「ダンスや物語を楽しみながら、知識が増えます!」
ダンスカンパニー・男肉 du Soleilが“コミケ”を題材にした
新作『薄い書を捨てよ、町へでよう』を上演
ジーパン・半裸の男たちが、汗を撒き散らしながら熱気溢れるパフォーマンスで魅せるダンスカンパニー・男肉 du Soleil(以下、男肉(オニク))。芝居、ダンス、ラップにアニメや漫画、ゲームなどの世界観を織り交ぜながら全力で身体表現を繰り広げ、観る者の心をも躍らせる彼らが、大長編 男肉 du Soleil『薄い書を捨てよ、町へでよう』と題した新作を上演。同人誌即売会“コミックマーケット”(=コミケ)を題材にしたパフォーマンスを展開する。公演を前に、作・演出を手がける団長・池浦さだ夢に話を聞いた。
――今回の題材はコミックマーケットですね。
ついに手を出してしまいました。オタクを題材にすると、ダンスが全部“オタ芸”に見えてしまいかねないし、親和性がありすぎていかがなものかと思っていたのですが、満を持してコミックマーケットに飛び出してみよう!と。
――ストーリーとしては、自宅警備員が愛する人を守る話とのことですが…。
アラサーで童貞の自宅警備員がオタク女子に恋をして、その子に近付くために同人誌サークルで有名になりたい!っていう話です(笑)。でも実は、オタめいた人たちの恋愛話という皮を被りながら、コミックマーケットという知識をガンガンに押し出す教育劇でもあるんです。見終わったときにコミケに詳しくなれます(笑)。
――なかなか行く機会ないですもんね。
そうなんですよ。“薄い本”と呼ばれている同人誌というものが、昔に比べたら身近にはなっているんですけど、やっぱり知らないじゃないですか。興味がないかもしれないですけど。でも、気付けばみんなコミケに詳しくなっているっていうのが今回の目標です。それを押し付けるのではなく、楽しい物語とか、ダンスを観ていたら、結果、コミケ博士になっているような感じ(笑)。
――団長はコミケに行ったことがあるんですか?
一回だけあります。熱量がすごいんですよ。東京のビッグサイトに20万人くらい一気に来るので。みっちりで動けないし。でも、行って分かることがすごくあるというか。イメージとしては男性が多い感じがしますが、割合でいうと、6対4くらいで女性のほうが多い。全体的エロのジャンルは15%、BL系は20%とか。大学のサークルが作っている二次創作物を学漫(がくまん)と呼んだり。あと、手作りの雑貨とかも売ってるんですよ。インディーズで作っているものだったらコミックじゃなくても出していいんですよね。というようなことを物語に詰め込んでいる感じです(笑)。だからみんな、ダンスや芝居を観て、何かひとつ知識を増やして帰れます。
――今回の大阪公演は難波の角座ですが、それこそ場所としては、今までやられていた日本橋のin→dependent theatreのほうが合っているような…(笑)。
そうですよね。でも、あえてそこから出ようっていう。そこも“町へでよう”という感じでね(笑)。ちなみに今回の客演さんの中でもBL好きの子がいて、実際に“薄い本”を持っているんですよ。その“薄い本”を雑に扱ったら、“手にはいらないんですから!”ってめちゃくちゃ怒られて。その子にとっては、ヴィンテージギターとかと同じようなものなんですよね。でもこの熱量は、ダンスの熱量に勝るとも劣らないものがあるので、そういうところにも親和性を感じますね。
過去公演より
――そういうのを見たり、聞いたりしながら構成しているのですか?
そういうリアルな部分と舞台ならではのファンタジーな部分を掛け合わせながら作っています。リアルな数字とかを出しつつ、誇張したBLの世界観とかを出せていけたらいいなと。
――そんな世界観の中で、ダンスはどう作られていますか?
今までの男肉って、“事件をダンスで解決する”という形やったんですよ。何かを探すとか、戦争を止める、とか。でも今回は、例えば製本過程や即売会をダンスで表現したり、アラサーニート童貞だけどカッコつけちゃうようなものを表現したり。今までだと勢いがあるダンスだったら突破できたんですけどね。童貞男子たちを描きたいというのが強くて。彼らのもやもやした感じとか、カッコつけちゃう感じとか。
――童貞男子の葛藤みたいなものですね。
ここまできたら捨てるに捨てられないっていう感情が生まれるんですよね。その男子たちの叫びみたいなものが届けばいいなと。そういう気持ちは、セリフでももちろん刺さるんですけど、ダンスでしっかり踊るっていうので見せたいなと。
――ホームページには“泣けるストーリー”と書いてありました。
これはね…、男子には泣けるかもしれないですね(笑)。気持ち的には切ないんですよね。アラサーで、大して働いてもいなくて、好きな子できたけど言えないとか、もやもやうじうじしてるけど頑張りたいみたいな、必死にひと皮剥けようとしているところって、つい涙してしまうというか。作っていても、しょうもないヤツらやけど、かわいいな!って。応援したいぞ!ってなるんです。女性には5割の人に気持ち悪がられて、5割の人に可愛がられたらいいかな(笑)。
――母性本能をくすぐるような(笑)。
そうだと思います。ただそれが気持ち悪いと思われないようにだけしたいなと(笑)。愛されるように作っていきたいですね。

過去公演より
――絵描き歌のシーンとか、UFO呼ぶシーンもあるそうで、カオスなステージになりそうですが…(笑)。
オタクそれぞれにキャラクターがあって、すみだがオカルトマニア、吉田みるくは歴史系マニアで三国志とか戦国が好き。城之内コゴローがオタクにもなりきれないただのニート。だから、オカルトのシーンでUFOを呼んだり、いろんなエピソードをストーリーの中に組み込んでいるんです。でもそんな中で、ちゃんとコミケについて伝えたいっていう野望があります(笑)。
――音楽は今回どんな感じですか?
基本的には、アニメとかゲームの曲にしてJ-POPでもアニメのタイアップとか、カヴァーもの。とはいえ、説明とか自己紹介でラップしたりもします。EDMも使いたいんですが、オタクとあまり親和性がなくて。とはいえ、全部アニソンでも心が苦しくなってくるし、観ていてもしんどいし。そこはやっぱりバランスですね。本番でどうなってるか確かめてもらえれば(笑)。
――タイトルは、寺山修司の『書を捨てよ、町へ出よう』からですね(笑)。
そうなんです。これは“薄い書を捨てよ”ですが、むしろ大事にしようっていう話。僕、大学時代は寺山先生が大好きだったので、怒られないようにしないと(笑)。ただ、寺山先生は演劇には事故性、ハプニング性が大切って仰っていたので、そこだけは大事にしたいなと思います。当日みんなに無茶振りをしながらハプニング性を高めていくというのはあるかもしれないですね。
――どんな人に見てもらいたいですか?
もちろんコミケ好きな人には観ていただきたいですが、コミケをまったく知らないとか、同人誌のこと全然分からないっていう人にこそ観てほしい。終演後のアンケートに「今度コミケ行ってきます!」って書かれるくらいの感じになったらいいなと(笑)。僕たちの間でも、結構アニメ好きとかゲーム好きって多いんですけど、関西にいることもあってか、コミケってちょっと遠い存在なんですよね。知らない人が詳しくなれる感じにしたいので、ぜひともいろんな人に観ていただきたいです。
――根本的なところでいうと、ダンスカンパニーなのでダンスも楽しんでいただきつつ。
何もかも忘れて観たときに、ダンスとして観てもやっぱり面白いというようにはしたいので。それでいて、ストーリーにもちゃんとはまっているように作っていきたい。ダンスはやっぱり、しかと見てほしいですね。今回はいつもと違う切り口で、身体と向き合いながらダンスを作っているから、そこもぜひ。本当に汗が飛び散るダンスを体感してほしいです。特に夏のビッグサイトは、オタクたちの熱気で室内がめちゃくちゃ暑くなったりするので、僕らもダンスの熱気で室温50度くらいにしようと思っています(笑)。
――コミケのことを知りに、劇場に来ていただきたいですね(笑)。
コミケとか知らなかったら面白くないのかなってなっちゃうと思うんですけど、そういう話では全然なく、コミケのことを知れるっていう作品なので(笑)。ストーリー自体は端的に言うと、童貞が恋して頑張るっていうだけのお話。ストーリーを楽しんでいるうちに、気付けば君もコミケマスター!っていう作品なので、安心して観に来てください!
取材・文:黒石悦子
(2019年3月15日更新)
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