改めて教えていただけますか。
 
「元々は牧野エミみたいな女優を探そうというところで、牧野へのリスペクトからスタートしたんですけど、やっているうちに段々その思いは…、なくはないんだけど、そうじゃなくなってきた。どんな子がいるんだろう、どんなことを見せてくれるんだろうって、確実にそれは自分への刺激にもなっているし、おそらくこれが続いていくとすると冠が変わっていくかもしれないけど、そういう人たちを常に見たいっていうものにはなりつつあるなと思います。今回、3回目にしてそれをすごく感じましたね。だから牧野エミをリスペクトし続けたいという意味ではなくて、こういう賞があったら自分でいろんなことを考えて、ネタを作って練習して出て、落ちて悔しい、またやろう!という様を見せてもらえることがすごく刺激的で、そのために続けたくなっている自分がいますね」
 
――出演者の意識も年々高まっている気がします。
 
「そうだとうれしいですね。悔しくてまた受ける!っていう人たちがいるのも素敵なことで、そこに初参加の人が入ってきたら、またそこでうまい具合に化学反応が起きて。とてもいい感じになってきているなって実感しています」
 
加美「今回初めて参加させていただきましたが、牧野エミさんに寄せていくのではなく、“牧野エミ”という象徴を挙げることで、また新しいクリエイティブなことをやろうとしているっていう感じを受けました」
 
「そもそもほとんどの応募者が牧野エミを知らないから、そうなって当たり前ですよね」
 
加美「僕らみたいに牧野さんを知ってる世代でもそう感じました。すごくフレッシュというか、すごく喜ばしい賞だなって思いましたね」



(2020年2月 7日更新)


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写真左より、升毅、川久保晴、加美幸伸