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美貌と品格を備えたお姫様、三枚目の丁稚と幼さも残る
娘役、そして仇討ちに賭ける勇ましい若者と大阪松竹座
で上演中の「壽初春大歌舞伎」にて八面六臂の活躍を見
せる中村壱太郎にインタビュー!

1月2日より大阪松竹座で「壽初春大歌舞伎」が開幕した。昼の部は豪快な荒事と様式美が魅力の歌舞伎十八番『鳴神』、女方の舞踊『枕獅子』、上方落語の大ネタで知られる噺を劇化した『らくだ』を上演。そして夜の部では、上方世話狂言の名作『桂川連理柵』の「帯屋」、仇討ちを描いた新歌舞伎『研辰の討たれ』、江戸の人情噺を基にした『芝浜革財布』を上演中だ。『鳴神』では、色香によって高僧を堕落させる雲の絶間姫を、『桂川連理柵』では丁稚の長吉と14歳の娘役という二役を、『研辰の討たれ』では亡き父の仇討ちの恨みを晴らすべく仇を追う兄弟の弟役を演じる中村壱太郎。それぞれの役に対しての意気込みや、歌舞伎への思いを聞いた。

--『鳴神』の雲の絶間姫(くものたえまひめ)ですが、どのように演じられていますか?
 
絶間姫は、祖父の坂田藤十郎も若い頃からずっとやっている役で、今回、祖父に習いました。お姫様と聞くとおっとりとして、しなやかな感じをイメージされると思うんですが、この絶間様は「鳴神上人を色で落として雨を降らせてこい」という一つの任務を仰せつかった、芯のあるすごくしっかりとした女性だと思うんです。賢くて、言葉も巧みですし。そういった裏の背景があるので、役を作る上でも楽しいですし、小一時間強のお芝居の中で、どういった気持ちの変化などを見せていくか。回を重ねるごとに(鳴神上人を演じる)愛之助さんとの間や台詞のやり取りがどんどんスムーズになっているような気がしますし、演じていて楽しいですね。
 
――日を追うごとに進化している。
 
そうですね。歌舞伎は約1ヶ月、休みなく上演しますが、日に日に芝居も変わっていきます。目で見る変化、耳で聞く変化、空気で感じる変化など、刻々と変化していますから、上演期間の前半と後半とで見比べてもらう、そういう楽しさも歌舞伎にはあると思います。
 
--『桂川連理柵』の「帯屋」ですが、ブログに「念願」と書かれていましたね。
 
『桂川連理柵』というお芝居はもっと長いお芝居で、「帯屋」はほぼ最後、この後に「道行の場」というのがあるんですけど、ほぼクライマックスのシーンです。お芝居自体、ずっとかかっておりませんでしたが、これも祖父が昔やっていたんです。なので僕もいつかやりたいと思っていました。僕が演じる丁稚の長吉は三枚目で、お半は14歳の娘役。女方をやることが多いのですが、このごろは立役もよくやらせてもらっていまして、その中で長吉は喜劇味の要素があり不慣れな役ですが、どこまで自分が出来るかという挑戦になります。お半にいたっては今しておきたい役です。泣いて笑ってというお芝居で、お正月にやらせていただくのはすごくいいタイミングだと思います。
 
――喜劇味という部分はいかがですか?
 
難しいと思います。「人を泣かすよりも笑わせるほうが難しい」とよく言いますが、まさにそのとおりだなと思いますし、“本当にお客様が楽しんでいらっしゃるのかな”と気になりますね。特に大阪のお客様は反応がストレートですから。ただ、この「帯屋」の後の『研辰の討たれ』というお芝居も、すごくメッセージ性の強いお芝居ですが、これも違った喜劇味のあるお芝居なんです。全体的にどんどんチームワークがよくなって、みんなでお芝居を大きくしているような感じがしています。

――『研辰の討たれ』では市川中車さんとのご兄弟役ですね。

中車さんは心から自然とお芝居をされているところが、目の表情や動きでもすごく伝わってきます。僕もそこに触発されてとても感情的なお芝居ができているんじゃないかなと思います。その思いがお客様に伝わっていればと思いますね。また、この作品は“お客様と作る芝居ってこういうのだな”と憧れがあったので、まさか立役が来るとは思わなかったですが、出演できてすごく嬉しいです。

――お客様と一緒に作るというのは?

先ほども「帯屋」でお話したように、毎日お客様が違うので、お客様が笑う間も、反応してくださる間、拍手をしてくださる間も違いますし、そういうところを全身全霊で感じていくことで台詞のスピードや動きなどが変わってきます。ちょっとでもお客様からのサインを逃さないようにして芝居をしないと、一方的なお芝居になっちゃうかなと思って、そこはすごく気にかけています。観に来てくださる方は、その日限りですから、常にお客様に面白さを感じていただけるよう、日々進化していくように心がけています。

――壱太郎さんは女方が多いですが、女方を演じるにあたって心がけていらっしゃることは?

女方といっても結局は男性が演じていますから、女性が演じられる女性役とは違う何か――雰囲気を出さないといけないなと常に思います。今回のようにお姫様でも賢い女性だったり、14歳の女の子の役だったり、女方といってもいろんな要素があるので、 “絶対にこうしよう”という女方像というのはなくて、その時々の役の女性像を考えています。その参考になるのが先輩の演技や教え、導き、今までの教訓など、いろいろあります。

――壱太郎さんは今年の8月で26歳になられますが、同世代の方に歌舞伎の面白さをどう伝えていきたいですか?

歌舞伎と聞くと、古典芸能で、言葉が難しいのではないか、お話が分からないのではないかと思われると思います。これは「そんなことないよ」とはそう簡単には言えないと思うんです。僕自身も演じるに当たってかなり下調べをしないと、自分の中にすっと落ちてこないお芝居もあります。ただ、今回の「壽初春大歌舞伎」は見たままを楽しめるような演目ばかりです。(観劇前に)「勉強してきます」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、勉強しなくても観ていただけるお芝居もたくさんございまして、特に今回はそういった演目が昼に3本、夜に3本並んでおります。だからこそ、こういう時に観ていただけたら一番いいのではないかなと思いますね。楽しみ方も、「女役がきれいだな」とか、「立役がカッコイイな」でもいいんです。大道具も全部手作りですし、すべて生演奏ですし、何か五感で楽しんでいただいて、そこから(歌舞伎の世界に)入っていただけたらと思います。

――では、最後に、今後の役者像を教えてください。

自分だけが楽しいのではなくて、出演するみんなが楽しめる演目や公演ができる役者になりたいです。その雰囲気って絶対、お客様に伝わりますから。“どんな役者になりたい”というより、そういった興行に一つでも多く関われるような役者になりたいなと思いますね。やっぱり芝居に出ているときが一番楽しいですから。役者は生の仕事ですから、“この日のこの時間”に来ないとお客様も観られない、僕たちもその場に行かないと仕事ができない。そういう仕事ですから、舞台に出ている瞬間というのは楽しいですね。そうじゃないと役者はやっていないと思います。



(2016年1月16日更新)


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中村壱太郎
なかむらかずたろう●1990年8月3日生まれ。1991年11月、京都・南座の〈三代目中村鴈治郎(現・坂田藤十郎)襲名披露興行〉『廓文章』の藤屋手代で初お目見得。1995年1月大阪・中座〈五代目中村翫雀・三代目中村扇雀襲名披露興行〉『嫗山姥』の一子公時で初代中村壱太郎を名のり初舞台。2014年9月、吾妻徳陽として日本舞踊吾妻流七代目家元を襲名。2012年1月「芸術祭新人賞」、同年2月「平成23年度 咲くやこの花賞」他、受賞歴多数。

壽初春大歌舞伎

発売中

Pコード:447-514

開催中~1月26日(火)

大阪松竹座

1等席-16000円
2等席-8000円
3等席-5000円

【昼の部】午前11時~

一、鳴神(なるかみ)
鳴神上人 片岡 愛之助
雲の絶間姫 中村 壱太郎

二、枕獅子(まくらじし)
傾城弥生後に獅子の精 中村 扇雀

三、らくだ
紙屑屋久六 市川 中車
らくだの宇之助 中村 亀鶴
家主幸兵衛 中村 寿治郎
女房おさい 片岡 松之助
やたけたの熊五郎 片岡 愛之助

【夜の部】午後4時~

一、桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)
帯屋
帯屋長右衛門 坂田 藤十郎
丁稚長吉/信濃屋娘お半 中村 壱太郎
義母おとせ 坂東 竹三郎
隠居繁斎 中村 寿治郎
弟儀兵衛 片岡 愛之助
長右衛門女房お絹 中村 扇雀

二、研辰の討たれ(とぎたつのうたれ)
守山辰次 片岡 愛之助
平井九市郎 市川 中車
平井才次郎 中村 壱太郎
吾妻屋亭主清兵衛 片岡 松之助
平井市郎右衛門 嵐 橘三郎
粟津の奥方 市川 笑也
僧良観 坂東 秀調

三、芝浜革財布(しばはまのかわざいふ)
魚屋政五郎 市川 中車
大工勘太郎 中村 亀鶴
左官梅吉 嵐 橘三郎
金貸おかね 中村 歌女之丞
大家長兵衛 片岡 松之助
姪お君 市川 笑也
政五郎女房おたつ 中村 扇雀

※日時・席種により取り扱いのない場合あり。4歳以上は有料。

大阪松竹座[TEL]06-6214-2211

大阪松竹座
http://www.shochiku.co.jp/play/shochikuza/

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