「最終的には予測不可能な女優、表現者でありたい」
ミュージカル『ラ・マンチャの男』で
ドン・キホーテの姪、アントニア役に初挑戦する
ラフルアー宮澤エマにインタビュー
ミュージカル『ラ・マンチャの男』が6年ぶりに大阪で上演される。1965年にブロードウェイで初演。日本では1969年の初演より松本幸四郎が主演し、翌1970年にはブロードウェイに単身乗り込み、マーチンベック劇場にて全編英語で60ステージをこなす偉業を果たした。幸四郎にとってひと際思い入れの深い作品で、自ら演出もこなし上演回数1207回という金字塔を打ち立てている。この名作にドン・キホーテ(幸四郎)の姪・アントニア役として初出演するのが、舞台はもちろん数々のテレビ番組でも活躍する、ラフルアー宮澤エマ。9月の大阪公演を皮切りにスタートする新たな『ラ・マンチャの男』で、大好きだというミュージカルの世界にどっぷり浸かる。その意気込みや、芸能界入りのきっかけなど色々語ってもらった。
――もともとミュージカルはお好きだったのですか?
子どもの頃から大好きで、『アニー』などミュージカル映画もよく観ていました。父がニューヨーク出身で祖母もニューヨークにいるので、あちらに行った時にご褒美みたいな形で毎回一作品は舞台を観せてもらえたんです。ブロードウェイの舞台はどれも本当に別世界へつれていってくれる魅力がありました。特に衝撃を受けたのが、サットン・フォスターさんが主演された『モダン・ミリー』という作品。それまで私も歌うのは好きで演劇部に入ったりもしてたんですが、あの舞台を観て初めて「私も彼女のようになりたい!」と、ミュージカルへの夢が膨らみました。いつか『モダン・ミリー』が日本で上演される日がきたら、ぜひチャレンジしてみたいです!
――やはり本場の迫力はすごいですよね。
皆さんもちろん才能があるというか、どの舞台を観ても釘付けになります。あちらではヒットするとロングランするので、『モダン・ミリー』は4回観ました。今、自分がこうやって舞台に立たせていただいているのは本当に信じられないですし、とても幸せです。
――初舞台となったのが、宮本亜門さん演出・振付のブロードウェイミュージカル『メリリー・ウィー・ロール・アロング』。初めのお酒に溺れている40代のシーンから、20代までどんどん若返っていく役柄で、疾走感溢れる作品でしたね。デビュー作にしてはかなり難度が高かったのでは?
そうなんです! いきなり(スティーヴン・)ソンドハイムの作品という(笑)。楽曲も役作りも難しいし、見た目も結構強烈なインパクトがあったようなんですが、大好きな舞台であの作品がデビュー作で本当に良かったと思っています。
――出演されたきっかけは?
学生時代に亜門さんに歌を聴いていただく機会があり、その後も覚えて下さってて。大学を卒業して芸能活動をしている私に、「オーディションがあるんだけど来てみない?」と声をかけて下さったんです。
――アメリカのオクシデンタル大学や、ケンブリッジ大学に在学されていたんですね。勉学の道に励みたいとか、何か目指されていたものがあったのですか?
いえ特に…ただやはり大学には行きたいと思ってました。宗教学を学んで、これを活かして弁護士などアメリカと日本を行き来する仕事というのも考えなくはなかったのですが、最終的には「表現する仕事に就きたい、ここで諦めたら一生後悔する!」という気持ちが強くなり、日本に戻ってきました。
――宗教はよく舞台の根底にも流れていますよね。
はい、今回の『ラ・マンチャの男』も中世の宗教裁判にかけられるという設定なので、実はとてもタメになっています。大学では宗教についてはもちろん、心理学や社会学、歴史と絡め、宗教との関係性を学ぶことも多かったので勉強になりました。ミュージカルは特に洋物が多いですし、文化の中で宗教がどういう役割を果たしているのか、色々学べたのはとても良かったと思います。
――その『ラ・マンチャの男』の出演のお話がきた時は、どう思われましたか?
本当に驚きました! 歴史のある舞台で、松本幸四郎さんをはじめ錚々たるメンバーの方々の中に入れていただくということで、正直「私でいいのでしょうか!?」と思いました。間近で幸四郎さんのお芝居を見せていただくだけでも、とても勉強なると思います。幸四郎さんはとてもダンディーなのにフランクに話しかけて下さり、「いろんなチャレンジができる稽古場にしたい」と仰って下さってます。
――幸四郎さんはこの舞台を26歳で初演され、46年間も演じ続けてらっしゃいますよね。
すごいですよね。26歳って、ちょうど今の私の年齢なんです。ご自身の半生をかけて演じ続けられて、どこか役柄のセルバンテスと通じるところがあるのかな、と思うとより深みを感じます。
――『ラ・マンチャの男』の舞台をご覧になったことは?
高校生の時、夏休みに全米からお芝居や踊りが大好きな子たちが集まる“ミュージカル・キャンプ”というのに参加し、そこでプロの方の舞台ではないのですが『ラ・マンチャの男』を観ました。観る前は「歴史もののようだし共感できるのかな?」と思ってたのですが、とても生命力溢れる舞台で感動しました。夢に向かって進んでいく姿勢を皮肉るシニカルな登場人物もいるのですが、何かを信じるということ、そこに人間の力があるんだと改めて感じました。
――演じられるアントニア役については、いかがですか?
台本をまだ読み始めたばかりなのですが、とても楽しみです。叔父のドン・キホーテのことを想っている、心配していると言いながら、ちょっとしたたかなところもあるのかなと(笑)。どこか自分ありきというか、リアルで人間くさい人物なのかなとも思います。映画版では確か聖女のように演じてらっしゃいましたが、他の舞台ではコメディの要素も交えて演じてらっしゃいましたし、幸四郎さんがどういう演出をして下さるのか楽しみです。
――アントニアには“あの方の事を考えてばかり”という美しいナンバーもありますね。
三重奏みたいになるところもすごくきれいですよね。クラシカルな歌唱って私はまだ舞台であまりやってきていないので、みっちりしごいていただいて、頑張りたいです。
――歌はお好きですか?
大好きです! 家でもずっと歌っています。近所迷惑だなと思いながら(笑)。ポップスやミュージカルからジャズ系まで、何でも歌います。歌をやっていきたい、というのがまず夢でした。歌は喉の筋肉を使うので、鍛えるためにレッスンを怠らないのもそうですが、声を休める時は休めて、使う時は使うというメリハリが大切なのかなと思います。
――今回の舞台では、アルドンザ役の霧矢大夢さんも初キャスティングです。
とても心強いです。霧矢さんを知っている方から、とても男前というか(笑)素敵な方だと前から伺っていたのですが、本当にフランクで素敵な方でした。霧矢さんと一緒に新しい何かを生み出せたらと思います。
――ところで、舞台出演は本作が5作目ですね。今年は帝国劇場での『Endless SHOCK』にも出演されました。
あの舞台も15年間愛され続けている作品で、そこに参加させていただくというのは大きな経験でした。劇中劇のショーの要素が多く、ダンスという大きなチャレンジもあり。堂本光一さんをはじめ、皆さんプロ意識がとても高い方ばかりで、エンターテイナーとして何を見せるのかということ、身体の使い方など、とても勉強させてもらいました。苦手意識のあったダンスですが、踊る喜びも味わうことができました!
――シアターBRAVA!での公演は、ミュージカル『シスター・アクト~天使にラブ・ソングを~』に次いで2回目ですね。大阪公演に向けてひと言お願いします。
やっぱり大阪のお客様は、どことも違うんですよね。温かく、反応があるというか、前のめりで観て下さっているように感じて、とても嬉しいです。前回はコメディだったので、余計にそう感じたのかもしれないのですが、『ラ・マンチャの男』もコミカルな部分がありますし、大阪の皆さんとどんな時間を共有できるのかとても楽しみです。
――この作品には“見果てぬ夢”という名曲がありますが、エマさんにとって“見果てぬ夢”とは?
一番大きな夢は、いくつになっても“表現者”であり続けるということですね。お芝居、歌、どちらをとっても「宮澤エマにやらせてみたい」と言っていただけるような表現者でいたいです。もっと近い夢で言えば、歌をやる、ストレートプレイをやる、映像のお仕事をやる、とか色々あるのですが、最終的には予測不可能な女優、表現者でありたいです。
――テレビ番組にも多数出演されていて、そこで得られるものも大きいですか?
やっぱりテレビのお仕事は、不特定多数の方に知っていただけるので、その影響力は計り知れないですね。コメンテーターなどのお仕事では、言葉の影響力の重さをかみしめています。どんな仕事も自分を表現する引き出しになると思いますし、常に何かチャレンジし続けられる環境にいれたらと思います。
取材・文:小野寺亜紀
(2015年8月 6日更新)
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