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「怖いもの見たさで観に来て、笑ってもらえれば」
注目の劇作・演出家、ピンク地底人3号が主宰する「ももちの世界」
新作『カンザキ』は自身の体験をベースに描く“黒い悲喜劇”

2015年に劇作・演出家のピンク地底人3号が立ち上げた団体「ももちの世界」が、7月18日(木)よりin→dependent theatre 1stにて新作『カンザキ』を上演する。ピンク地底人3号は、2017年に同ユニットで上演した『黒いらくだ』で第23回日本劇作家協会新人戯曲賞の最終候補に選出、翌年、『鎖骨に天使が眠っている』で同賞の新人戯曲賞を受賞した、注目の劇作家だ。かつて納棺師だった経験を生かし、「生きること」と「死ぬこと」をいかにして描くかを模索。今回の『カンザキ』では、自身の経験をもとに、京都の運送会社で起きる悲喜劇を描き出す。新作を上演するにあたり、ピンク地底人3号に、自身の活動や今作への思いについて話を聞いた。

――最初に、ピンク地底人3号さんの演劇活動からお聞きしたいと思います。「ももちの世界」を始められたきっかけから教えていただけますでしょうか。
 
元々は京都で「ピンク地底人」という劇団をやっていたのですが、大阪の俳優さんと会話劇をやりたいなと思って。京都と大阪だと、俳優さんの演技の質が全然違うんですね。で、大阪には知らない方々がたくさんいらっしゃるので、その方たちとできたらいいなと、2015年にこの団体を立ち上げました。
 
――「ピンク地底人」ではどういう劇を上演されていたんですか?
 
それまでは、いわゆるオーソドックスなタイプの作品ではなく、物語を再構築するような作品をやっていたんです。そこから、ストレートプレイというか、誰でも分かる作品を作ろうかなと思って「ももちの世界」を始めました。そのときどきで自分のやりたい方法論が変わってくるんですよね。でも明確なきっかけというと、3ヵ月間ニューヨークに逃避して、帰ってきてからですね。ちょっと自分の中での整理があって、一度会話劇をやろうと思って始めたんです。
 
――ニューヨークでは何をされていたんですか?
 
学校に通いながら「この先どうしようかな…」って、街をさまよっていました(笑)。でもいつまでも現実から逃げていられないですしね。基本的に僕は生きることに精一杯で、常に何かと向き合って生きていて。それってやっぱり辛いじゃないですか。それが限界に達したら逃げて、また戻ってきて、っていう繰り返しで生きているんです。それでもちょっとずつ大人にはなってきていて、今がある、という感じですね。

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――そういう気持ちを演劇にぶつけるという側面も?
 
それはあると思います。
 
――ピンク地底人3号さんにとって、演劇とはどういう存在ですか?
 
演劇をすることでしか私は生きていけないので。僕、戯曲も書くんですけど、戯曲は私の心の基盤なんですね。だから戯曲が書けなかったり、うまくいかなかったりすると、その基盤が崩れてしまうので、そこからすべての生活、あらゆるものに影響して大変なことになってしまうんです。今回もそうなりかけていたときがあったんですけど、やっぱりいいんじゃないかと思えて、希望が生まれました。それを毎年のように繰り返していて、それでも生きている、という感じです。
 
――そもそも、演劇を始められたきっかけは何だったのですか?
 
大学生のときです。それも一種の逃避でイギリスに行ったときで、帰国したら何か始めなきゃいけないなと思って、たまたま大学の出店に出してた演劇部が目に入ったので入りました(笑)。
 
――2018年は『鎖骨に天使が眠っている』で劇作家協会の新人戯曲賞に選ばれたり、『わたしのヒーロー』で仙台の短編戯曲賞の大賞を受賞したり。戯曲が高く評価されてきているのは「ももちの世界」になってからですよね。
 
そうですね。いわゆるストレートプレイをやり始めて、2017年の『黒いらくだ』からそういう評価をいただくようになりましたね。
 
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2018年『鎖骨に天使が眠っている』
 

――会話劇を書いてからそういう評価を得て、自分の中でも会話劇がしっくりきている感じはありますか?
 
しっくりはきているんですけど、会話劇だけじゃ書けないものもやっぱりあるのかなっていう気もちょっとしていて。会話劇は会話劇でも、やっぱり僕は誰も観たことがないものを書きたいと常々思っているので、オーソドックスといえども、そこから少しはみだしているものを書きたい。今回もそれができるんじゃないかなっていう気はしています。僕の劇作の先生がいるんですけど、その人は常に何をするにしても発見をしにいかなきゃならないということを仰っていて、それはすごく分かるなと思うんです。会話劇という安住の地でやっているだけじゃダメだなっていうのはあります。毎回そうなんですけど、会話劇といっても、やっぱり会話劇じゃない発想の展開にはなっていますね。
 
――納棺師の経験を生かして、いかにして生きること、死ぬことについて描くかを追求されているとのことですが、納棺師をやろうと思われたのは?
 
それも、何かを始めなきゃいけないと思ったのと、頭の片隅で演劇にも活かせるだろうと思ったので。基本的に演劇って生と死を描くものなので、死になるべく近付きたかったというか。それで4年くらいやりました。
 
――常に演劇を軸に考えられているんですね。
 
すべて演劇を軸にしていますね。何をするにしても演劇で活かせるかとか、これは演劇にできるのかなとか考えながらやっていますね。少し前に自分の子どもが生まれたんですよ。それは“演劇のため”というわけではないですが、それもきっと演劇に関わってくるだろうなという思いはありました。
 
――子どもが生まれて変わったことはありますか?
 
変わったと思ってたんですけどね…、やっぱり戯曲がうまくいかなくなると昔の自分に戻ってしまうんです。子どもが生まれて“これからしっかりしていくんだ!”って思ったのに、いざうまくいかなくなると、“この子をちゃんと育てられるのだろうか…”って考え始めて、どんどん落ちていくんです。子どもが生まれたからといって、人は劇的には変われないものですね。去年の『鎖骨に天使が眠っている』のときは、“今だったらなんだって書けるぞ!”って思ってたのに、今は、そんな生易しいものじゃないなって思います。
 
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――今回の『カンザキ』では何を描きたいと思われていますか?
 
今回は、私がブラックな会社に勤めていた頃の経験を、半自伝的に描きます。20代の頃に就職していた会社なんですけど、電気屋さんの下請けで、電化製品を家に設置したり、配達する仕事だったんです。週6で朝から晩まで働いているのに薄給。なおかつ、周りの人たちが強烈で(笑)。いわゆる自己啓発セミナーのようなものも会社の中で取り入れられていて、休みの日に自主的に参加して夢を語ったりするというのが平然と行われている。でも誰もそれを疑わないんです。はたから見ると“そんなことってホンマにあるの?!”って笑えるけど、中の人たちは必死。それが日常化してくると、そこにあることが普通のことになってしまうというか。その経験をもとに描きますが、それを辛く見えるように描いてもお客さんは面白くないと思うので、その状況を笑うしかないという感じで見せたいと思っています。だから、喜劇であってコメディではないんです。僕が書くので、どうしてもそこに生死の話は入り込んできます。観たことがない作品にはなると思います。
 
――作品には自分の経験を投影することが多いんですか?
 
多いかもしれないですね。どうしても、自分が感じたことしか書けないというか、感じたことを何か別のものに託して描くことしかできないので、自分の経験がもとになってしまいますね。だからこそなるべく多くの引き出しを持とうとは思っていて。ブラック会社の話もそうですけど、いろんな経験を溜め込んでおこうというのは20代の頃からありました。
 
――出演者は作品ごとに変わるんですよね。
 
今回の出演者は、半分くらいはこれまでにも何回かももちに関わってくれた人で、あとは僕が書いた台本に合いそうな人を呼ばせていただきました。舞台に出られているのをみて、この人が合うかなという感じで選びました。
 
――劇場にも結構足を運ばれるんですね。
 
僕はかなり観るほうだと思います。人によってはあまり外に出ないタイプの俳優さんも結構いて。特定のところでしかやらない人とか、あまり積極的にオーディションを受けにいったりしない人も多いんですよね。そういうふうに“知っている人しか知らない”みたいな人を見つけて、私の作品に出てもらって、いろんな人に広げるというか、発掘する快感はありますね。ももちに出たことで幅を広げさせたいというのはいつも思っていることなので、なるべく観に行くようにしています。
 
――タイトルの『カンザキ』というのはどこから付けられたのですか?
 
主人公が運送会社に入って、そこでめちゃくちゃな目に合うんですけど、その中の副社長がカンザキという人。僕も実際にそこの会社に入って、本当にとんでもない人がいたんですよ。トラックで配送して、お宅に伺って電化製品を設置するので、基本的にふたり行動。だからその中では上の人が絶対なんです。その人がAと言ったらAになる。だから『カンザキ』というタイトルにしました。ある限定された空間での「神」に対する話というか。僕、本当に笑えないくらいひどい思いをしたんですよ。だから怖いもの見たさでぜひみなさんに観ていただいて、笑っていただければと思います。相当笑える感じにはなっていると思うので(笑)。
 
――ピンク地底人3号さんが演劇でお客さんに見せたいものは何ですか?
 
観劇後に、何かしらの変化をもたらしたいなと思っています。なるべくならそれがいい変化であってほしい。どんなことでもいいんですけど、分かりやすいところでいうと“元気が出た”とか、ポジティブな何かを持ち帰っていただきたいとは常に考えています。それは出演者の人に対してもそうで。僕と関わったことによって、何かしらその人たちの人生が少しでもいい方向に向かえばいいようにとは思っています。そうじゃないと僕がやる意味がないというか。なるべくみなさんに幸せになってほしい。そんなことは無理だと分かりつつも、そうなってほしいという気持ちを常に持ちながら作っていますね。今回も、かなりいろいろ大変な目に合うんですけど、最後はポジティブに帰っていただきたいと思っています。やっぱり空は青くないとって思いますからね。

取材・文:黒石悦子



(2019年6月28日更新)


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ももちの世界#4『カンザキ』

チケット発売中 Pコード:493-933

▼7月18日(木) 19:30
▼7月19日(金) 14:30/19:30
▼7月20日(土) 14:30/19:30
▼7月21日(日) 11:30/16:30
▼7月22日(月) 14:30/19:30
▼7月23日(火) 14:30

in→dependent theatre 1st

一般-2800円(整理番号付)
25歳以下-2300円(整理番号付、要身分証明書)
18歳以下-1500円(整理番号付、要身分証明書)

[作][演出]ピンク地底人3号
[出演]秋津ねを/池川タカキヨ/江本真里子/神藤恭平/高橋映美子/竹内宏樹/のたにかな子/橋本浩明

※25歳以下、18歳以下は要身分証明書。

[問]ももちの世界■090-8379-4072

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