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ホーム > インタビュー&レポート > 「一番シンプルな形で勝負をしたい!」 劇団子供鉅人、旗揚げ10周年の集大成! 「愛の不毛と救済三部作」シリーズの 第3弾『重力の光』について 主宰・益山貴司にインタビュー!

「一番シンプルな形で勝負をしたい!」
劇団子供鉅人、旗揚げ10周年の集大成!
「愛の不毛と救済三部作」シリーズの
第3弾『重力の光』について
主宰・益山貴司にインタビュー!

人間のバカバカしさやもどかしさをシュールでファンタジックな設定で練り上げ、大阪らしく賑やかに、笑いたっぷりに展開する子供鉅人。これまで、劇場にこだわらず、街中や民家、船上などのさまざまな場所でパフォーマンスを繰り広げ、注目を集めてきた彼らが、今年は劇団旗揚げ10周年を記念して「愛の不毛と救済三部作」と題した劇場公演を行っている。すでに、5月に第1弾『組みしだかれてツインテール』、9月に第2弾『真昼のジョージ』を終え、いよいよ12月3日(木)からは天王寺・近鉄アート館で第3弾となる『重力の光』を上演!10周年の集大成となるであろう今作について、主宰・益山貴司に話を聞いた。

――昨年、大阪から東京へ拠点を移されまして…。

「そうなんです。昨年の8月末に東京へ行って、1年以上経ちました!」

――何度も聞かれているかと思いますが、東京へ行かれた理由は?

「一番は、今やっていることをやり続けるためですね。やっぱり単純に、大阪は東京に比べてチャンスが少なくて、東京で活動する方がお仕事が多いので。僕は33歳なんですけど、劇団員は20代半ばの子たちが中心なので、彼らがプロとして30代を迎えるために、今のうちに東京へ出て修行をしないといけないと思ったんです」

――1年以上経ちましたが、いかがですか?

「まだまだ僕らが大阪にいてるって思ってる人、めちゃくちゃ多いんですけどね(笑)。“大阪から公演しにきた”という冠は取れてしまって、東京の方たちとスタートラインが同じになったんですよね。そこでもうすでに厳しい戦いが起きてるんです。ライバルが多すぎてどうしたらいいのやら、という感じですね(笑)」

――やっぱりフィールドは全然違うんですね。

「違いますね!単純に、お客さんもそうですけど、批評家さんとか評価する人がめちゃくちゃ多いですね。あとは、どうにかしてやろうという人たちの数も違うので(笑)。だから毎回が真剣勝負ですね。もちろん大阪も真剣勝負でしたけど、よりソリッドな感じがします。気が抜けないですね」

――今年は10周年ということで、シリーズ全3弾を上演されていますが、第1弾が5月で、第2弾が9月って、結構間が短いですね。

「そうなんです。実質半年で新作3本をやる感じですね。しかも、10月には再演ものですけど、台北で公演やったんですよ。それを含めたら半年で4本公演という地獄のような、ランナーズハイにならざるを得ない感じですけど(笑)。たくさんの人に観てもらいたかったんですよね。だから公演回数を増やしたんですけど、今考えたら超安直でした(笑)」

――第2弾まで終えて、いかがですか?

「これまで子供鉅人は船の上でやったり、街中でやったり、“お客さんがいればどこでも劇場になる”というスタンスでいろんな場所でやってきたんですけど、今年は全部劇場でやっているんですよ。劇場公演が続くのって僕たちとしてはほぼ初めてに等しいことで、単純に、劇場でやれることの可能性をすごく感じて、劇場でお芝居を打つのは楽しいなと思いました。野外とかだったら風景を借りたり、場所の面白さがありますけど、劇場という何もない空間に自分たちの世界を作り上げるのは楽しいですし、難しいこともたくさんあるので、勉強になりましたね。それに、台湾公演でもアグレッシヴでテンションの高いお客さんを前にして、すごく評判が良かったんです。考えると、舞台があって客席があるというのは、ギリシャ悲劇の時代からあるわけで、きっと一番興奮できる装置やねんなと。だから、一番ベーシックやけど一番新しいものに自分も繋がりたいという気持ちが出てきましたね。船とか屋外とか外国とかで今まで散々いろんなことをやってきて、やっと演劇的に更生できた感じです(笑)。やっぱり家のこたつが一番落ち着くよねっていう気持ち(笑)」

――なるほど!成長して帰ってきたみたいな感じですね(笑)。

「武者修行がひとつの区切りをつけたっていう感じですね。でも劇場じゃないところで打つ方がパンクやしいいんちゃうかなっていう反抗心みたいなものは、今も捨てきれていないですね」

――劇場じゃないところだと、そのときそのときに起こる出来事を含めてのパフォーマンスですもんね。

「酔っ払いのおばちゃんに声かけられたりとかね(笑)。でも結局、舞台の上でも変わらなくて。アドリブとか、何が起こるか分からない生ものなので。その部分は変わらないんだっていうことも分かりましたし、ひとつ大人になりました。それに、今まで自分たちがやってきたことは舞台の上に投入できるというか、野外で培ってきたアドリブ力や賑やかさというのはどんどんと還元していきたいと思っています」

――今まで積み重ねてきたことが、今度は劇場で生きるというか。

「そうですね。そうなってきているとも思いますし、もっと生かしていきたいなという気持ちもあります」

――劇場公演は今までもやってきていますが、それ以上に勉強するものがあったんですね。

「そうですね。それに、東京にやってきて、劇団員同士の関係性も大阪よりも密になってきているんです。その中で、僕は当て書き派なので、それぞれからすくい取っていくものみたいなのが、より大阪よりも深く見えてきましたね」

――台湾公演でも何か得たものはありますか?

「お客さんたちがすごくウケてくれて、これからクリエイションしていく上で、自信がつきましたね。僕たちは笑っていただかないと不安なので(笑)。中国語の字幕でやってたんですけど、きちんと伝わって、笑っていただけたし、私が自分自身で一番うれしかったのは脚本が良かったというのをいろんな人から言われて。ちゃんとそこを見てもらえてたんだって。僕は猜疑心が強いので、“これは大丈夫かな?”って不安になることも多くて(笑)。そこを信じていいんだなっていう気持ちにはなってきていますね。それはお客さんの想像力を信じるということでもありますし、自分たちがやってきたことを信じることでもありますし。だからこそどんどんモノをつくることが楽になってきています。いい意味で」

――今回は第三弾で『重力の光』。元々は『ヒッチハイク』というタイトルがついていたそうですが…(笑)。

「すみません(笑)!これほんまにいろんなところで謝ってるんですよ!元々は、主人公の松尾芭蕉が、ヒッチハイクの旅で俳句をひねる内容で『ヒッチハイク』っていう、相当イケてるタイトルやったんですよ(笑)。個人的にはスマッシュヒットなギャグやったんですけど、10周年で松尾芭蕉っていうのも、なんか共感しにくいなと思ってきて(笑)。やっぱり第3弾で集大成ですし、単純に2015年の今の自分たちのことを書きたいって思ったんですよね。だから、ほうぼうに迷惑をかけましたけど、タイトルを変更して、今自分が書きたいことを優先しました」

――集大成ということで、今まで積み重ねてきたものを吐き出す感じですか?

「はい、かなり出ると思います!今まで音楽劇でバンドさんを入れたりとか、船の上でパフォーマンスしてきて。今回も最初はバンドを入れて音楽劇にしようかなと思ったんですけど、やっぱり一番シンプルな形で勝負したいと思って。もちろん、歌も踊りもあるんですけど、ちゃんと物語を書きたいし、役者にちゃんと芝居をさせたい。どっちかというと今まではいろんな武器を持つようなところがあったんですけど、今回は素手で戦いたいと思っています」

――武器を捨てるということですか?

「でも、今までのものは絶対に蓄積されているので。刀握ったり包丁握ったり、その握った記憶は絶対にあるので、握った記憶を持ったままグーで殴る感じですかね。今思いついたことですけど(笑)」

――では、内容はどんなものに?

「天使と人間との間に生まれた、両性具有の光(ひかり)という主人公を、人間たちが引きずり降ろしていく…というイメージです。というのも、最近重力にすごく興味があって。「物理学が神話で説明されていた時代、重力は愛という言葉で説明されていた」というような文章を読んで、それがすごく面白かったんです。例えば、星と星がひかれ合うことは、星と星が愛し合っているからだ、みたいな。人も重力がなければ生きていけないし、愛という重力で、天使の聖なる部分を、羽根をちぎるように引きずりおろしていくというのが面白いなと思ったんですよね。群像劇なので、その物語を媒介にして、今の我々の想いをとじこめることができたらなと思っています」

――時代設定みたいなものはあるんですか?

「現代ですね。ただ、天使と人間のハーフが出てきますし、僕、ガルシア=マルケスが好きなので、マジックリアリズム的な空想の世界と現実が入り混じる世界観にしたいなと思っています」

――キャストも多いですし、賑やかな舞台になりそうですね。

「かなり賑やかな作品になると思います!僕、人がたくさんいるのが好きなんですよね。6人兄弟で、家の中に人がいっぱいいるのが普通だったので、逆に人がいないと寂しくなる(笑)。だから、ダメな人間がいっぱい集まってわちゃわちゃしている群像劇が大好きなんです。今回もそういう形で。ダメで勘違いした人たちが、光を巡って、ダメエネルギーを渦巻かせるみたいなイメージです」

――毎回、子供鉅人の舞台を観た人に、何を持ち帰ってもらいたいと思いますか?

「“人間ってアホやな”って思ってほしいですね。みんなカッコつけるじゃないですか。私もエエかっこしいですけど(笑)。アホやって思ってほしいし、アホやから可愛いなって思ってほしいっていうところはありますね。でもそれって、さらけ出さないとアホやと思わないし、可愛いとも思えないので、人間のそういうところは突きつめていきたいと思っています」

――嫌な部分とかダサい部分とかも含めて。

「全部ひっくるめて人間なので、そういうものが全部乗っかっているような。いつも思っているのは、混沌とした世界そのもののような舞台を作りたいなということです」

――公演で大阪に戻ってくるときの気分はどうですか?

「相当ホッとしますね(笑)。単純に知り合いが多いというのもありますけど。客席も、東京と大阪は笑うポイントが違うんです。大阪でめちゃくちゃ笑ってたシーンが、東京では引かれたりしますから(笑)。大阪は、私たちのことを知ってくれているっていうのもあるんですけど。あと本番中に喋りますよね。“うそ!”とか、“お前かよ!”とか。それを聞いて、また周りの人が笑ったりして(笑)。本番始まる前の客入れ中も賑やかですよね、大阪は」

――逆に、東京でも公演重ねてきて雰囲気が変わってきたことは?

「少しずつですけど、僕らのことを好きで観に来てくれる人が増えてきましたね。やっぱり、大阪人というのもあってアウェイ感も少しあったので。好きになってくれる方が増えると、僕らも安心して温度を上げられるんです(笑)」

――旗揚げ10年を経て、これからの目標を教えてください。

「今回の3部作もそうですけど、改めて“劇場で公演する”ということが自分たちのシンプルな目標としてありますね(笑)。いろんな場所でやることも捨ててはいないんですけど、演劇のベーシックなところに立ち返るのが一番面白いかなと思っています」

――やっぱり、演劇は劇場でやるのがいいんやっていう。

「やっと気付きましたね。前からちょっとずつ、そうかもしれないと思ってたんですけど(笑)。それを今年実践して、今確信に変わりつつありますね」

――では、最後に改めて意気込みをお願いします。

「笑える作品になることは間違いありません!笑えますし、驚くと思いますし、踊りますし、歌いますし、すべてが詰まった舞台になります。今回10周年の総決算、売り尽くし、やりつくし、燃やし尽くしで、新しい年を迎えるために全部燃やしきるので、ぜひ皆さんにも参加してほしいですね。あと、第2弾の『真昼のジョージ』を全編YOUTUBEで公開しているので、見逃された方も、新しく出会う方も予習を兼ねてご覧いただければと思います!」

 

取材・文:黒石悦子




(2015年12月 1日更新)


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益山貴司(ますやま・たかし)●1982年、大阪生まれ。劇団子供鉅人代表で、劇作家・演出家・俳優。劇団のほとんどすべての作・演出を行う。作風は作品ごとに異なり、静かな会話劇からにぎやかな音楽劇までオールジャンルにこなす。一貫しているのは「人間存在の悲しみと可笑しさ」を追求すること。弟の益山寛司と共に、NODA・MAP『ザ・キャラクター』『南へ』などにも出演。

子供鉅人『重力の光』

発売中 Pコード447-460

▼12月3日(木)19:30
▼12月4日(金)19:30
▼12月5日(土)14:00/19:00
▼12月6日(日)14:00/19:00
▼12月7日(月)14:00

近鉄アート館

全席自由
一般-3800円
学生-2000円
高校生以下-1000円

[出演]劇団 子供鉅人

※学生:大学生、専門学生 / 高校生以下:高校生~6歳まで。

※未就学のお子様は入場不可

[問]劇団子供鉅人
[TEL]080-3294-2450

劇団 子供鉅人 -kodomokyojin-
www.kodomokyojin.com/

劇団子供鉅人(げきだん・こどもきょじん)●2005年、益山貴司・寛司兄弟を中心に大阪で結成。関西タテノリ系のテンションと骨太な物語の合わせ技イッポン劇団。生バンドの音楽劇から4畳半の会話劇までジャンルを幅広く横断。3度に及ぶ欧州ツアーも行った。2014年より東京に拠点を移して活動。

あらすじ

「おじいちゃんの死ぬ間際、空から現れた天使を、悲しみに狂ったお父さんが襲って僕は生まれた…」。天使と人間の間に生を受け、男と女の性器を持つ両性具有の主人公・光は、元天使の母が営むスナック「堕天使」で働いていた。ある日、悲しみの癒えぬまま各地に子供を作り続ける父親を探す旅に出た光であったが、男と女すべてに恋をさせ、夢中にさせる光の無垢な魂を、人々の「愛」という名の重力が押し潰してゆくのだった。