ホーム > インタビュー&レポート > テレビドラマを彩る豪華役者陣がずらり登場! 大阪松竹座にて開幕の『七変化 ねずみ小僧捕物帳』 幕府転覆を目論む旗本を演じる宇梶剛士にインタビュー
--では、まず大阪松竹座初出演という、そのお気持ちを改めて教えてください。
これまで全国4~50ヶ所はどこかの小屋に立っていると思うんです。北海道だけでも14~5ヶ所なので、4~50以上かもしれませんが、半世紀も生きたし、役者も35年…もっとやってるのかな? 普段舞台を観る機会の少ない人に向けて自分が培ってきたもの、できることを精一杯、表現して喜んでもらう、時間を共有したいという気持ちで、観てくれる人に励まされて役者をやってきましたが、そういえば大きなところにそんなに立ってなかったなと思って。もちろん美輪明宏さんの『黒蜥蜴』とか『双頭の鷲』なんかで大きい小屋に立ったことはあるけれど、あまりそういう自覚がないまま、自分としてはずっと小、中劇場で芝居をやってきて。気がついたら大きな小屋に立たせてもらうような歳になったし、少しはそういうことを考えてもいいのかなと思って。やるのは芝居ですから。芝居はもう何十年もやってきて、それはどんな小屋であろうとベストを尽くすだけなのですが、そういう遠くに見えていたお城に訪ねていく、そこに立ってみたいな、なんてことを少し考えられるようになったのかなと思います。ぼんやりと“自分は地べたで芝居をやっていくような人間かな”と思っていたんです。だから、“え、そのお城に入れるの!?”みたいな(笑)、そんな感じです。去年、博多座に出演できて、あそこも小屋の匂いがするところ。南座と…あと、嘉穂劇場はどうだろう、役者で生きているうちに立てたらと思いますね。
--福岡県飯塚市の老舗劇場ですね。
あそこはもう、何回も行ってます。去年、小屋主の方に話を聞かせてもらったりして…。今まで無我夢中でやってきて、どこの舞台に立つとか考えずにやってきたから。僕は、演劇というのは舞台に乗っかるもので、そこに乗っけるもののことに終始してきたわけです。情熱も、思考も。けれども、実は劇場もすごく個性があるし、同じ劇場はひとつもない。大きい劇場に立ってみたいという気持ちに素直になって、大阪松竹座に立つことを喜びたいし、実際嬉しいです。
--現代劇と時代劇で、見せ方などの違いはどのように捉えられていますか?
時代劇は “時代の劇”ですから、そこに時間というものが大きくある。それを大前提に演劇表現をするから、形式美とか様式美というものが積み重なってあるわけで、衣裳も違うし、所作も違うし、今普通にあるものがそこにはなかったりする。価値観も同じで、現代においては多様な価値観は大事とされているけれども、物と一緒であり過ぎると何を選んでいいかわからない。しかし、時代劇には物とかシステムの数が少ないですよね。そういう中だからこそ、非常に人間が見えてくる。それをお客さんに観てもらうから、立ったときの覚悟というのはすごく大きな力になるんですよね。何と言ったらいいのか、それは現代劇も一緒なんだけど、現代劇よりもお客さんの観る力が無意識に強くなってくるんじゃないかなと思います。普段その辺に歩いていない人を観るわけだから、非日常性が強い。非日常性が強いということは、より劇的ということ。そういう劇的なものというのは、役者にとって一つの経験として実感を持って挑める表現なんじゃないかなと思います。時代劇には不自由さがあると思うんです。決まりや約束事というのか、そういうものに縛られたときに、逆に人間って叫びとか、その人の持ってる本質みたいなものが立ち上がってくるというか、表に出てくることがあると思います。そういう不自由さの中で表現を伝えようとするところに自分の気持ちのありようや、そういう実感も得られるんじゃないかなと思います。
--共演者の皆さんとはいかがでしょうか?
浅野ゆう子さんも全員、舞台は初共演です。
--どんな感じになるでしょうね。
どうなんでしょうね。色んな人がいて地球だと思ってるから。色んな人がいるから地球も賑やかでおもしろいし、一人ひとり、のびのびできる。また、自分ものびのび、思い切ってできるような時間を過ごしたいですね。だから、斜に構えてないでよろしくお願いしますという気持ちでいこうと思ってます。
--月並みな質問ですが、舞台の醍醐味は?
やっぱり呼吸ですよね。客席との呼吸。映像は過去なんです。過去も今も未来もあって人生なんだけれども、未来だけは経験できないじゃないですか。舞台では、“今”みたいなものがおそらく実感という言葉に訳せると思うんです。あとは自分が一番、場を得てきたのが舞台だと思いますから、ホームグラウンドのような居心地もあるのかもしれませんね。
--お客様との呼吸というのは、どんなふうに感じられるんですか?
お客さんが息を呑んでくれるような場面もあれば、それを一気に解放して、笑って、驚いてとか。そういうものをこっちが投げて、受け止めたものを笑いや、息を呑むということで返してもらう。またそこに力を借りて、そこで2時間前後の時間を積み重ねていくわけですよね。多くの人たちと一緒に。共演者もスタッフも全員で。そういう共同作業みたいなことは、「今日、気持ちがぐっと揃ったな」というのはそうそうあることじゃないですが、もしそこに自分も一緒にいて、そういうことがあったら忘れられないものになるし、また、忘れ得ぬようなものになることを目指して毎回、舞台に立つわけです。それだけ、個人レベルで言っても、実は心がとてもそういったものを求めているんじゃないかなとは思います。
--気持ちが揃うという瞬間は、そうそうあるものじゃないんですね。
実はそうなんですよね。舞台は映像よりも情報量が多いですよね。情報量というか、刺激というか。無意識の中で受ける刺激というのが演劇は本当に多いです。また、実社会では落ちこぼれていったり、置き去りにされたりする人がいますが、舞台表現においてそれはないわけです。どんなパートの人も、誰もが必要とされるわけです。そういう中で人間と向き合うことの実感もあるのかなとは思います。そして共通の目的があります。目的というのは、自分たちの目指しているものを見せて渡す、受け取ってもらう。役者というのは、自分がそういうことを続けられるのか分からず飛び込んでいく世界ですから、そういうおそれとかを抱きながら生きているから、出来たときの喜びもまたあるのかなと思います。
--役者生活は30年を超えていらっしゃいますが、“おそれ”はずっと抱き続けているものですか?
多分、役者をやる要素に入っているんじゃないかな。それがなくなると多分、呼ばれなくなるんじゃないかなと思います。自分で企画しない限り、呼ばれて成り立っている仕事ですから。普段がつい出てしまう。ものの見方や考え方が透けて見えてしまうこともありますから、自分は“おそれ”を手放さないようにとは思っています。
--では最後に、今回『七変化 ねずみ小僧捕物帳』では悪役をなさいますが、悪役の魅力はどのように感じられていますか?
人間というのは善だけでもなく、悪だけでもなく、様々な色合いにも似た心、感情を持っているわけですよね。精神から成っているわけですよ。ミハエル・エンデじゃないですけど「精神論が嫌いという精神」も精神なわけで、精神から逃れられないということではなく、精神からしか成っていないわけですね、人間は。だから、悪いものにも何か優しさとか、寂しさとか、人間らしさがある。それを限られた時間の中で、悪の代表として表現するわけですから、人間らしさを抱えて(舞台に)立たなければ、そんなヤツいねぇよと物語が浅くなってしまう気がします。台詞も限られていますし、自分の出番も限られているのですが、そういう中でいろんなものを抱きながら思い切って“悪って何だ? 悪ってこうだろう!”ということを表現してみるということです。全体を分かった上で精一杯、悪を演じるということは、俳優の仕事にとって取り組む価値のあることだと思います。
(2016年6月 1日更新)
大阪松竹座
▼6月1日(水)11:00
▼6月2日(木)11:00
▼6月3日(金)11:00/16:00
▼6月4日(土) 11:00/16:00
▼6月5日(日) 11:00/16:00
▼6月6日(月)11:00
▼6月7日(火)11:00/16:00
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▼6月10日(金)11:00/16:00
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▼6月13日(月)11:00
▼6月14日(火)11:00/貸切
▼6月15日(水) 貸切/16:00
▼6月16日(木)11:00
▼6月17日(金)11:00/16:00
▼6月18日(土) 11:00/16:00
▼6月19日(日) 11:00
1等席-13000円
2等席-7000円
3等席-4000円
※6/4(土)・5(日)・11(土)・12日(日)・18(土)・19(日)は2等席(親子ペア)-5250円(1名分) あり。
[作][演出]齋藤雅文
[出演]浅野ゆう子/村上弘明/宇梶剛士/有森也実/他
※日時・席種により取り扱いのない場合あり。4歳以上は有料。2等席(親子ペア)は2枚単位(合計10,500円)での販売。身分証の確認をさせて頂く場合がございます。
[問]大阪松竹座
[TEL]06-6214-2211
大阪松竹座
http://www.shochiku.co.jp/play/shochikuza/
うかじたかし●1962年8月15日生まれ、東京都出身。1983年、舞台『青森県のせむし男』でデビュー。1997年に放送されたドラマ「ひとつ屋根の下2」で一躍注目を集める。その後、連続ドラマや2時間ドラマに多数出演するほか、2007年より劇団PATHOS PACKを立ち上げ、“劇団”という共同体でしか表現できない舞台作りを追い求める。主な出演は舞台『いつか見た男達』、『めんたいぴりり』、『TAKE FIVE』。大阪松竹座は今回が初出演となる。