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ヨーロッパ企画・イエティの新作は
笑いたっぷりのオカルト&ホラーコメディ!
脚本・演出を手掛ける大歳倫弘にインタビュー

京都を拠点に全国的に活躍するヨーロッパ企画の劇団内ユニット、イエティの新作が12月10日(木)より、京都の元・立誠小学校にて幕を開ける。イエティを主宰するのは、ヨーロッパ企画本公演の演出助手や、ラジオ番組の構成、映画やテレビドラマの脚本などを務める大歳倫弘。彼がこれまで題材にしてきたのはインターネット、テレビ通販、コンビニなど、「演劇でスポットが当たりにくい現代のジャンクカルチャー」で、11作目となる今作で挑むのは、ホラーやオカルトをモチーフにした物語。オカルト通ならピンとくるであろう“杉沢村”と“アポカリプティックサウンド”を題材に、『杉沢村のアポカリプティックサウンド』を京都、東京、大阪で上演する。本作にかける思いについて、大歳に話を聞いた。

――今回はホラーコメディということですが、どんな展開が…?

杉沢村ってご存知ですか?

――いや、知らないです。

これ、一番最初に困ったことなんです。みんな知ってると思ったら、全然知らんかったっていう…(笑)。地図から消された村という「杉沢村伝説」っていう都市伝説があるんですよ。30人規模の村の村人のひとりが発狂して、村人全員殺してしまった村があったと言われていて。人がいなくなったので、地図から消されて地名も変わったけど、日本のどこかにその呪われた杉沢村が存在するという伝説なんです。僕が小学生くらいの頃にテレビ番組で取り上げられていて、オカルト界を揺るがしていたんです(笑)。それで、各地で杉沢村がどこかを探すのがひとつのブームになって。当時、インターネットが広がり始めた頃で、杉沢村のいくつかの特徴と重なる場所をいろんな人たちが探して、レポートをネットに上げるのがすごく流行ったんです。あと、杉沢村に行くと呪われて出てこれないとも言われていて、今回はそこに迷い込んじゃった人たちの話が展開されていくという、いかにもホラーの設定にしました。“杉沢村”っていう漢字を出したらみんなが“おー!”って興奮してくれると思ってたんですけど…(笑)。

――意外にも伝わらなかったという(笑)。

“ついにあの杉沢村を劇でやってくれる人が現れたんだ!”っていう興奮が世間に生まれると思っていたんですが、予想とは違っていて(笑)。でも、杉沢村自体はネタとしてずっとやりたいと思っていたんで、今回思い切って正面から挑みました。実際に登場人物が杉沢村に行って、恐ろしい目に合うというシンプルな話です(笑)。

――でも、コメディなんですよね。

そうなんです。そこのバランスが重要で。普段から割とコメディをやっているので、どうしたらコメディっぽくなるかなと考えて、アポカリプティックサウンドをくっつけたんです。このアポカリプティックサウンドって、今一番オカルト界ではホットな話題で、どこからともなく聞こえてくる奇妙な音のことなんです。それが世界の終わりを示しているんじゃないかって言われていて。で、杉沢村に行ったら、杉沢村だけでも怖いのに、アポカリプティックサウンドも鳴っているという。怖いのがふたつあると、それはコメディになるんじゃないかというのが持論としてあるんですよ。

――『杉沢村のアポカリプティックサウンド』…、タイトルの通りですね(笑)。

ドストレートです(笑)。杉沢村に行ったらアポカリプティックサウンドも鳴ってたっていう(笑)。で、足を踏み入れた人たちが、杉沢村でさえ怖いのにアポカリプティックサウンドも鳴ってて、怖さ2倍じゃないか!ということに気付く話ですね。たぶん、どちらかだけを取り上げたら怖くて緊張感がある話になるんですけど、それがふたつあったら、どっちに注目していいか分からないので怖さが紛れるというか、逆に笑いにできるんじゃないかなというのがあって。それが最大のテーマですね(笑)。

――実際に、そのふたつを組み合わせてみていかがですか?

笑いにできていると思うんですけど、実は、真面目な部分もあって。アポカリプティックサウンドを調べると、色んな音があるんですよ。それがただの飛行機の音だって言う人もいれば、アポカリプティックサウンドだって信じている人もいる。それって認知科学的な問題でもあって、その辺りを解明しないといけなかったりもするんです。普段は割と何も考えずに観られるコメディをやっているので、今回は新たな挑戦で、そういうのもひとつ入れたら面白いんじゃないかなと思いまして。ちなみに、90年代に流行ってブームが去っていった杉沢村伝説と、あと1~2年するときっと解明されてブームが終わっちゃうアポカリプティックサウンドが出合ったときに、人はオカルトに対して何を求めるのかというのが見えてくるんじゃないかなと思っていて。自分が何でオカルト好きなのかとか、なぜ新しいオカルトがないかを探しているのか、その理由が見えてくるんじゃないかなというのもテーマのひとつですね。

――元々、オカルトとかホラーが好きなんですね。

実は最近まで、そんなに好きだとは思っていなかったんです。でも、どうやらいろんな人と話をしていると好きっぽくて(笑)。例えば、“稲川淳二さんがよくやる『生き人形』っていう話があって…”みたいな話をすると、みんなポカーンとしてて(笑)。怖い話をするのは知っているけど、そのレパートリーまでは知らないって言われます。

――確かに(笑)。

そうやっていろんな人と話をしていて、自分はオカルトが好きなんやってこの数年で気付いたんです。自覚はなかったんですけど、ちょっと詳しいなって自分で思ったんですね。改めて考えると、インターネットのブックマークとかお気に入りのページ、ほとんどオカルトなんですよ(笑)。これやっぱり、好きなのかもしれないと思って。あと、ユニットの名前も“イエティ”ですからね。それで一回ガッツリやってみようと思ったんです。

――ホラーコメディ自体は初めてですか?

短編は何回かやったことがあるんです。2年前くらいに、ヨーロッパ企画の『ハイタウン』というショーケースイベントがあって、その中で僕が上演したのがホラーコメディだったんです。そのときに、オカルト好きということに自分で気付いて、いつか長い作品をやれたらいいなと思っていたんです。

――手応えがあったんですね。

作品への手応えというより、オカルト好きであることは間違いないという手応えはありましたね。今まで、B級というかジャンクなものをテーマに作品を作ってきたんですけど、そろそろ次のものを探しに行きたいなという想いもあったりして。だったら、好きなホラーとかオカルトを堀り下げようという感じです。あと、日本の小劇場であまりホラーをやっている人が少ない気もしていたんですよ。海外の戯曲やったらいっぱいあるんですけどね。だから、やってみたらお客さん来てくれるかなと思ったんですけど、逆に、結構敬遠する人が多くて(笑)。

――怖いから…(笑)。

考えると、確かにそうなんですよ。ホラー映画を観に行くかといえば、よっぽどホラーが好きじゃないと行かないですよね(笑)。お客さん来るかと思ってホラーやったのに、来ないんじゃないかっていう心配が…。

――じゃあ、どれだけイエティらしい笑いを入れられるかですね。

そうなんです。なので、本当に怖いシーンは減らしたりして。ホラー映画は本当に怖いと思うんですけど、僕らくらいの規模の舞台でホラーをやると、割とオマヌケな部分も出てくると思うんです。例えば、知っている役者さんが怖い格好して出てきたら、それはあまり怖くないじゃないですか(笑)。そういうマヌケさが可愛い部分であり、オモシロに繋がればいいなと思います。今回は、“ホラーだけどコメディ”という点で、ちょっとひと味違う観劇体験を味わってもらえるんじゃないかなと思っています。

――ちなみに、キャストの方たちは杉沢村やアポカリプティックサウンドのことはご存知でした?

ほぼ知りませんでした(笑)。唯一、諏訪さんがオカルトに詳しいことを知っていたので、諏訪さんには出てもらいたいとは思っていたんです。しかも諏訪さん、杉沢村を扱った作品の中でも、名作と言われている伝説的なビデオテープを持っているんですよ(笑)。

――そうなんですか!すごいですね(笑)。今回、ホラーをするにあたってはそういうビデオを参考にしたんですか?

今回は『SIREN』というゲームを参考にしましたね。そのゲーム自体、杉沢村伝説をモチーフにしているみたいで。杉沢村の影響って結構すごくて、知らないうちにいろんなところに派生して作品になっているんです。『SIREN』はそのひとつで、日本のどこかにある村が舞台なんです。そこでは奇妙な風習が続いていて、狂った村人たちに襲われるというもの。日本の田舎の怖さのようなものを描いたゲームなんです。その雰囲気をいただいて、田舎の風習の怖さみたいな部分で通じるものがあるかなと思います。あと、序盤のセリフとかも、参考にしたりしています。

――そのゲームは以前から持っていたんですか?

はい。でも自分ではできないんです。僕、怖がりなんですよ(笑)。オカルトとかホラーは好きなんですけど、怖いの苦手なんですよ。なので、そういうのが平気な友達にやらせて、僕は見るだけです。

――そもそも、オカルトとホラーの違いって何ですかね?

ホラーは人を驚かせるような心霊現象で、オカルトはもっとワクワクがつまっているもの。あまり驚かせてはくれなくて、むしろ、不思議な話なんですよね。杉沢村とアポカリプティックサウンドはオカルトでもあるので、その境界線は怪しいところなんですね。オカルトとホラーって共通している部分もあれば、違う部分もあるんです。

――じゃあ、正確にいうとオカルトコメディですね。

その方がいいかもしれないですけど、ホラーもやりたいので…(笑)。オカルトとホラーとコメディですね。

――今回のチラシのデザインが、ちょっと怖いですよね。グーグルのストリートビューを見ていたら、偶然奇妙な人たちが映り込んで…という雰囲気。

まさにその通りです。普段来てくれる知り合いの人に“観に来てくれるの?”って聞いたら、“行かない”って言われて(笑)。“予約ページが見れなくて嫌や”って。このチラシが、想定していたよりも怖いみたいなんですよ。でも映っているのは諏訪さんとか土佐さんですし…。

――シュールな感じはしますけどね(笑)。パッと見はホラーですよね。いつもと違う不穏な空気が出てきているというか。

いつもと違う感じというのがいい方に転じるといいですね。内容は割といつもと一緒なんですけど(笑)。

――では、“怖そうやからどうしよう…”と思っている人に対して、メッセージをください(笑)。

“キャー!”っていう感情は一切生まれないので、安心してください(笑)。驚かすような怖さは一切ないので。ホラー映画だと、何かが落ちてきたり、音と光とでこちらの虚を突いて怖がらせてくるんですけど、それは基本的にないです。怖そうに思うのは最初だけです。

――結局、いつもの感じやん!みたいな(笑)。

そう、いつもと同じです!完全にコメディです。ホラーやオカルトを悪用したコメディです。なので、そこまで真剣に怖がっていただかなくても大丈夫です(笑) 。いつも通り、イエティの劇を楽しみにきてください!

 

取材・文/黒石悦子




(2015年12月 9日更新)


Check
後列左から諏訪雅、角田貴志、土佐和成。前列左から酒井善史、大歳倫弘、重実紗果(花柄パンツ)。

ヨーロッパ企画 イエティ
「杉沢村のアポカリプティックサウンド」

[作][演出]
大歳倫弘

[出演]
酒井善史
角田貴志
諏訪雅
土佐和成
福井菜月(ウミ下着)
重実紗果(花柄パンツ)

【京都公演】

Pコード:447-729
▼12月10日(木)19:00
▼12月11日(金)19:00
▼12月12日(土)13:00/18:00★
▼12月13日(日)12:00/18:00★
元・立誠小学校 音楽室
自由席-2500円(整理番号付)
★=公演終了後、出演者による「おまけトークショー」あり。

チケット情報はこちら

【大阪公演】

Pコード:447-730
▼1月8日(金)19:30★
▼1月9日(土)13:00/18:00
▼1月10日(日)13:00/18:00★
▼1月11日(月・祝)13:00
in→dependent theatre 1st
ベンチ席(指定)-3000円
イス席(指定)-3000円
★=公演終了後、出演者による「おまけトークショー」あり。

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※未就学児童は入場不可。
[問]サウンドクリエーター
[TEL]06-6357-4400


あらすじ

その男女が迷い込んだのは、あの地図から消された村「杉沢村」かもしれなかった。そして、次々と起こる悲劇と惨劇。やがて悲劇と惨劇はぶつかり、かち合い、押し合い、圧し合いし、悲しみの連鎖はスムーズに進まなくなってゆく……。


プロフィール

おおとし・ともひろ●1985年7月30日生まれ、兵庫県出身。劇作家、演出家、構成作家。同志社大学入学と同時に、2005年よりヨーロッパ企画に参加。ヨーロッパ企画では、本公演の脚本・演出を担当する上田誠の助手を務めるほか、ヨーロッパ企画メンバーがパーソナリティを務めるラジオ番組の構成、映画・テレビドラマの脚本などを手掛ける。2009年にイエティをスタート。ヨーロッパ企画メンバーをゲストに迎えるスタイルで、京都、東京、大阪で1500人以上を動員している。