ホーム > インタビュー&レポート > 三度目の上演となる舞台『ローマの休日』で ジョー・ブラッドレーを演じ続けている吉田栄作 自身にとって代表作ともいえる本公演にかける思いとは
--久々に初演のキャストが揃いましたね。
再演(2012年)ではアン王女役が荘田由紀さんと秋元才加さんのWキャストで、再々演も違う方なのかなと思っていたのですが、初演の朝海さんがということで。最初に聞いた時は、初演のキャストだからこそ新鮮な気持ちでやりたいなと思いましたね。小倉さんとの掛け合いも楽しみですね。過去には、本番中にいろいろハプニングが起きたので(笑)。
--初演の際、世界的な名作を上演すると聞いて何を感じられましたか? また、再演の時の思い入れも教えてください。
『ローマの休日』は、僕の中では雲の上の存在のような映画です。それを舞台化、しかも日本人キャストで上演すると聞いて、台本を読むまでは自分の中でもあまり良い印象を持ちませんでしたね。なんだろう…たわいない作品になるんじゃないかと思ったんです。どうしても作品が大きすぎるので、そう考えてしまったのですが、マキノさんが書き足された部分もあって、初演の台本を読んだ時点で「これはスタッフ、キャストがしっかりとした仕事をすれば、とてもいい作品になるんじゃないかな」と感じました。最後まで読み終わった時には、ぜひやらしてほしいという気持ちになっていました。
--そうして実際、舞台に立ってみての手ごたえはいかがでしたか?
書き足していいかどうか、配給元のパラマウントさんに許可を得ていたとはいうものの、初演の初日に2トップの方が観に来られて、そういう意味で緊張感のある中でやったのですが、最後のカーテンコールの時、そのおふたりが誰よりも最初にスタンディングオベーションをしてくださって。ステージからその光景を見ていて、すごく嬉しかったし、ずっと記憶に残っています。
--書き足したところというのは、赤狩りの場面ですか?
そうですね。作家のダルトン・トランボは最近、映画(『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』)になりましたよね。赤狩りの騒動の中、友達をかばったためにハリウッドを追放されたんですよね。舞台ではその辺りを、ジョー・ブラッドレーがなぜローマにいるのかというところに投影しています。それだけに彼の人物像や物語全体に深みが増していると思いますね。最後のシーンも、そういう男だからこその切なさみたいなものが映画よりもあるんじゃないかなと思います。
--吉田さんはジョーを演じる時、何かトランボの影響などありますか?
長いものに巻かれないというか、大きな力に逆らって生きる……結果、自分が損する生き方になるのかもしれないけど、自分の生き方を曲げないところも、男からするとものすごく惹かれる部分がありますね。自分の理想などを物語の中に入れさせていただくところは少なからずあると思います。
--再々演にあたって、改めて再発見したジョーの魅力はありますか?
初演の時、まず演出家のマキノさんが、真実の口のシーンでは「自分は演出しない」とおっしゃったんです。「ウィリアム・ワイラーの演出にするので、キャストの皆さん、映画をよく見て、あのシーンは完コピしてください」と。それで、音楽から、手を入れるタイミングから全部、映画のとおりにやってみたんです。それがうまくいきまして、それからというもの僕は毎日のように映画を観るようになったんです。『ローマの休日』の大ファンの方たちに「これもそのままだ!」と思ってもらえるように、とにかく毎日のように映画を繰り返し、繰り返し観ました。錯覚も含めて、今、生きている人間が映画そのままをやっているというふうに観られる作品じゃないかと思います。映画は白黒で、既にカラーがあった時代に、監督があえて白黒にしたらしいのです。そして、舞台も、白黒なんです。そういったいい意味での錯覚というのも一つの魅力になっているんじゃないかと思います。
--「映画と同じように」というマキノさんの演出は、“俳優、吉田栄作”としてはどんな心境でしたか?
マキノさんのその発想はさすがだなと思いました。やっぱり誰もが知っているシーンなので、そこはそのまま行こうと。稽古初日にマキノさんが僕たちにおっしゃったことで2つ印象に残っているのは、「あの『ローマの休日』を我々はこれからやるんだ。それはプレッシャーというか、誰もが本当にできるの?という感覚だと思う。だから、何よりもまず、映画へのリスペクトを強く持ちましょう」と。それが1つ。次に「ここで一つ、たとえ話をしたい」、――これは架空の話ですよ、「あの映画ができる前に、実はオフ・ブロードウェイで『ローマの休日』という3人芝居の舞台がロングランで上演されていた。それを観た関係者が“これは映画になるんじゃないか”と言ってあの映画ができた。だから、我々がやるのは映画ができる前のオフ・ブロードウェイの3人芝居の日本人版だという考え方でやってみませんか?」と。これを聞いた僕たち3人は、マキノさんの言葉に救われたというか、その時点で既に僕たちに対しての演出が始まっていたんだなと思いますね。
--『ローマの休日』での朝海さんとの共演は7年ぶりですが、彼女の魅力を教えてください。
今年は『ローマの休日』を含めて、3本、舞台をやるんです。1本目は『私はだれでしょう』というこまつ座の舞台で、そこで朝海さんと共演しました。だから今年は、2本の舞台でご一緒させていただくのですが、『ローマの休日』の初演以来の共演でした。『私はだれでしょう』では、お互いが面と向かって芝居をするシーンもたくさんありましたが、違う誰かと芝居をしている時や、音楽劇だったのでお客様に向かって何か叫ぶように歌を歌うシーンがあって、僕は後ろから彼女を見ている設定だったのですが、そういう時に舞台の上でものすごく息をしている人、舞台上で自分が生きているという証を感じているんだなと思いましたね。
--おそらく今回が最後になるかもしれないとおっしゃいましたが、その真意を教えてください。
初演の時、ある方が「これは君の40代の仕事にしたらいいよ」とおっしゃったんです。その言葉が僕の中で印象的で。当時、41歳で、「いい作品だし、そうなったらいいな」と思って。今回、再々演をやる運びになり、今年48歳になったんですね。それで、まあ、これが最後になるかなって。
--吉田さんのキャリアの中で、この作品はどういう影響を与えていますか?
舞台という表現の場に活動を広げてから、同じ舞台に3回出るという、そういう意味では代表作なんだろうなと思います。ただ、“『ローマの休日』が僕の代表作です”と言うには、まだ身の丈が合わないというか、実感ないですが、現実にこれが3回目ですから、自分でも胸を張ってそう言えるように、今回で最後の出演になってもいいように、しっかりとやらせていただこうと思っています。
(2017年7月25日更新)
発売中
Pコード:456-513
▼7月26日(水)14:00/18:30
▼7月27日(木)12:00
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
全席指定-8800円
U-25当日引換券-5000円(25 歳以下)
全席指定/プログラム付-8800円
[オリジナル脚本]イアン・マクレラン・ハンター/ジョン・ダイトン
[原作]ダルトン・トランボ
[演出]マキノノゾミ
[脚本]鈴木哲也/マキノノゾミ
[出演]吉田栄作/朝海ひかる/小倉久寛/川下大洋(声の出演)
※初日スペシャルカーテンコールあり。
※未就学児童は入場不可。
[問]梅田芸術劇場
[TEL]06-6377-3888