濃い“住人たち”の登場に
子ども時代のワクワク感が蘇る!
しーっ、何か聞こえる。ひそひそ声、街の喧騒? どれとも違う。例えるなら、光や時間を音にしたらこんな感じだろうか。時空の狭間をたゆたうような気分でいると、半透明の壁の向こうから島の住人たちがやってくる。続々と頼りなく、操り人形みたいな足取りで(とくに安蘭けいさん!)。口々に何かを話してる。宇宙の摂理、郷里の風景、家族で囲んだ夕げの話……あ、ここは“記憶の部屋”か。そう思い至った瞬間、ドゴーン、ボカーン。衝撃音と共に真っ暗になった。ええ、一体何が始まるの――!? 不可思議な幕開けに、思わず前のめりにならずにはいられない。故・井上ひさしの原点が詰まった“ひょうたん島”を伝説的なギャグユニットを率いた宮沢章夫、その教え子の山本健介が演出の串田和美とともに新たに脚本化。串田らしいユーモアと美しさを交えて舞台作品に仕上げた。チャプチャプ波音弾ませて、大地を揺るがせ突き進む。誰も見たことのない漂流劇が、遂に大阪へ“漂着”する。

島の宝を求めて
冒険と記憶の旅へ!
「海賊が来るぞー!」。ひょうたん島の宝を巡る、海賊VS島の子どもたちの物語。だが、島がどこかの陸地へ激突する度レコードの針が飛ぶように、次々と場面が切り替わる。冒頭の記憶の断片をつなぎ観るような構成だ。登場人物は大統領から殺し屋まで、いずれも大人の皮を被った子どものよう。「~であるからして」ともっともらしく唱えても中身はなく、周りも集中力が続かない。次から次へと連想ゲームを楽しむ要領で何でも遊びに変えてしまう。そういえばあの頃、無いものは想像力で補い、仲間同士では通じるルールがあったよなと、子どもは無条件で共鳴し、大人は当時の記憶が懐かしく思い出されるはずだ。

井上芳雄が美声とともに
コメディセンスを発揮する!
こんな愉快な安蘭けい見たことない!
20~70代の役者たちもひょうたん島の濃い住人たちを演じることが心底楽しそう。太鼓腹にちょび髭姿が可愛らしいドン・ガバチョ役の白石加代子、瞳をパチクリ輝かせ観客イジリも厭わないサンデー先生役の安蘭けい、井上芳雄がマシンガン・ダンディ役で拓いた新境地(独白付きの登場や見えない敵との死闘)も素晴らしく愉快だ。そして特筆すべきは小松政夫。登場するだけで場が緩む至芸に、会場にいる誰もが声を上げて笑わされた。
木製の大小2つの円台が縦に並ぶひょうたん型のステージは、かすれたドローイングや絵の具の痕跡が図工室の床みたい。実際、学校のチャイムが聞こえる場面もあり、楽し気な過去の記憶や素敵な物語が始まる気配がそこここに潜んでいる。生演奏やダンス、ふわりと終わるエンディングも夢のようで、観劇から数日経った今もふいに「ひょっこりひょうたんじーまっ♪」と口ずさむ、ウキウキ感が継続中だ。

公演は、1月15日(金)から17日(日)まで大阪・シアターBRAVA! 、1月23日(土)から24日(日)まで福岡・キャナルシティ劇場、2月3日(水)から11日(木・祝)まで東京・シアターコクーンで上演。チケットは発売中。
取材・文:石橋法子
撮影:細野晋司
(2016年1月13日更新)
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