ホーム > インタビュー&レポート > ヨーロッパ企画・上田 誠とのコラボで「最高傑作」に! かもめんたるが新作単独ライブを開催
――まず、上田さんが構成協力されることになったきっかけから教えてください。
岩崎:2年前にヨーロッパ企画の石田剛太さんと一緒に3人芝居をさせていただいてから、ヨーロッパ企画さんとの交流が始まりまして、番組を一緒にさせていただいたり、舞台のアフタートークに出ていただいたりしていたんです。僕らのコントはいつも僕が脚本を書いていまして、かねてから、ほかの人のアイデアも取り入れてやってみたいなと思っていたんですが、それでうまくいかないと誰も良い思いをしない。でも上田さんだったらきっとうまくいくという確信があったので、お願いしてみたところ快諾してくださったんです。しかも自由な形で僕にやらせてくれると言ってくださったので、変則的な関わり方になるかもしれないですが、いろいろとアイデアをくださいとお願いしました。
上田:最初は、関わり方から決めていくところから話しましたね。
岩崎:コントの内容は今まで通りのスタイルで僕が考える。上田さんにはお客さんに対するサービスというか、全体的な構成をみていただき、より新たな楽しみが生み出せるアイデアをお願いしたり、コントの内容にも意見を求めたり。お話し相手になってもらいながらしっかりとした構成のアドバイスをいただいている感じで、すごく気持ち良くやらせていただいています。
――では、上田さんは主に全体の流れをアイデアとして出される感じですか?
上田:かもめんたるさんのコントは、元々すごくハッキリとおふたりの色があるものなので、自分が入ることで上田のカラーをプラスしてやる!みたいな意気込みもそんなにはなくて。産婆さん的な立ち位置で良いかな、と。
岩崎:出やすくするみたいな(笑)。
上田:なので、定期的にお会いしてお話を聞いて、それに対してあれこれ思いつくことを言っていて。かもめんたるさんのライブって、一つひとつ独立性の強いネタがあって、コント間の映像も独立性が強くてという、すでにそういうスタイルが出来ているので、僕が関わることで何か新しいアイデアを足せないかな、という野望を持っています。
――岩崎さんは一緒に作っていく中で、新しい発見はありますか?
岩崎:ひとりで考えているとある程度までしか広がらないものが、上田さんに相談すると、僕が描いていたビジョンの枠の外にあることを言ってくれるんですよ。だから、歯車がすごくうまく噛み合っている感じがしていますね。ひとりでは気付かなかったことを言ってくださるので、塾の先生みたい(笑)。
上田:僕は打ち合わせでアイデアを出すようにしているんですが、最終的にはう大さんの机の上で仕上がるもの。そこが面白いところのような感じがします。人にもよりますが、作品って作家の机の上で仕上がるものがあれば、稽古場の熱の中で仕上がるものもあって、僕がやっている企画でも、自分のパソコンの中で仕上がるものがあったり、テレビ番組なら会議の場で出来上がっていったりするんです。それで言うと、僕が打ち合わせであれこれ言ったことをそのままネタにするというよりは、う大さんが持ち帰って、何がどうなったのか分からないけど、確実に何かに作用しているなという感じがします。
岩崎:僕が上田さんからプロテインをもらって鍛えて、こんな筋肉になりましたっていう感じですね(笑)。そのプロテインはどこにも見当たらないけど、この筋肉の源にありますよっていうような。
槙尾:その例え話、合ってますか(笑)?
岩崎:なんで筋肉にたとえているか分からないですけど…。
上田:筋肉芸の人が言うならまだしもね(笑)。
岩崎:そうやって、血となり肉となるということなんですよね。上田さんのアイデアは豊富なんですが、豊富すぎてかもめんたるの舞台では実現できないなって思うこともあるんです(笑)。今まで割と手近にあるもので済ませるクセがあって、その辺も変えていくように新たな風を分けてもらっていますね。本当にアイデアが豊富で、自分はなんて貧しい家に育ったんだろうって思うときがありますよ(笑)。
槙尾:う大さんは、こだわる部分はすごくこだわるんですけど、最後の最後にちょっと妥協していたり。それをもっともらしい理由で言うんですよ、僕に。
岩崎:言い訳みたいにね。
槙尾:最初の打ち合わせに参加したとき、上田さんからポロっと出た言葉に気付かされたんですよ。それはかもめんたるが今までサボっていた部分だったりして、あ、やっぱりすごいなと。それは単独ライブやる意味や方向性とか、どんなお客さんをターゲットにするのかとか、単独ライブをどういうものにしたいのかをちゃんと決めてから走りだした方が良いという話で。ふたりのときは、それも考えなきゃいけないなと思いつつも、自分たちがやりたいことをやっていたような気がします。
岩崎:上田さんと何度も話すことで、自分たちも気付かない間に視野が広がっているんじゃないかなと思いますね。あまり頻繁にお話できないかと思っていたんですが、東京に来られている機会も多くて、時間をすごく割いてくださるんです。だから想像以上に相談させていただけていることは、とても幸運だなと思います。
上田:さっき、う大さんが『手近なもので済ませる』って仰いましたけど、おふたりのコントは一番手近なものを使って、それ以上のことはしないというか。お金を積んで買える何かは幻だ、みたいな思いでもあるのかっていうくらい(笑)。
岩崎:ないですよ、ただの貧乏コントです(笑)。
上田:去年、僕たちが元・立誠小学校でやった『ハイタウン2014』で、かもめんたるさんにコントを3本していただいたんですけど、そのときにどんなセットが必要かをお聞きしたんです。大層なもの言われたら用意できるかな…ってドキドキしていたんですけど、『1本目はイス1個で、次がイス2つ、最後がイス3つになります』って(笑)。例えば、壮大なことを言ったりしても、面倒くさいというよりは、“足さなくて良いものは足したくない”みたいな部分って僕もすごくよく分かるので、どれなら気に入ってもらえるかなというのを差し出している感じですね。ネタの内容もこんなことがコントになるんだって思うような、身近なところから拾ってコントにされていたりと、すごく低燃費な中で出来ていくんですよ。槙尾さんはちょっと違う考えもあるみたいですけど。
槙尾:僕はもうちょっと派手にしても良いんじゃないかなって思うんですよね。さっきのイスの話じゃないですけど、単独ライブでも極力お金がかからないようにしていて。衣装も、持っている衣装を使うことが多い。
岩崎:いやそんなにケチじゃないよ(笑)。
槙尾:3回目のライブでやった女役のタートルネック持ってる?って言われたことがあるんです。そんなの6~7年前だからあるわけないよとか思いながら探して。僕、女役とかだったら新しいの買いたいんですけど(笑)。
岩崎:ネタに関して言うと、割とどこでもやれるのが好きなんですよ。他の人たちのネタを見ていても、作り込んで見せるよりも、“人間”で見せて面白いと思わせるようなのがやっぱり良いなと思うんです。
上田:落語みたいなね。
岩崎:そんな感じですよね。でも衣装は割とこだわってはいるんです。槙尾がさえないお父さん役なのに細身のズボンとか穿いていると、なんでさえないお父さんがそんな細身のズボンなんだよ!って思う時ありますね(笑)。
槙尾:お金はかけないけど、う大さんの衣装はリアルな衣装ですよね。
上田:確かにそうですね(笑)。
岩崎:そういう細部をこだわってはいるんですよ。
槙尾:持ってないんですもん。お父さん用の衣装買わせてもらいたい。
岩崎:買えばいいじゃん(笑)。そういう時代を経てきて、今回上田さんにお願いしたように、そろそろ上のステージを目指すというか、新たな見解を広げていきたいと思うようになったんです。例えば今まで白黒だけだったものに、カラーを入れることもしても良いんじゃないかなと。やっぱり基礎として白黒の時代は経験しなければならないと思うんです。その中で色々と練ってやってきたので、白黒から抜けて新たな色を入れようとしていっているんですけど、やっぱりこげ茶みたいな色が多いかな(笑)。
槙尾:ちょっとずつ足していった方がいいですよね。
上田:ポイントは決して僕がカラーの人間じゃないっていう(笑)。作家さんの中でも、派手な感じの方もいるんですが、僕はKBS京都の『暗い旅』という番組でもそうなんですけど、家の近場でロケをしたりとか、結構もったいながりなんですよね(笑)。そういうところはシンパシーを感じる気がします。
岩崎:そうですね、確かに。
――トーンが同じだからこそお願い出来るのかもしれないですね。
岩崎:そうですよね。好きなものが一緒というか、かもめんたるのネタに関してもすごく理解していただいているので。そうじゃなかったらきっとお願いしていなかったですしね。似ているけど上田さんの方が先生というか、色々教えていただいています。でもヨーロッパ企画さんを観に行って、貧乏くさいなって思わないよね。
槙尾:うん、思わない。上田さんは完全カラーですよ。
上田:それは、ヨーロッパ企画としてはそうなんですけど、僕は元々、小・中・高とゲームを作ってモテなかった時代があって、ヨーロッパ企画を始めたときに、これはカラーでいかなければいけないと思ったんです。ヨーロッパ企画はポップなイメージだし、僕は上田 誠で何かをやることはしないでおこうって思ったくらいで。音楽でも、落ち着いた音色のフォークソングが好きなんですよ。自分としては、そういう雰囲気の中で、許される限りのポップさを出していこうとしている感じですかね。
槙尾:最初に上田さんと話したときに、かもめんたるの単独ライブ大きくしていきたいですよねっていう話もあって。今回を機会に、ちょっとずつ見栄えを良くしていきたいですね。
上田:本当にそれって一歩一歩だと思います。ちょっとずつ、これなら書き割りまではいけるとか、キューブくらいは恥ずかしくないとか、その辺の感覚は地に足が付いているから面白いと思いますし。ネタ一つひとつはちゃんと作られていっているので、それ以外の部分をどうしようかという話ですね。
岩崎:そうですね。やっぱり中のコントは面白くて当然というか、毎回100を目指して作っているので、それとプラスアルファの部分をどうするかなんですよね。今回はある兄弟の物語で、兄弟愛とか兄弟の縁がテーマになっているんです。その枠組みがプラスアルファの要素としてあって、お客さんへのサービスでもある部分というか。その枠組みの中でどんなことが出来るかというのがプレッシャーですし、時間がかかる部分だったりする。そこの成長に関しては、どんどん人から教えていただいた方が良いのかなと思うんです。コントに関しては、独自のものなのでそこは人に教えてもらう部分じゃなくて、自分がどうしたいかだけ。枠組みの部分に関しては、自分だけで考えるよりも、いろんな人のアイデアが入っていた方が毎回差別化が出来ていくんじゃないかなと思うんですよね。だから今回、上田さんからアイデアをいただくことで生まれる奇跡はありますよ。そう言いながらも、コントにも色々アドバイスいただいたりしてるんですけど(笑)。
上田:それで言うと、今回は、とても根深い兄弟の話がひとつの大きな物語としてあるというのは、特徴的かもしれないですね。僕もお芝居をやっていますので、そこでお客さんに何かを感じてもらえたら良いなと思います。コントの内容に関してはう大さんの聖域があるものなので、僕としてはお客さんへのサービスの部分で、今回はどんな軸を作るかというのは見ていただきたいポイントですね。
――兄弟というテーマはどこから生まれてきたのですか?
岩崎:単独ライブとしては16回目で、毎回全体を通してのテーマを設定していて、母と子の縁とか恋人同士の縁とか友情とか、なんとなくのものがあるんですが、兄弟は今までやったことがなかったテーマなんです。子どもの頃の面白かったこととか理不尽なことって、今でもコントになるようなテーマがあって、兄弟の話もいつかやってみたいなと思っていたので、割と早い段階で決まりましたね。いろんなタイプの兄弟を見せるのも面白いんじゃないかなと思っています。
――前回『下品なクチバシ』で初めて大阪公演をして、感触はいかがでしたか?
岩崎:すごく良かったです。笑うタイミングも気持ち良くて、パーンと笑って、すぐ次のボケでも笑ってくれて。笑いのテンポが作りやすかったですね。お客さんが笑いを合いの手のように入れてくれる感じというか。あと、東京であまり受けないなと思っていたボケが、大阪ですごく受けたのも嬉しかったですね。
槙尾:感度が高い感じがしましたね。
岩崎:本当に笑ってほしいところで笑っていただけたので、良かったです。
槙尾:ちゃんと分かってくれている感じがしましたね。
上田:お笑い文化がある分、笑いのリテラシーが高いのかもしれないですね。
岩崎:全員がそうなのかは分からないですけど、かもめんたるの笑いと合っているというか、フィーリングが合うなと思いましたね。元々僕はダウンタウンさんが好きでお笑いを始めたので、関西の人にはウケたいなという気持ちがあるんですよ。だから純粋に嬉しいです。
――最初に想像していた印象と違いました?
岩崎:ちょっと怖かったんですよ。やっぱり東京の芸人が関西でライブをやるというのは、洗礼的なことを浴びるんじゃないかな、と思っていたんです。それがすごく良い形で、ちゃんとした目で見てもらえたので、本当にやって良かったなと思いました。
上田:かもめんたるさんは、きっと愛されると思います。今って全国的に見ると、お笑いがブームというよりは芸人さんブームだったりして、そこには笑いにファッション的なものを結びつけたり、政治的なことと結びつけたり、芸人さんによってお笑いプラス何かのカラーがついていることも多いと思うのですが、関西の方はお笑い自体が好きな感じが僕はするんです。テレビタレントとして活動する道以外に、いろんな場所でライブをやることに活路を見出している方もいらっしゃる中で、かもめんたるさんは大阪のお客さんが待望していたような芸人さんじゃないかなと思います。
岩崎:大阪で単独ライブをしたとき、テレビ局の方も観に来てくださって『大阪にあまりないタイプだけどすごく面白かった』って言っていただけたのが嬉しくて。ぜひ前回観られなかった大阪の方々には観ていただきたいですね。東京にもあまりいないと思うんですよ、割と気持ち悪いコントというか、変なことをやっているので。もっといろんな方に観ていただきたいですね。
――おふたりにとって、単独ライブはどんな場所ですか?
岩崎:一番自分たちが得意なことなんです。僕らの場合『このコントがめちゃくちゃ面白いんです!』というよりも、いろんなコントをやることが一番の武器だと思うんです。コントによってボケとツッコミも変わりますし、ネタによって見せ方が変わるので。特に僕たちの持ち味が活きるのが単独ライブなんですよね。
――昨年出演されたナイロン100℃の舞台『社長吸血記』に出演された経験は、お笑いの舞台に何か活かされたりするものですか?
槙尾:ケラさんの作品では、イントネーションやアクセントをすごく丁寧に指摘されたので、すごく勉強になりましたね。ひとつのセリフでも、ちょっと力んじゃうとニュアンスが変わったりするので、そういうところで取り逃がしていた笑いもあったんじゃないかなと思うんです。だから基本的なことに立ち返って、セリフの言い方からちゃんと意識してやらなきゃなと思いましたね。
岩崎:そんな根本的なことはもっと前からやっといてほしいですけど…(笑)。
上田:きっとおふたりは、芸人さんの中でもかなり劇団に近い形でやられているんだと思うんですよ。好きなように喋る芸人さんもいらっしゃる中で、おふたりは作・演出家と役者みたいな関係性じゃないですか。
岩崎:それはあるかもしれないですね。想像していたところと別の場所で笑いが起きると、どうしても本筋で受けなかったり、笑いが減ったりするっていうのはあるんですよね。たとえば、最初に笑いをとっておこうとして下手にアドリブを入れたりすると、それが実は後半のどこかに繋がっていて、アドリブをきっかけにもしかしたらお客さんが感情移入が出来なくなるかもしれない。それは無意識レベルの話かもしれないですけど、イメージしていなかったところでウケると本当に笑ってほしいところでウケなくなることはよくあるんです。自分でも気付かないところが繋がっていたりもするので、その辺は割とシビアに、レコーダーに録ったり、ウケたときのイメージを思い出したりしながら、台本通りに進めることで、毎回ベストなものをお届けすることを考えています。お客さんの笑いに引っ張られて、書いた本人でも気付かないうちにイメージとは違う方向に進んでいることもあるので。
槙尾:う大さんは自分で書いているから、自分で編集できちゃうんですよ。僕は演じ手なのでそれができないから、台本に忠実にやるしかない。う大さんの方が自分で書いている分、ニュアンスこう変えちゃおうっていう傾向がありますよね。
上田:確かに槙尾さんは演者というか、役者ですね。
槙尾:『雨天中止ナイン』(※1)も、ほぼセリフに忠実にやりましたしね(笑)。
上田:ビックリしました。芸人さんはアドリブ入れるようなイメージがあったので。でも槙尾さんは、一言一句変えないで言ってくださったんですよ。
槙尾:恥ずかしいですね(笑)。
上田:いやいや!役者さんタイプなんだと、そのとき初めて知りました。
槙尾:よほど言いにくかったら変えますけど、上田さんが書いたツッコミのセリフが面白いな、と思ったんです。
上田:でも、おぎやはぎさんたちがされるアドリブに対してはアドリブで返されるので、そこの筋肉もちゃんとあるんです。
――では最後に、2度目の大阪公演に対する意気込みをお願いします。
岩崎:大阪では今後ずっと単独ライブをやっていきたいんです。そのためには、毎回お客さんの期待を上回るものを作らなきゃいけないと思っていて、実際、今回はいつもよりもスムーズに面白いものができていると思います。間違いなく最高傑作になると思いますので、ぜひ足を運んでいただきたいと思います。
槙尾:上田さんの力も加わって、良いネタが作れると思います。演者としても、ナイロン100℃の舞台を経験し、僕なりに成長できたかと思うので、過去最高の単独ライブにしたいですね。
上田:ヨーロッパ企画でもそうなんですけど、大阪って笑いの街なので、やっぱり気合いが入るんですね。いつも、ここはちゃんと面白いものじゃないとダメな場所だったと思って、気合いを入れ直して公演をしているんです。そんな場所ですが、前回のかもめんたるさんの大阪公演ではお客さんがすごく喜んでいたので、さすがだなと思いました。お笑いが好きで、お笑いを見ている関西の方にこそご覧いただきたいライブだと思います。
取材・文:黒石悦子
※1…2014年5~6月、テレビ東京でオンエアされた、おぎやはぎ、かもめんたる、ヨーロッパ企画出演のシチュエーションコメディ。上田誠が全4話の脚本を手掛けた。
(2015年1月19日更新)