いしいしんじの小説『麦ふみクーツェ』を
渡部豪太主演でウォーリー木下が舞台化。
音楽監督を務めるトクマルシューゴにインタビュー。
小説家・いしいしんじの代表作であり、2003年に坪田譲治文学賞を受賞した『麦ふみクーツェ』が、ウォーリー木下の作・演出、渡部豪太の主演で舞台化される(大阪公演はシアターBRAVA!にて2015年4月23日(木)~26日(日))。原作は、とある港町の吹奏楽団を軸に巻き起こる事件の数々や、指揮者の少年“ねこ”の成長が綴られる物語だ。舞台化のタイトルに“つながる音楽劇「麦ふみクーツェ」~everything is symphony!!~”とあるように、舞台上では様々な音楽が生で繰り広げられるという。その音楽監督を務めるのが、世界的にも高い評価を受けるミュージシャン、トクマルシューゴだ。玩具など楽器以外のものも含め、あらゆるものを演奏に利用し独創的な音楽を作り続ける彼の手で、今回の舞台音楽がどのようなものになるのか? ミュージカルとも音楽ライブとも演劇ともちょっと異なる、この不思議な舞台の音楽について、自身の活動も含めて話を聞いた。
ーートクマルさん自身、過去にも舞台音楽を経験されていますが(「ちんけさんと大きな女たち」(2011年。作・演出:近藤芳正)、“実際に役者たちが舞台で演奏する音楽を作る”というのは珍しい試みですよね。
「最初にウォーリーさんからお話を頂いたときは、夢のような話で、何を無茶なこと言ってるんだろうと思いましたけど(笑)。原作に音楽をつけて、それを演奏するミュージシャンも舞台に立つ、しかも全て生演奏で…ってそれ大丈夫かなという不安もありました。原作のあの想像の世界を、実際にどう表現すればいいのかと。ただ、一方で新しい試みへの期待もあったんです。ちょうど自分も音楽的にも今までとは違ったことをしたいなと考えていたので。実際に役者さんが舞台上で音楽を奏でたり、ミュージシャンが舞台にもあがったりと、映画やドラマの劇伴なんかとはまったく違う作り方になると思うので、今は自分でもどうなるのかな…という不安感と期待感があってドキドキしますね。。まだ音楽もこれから作る段階ですし」
ーー先日東京で行った製作発表では、登壇者たちがサプライズ演奏を披露していましたね。(※注1)
「今回の舞台に関して、あれがはじめてみんなで音を出した場でした。実は1回だけあの製作発表のためのリハーサルをやりましたが、やっておいて良かったと思います。最初はリハーサルなしで強行する予定だったんですけど、「さすがにそれは不安だ」という声があがりまして(笑)。みんなも面白さのイメージがつかめた部分はあったんじゃないかな。実際はもっと大人数が舞台に上がって演奏しますし、全て生の音でやろうと思ってるので、演者同士の距離感だったり、音の響きだったり…とにかく未知な部分が山盛りです。普通なら劇伴だけを作ったり、オーケストラピットに入って演奏するだけですからね」
東京での製作発表の様子。
ーーウォーリーさんのお芝居には、音楽や映像を実験的に使ったものが多くあります。今回も、プロジェクションマッピングを使ったり、観客も演奏に巻き込んだりといった仕掛けがあるみたいですね。
「観客を巻き込んで演奏することに関しては、実際に初日を迎えてみないと分からないですよね。そういう部分も楽しめると思います。うまくいくかどうかは、来てくれるお客さんにかかってますのでよろしくお願いします(笑)冗談です。きっと毎回が違ったユニークな公演になると思います」
ーーミュージシャンとしてトクマルさんが今進めている新プロジェクト(注2)や、新たなバンドメンバーたちが、今回の舞台にも出演(田中馨、三浦千明、小林うてな)するなど、自身の活動とも連動している印象です。
「そうですね。先ほどもお話したように、ちょうど新しい試みを始めようと思っていたタイミングと、今回の舞台音楽のお話が重なっていて。ミュージシャンである彼らにも舞台上でどんなふうに演奏してもらうか考えているところです。今回の舞台は、普段はミュージシャンの人と、俳優で少し楽器が出来る人が入り交じっているのが面白いところでもあります。それぞれ、当然音楽に対する接し方も違うし演奏技術にも差がある。そこをどうまとめていくかは…やってみないとわからないですね。でも、それはすごく本物の「麦ふみクーツェ」の楽団みたいだなと思います」
ーーそういう意味では、超大所帯のバンド(しかも知らないメンバーが大多数)のバンマスを務めるという感覚でしょうか。
「ああ、まさにそんな感じです。そこで自分が役者さんたちにどう伝えるかが重要になってくると思いますね。ミュージシャンではない人たちと音楽をやるっていう経験がないですし、そこをどう束ねていくのかも含めて、いままでの音楽の作り方とはまったく違うやり方をしなくてはいけない、という気はしています」
ーー今進めている新プロジェクトのことなど、トクマルさん自身の音楽活動についても少し聞かせてください。
「今やっているのは、ドラムのグレッグ(Deerhoof)や、今回の舞台にも出演するメンバーたちをたくさん集めて、録音スタジオでみんなに自由に弾いてもらった音を、改めて僕が持ち帰って編集してひとつの楽曲にしていく、という手法です。譜面も何もなく、完全にノープランにも関わらず、高い値段の録音スタジオを自由に使うという、なんとも無謀なことを…(笑)」
ーーその新プロジェクトによって出来た最新音源が、段ボールプレイヤーつきレコード(注2)ですよね。こうした完全DIYなプロダクトや、GELLERS(注3)のようなバンドを同時進行で継続しているところもトクマルシューゴの魅力だと思います。
「楽器でもそうなんですけど、ひとつのことだけだと飽きてくるというか、違ったことを試したくなるんです。実際、来年決まっているライブも新しいメンバーでやってみようとか、今回の舞台も自分にとってはじめての試みだし、今後の予定で決まっているものは“今までやったことのないこと”ばっかりなんですよね。中でもこの舞台に関しては、やり始めてみないとわからない部分がたくさんあります。1ヶ月後にお話したら、全然違う状況になってるかも知れない。ただ、自分自身もとても楽しみにしていますし、これから曲作りやリハーサルなど、定期的に経過報告とかできると面白いかもですね。途中で「こんなのできない!」って大喧嘩したりしてるかも知れませんけど(笑)」
写真:大西二士男
※注1
※注2
新プロジェクトから派生した第一弾シングル『リタ・ルータ』。商品は10インチレコードと、パッケージを組み立てて手回しするだけでそのままレコードが聴ける“段ボールプレイヤー”付き、という超特殊仕様!
※注3
トクマルら幼馴染で結成され、今も続いているロックバンド。ステージ上で、お揃いの学ラン姿で嵐を熱唱&ダンスを披露したことも。最新作は7インチシングル「クンパルシータ」。
(2014年12月10日更新)
Check
トクマルシューゴ
1stアルバム『Night Piece』を、日本のCompare Notes/アメリカのMusic Relatedより2004年にリリース。日本語歌詞でありながら「WIRE」「Rolling Stone」「Pitchfork」などで高い評価を受ける。その後もアルバムを計5枚発表、各国でリリース&ライブを行う一方、自身のレーベル「TONOFON」を立ち上げフェスを開催するなど精力的に活動。国内外の様々なTV、CM、映画などにも楽曲を提供している。2015年に向け新プロジェクトを始動。
つながる音楽劇「麦ふみクーツェ」~everything is symphony!!~
2015年1月10日(土)チケット発売
Pコード:439-986
▼2015年4月23日(木)19:00
▼2015年4月24日(金)19:00
▼2015年4月25日(土)13:00/18:00
▼2015年4月26日(日)13:00
シアターBRAVA!
S席-8500円
A席-7000円
[原作]いしいしんじ
[脚本・演出]ウォーリー木下
[音楽]トクマルシューゴ(音楽監督)
[出演]渡部豪太 皆本麻帆
朴路美 植本潤 木戸邑弥 小松利昌 田中利花 松尾貴史/尾藤イサオ
佐嶋宣美 ダンドイ舞莉花
有田杏子 牛尾茉由 岡田啓 小林うてな 斉藤彰子 田中馨 永滝元太郎 兵頭祐香 松延耕資 三浦千明 山本直輝 ヨース毛
熊谷和徳(映像出演)
※未就学児童は入場不可。
問い合わせ
シアターBRAVA! 06-6946-2260
※東京公演は、2015年4月10日(金) ~19日(日)、世田谷パブリックシアターにて
公式サイト
http://theaterbrava.com/mugifumi/